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おやゆび姫育成キット [コメディー]

夫が、チューリップの鉢植えと「おやゆび姫育成キット」を買ってきた。
夫はこういう変わったものが好きで、前にも「100万コに1コ、桃太郎が入っている桃」とか、「運がよければかぐや姫に逢える竹」とか買ってきた。
今回もどうせまがい物だろうと思いながらも、花がきれいだったから育てた。

育成キットはいたって簡単。
小さな粒を花の真ん中に置き、あとは特殊な培養液と水を与えるだけ。
子供だましだと思ったが、二日後、粒がうようよ動き出した。
それはだんだん形を変えて、人間に近づいていく。
前に姉に見せてもらった、胎児の画像に似ている。
そして三日後、チューリップの真ん中に、可愛らしい赤ちゃんが誕生した。
だけどそれは、なぜか上半身しかない。
「ねえ、どうして足がないのかしら」
「歩き回ると厄介だからだろう。あくまで観賞用だから」

夫は観賞用と言ったけれど、それは日に日に成長した。
どうやら1日1歳成長するらしく、生まれて2日目に言葉を話した。
「ママ」
なんて愛らしいのでしょう。
いつまでも花の上では安定が悪いので、専用の台座(オプションで1万円)に置いた。
成長しても大きさは親指ほどしかない。小さな人形みたいで、とても可愛い。
オプションで洋服も売っていたが、高いので自分で作った。
レースのワンピース、ピンクのドレス。
私とお揃いのブラウスも作った。チューリップの刺繡よ。
毎日違う服を着せた。着せ替え人形みたいで楽しい。
「ママ、可愛いドレスをありがとう」なんて言われると、抱きしめたくなる。

異変が起きたのは、育成を始めて15日目のことだ。
おやゆび姫の声が低くなり、口の周りにうっすら髭が生えた。
「あなた、おやゆび姫が変よ。ほらみて、髭が生えたわ。不良品かしら」
夫は「ちょっと待って」と、育成キットの説明書を取り出した。
「あ…、こいつ、オスだった」
「はあ? 男? 姫じゃないじゃん!」
「髭剃りは、専用の物を使ってくださいだって。オプションで3万2千円」
「冗談じゃないわよ!」

45日が過ぎた。
ロン毛で無精ひげのおやゆび野郎が、今朝も私に話しかける。
「ママ、おはよう。いい朝だね」
「おはよう、おっさん。二度とママって呼ばないでね」
「じゃあ奥さん、オプションでイケメンになる薬売ってるけどどう? 5万円で」
「もういい!!」

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25年目のクラス会

久しぶりに降りた故郷の駅は、閑散としていた。
6番のバス乗り場に行くと、懐かしい面影がベンチに座っていた。
「先生」
声をかけると、先生は「やあ」と右手を上げた。
「今日はクラス会だね」
「そうですね。卒業して25年目のクラス会です」
「みんな変わったかな」
「ええ、15歳だった少年少女が、40歳の中年ですもの」

 あの頃の先生は25歳の若い教師で、女生徒たちの憧れだった。
若い分、私たちの気持ちをよくわかってくれて、男子生徒にも人気があった。
私の初恋も先生だった。世界中で、先生が一番好きだった。
「俺もすっかりしょぼくれた中年オヤジだよ」
「先生は今でも素敵です。前にお会いした5年前のクラス会のときと、全然変わってないわ」
「君は元気なのか?」
「この5年間に、いろいろありました。両親が相次いで亡くなって、実家を売りました。3年前です。だからこの町に来るのは3年ぶりです」
「そうか。それは大変だったね。俺は、相変わらずだよ。教師を辞めてから、塾の講師で細々と食ってる」

バスは来ない。
タクシーの運転手が、退屈そうに欠伸をしている。
閑散とした駅のロータリーで、私たちは日暮れまで話をした。

「そろそろ、クラス会が終わるね」
先生の足元に、ポプラの長い影が落ちる。
バスは来ない。来るはずがない。6番の路線バスは廃線になった。
どちらからともなく、手を握り合う。
大きくて、ごつごつした大人の手が好きだった。
しばらくそんな余韻を楽しんだ後、私はゆっくり絡み合った手をほどいた。

「先生、もう終わりにしましょう」
先生は答えなかった。
「私、結婚します。優しい人です。こんな私でもいいと言ってくれました」
「そうか」

25年前、先生と私は愛し合った。
25歳と15歳の恋が認められるわけもなく、私たちは心中事件を起こした。
それは未遂に終わったが、それからすべてが変わってしまった。
先生は教師を辞め、私は遠くの親戚の家で、半分監禁されたような学生時代を過ごした。
5年に一度行われるクラス会の日、私たちはこうして、ふたりだけで逢っている。
私たちが、クラス会になど、呼ばれるはずがない。

「5年後は、もう来ません」
立ち上がった私を見上げる先生は、一気に老けた老人のように見えた。



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桜が見える部屋 [公募]

南側の窓を開けると、桜の花びらがふわりと舞い込んできました。
川向こうの桜並木から、はるばる風に乗ってやってきたのでしょう。
小さな花びらは、しばらく空中で遊びながら、あなたの写真の上にちょこんと舞い降りました。
桜が好きだったあなたが、写真の中で笑っています。

一緒に暮らすことになったとき、あなたはいつになくはしゃいだ声で言いました。
「いい部屋を見つけたよ。窓から素晴らしい桜並木が見えるんだ」
年に一度の桜より、駅に近い方がいいと正直思いましたが、あなたがあまりに嬉しそうなのでこの部屋に決めました。
桜が見えるこの部屋で、あなたと生きると決めました。

あなたは居酒屋で働き、私は図書館で働いていました。
昼と夜、すれ違いの毎日でしたが、私が出かけるとき、あなたは必ず布団の中から顔を出して「いってらっしゃい」と言ってくれました。
伝えたいことを手紙に書いておくと、疲れて明け方に帰ってきても必ず返事をくれました。
『子供たちに読み聞かせをすることになりました。上手くできるか心配です』と書けば、『君の優しい声を聞けば、子供たちはきっと、もっと読んでとせがむでしょう。僕も子供に混ざって聞きたいくらいだ』と書いてくれました。
本当に優しい人でした。

互いに仕事が休みの日は、一緒にお散歩をしました。
河原に座って、ただ風に吹かれるだけで幸せでした。
言葉がなくても気持ちが通じる人に出会ったのは初めてでした。
春にはこの部屋で、桜を見ました。
「やっぱりこの部屋にしてよかったね。家の中で花見ができるなんて贅沢だろう」
桜を見るたびに、あなたは得意げに言いました。
私は少しうんざりして「はいはい」と笑うのでした。
私たちは、この先何年も何年も、一緒に桜を見ると信じていたのです。

この部屋で見る三度目の桜が満開になった夜、ひとりの女性が訪ねてきました。
彼女は目に涙をためて、あなたの名前を呼びました。
「どれだけ探したと思っているの」と泣きながらあなたにすがりました。
「マキもパパを待っているわ」と、彼女が子供の名前を出すと、あなたの表情が少し揺れました。

五年前に家族を捨てて失踪したのだと、あなたは話してくれました。
仕事が上手くいかず、心のバランスを崩したのだと。
住処を転々として、小さな町の居酒屋に落ち着き、そこで私と出会ったのです。
やっと居場所を見つけたのだと、あなたは言ってくれました。
だけど事情を知ってしまった以上、もうあなたと暮らすことは出来ません。
私はあなたを追い出しました。
罵って、泣きわめいて、あなたを切り捨てました。
あなたを「パパ」と呼ぶ子供には、どうしたってかなわないと思ったからです。

あなたがいなくなったこの部屋で、私は何度桜を見たでしょう。
「今年も咲いたわ」と、あなたの写真に何度話しかけたでしょう。
虚しいだけだと知りながら、私はあなたの抜け殻と暮らし続けているのです。

あなたの写真に貼り付いた桜の花びらを指でつまんで、風に乗せてあげました。
やはり川向こうから来た花びらたちと一緒になって、気持ちよさそうに空を漂っています。
私はあなたの写真を持って外へ出ました。
あなたの抜け殻を捨て、歩き出そうと決めました。
思い出にすがって生きるのはやめて、桜の木の下に写真を埋めることにしました。

桜並木を歩いていると、肩や髪に花びらが舞い降りてきます。
「満開の桜も好きだけど、散り際の桜もいいね」
捨てようと思っているのに、写真のあなたが話しかけてきます。
振り切るように一本の桜の木を選び、その下にしゃがみこみました。
あなたの笑顔を、ここに埋めます。
それであなたへの想いが消えるわけではないけれど、気持ちにけじめをつけたいのです。

硬い土を掘り起こそうとしたときです。
風に乗ってあなたの声が聞こえました。懐かしいその声は、私の名前を呼んでいます。
顔を上げると、ひとつ先の桜の下に、あなたが立っています。
ついに幻を見てしまったと、不自然な瞬きをくり返す私を見て、あなたは照れたように頭を掻きました。
「妻に追い出されてしまったよ」
不器用に笑いながら、少しずつ私の方に近づいてきます。
「娘がこの春社会人になってね、もう僕は、あの家に必要ないんだってさ」
桜の花びらが、雪のように絶え間なく降っています。
その光景はまるで、夢と現実の境目のようで、私は思わずつぶやきました。
「これは夢なの?」

懐かしい腕が、私を抱きしめました。
「またふたりで、桜を見よう」
何もかもが薄紅色に染まっていく景色の中で、私は小さく頷きました。

******

公募ガイド「TO-BE小説工房」で落選だったものです。
テーマは桜でした。
書きやすいテーマだっただけに、難しかったですね。
後から読み直して、この作品はハッピーエンドじゃない方がよかったかも と思いました。
どうでしょうか?


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桜より〇〇 [コメディー]

桜が満開になったから、今日の合コンはお花見合コンだって。
はっきり言って夜桜なんて寒いだけ。
冷え性なのよ、わたし。
でもね、今回の合コンはレベルが高いらしいの。
IT企業のエリートだって。
桜はどうでもいいけど、とりあえず合コンには参加するわ。

あー、始まって30分で、来たことを後悔した。
寒いのよ。襟がいい感じに開いたブラウスなんか着てきちゃったから。
ダウンジャケットでも着てくればよかった。
おまけにコンタクトの調子が悪くて外しちゃったから、よく見えない。
それに、この暗さでしょう。
ライトアップされているとはいえ、エリートさんたちの顔がよくわからない。

そんなとき、隣に座った男性が、小声でささやいた。
「寒いんじゃない? ふたりで抜けて暖かいところで飲み直さない?」
そのときわたし、とても尿意を感じていたの。
簡易トイレの行列に並ぶかどうか悩んでいたところ。
行列に並んでトイレに入るのが、わたしはとても嫌いなの。
わたしのあとに待っている人がたくさんいると思ったら、落ち着けないじゃない。
空いている男子トイレに堂々と入れるオバサンに、出来ることならなりたいわ。

花見よりも男よりも、今すぐトイレに行きたいの。
だからわたしは、彼の申し出をお受けしたわ。
さりげなく立ち上がって、ふたりで輪を抜けた。
そこから一番近い居酒屋に入って、席に着くなりトイレに直行。
居酒屋のトイレが、オアシスみたいに感じたわ。
手を洗って、髪を整えて、ちょっと化粧を直して、いい感じに胸元を開けてから席に戻った。
IT企業のエリートの顔を、じっくり見てやろうじゃないの。

ところが…席に彼がいない。
行き違いでトイレに行ったのかしら?
それにしても上着もない。
「あの、この席にいた男性はどこへ行ったかしら?」
茶髪の店員に尋ねてみた。

「ああ、帰りましたよ。なんか~、明るいところで見たら~、好みじゃなかったっぽくて」
好みじゃなかった…っぽい? わたしのこと?
「お飲み物どうしますか?」
「焼酎ロックで」

桜より、男より、今夜のわたしはトイレを必要としていた。
それだけのことよ。

「焼酎おかわり」
「早え!(店員)」


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説明の多い立ち食いソバ店 [コメディー]

立ち食いソバの店の前に、長い行列が出来ていた。
よほど美味しいのだろうか。
並んだとしても、立ち食いソバなら回転も速いし、さほどでもないだろう。
そう思って、いちばん最後に並んだ。

しかし行列はなかなか減らない。
しかしここまで待つとどうしても食べたい。
根気強く小一時間ほど待って、自分の番が来た。

「いらっしゃいませ。立ち食いソバへようこそ。お客様、おひとりさまですか?」
「はあ」
「当店のご利用は初めてでいらっしゃいますか?」
「はあ」
「では、当店のシステムをご説明いたします。まず、こちらの券売機で、お好きなメニューをお選びください。たとえば、かけそばでしたら300円でございますので、百円玉を3こ、こちらの投入口にお入れください。500円玉、千円札はお使いいただけますが、五千円札、一万円札はご遠慮くださいませ。それから、もうすっかり忘れ去られている二千円札もご遠慮ください。300円を入れますと、かけそばのボタンが光ります。料金が定額に達しない場合は光りませんので、必要な金額を追加してご利用願います。さて、ボタンのランプが光りましたら、そこを人差し指、もしくはその他の指で押していただけますと、こちらの取り出し口より『かけそば』と書かれた券が出てまいりますので、それをカウンターにお出しください。おつりがある場合は、こちらの返却口をご確認ください。万が一取り忘れるようなことがありましたら、次の方が得をしてしまうシステムになっております。もしもトラブルになりましても、当方では一切関知いたしませんのでご了承ください。なお、当店はより多くのお客様にご利用いただくために、立ち食い方式をとらせていただいております。足が疲れる、だるい等の理由で座りこまれますと他のお客様に大変ご迷惑となります。当店は、完全前払い制度でございますので、お食事が終わりましたらそのままお帰り下さい。もしも満腹感を得られなかった際には、お手数ですが最初からお並びください。お客様の場合、少々体格がよろしいので、最初から大盛りにすることをお勧めいたします。大盛りの場合は50円を多く投入いただきまして、こちらのボタンを押してください。それから、お水はセルフサービスとなっております。本日は、フランスの硬水にミントをあしらったものをご用意いたしております。それでは、ごゆっくり当店自慢のソバをお召し上がりくださいませ。なお、本日シェフのご挨拶はご遠慮願っております。なにかご質問はございますか?」
「いや…」
「では、お次の方どうぞ」

こりゃ、行列出来るわ。


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離婚届・婚姻届 [男と女ストーリー]

バツイチ同士の再婚で、彼も私も子供がいないし、双方の親も他界している。
障害は何もない。彼はちょっと頼りないけど優しい人だ。
とりあえず一緒に暮らし始めて、あとは籍を入れるだけだった。

ところがここで問題が起きた。
彼の離婚届が、出されていなかったのだ。
つまり彼はまだ、離婚をしていない。

彼は元妻に電話をした。
「え? 出し忘れたって、どういうことだよ。もう5年も経っているんだぞ。いや、確認しなかった俺も悪いかもしれないけど、出し忘れって、なんだよ、それ」
不機嫌そうに電話を切った彼は、ため息混じりに「ごめん」と言った。
「だらしない奴なんだよ。私が出すって言いながら、忘れたんだって。しかもどこかへ失くしたらしい。本当にダメな奴なんだ。だから別れたんだけどね」
「それで、どうするの?」
「明日、うちに来るって。離婚届をその場で書いてもらうよ」
「そう」
「会うのが嫌だったら、君は出かけてもいいよ」
彼はそう言ったけれど、私が留守の間に元妻が来て、あちこち見られるのも嫌だ。
私は、二人の離婚届の署名に立ち会うことにした。

翌日、午後6時に来るはずの元妻は、30分を過ぎても来ない。
「ルーズな奴なんだよ。だから別れたんだ。仕事が忙しいとか言って朝飯も作らないし、掃除もいい加減だし」
彼の元妻に対する悪口は、どんどんエスカレートする。
いつだって仕事優先で、妻としての役割を果たさなかったとか、車の運転が荒いとか、自分よりも高収入なのを鼻にかけていたとか。
なんだか、聞けば聞くほど、彼が小さい男に見えてくる。

元妻は、6時40分を過ぎたころにやっと来た。
「ごめんなさい。遅れちゃって」
彼が言うほどだらしない印象はない。
上品なスーツを着て、薄化粧だけど美人だった。
彼女は私に気づくと、丁寧にお辞儀をした。
「忙しい時間にごめんなさいね。離婚届を書いたらすぐに帰りますから」
感じのいい人だった。

彼女の後ろから、小さな男の子がひょっこり顔を出した。
彼女は子供の頭を撫でながら言った。
「この子を保育園に迎えに行ってたから遅くなってしまったの」
「君の子供? 結婚したのか?」
彼が驚いて聞いた。
「結婚するわけないでしょう。離婚していないんだから。さあ、ごあいさつして」
母親に促され、子供が可愛い声で挨拶をした。
「はるきです。5歳です」
「5歳?」
彼が青ざめた。確かめるまでもなく、はるき君は彼にそっくりだ。

「別れた後で妊娠がわかったの。でもね、捨てないでくれってすがりつくあなたを追い出しておいて、妊娠したから帰ってきてなんて言えないじゃないの」
すがりついた? 彼が?
「出産準備やら仕事の調整やらで忙しくてね、離婚届出し忘れちゃったのよ」
彼女はそう言うと、素早く離婚届に名前を書いて印を押して帰った。
「じゃあ、あとはヨロシク」

離婚届を見つめながら、彼は明らかに動揺している。
「わざとじゃない?」と私は言った。
「彼女、わざと離婚届を出さなかったのよ。あなたが帰ってくると思って」
「そうかな…」
「追いかけたら」
私は、離婚届を丸めて捨てた。今度は私があなたを追い出す。

彼が元妻、いえ、妻の悪口を言い始めたときから、わずかな嫌悪感を拭いきれない。
それは放っておいたコーヒーのシミみたいに、消えることはないような気がする。
抽斗にしまった婚姻届けを出す日は、もう永遠に来ない。
溜息をつきながら捨てた。ゴミ箱の中で、離婚届と婚姻届がぶつかり合って弾けた。


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おとぎ話(笑)18 [名作パロディー]

<金の斧・銀の斧>

ひとりの男が湖のほとりを散歩していた。
喉が渇き、自動販売機の前で小銭を出そうとしたら、うっかり財布を落とし、小銭が湖の中に落ちてしまった。
「ああ、僕の小銭が…」
すると湖の中から女神が現れた。
「おまえが落としたのは、500円玉か?100円玉か?それとも10円玉か?」
「それ全部です。全部で735円落としました」
「正直者だな。ではおまえには、いちばん高価な500円玉をやろう」
「いや、235円足りねーし」


<白雪姫>

白雪姫は毒リンゴを食べて、ぱたりと倒れてしまいました。
「わーん、白雪姫が死んじゃった」
小人たちが泣いていると、立派な王子様が通りかかりました。
「いったいどうしたんだ?」
「白雪姫が、毒リンゴを食べて死んでしまいました」
「おお、なんて美しい姫だ。かわいそうに。じゃあ」
「ちょいとお待ちを。キスしないんですか?」
「だって、毒リンゴ食べたんでしょう。唇に毒がついてるかもしれないし」
「たしかに…」


<都会のネズミ、田舎のネズミ>

都会のネズミが、田舎のネズミのところに遊びに来ました。
「よく来たなあ。ご馳走用意したで、食べてけろ」」
「ありがとう。うん、なかなか素朴な味だね。さすが田舎だ。でもさ、悪いけど僕の口には合わないな。なにしろ僕は、都会の三ツ星レストランにしか行かないからね」
「それ、東京の最高級レストランからネットで取り寄せたんだけど、口に合わないけ?」
「あ、ネットで…。あー、うん、そういえば、三ツ星の味だ。この煮物なんか特に上手いよ」
「その煮物だけは、母ちゃんの手作りだ」


<花咲かじいさん>

「今年の桜はいつごろ咲きますかね?」
「ちょっと待ってください。確認します」
「確認? 気象協会にですか?」
「いえ、花咲かじいさんです。もしもーし。ああ、つながらない。いい加減携帯持ってくれないかな。あのじいさん」


<北風と太陽>

北風と太陽は、どちらが強いか勝負をすることになりました。
「よし、あそこを歩く男のコートを脱がせた方が勝ちだ」
「望むところだ」
北風は、冷たい風をピューピュー吹かせました。
男は動じません。
太陽はギラギラと男を照りつけました。
男は動じません。
どんなに頑張っても、男はコートを脱ぎません。
「はあ、もうだめだ。今回は引き分けにしよう」
北風にも太陽にも動じない我慢強い男は、無心でスマホのゲームをしていました。

歩きスマホはやめましょう。


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天国の歓迎会(空見の日) [コメディー]

本日3月16日は、もぐらさんの呼びかけで『空見の日』となりました。
空見の日は、みんなで空を見上げようという日です。

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7時15分の空
昨日までの雨もすっかり上がり、いい青空です。

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12時の空
ぽかぽか春の陽気で、昼休みの散歩も楽しい。

今年1月に、父を亡くした私は、やはりこの空のずっと上に父がいるのかな…なんて思いながら空を見上げました。
天国で、お酒でも飲んでいるかな。
そんなことを思いながら…、空に因んだ短いお話です。

******
いやあ、天国というところは、なかなかいいですな。
まさかこうして歓迎会をやってもらえるなんてね。
まあ、どうぞ一杯。今日は無礼講だそうですよ。
あなた、現世でお会いしたことあります? 見覚えあるなあ。
お仕事は何を? はあ、公務員ですか。
お堅い職業の方とは、てんで縁がありません。人違いかな。

え? 私の職業ですか?
大きな声じゃ言えませんがね、ここだけの話、私は詐欺師でした。
そんじょそこらのケチな詐欺師じゃありません。
一流の詐欺師ですよ。いやあ、よく騙しましたよ。いろんな人を。
だけどね、一度も捕まったことがないんですよ。

そんな悪いやつがなぜ天国にって思うでしょう。
騙したんですよ。査定人をね。
だって私詐欺師だもん。
どうです、もう一杯。

ん? 手を見せろって? 手相でも見るんですか?
ははは、生命線ありますかねえ~。
いてて、何するんですか。
「逮捕する」
「え? あんた公務員でしょう?」
「警察官も公務員だ。現世でずっとお前を追っていた」
「あ~、天国サイアク。早く生まれ変わりてえ~」
「地獄へ落ちろ!」

おそまつ!
*********


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新人さん [公募]

朝は誰よりも早く出社して、社員たちが気持ちよく働けるように掃除をする。
入社してからずっとそうしてきた。
今朝も、当然一番乗りだと思ったら、社長が鼻歌を歌いながら机を拭いていた。
「おはようございます。社長、早いですね」
「春日さん、おはよう。ほら、今日から新人さんが来るでしょ。だからね、彼女が気持ちよく働けるように、机をきれいにしてたんだ」

社長がだらしなく鼻の下をのばしながら言った。
社長をここまで張り切らせた新入社員の彼女は、面接で一度微笑んだだけで採用が決まった。
美人で愛らしく、そして若かった。

先代の社長に見初められ、私がこの小さな食品会社に入社してから30年が過ぎた。
先代の社長は、5年前に奥様を亡くしてから急に気力を失い、息子に社長の座を譲った。
息子である今の社長の代になってから、会社の雰囲気はがらりと変わった。
新しい機械を次々に導入して、システムを変え、古くからいる年配社員をリストラした。
すっかり若返った会社で、私だけが浮いていた。

社長が、私を疎ましく思っているのは知っている。
私は新しい機械やシステムを必死で勉強して、何とかこなしているからクビにできない。
そこで社長は、若い事務員を雇い、私が居づらくなって辞めるように仕向けるつもりだ。
この狭い事務所に、二人の事務員はいらない。

いつもは就業時間ぎりぎりに来る従業員たちが、10分以上早く出社した。
「あれ、社長、新人さん、まだですか?」
「うん。道に迷っているのかな。どう思う? 春日さん」
「一度面接に来ているのに迷うはずがありません。よほどのバカでなければ」
「電車の遅延かな。遅延の情報入ってない? 春日さん」
「すべて平常運転です」
社長を始めとする男性社員が、首を長くして待っていても、彼女は一向に現れない。
とうとう就業時間を過ぎてしまった。
「社長、そろそろ朝礼を」
「ちょっと待って。新人さんに電話してみる」
社長が履歴書を見ながら電話をかけたが、どうやら繋がらないようだ。
「社長、朝礼を」
「うーん、今日はいいや。僕はここで新人さんを待つから、各自職場について」

男性社員たちが、がっかりした様子で営業や倉庫に向かうと、事務所には社長と私だけになった。
ピカピカの机に座るはずの美しい新入社員は、30分を過ぎても来ない。
時計を見ながら溜息ばかりの社長に、私は言った。 
「ドタキャンじゃないですか?」
「ドタキャン?」
「平気でドタキャンするらしいですよ。あの人。女友達には、すこぶる評判悪いです。約束は破るし、男の前では態度が違うらしいですよ、あの人」
「どうしてそんなことを知ってるんだ」
「彼女の身辺をリサーチしたんですよ。だって、これから机を並べて仕事するのがどんな人か、知りたいじゃないですか」
「春日さん、どういうつもり? 何の権限があってそんなことを」

社長が蔑むような顔で言った。
「嫉妬? 若くて美人の新人さんに嫉妬してるのかな? 見苦しいぞ、春日さん」
「社長、その美人で若い彼女は、前の会社を半年足らずで辞めていますね。その辺の理由はきちんとお聞きになりましたか? この職種に関する知識は、どの程度あるのでしょう」
社長の顔色が変わった。
「それに、さっきから新人さんって呼んでいますけど、彼女に名前はないんですか。外見ばかりに気を取られて、内面をちゃんと見ていない証拠ですよ」
「俺に意見するなんて、あんた何様だ」
社長がついに、顔を真っ赤にして怒った。
「出過ぎたことを申しました。すみません」
「わかればいいんだ。二度と俺に意見するな」

「社長、ひとつご報告があります。私、先代の社長、つまりあなたのお父様から、正式に求婚されました。お受けするつもりです」
「え?」
「これからは会長夫人として、会社のお役に立ちたいと思っております。多少の意見はご容赦下さい」
いくつになっても父親に頭の上がらない社長は、明らかに動揺して、気持ちの整理がつかない様子で用もないのに倉庫へ向かった。

新入社員はとうとう来なかった。
来るはずがない。私が事前に連絡したのだから。
「この会社はひどいブラック会社で、男性社員のセクハラが原因で何人もの女子社員が辞めている。入社を取りやめた方がいい」と嘘八百を並べて、彼女の入社を阻止した。

だって、職場の花はひとりで充分でしょう。


********
公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
テーマは「新人」でした。
佳作など読みましたが、やはり新入社員の話が多かったですね。
「今年の新人は」などと毎年言われますが、「今の若者は」と、昔から言われ続けるのと同じで、誰もが通る道なのですね。
でも、ここ数年は明らかに「ちょっと違うな」と思うのは私だけでしょうか。
年取ったから?


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シロクマ婦人 [ファンタジー]

シロクマ婦人は、いつも白い毛皮のコートを着ている。
でっぷりと太り、丸まって歩く。
髪も肌も白く、黒目がちな目をしている。年齢不詳だ。
シロクマ婦人と名づけたのは僕だ。本名なんて知らない。
彼女とは、毎朝バスで乗り合いになるだけの関係だ。

シロクマ婦人は、座席2つ分を占領するが、もちろん二人分の料金を払えなんて思わない。彼女はとても愛すべき存在だ。
「で、そのシロクマ婦人は、毎日どこに行くの?」
咲が、興味深そうに身を乗り出した。
咲は僕の恋人で、2年近く一緒に暮らしている。
「知らないよ。僕の方が先に降りるから」
「気になるわ。白い毛皮のコートを着て、いったいどこへ行くのかしら」
尾行しよう、と好奇心旺盛な咲が探偵まがいのことを言い、僕たちは仕事が休みの日曜日、ふたりでバスに乗った。

5つ先のバス停から、シロクマ婦人が乗ってきた。
「本当にシロクマね。すごい毛皮。さわりたい」
咲が小声で言いながらはしゃいでいる。
『次は、動物園前、動物園前』
アナウンスが流れると、シロクマ婦人がすーっと手をのばし、降車ボタンを押した。
「やだ、動物園前で降りるわよ。シロクマだけに?」
笑いをこらえるように咲が言い、僕たちはシロクマ婦人に続いてバスを降りた。

シロクマ婦人は、迷いなく動物園に入った。
料金を払わずに入ったから、関係者なのだろうか。
「ねえ、ホントに動物園に行くなんてウケるわね」
二人分の料金を払い、シロクマ婦人の後を追った。

シロクマ婦人は、ゾウにもキリンにも猿山にも興味を示さず、まっすぐに向かった先は、シロクマの檻だった。
「やだ!シロクマ婦人がシロクマの前で立ち止まったわ」
咲は本当に嬉しそうだ。子供のように飛び跳ねている。
檻の中には、オスのシロクマが一頭。
金網越しに、シロクマとシロクマ婦人は、じっと見つめ合っている。
何分も何分も動かずに見つめ合っている。

僕たちは、ただ単にシロクマを見に来た客を演じて、シロクマ婦人の隣に立った。
そっとシロクマ婦人を盗み見ると、婦人の目から大粒の涙がいくつも流れている。
僕と咲は、思わず息をのんだ。
白い毛皮のコートが、小刻みに震えている。
興味本位で覗き見したことを、ひどく後悔した。
僕が小さな声で「帰ろうか」と言うと、咲も黙って頷いた。

帰りのバスの中、僕たちは無言だった。
どちらからともなく手を握り合い、寄り添ってバスに揺られた。

翌日から、シロクマ婦人はバスに乗らなくなった。
ぽっかり空いた座席を気にしているのは、僕だけのようだ。
「あの人、どうしたのかな」などと囁き合う人は誰もいない。

「駆け落ちしたんじゃない? あのシロクマと」
咲が、またおかしなことを言いだした。
「だって、すごく愛おしそうに見つめ合っていたじゃない」
「まさか」と言いながら、何となくそんな気もする。

日曜日、僕たちは動物園に行った。
シロクマの檻は空っぽだった。
「やっぱり駆け落ちよ」咲が、優しく金網を撫でた。

「シロクマのタロウは、先週死にました」
後ろから来た飼育員らしき男が、僕たちに声をかけてきた。
「1月に、シロクマのハナコが死んでから、めっきり元気をなくしていましたから」
飼育員は、寂しそうに空っぽの檻を見つめた。
僕がシロクマ婦人を初めて見たのは1月だった。

「夫婦だったのよ。タロウとハナコは」
「愛し合っていたんだね」
僕は、咲の手をぎゅっと握った。
檻の中に、シロクマの夫婦が見えるような気がした。

「あのさ、結婚する?」
春の陽だまりの中で、咲がこくりと頷いた。

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