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お兄ちゃん [コメディー]

あれ、ジュンちゃん、どうしたの?
明日まで広島出張じゃなかった? 一日早く帰ってきたんだ。
そ、そうなんだ。
え? 何も慌ててないよ。やましいことなんかないよ。
あるわけないでしょ。会いに来てくれて嬉しいよ。

タバコ臭い? ああ、えっとね、昨日ユミが来たの。
ほら、あの子タバコ吸うから。
ベランダに男物の下着? ああ、それはね、えっと、防犯だよ。
ほら、女性のひとり暮らしは物騒でしょ。
だからね、しまむらで買ってきたの。しまむらブランド。いいでしょ。

洗面所に髭剃り?
ヤバ……、えっとね、最近女性ホルモンが足りないのかなあ~
髭が生えてきちゃって。へへへ。
でも大丈夫だよ。もう剃ったから。

寝室に男が寝てる?
あっ、えっとね、あの……、紹介します。兄です。
ひとりっ子だろうって? 
それがですね、生き別れの兄がいることが判明して、昨日涙のご対面。
……昨日はユミが来たんだろうって? ハハ、聞き逃さないねえ、さすがだね。
そうだよ。ユミに立ち会ってもらって3人で会ったの。
いやあ、話がはずんじゃってね、お兄ちゃん終電逃しちゃってさ、泊まってもらったの。

挨拶したいって? いやいや、お気遣いなく。
なんか、お兄ちゃん、よく寝てるし、今度ゆっくり紹介するから今日は帰って。
ごめんね、ジュンちゃん、また電話するね~。
あ、お土産のもみじ饅頭だけはもらっておくね。

は~、何とかバレずに済んだ。(いや、ふつうにバレてるだろ)

「おはよう」
「お、おはよう。あっくん。もう昼だよ」
「さっき、男の声がしたけど、誰か来たの?」
「あ、えっとね~、お兄ちゃん!」


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見える人、見えない人 [コメディー]

我が家はいわゆる「見える」家系だ。
パパもママも私も、生まれたときから幽霊が見える。
ただ、どういう訳かお姉ちゃんだけは「見えない」人だ。
霊感が全くない。
だからといって困ることなど何ひとつない。
霊なんて、見えないに越したことはないのだから。

そんな我が家に、ちょっと困ったことが起きた。
お姉ちゃんが、幽霊を連れてきてしまったのだ。
青白い顔の男の霊が、お姉ちゃんの肩に乗っている。

「どうする? パパ、ママ、教えてあげた方がいいかな?」
「あの子は怖がりだから、きっとパニックになるよ」
「悪い霊じゃなさそうだし、明日にはいなくなるでしょ」

お姉ちゃんはまるで気づかない。
「ああ、肩が重い。誰か揉んでくれない?」
「お姉ちゃん、揉んだくらいじゃ治らないよ」
「そうか。疲れがたまってるのかな。明日マッサージ行こう」
(マッサージでも治らないけどね)

翌日、お姉ちゃんに憑りついた霊は、いなくなるどころか二人に増えた。
血を流した男の霊だ。そして日を追うごとに、男の霊が増えていく。
「お姉ちゃん、会社で何かあった?」
「なにかって?」
「人がいっぱい死んだとか」
「あるわけないでしょ」
「じゃあ、心霊スポットとか行った?」
「究極の怖がりなのに、行くわけないでしょ」
「だよね。じゃあ、最近変わったことは?」
「何もないわよ。相変わらずの氷河期よ。いい男は結婚しちゃうし、合コンはハズレばかり。私のモテ期はいつ来るの?」
あ…、いつもの愚痴が始まっちゃった。退散しよう。

とはいえ、放っては置けないということで、知り合いの霊媒師のおばばに来てもらった。
「おばば様、うちの長女はものすごい怖がりなんです。霊が憑いていたと知ったら大騒ぎです。どうか寝ているうちに除霊してください」
「ふむ、見える家系に生まれたのに、見えない上に怖がりとは、不憫なことじゃ」

お姉ちゃんの部屋に行くと、ベッドの周りに霊たちがふわふわ浮いている。
何も感じないお姉ちゃんは、すやすやと寝ている。
「悪い霊ではないな。どれ、話を聞こう」
おばばが、霊たちひとりひとりに話しかけた。
私たちには霊は見えるけど、声は聞こえない。
ここはおばばに任せて、隣の部屋で除霊が終わるのを待った。

30分後、おばばがお姉ちゃんの部屋から出てきた。
「終わったぞ。もう大丈夫じゃ」
「なぜ、あんなにたくさんの霊が姉に?」
「恋じゃ」
「はっ?」
「あの霊たちは、あの子に恋をしたそうじゃ。しかし所詮、幽霊と人間の恋じゃ。叶わないと知って、みんな離れた。切ないのう。罪な女じゃ」

翌日、お姉ちゃんはすっきりした顔で起きてきた。
「今日は肩が軽いわ~」
「よかったね」
「今日の合コンは上手くいくような気がする。私にもやっとモテ期が来るかも」
…お姉ちゃん、もうモテ期、来たよ。
生きてる男じゃないけどね。


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拾った恋 [男と女ストーリー]

高2の夏、生まれて初めて彼氏が出来た。
ずっと憧れていたイケメンの翔君に告白したら、拍子抜けするほど簡単にOKをもらった。
「いいよ。ちょうど彼女と別れたばっかなんだ」と。
日曜日に、早速映画に行くことになった。
旬のアイドルが出ている大ヒット映画だから、先にチケットを買ってから食事をすることにした。

「舞ちゃん、俺バイト代が入るまで、すげー貧乏なんだ。悪いけど割り勘でいい?」
「もちろんだよ」
あたしは自分の分を翔君に渡して、2枚いっしょにチケットを買ってもらった。
そして近くのファミレスで食事をした。友達がどうしたとか、先生がウザいとか、模試がヤバいとか、特に中身のない話だったけど楽しかった。
そしてやっぱりあたしの分を翔君に渡して、いっしょに会計をしてもらった。
翔君は店を出ると財布の中のレシートを丸めてゴミ箱に捨てた。
「俺、財布が厚いと嫌なんだ」
へえ、男の子ってそうなんだ。ひとつ勉強になった。

映画館の前で、翔君が手を出した。
「舞ちゃん、チケットは?」
「えっ、翔君が持っているんでしょう」
「は? 俺持ってないよ。舞ちゃんに渡したよね」
渡された記憶は全くなかったけど、一応鞄とポケットを探る。
「あたし持ってないよ」
「持ってないよじゃないだろ。どこかで落としたのかよ。しょうがねえな。まだ時間あるから探しに行くぞ」

翔君が苛立った様子で歩き出した。あたしは腑に落ちないと思いつつ、後に続いた。
人が多いうえに風も強くて、道端で見つけるのは模試でA判定をもらうより難しい。
結局食事をしたファミレスまで戻った。
店員にチケットの落し物はないか尋ねたけれど、届いていないとの返答だった。
あたしたちが座っていたテーブルには、難しい顔で商談をしているサラリーマンがふたり座っている。
「舞ちゃん、あそこの椅子にチケット落ちてないか聞いてきて」
「えっ、あたしが?」
「うん。だって舞ちゃんが落としたんでしょ」
あたしはまっ赤になりながら、サラリーマンにチケットが落ちていないか尋ねた。
彼らは迷惑そうにお尻の下を見て「ないない」と短く言った。
そしてひたすら地面を見ながら映画館に戻ったけれど、チケットは見つからなかった。

「あーあ、どうする舞ちゃん」
完全にあたしのせいになっている。腑に落ちない。
あたしはチケットを買った時の様子を思い出した。
「翔君、財布にチケット入れなかった?」
「え?」と翔君は財布を開けて「入ってないけど」と、少し怒ったような口調で言った。
「捨てたんじゃない。ほら、レシートと一緒に。あそこのゴミ箱にあるかも」
「テキトーなこと言わないでよ。俺にゴミ漁れって言うの? なかったら責任とってくれんの?」
超イケメンだと思っていた翔君の顔が、歪んで醜く見えた。
翔君が彼女と長続きしない原因がわかった気がした。

もう帰ろうかと思ったとき、「あの」と大学生風の男が声をかけてきた。
「君たち、映画のチケット失くしちゃったの? よかったらこれあげるよ。彼女と見るつもりで2枚買ったけど、どうやら振られたみたいだ」
いつも笑っているような目をした、癒し系の人だ。
差し出したチケットに躊躇していると、翔君が「ラッキー」と言いながら受け取った。
「舞ちゃん行こう。始まっちゃうよ」と、まるで最初から自分の物のようにチケットをかざす翔君に、あたしの怒りはマックスに達した。
あたしは翔君を突き飛ばし、チケットを奪い取ると癒し系大学生に1枚を渡した。
「一緒に見ませんか。あたしとふたりで」
翔君が慌ててあたしの腕を掴む。
「ちょっと舞ちゃん。君の彼氏は俺だろ」
あたしは再び翔君を突き飛ばした。
「映画が見たかったらゴミ箱漁ってチケット探してこい、このクズ野郎。永久にサヨナラ」

翔君は、まっ赤になって映画館から出て行った。
あっけにとられた癒し系大学生が、「すげえ」とつぶやき、こらえきれずに吹き出した。
あたしはこの癒し系大学生と、このあと付き合うことになり、5年後めでたくゴールイン。
翔君があのときゴミ箱を漁ったかどうかはわからない。
結局誰がチケットを持っていて、誰が落としたなんてわからないけれど、あたしはあの日、最低なデートのおかげで素敵な恋を拾った。


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ぼたん園 [公募]

パートを終えた午後3時、家に帰りたくない気持ちは百パーセントに達する。
会話のない家は崩壊寸前、いや、もう崩壊しているかもしれない。
車を家と逆方向に走らせる。
民家がまばらな山道で、このまま行方不明になってやろうかと、幾度となく考える。
私がいなくなったら、あの家は間違いなく崩壊する。

古い木の看板が、目に飛び込んできた。黒い字で『ぼたん園』と書いてある。
そういえば、牡丹の季節だ。薄紅色の大きな牡丹が、実家の庭で毎年咲いていた。
花を見る余裕など、最近の私にはなかった。
気分転換に行ってみようと、車を看板の矢印の方へ走らせた。

広い日本庭園のようなものを想像していたが、コンクリートの小さな建物だった。
この建物の奥に、きっと牡丹園が広がっているのだろう。
中に入ると、薄暗い窓口から、顔半分が見えない老婆が「どうぞお入りください」と、しゃがれた声で言った。
個人の家の庭を、この時期だけ開放しているのだろうか。
私は、遠慮なく扉を開けて中へ進んだ。

色鮮やかな牡丹園を想像していた私は、その部屋に面食らった。
中に展示してあるのは、どこにでもある洋服のボタンだった。
確かに『ぼたん園』とひらがなで書いてはあったが、駄洒落? おやじギャグ? 
あまりのお粗末ぶりに笑うしかなかった。
さっさと進んで出ようと思ったとき、受付にいた老婆がいつのまにか、私の後ろにピタリと寄り添っていた。
「これが、あんたのボタンだよ」
老婆はそう言って、クリーム色の小さなボタンを指さした。
「あんたが、掛け違えたボタンだよ」
掛け違えたボタン? 私は、その小さなボタンを手に取った。
すると目の前が急に明るくなり、賑やかな子供の声が聞こえてきた。

「ねえ、ママ、晩ごはんなに?」
私のスカートにまとわりつくのは、娘の実花だ。
今は13歳で、大人を小馬鹿にしたようなことしか言わない実花が、まだあどけない幼稚園児だ。
「ぼく、ハンバーグがいい」と、リビングに駆け込んできたのは、息子の聡だ。
引き籠って誰とも口をきかない十六歳の聡が、ランドセルを背負った小学生で現れた。
「ママのハンバーグ大好き」
口を揃えるふたりの頭を撫でながら、私はおひさまみたいに笑っていた。

次のシーン。現れたのは、六年生の聡だ。
「ねえ、どうしても塾に行かなきゃだめ?」
「当たり前でしょう。私立中学を受験するのよ。学校の授業だけじゃ無理でしょう」
聡が好きだったサッカーを辞めさせて、塾に通わせた頃だ。
夫が帰ってきて、ネクタイをゆるめながら言う。
「中学は公立でいいんじゃないか?」
「あなた何もわかってないわ。公立はいろんな子がいるの。いろんな事件もあるわ」
この地域の中学が荒れているという噂を、いくらか大袈裟に言い、夫を黙らせた。
そこからだ。我が家が崩壊へ向かったのは。

聡は結局、中学受験に失敗した。
サッカーを辞めたことで友達が離れたこともあり、中学へは一日も通わなかった。
引き籠り、時々部屋で暴れることもある。
実花はその3年後に公立中学へ進んだが、噂ほど荒れた様子はなく、いたって平和な中学だ。実花はすっかり兄を馬鹿にするようになり、夫のことも、私のことも下に見ている。
何よりいつも重い空気が漂う家を、心底嫌っている。

あのときだ。私がボタンを掛け違えたのは、聡の中学受験を決めたときだ。
聡のためだと言いながら、果たして本当に聡のためだったのか。
ママ友たちとの会話がよみがえる。
「聡君、有名私立に行くんですって?」
「聡君、成績がいいからね。羨ましいわ」
「そんなことないわ。勉強嫌いで困ってるのよ。でもほら、子供の将来を考えたらね」
ママ友たちの善望のまなざしが、上辺だけのものだと知るのは、聡が受験に失敗した後だ。今では誰ひとり、付き合いはない。

現実に戻った。薄暗い部屋で、私は黄ばんだボタンを握りしめている。
先ほどの老婆が、私の肩に優しく手を乗せた。
「だいじょうぶ。まだ、だいじょうぶだ」
「大丈夫?」
「あんただって、反抗期のときは相当だった」
振り向いて見ると、老婆は私の母だった。
親孝行のひとつも出来ぬまま、逝ってしまった母だった。
「まだ、間に合う?」
「間に合うさ」
 涙を拭いて顔を上げると、もう母はいなかった。ぼたん園もすっかり消えていた。
手のひらに残ったボタンを握りしめ、私は歩き出した。
今夜はとびきりおいしいハンバーグを作ろう。
聡のために、実花のために、夫のために。時間はかかっても、きっと間に合う。
ひとつづつ、ボタンをかけなおそう。

****

公募ガイド『TO-BE小説工房』で、佳作をいただきました。
課題は「ボタン」です。
今回は次点だったので、阿刀田先生の選評もちょっとだけいただきました。
ところで今月の課題は「質屋」
何を書いたらいいのかさっぱりわかりません。まあ、ぼちぼち…。


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彦星の愛人 [コメディー]

あら、織姫さん、いらっしゃい。
今日は7月7日。年に一度の面会の日ですね。
今、彦星さんを呼んできますね。
え? 私ですか? 私は彦星さんの愛人です。

でもご安心くださいね。
本妻は織姫さんだということは、重々承知していますから。
私は愛人の身ですから、364日一緒にいられるだけで充分ですのよ。
呼んでくるからお待ちくださいね。
彦星さーん。織姫さんが見えたわよ。
早くして。待たせちゃ悪いわよ。

ほらほら、子供の面倒は私が見るから。
子供いるんですか…って? はい。今3ケ月です。
あっ、ご安心ください。
認知はしてもらいましたけど、本妻の座を奪う気はさらさらありませんので。
名前聞きたいですか? 別にいい? そう言わずに聞いてくださいよ。
星羅月って書いて、セーラームーンっていう名前なんです。
変でしょ。キラキラネーム。彦星さんがつけたんです。

もう、早くしなさいよ。
星羅月、パパはお出かけだからママのところにいらっしゃい。
ほら、待たせたら織姫さんに失礼よ。
1年に一度しか逢えないんだから。

あれ? 織姫さん? いない。
帰っちゃったのかしら。どうして?
もう、1年に一度くらい出かけて欲しかったのに!


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おとぎ話(笑)19 もしも編 [名作パロディー]

シンデレラ

(もしも王子様がガラスの靴を持ってこなかったら)

「すみません。シンデレラと申します」
「何の用だ」
「昨夜お城の階段に、ガラスの靴を忘れてしまいました」
「ガラスの靴? ああ、ちょっと遅かったな。今日は燃えないゴミの日だったから出しちゃった」
「マジか!」



赤ずきん

(もしもオオカミがおばあさんになりすましていなかったら)

「おばあさまの耳は、どうしてそんなに大きいの?」
「福耳さ」



桃太郎

(もしも桃太郎がきび団子を持っていなかったら)

「サルくん、いっしょに鬼退治に行こう。報酬は出来高払いでいいかな。じゃあ、この契約書にサインして」
「ブラックじゃないよね」



鶴の恩返し

(もしも鶴が方向音痴だったら)

「夜分にすみません…あ、家間違えた」
ああ、これで5軒目よ。道一本間違えたかしら。
「夜分すみません…あ、ここも違う」
もう、恩返しやめよう。


白雪姫

(もしも魔法の鏡がアニオタだったら)

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
「それって、三次元限定? 二次元もアリだったら話変わってくるんだけど。そもそも毛穴見えた時点で萎えるんですけど、ワタシ」
ガッシャーン(割れた)


*****
おとぎ話(笑)シリーズ19まできました。
めざせ30連勝。あ、違うか^^


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ビールを買いに [コメディー]

夏の夕方、ずいぶん早く帰ってきたお父さんが、冷蔵庫を開けて「ああああ~」と大声を出した。
「ビールがない!」
お父さんは息子の啓太を呼んだ。
「啓太、角のコンビニでビールを買ってきてくれ。お父さん、疲れて歩けない」
「お父さん、僕は12歳だよ。未成年はビールを買っちゃいけないんだ。大人のくせに知らないの?」
「でもさ、おまえは12歳の割に背が高い。俺と大して変わらないだろう。変装すれば買えるさ」
犯罪じゃん、と啓太は思ったけれど、ちょっと面白そうな気もした。
お父さんのスーツを着て、帽子とサングラスとマスクをしたら小学生には見えない。
「おお、完璧だ。低い声を出すんだぞ」
「じゃあ、ちょっと行ってみる」
「角のコンビニだぞ。間違えるなよ」

外に出るなり啓太は、あまりの暑さに驚いた。
「お父さん、こんな暑いスーツで会社に行ってるんだ。大変だな」
啓太はすぐさま上着を脱いだ。
コンビニに着くと、ガラスに映った自分の姿を見てギョッとした。
「あれれ、まるでコンビニ強盗だ」慌ててサングラスを外した。
店内には、レジの女と男のバイト。立ち読みの高校生がふたりだけ。 
帽子を目深に被りコンビニに入ると、啓太は迷わずお父さんの好きなビールを2本かごに入れた。ついでにポテトチップを入れてレジに行った。
「いらっしゃいま……」
レジの女の手が止まった。啓太の顔をじっと見ている。
隣にいた大学生のバイトが「未成年っすよね」とささやいた。

レジの女は呆れたような顔で、バイトに言った。
「このビール、あたしが買うから、レジ代わって」
「え? いいんすか?」
女は素早くレジカウンターから出て、啓太の隣に並び、啓太の代わりに金を払った。
「あのね、小学生はビールを買っちゃいけないのよ」
「へへへ、ばれたか」
「じゃあ、もうすぐ仕事が終わるから、ここで待ってなさい」
「はい、お母さん」

レジの女は、啓太の母親だった。
お父さんとケンカして家を出たお母さんは、近所のコンビニで働きながら、ときどき啓太の様子を見に行っていた。
「お母さん、ここで働いてたんだね。お父さん、知ってたのかな」
「昼間なら見つからないと思ったのに、どこかで聞いたのね」
「ねえ、お母さん、家に帰って来てよ。お父さんとふたりだと面倒くさいよ」
「そうね。子供にビールを買いに行かせるお父さんじゃ、しょうがないわね。きつく叱ってあげるわ」
「ほどほどにしてよ。またケンカになるから」

その頃お父さんは、シンクにたまった洗い物を片付けながら、時計を見た。
「そろそろ帰ってくるかな。啓太とお母さん」


*****
童話賞に応募しようと思って考えた話ですが、犯罪めいた話じゃさすがにダメだろう……ってことで、やめました(笑)


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紫陽花の恋 [ファンタジー]

紫陽花は、気まぐれ、移り気などと言われますが、私は違います。
私は一途です。
私が恋をしたのは、目の前のアパートに住むT大生です。
爽やかでイケメンで、おまけに頭がいいのです。

彼は毎朝、大家さんに挨拶します。
「おはようございます。紫陽花がきれいに咲きましたね」
きれいだなんて言われてしまいました。照れます。
大家さんは私に水をかけてくれながら、ひとりごとをつぶやきます。
「いい男だね。礼儀正しいうえにT大か。あたしが50歳若かったら惚れてたよ」
私も思います。私が彼に似合いの(人間の)女性だったらどんなに嬉しいか。
彼が目の前を通るたびに、私は花びらをピンクに染めました。

ある日、彼が女を連れてきました。彼より年上に見えます。
ブランド品を身に着けた、いけ好かない女です。
私は、カタツムリに命じました。「さあ、あの女の頭に乗りなさい」
カタツムリは、私の葉っぱからぴょんと飛んで、女の頭の上に乗りました。
「きゃ、なにこれ、キモ!」
女はカタツムリを投げつけました。
ほらごらん。ろくな女じゃない。きっと純情な彼をたぶらかそうとしているのです。

彼は憂うつそうな顔で私を見ています。
「どうかしたの?」と、女が言いました。
「ああ、ごめん。実は母が入院してね、ちょっと難しい病気なんだ」
「まあ……」
「治療費がかかるから、大学をやめて働こうかと思っているんだ」
「そんな、T大をやめるなんて勿体ないわ。いくら必要なの?」
「いや、そんなこと、マキさんに頼めないよ。ごめん、忘れてくれ」
「いいのよ。どうせ夫が株で儲けたお金よ。あなたのお母様のために使いたいの」
マキという女、結婚しているようです。なんて女でしょう。
しかもお金で彼を繋ぎとめようとしています。あざとい女です。
でも彼は、きっとマキのことが好きなのでしょう。
人目もはばからず、紫陽花目もはばからず、ふたりは抱き合いました。

地面に叩きつけられたカタツムリが、葉っぱの上に這い上がってきて、
「どうせ叶わぬ恋だよ。せっかくきれいに咲いたのに残念だけどさ」
と、自分の痛みも忘れて慰めてくれました。

しばらくして、彼の姿が見えなくなりました。
優しい彼のこと、きっと病気のお母様のところに行ったのでしょう。
マキはたまに見かけました。彼がいなくてがっかりして帰りました。
ざまーみろ、と思いました。

日差しが眩しくなって、本格的な夏がやってきました。
私の季節ももう終わりです。
そんなとき、大家さんが近所の人と井戸端会議にやってきました。
「詐欺師だったらしいよ」
「あらまあ、あのT大生が?」
「T大っていうのもウソだったらしいよ」
「若い女から金をだまし取ってたんだって。怖いねえ」
「ホントにね。あたし騙されなくてよかったよ」
「ちょっとあんた、あたしゃ若い女って言ったんだけど」
ハハハハハハハ

何の話をしているのでしょう。
どうでもいいけど水をください。今にも枯れそうです。
花の先っぽが、茶色くなってきました。
大家さんたちは、まだしゃべっています。
カタツムリが、葉っぱから話しかけてきます。
「おいらたちの季節はもう終わりだな。紫陽花さん、もし一緒に人間に生まれ変わったら、おいらと恋をしようよ」
「あたし、メンクイよ」
「知ってる」

夕立が降ってきました。気持ちいいです。
さあ、もう一花咲かせましょう。


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おじさまと人魚 [ファンタジー]

子供の頃、冒険家のおじさまの話を聞くのが好きだった。
海賊に襲われて、命からがら逃げた話や、どこかの民族の酋長に気に入られて、危うく婿養子にされそうになった話。
大きな熊と闘った話もあった。

私がいちばん好きだったのは、おじさまが人魚と恋に落ちた話。
船が遭難して、人魚の国にたどり着いたおじさまは、ひとりの人魚と恋をした。
だけどおじさまは海の中では生きられず、人魚は陸では生きられず、悲しい別れとなった。
おじさまは、とてもつらそうに話してくれた。
その話を聞くたびに、私は切なくなった。
おじさまは、きっとその人魚が忘れられないから、誰とも結婚しないのだろうと思っていた。

月日が流れて、おじさまはすっかり年を取った。
幼かった私も、すっかり大人になった。
いくつかの恋をして、社会に揉まれ、おじさまの冒険話を素直に信じる子供ではなくなった。
おじさまは冒険家などではなく、定職を持たずにふらふらしていただけだと母から聞いた。
親戚中から疎まれていたことも、今は知っている。

おじさまは、海辺の施設に入っている。
訪ねて行っても、もう私が誰だかわからない。
窓辺の椅子に座り、静かに海を眺める横顔があまりに悲しそうだから、私は思わず言った。
「おじさま、人魚のことを考えているのね」
おじさまは、ハッとした顔で私を見た。
「なぜ人魚のことを知っている」
「おじさまが話してくれたのよ。私が小さいころにね」
おじさまは目を細めて私をじっと見た。
「あんたは信用できそうだ。ちょっとそこのジュラルミンケースを取ってくれんか」
おじさまがいつも持ち歩いていた銀色のケースが、ベッドの横に置かれていた。
おじさまが首から下げた鍵で扉を開けると、中に缶の箱があった。
「それを持ってついてきなさい」
杖をついて歩き出したおじさまを、私は慌てて追いかけた。

「おじさま、どこへ行くの?」
おじさまは答えない。まるで恋人にでも逢いに行くように、頬が微かに紅潮している。
施設の前は海だった。おじさまは歩きづらそうに砂浜を歩き、テトラポットに腰を下ろした。
「その缶を開けてくれ」
おじさまに言われて止め金を外し、蓋を開けた私は、「キャッ」と小さな悲鳴を上げた。
中には、干からびてミイラになった魚が入っていた。
もはや何の魚かわからないが、完全に水分が抜けてシシャモくらいの大きさになっている。
「そいつを海に返してやってくれ」
「おじさま、海に返したところで、もう泳がないわよ」
「いいんだ。さあ、彼女を海に返してやってほしい」
彼女…? おじさまは、愛おしそうに魚のミイラを見た。

私は、魚のミイラをそっと波に乗せた。
魚のミイラは、寄せては返す波に身をまかせ、やがて沖へと姿を消した。
おじさまは、泣いていた。きらきら光る波に消える魚のミイラに、小さく手を振っていた。

おじさまが人魚に恋をした話は、もしかしたら本当だったのかもしれない。
海と陸、引き裂かれたおじさまは、人魚によく似た美しい鱗を持った魚を、ずっと傍に置いていたのかもしれない。ミイラになっても、ずっと、ずっと…。

水平線に何かが飛び跳ねて、きらりと光った。
おじさまは、愛おしそうにそれを眺め、ふいに振り向いた。
「私が、七つの海をまたにかけ、冒険していたころの話を聞きたいかね?」
私は、反射的に手を叩いた。
「待ってました!」
おじさまは、昔みたいに勇ましく笑った。


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記憶研究所 [公募]

「大丈夫、眠っている間に終わります」
初老の医者が祥子の顔を覗き込んだ。
医者の顔に並んだホクロを、祥子は薄れていく意識の中でぼんやり見た。

「人間は間違いを犯します。しかしそこで躓いて、たった一度の人生を棒に振るのはよくありません。いいですか」
初老の医者は、紙に鉛筆で丸を書き、すぐに消しゴムできれいに消した。
「間違った文字を消しゴムで消すようなものだと思ってください。祥子さんの人生の悲しい記憶を、すっかり消してしまうのです」
祥子の母は、祈る想いですがりついた。記憶を操作する研究は、まだ開発途中で合法ではない。
しかし祥子は悲しみの淵に沈み、自殺さえしかねない。
祥子を苦しめる記憶を消して、以前のように楽しく暮らせるだろう。

施術は無事終わり、祥子は眠っている。
「成功しました。ただ、何かのきっかけで思い出してしまうことがないとは言えません。身の回りの物を出来るだけ処分して、新しい環境で暮らすことをお勧めします」
医者はそう言うと、眠っている祥子を一般病棟に移す手続きをした。
「記憶研究所」に来たことも、祥子の記憶から消えているからだ。

目覚めた祥子は、以前のようなあどけない十七歳の少女に戻った。
「どうして私病院にいるの?」
「ただの検査入院よ。ほら、貧血で倒れたでしょう。もう大丈夫よ」
母親は何事もなかったように振る舞い、祥子が入院している短期間で新居を決め、高校の退学届を出し、新しい生活の準備をした。

母親は祥子を連れて、遠く離れた田舎町で暮らすことにした。
元々不登校気味だった祥子は、高校に未練もなく、すぐにこの暮らしを受け入れた。
母親はスーパーで働き、祥子は近くの農園でアルバイトを始めた。
土いじりに向いているようで、学校に行っているときよりもずっと生き生きしている。

祥子は、農園で知り合った青年と親しくなった。今どき珍しい素朴な青年だ。
「祥子は、お母さんと二人暮らしなのか?」
「うん。生まれたときから二人なの。父親は、顔も知らないわ」
「そうか。だからアルバイトで家計を助けているのか。えらいな、祥子は」
青年は大きな手で祥子の頭を撫でた。その仕草が好きで、祥子は頬を染めた。

「土曜日に、星祭りに行かないか」
トマトの収穫をしながら、青年が言った。
夏休みに近所の小学生を集めて、星を見るイベントだ。
過保護すぎるほど祥子の外出を規制する母親だが、最近明るくなった祥子を見て夜の外出を許可した。
信用できる青年だし、祥子のよいパートナーになりそうだ。
この町で平穏に暮らすために彼は必要だと思った。

星祭りの夜、小学生に交じって、祥子は青年と星を見た。
都会ではありえない星空だ。今にも降ってきそうなほど近い。
宇宙に手が届きそうな感覚に、祥子は息をのんだ。
「すてき。こんな星空初めて見た」
「すごいだろう。ほら、あれが北斗七星だ」
七つの星を、青年の指が辿る。
それを目で追いながら、祥子はふと、頭の中で何かが弾けるような気がした。
何かが祥子の記憶の蓋をこじ開けようとしている。
なんだろう。難しい数式を思い出すように、祥子の脳が急激に動き出した。
星座の説明をする青年の声は、もはやまるで聞こえない。
もやもやしたまま、星祭りが終わった。

会場の出口で、スタッフが参加賞を配っていた。
星型の消しゴムだ。それを受け取り、祥子は小さくつぶやいた。「消しゴム……」
不思議な感覚と共に、記憶がじわじわと染み出してくる。『初老の医者』『記憶研究所』。
祥子はあんなに好きだった青年の手を振りほどき、走り出した。
「お父さん」と叫ぶ声が、震えていた。

祥子には父親がいた。酒を飲むと人が変わったように暴力をふるう父親だった。
月も星もない真夜中、祥子は母親と一緒に、マンションのベランダから父親を突き落とした。
泥酔して母親を殴った後だった。

祥子の記憶がすべて戻ってしまったことを知った母親は、ひどく動揺した。
「祥子、落ち着いて。もう済んだことよ。警察も事故で処理したじゃないの」
「私は憶えてる。お父さんを押したときの手の感触も、全部憶えてる」 
この町で穏やかに暮らせると思ったのに、いったいなぜ記憶が戻ってしまったのだろう。力なく座りこむ母親の耳に、テレビニュースの音声が滑り込んだ。

『……無認可の治療を行ったとして、記憶研究所の医者が逮捕されました』

テレビ画面に映し出された初老の医者の顔には、星座のようなほくろが七つあった。

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公募ガイドTO-BE小説工房で、落選だったものです。
テーマは「消しゴム」でした。
まったく自信がなくて、アップするのもやめようかな~と思ったのですが、まあいいか。
ちょっとテーマとずれたかな?
みなさまの意見をお聞かせください。


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