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アンドロイド・ママ [SF]

僕のママはアンドロイドだ。
パパが死んでから、ママはずっと沈み込んでいた。
悲しくて悲しくて、どうしようもなくなったママは、アンドロイド手術を希望した。
心が壊れてしまう前に、感情をなくしてしまうのだ。
希望してお金を払えば、誰でも手術を受けられる。
今では、都会の3分の1はアンドロイドだと言われている。

アンドロイドになったママは、いつも優しかった。
つまらないことで怒ったり、ヒステリックにわめいたり、うっかり失敗したり、そんなことはすっかりなくなった。
パパの写真を見ても、メソメソ泣くことはなくなった。

家事も仕事も完璧にこなす。
アンドロイドは仕事も早く、私情を入れないから会社からも重宝がられた。
収入が増え、僕たちの暮らしはずいぶん豊かになった。

だけど僕は、前のママが好きだった。
嫌なことがあると僕に当たったり、くだらないことで落ち込んだり、すぐに忘れ物をしたり、ぐちゃぐちゃの目玉焼きを作ったりするママが好きだった。

僕は夜中にこっそりママの部屋に行った。
頭の中に埋まっているICチップを抜き取ってしまおうと思った。
そうすれば、前のママに戻るかもしれないと思った。
髪をかき分けて、チップを探した。指が、固いものに触れたとき、けたたましい音でママが叫んだ。
ビービービー
まるで危険を知らせる警報音だ。

それを聞きつけたアンドロイド警察がやってきて、僕はあっという間に捕まった。
ママは感情のない目で、僕に言った。
「ICチップの窃盗は、重罪です。二度としてはいけませんよ」

僕は少年院に入れられた。
ママは毎日面会に来る。来るたびに、笑顔で僕に言う。
「犯罪はいけないことよ。二度としてはだめよ」
僕はママが作ってきた完璧な弁当を床に叩きつけた。
「ママ、どうして怒らないの。僕は悪い子だよ。もっと怒ってよ。大声で怒ってよ」
僕がどんなに泣きわめいても、ママは笑顔を崩さない。
「いけない子ね。二度としてはだめよ」
ニコニコと感情のない笑顔を繰り返すのだった。

僕はひどく落ち込んで、そして何もかもがどうでもよくなった。
そして僕は、アンドロイド手術を希望した。

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ヴァッキーノ

999の鉄郎みたいな男の子ですね。
少年はナイーブなんです。
そのへんのこともプログラミングしておかないとダメです。
感情もデータの蓄積の結果なんでしょうから。
by ヴァッキーノ (2011-09-05 19:15) 

川越敏司

ええっ~! こんな作品、公開しちゃダメですよぉ...ちゃんとSFマガジンとか、小説現代とか、原稿料出してくれるところがあるんですから!

これは、いままで読んだ中で最高傑作だと思います。もったいない、もったいない、もったいないお化けが大挙して押しかけてきますよ。

はあ~っ...りんさんは本当に欲のない人ですね。巨人のがちゃがちゃ...あっちも素晴らしいアイディアですよ。それを惜しげもなく公開して。ああ、もったいない、もったいない。

とはいえ、出し惜しみされても、ちょっとさみしくはあるのですが(^^;
by 川越敏司 (2011-09-05 21:35) 

海野久実

こういう感傷的なSFは大好きです。
SFっていうと難解な言葉が氾濫して、科学的な知識がないとちんぷんかんぷんっていうのもあるにはあるんですが、以前はそういうものもけっこう読んでいました。
なんとなくフィーリングで理解した気持ちになって、科学的な部分以外のストーリーだけを楽しむ感じかな。
でも最近はそれはつらいですね。
感傷的な、感動的な、お涙ちょうだいSFが好物ですね。

でもでも、この作品を書きなおしてSFマガジンにでも投稿しようと思うと、アンドロイドという言葉は使わない方がいいでしょうね。
アンドロイドは完全な人造人間なんですね。
つまり人の形をしたロボット。
外観がいかにも機械なのがロボットで、人間型がアンドロイド。
あと、ヒューマノイドと言う言葉もあるんですが、これは人間の形をしたロボットにも使いますが、異星人とか人間の形をした人間以外の物に使います。
雫石さん合ってますか?(笑)

この場合サイボーグが適切かな?と思うんですが、ちょっと違和感がありますね。
アンドロイドのようになってしまう手術と言う意味で「アンドロイド手術」と言われていると言う設定にしてもいいかもしれませんね。
りんさんなりに新しいネーミングを考えてもいいと思います。

by 海野久実 (2011-09-06 00:46) 

ケリー

素晴らしい!!
お茶なんか飲んでゆっくりなんて
読んでいられませんね^^;

SFは好きではないですが
こんなのは好きですよ~~
by ケリー (2011-09-06 01:33) 

矢菱虎犇

アンドロイド・ママって題なんで、
ミセスロイドのお話かと思ったら、ロボトミーのお話だったぁ!
乗り越えることが困難な悲しみにぶちあたって、打ちひしがれたとき、人が無表情になっちゃうのは、アンドロイド化に片足突っ込んでるようなもんかもしれませんねぇ。
by 矢菱虎犇 (2011-09-06 03:44) 

haru

ふうぅ~!この頃みなさんの作品を読ませて頂いているとき、どう解釈してどう朗読しようかな?なんて勝手に考えてしまいます。
それで、ひょっとして?と思ったのですが、

>嫌なことがあると僕に当たったり、くだらないことで落ち込んだり、すぐに忘れ物をしたり、ぐちゃぐちゃの目玉焼きを作ったりするママが好きだった。
このママは、りんさんご自身のことでしょうか?
あ、もちろん違いますよね。スミマセンです。(笑)
by haru (2011-09-06 19:37) 

浅葱

。。。が、しかし
で、どんでん返しの続編を書いてください。
これで終わりでは、あまりにも切ないです。
by 浅葱 (2011-09-06 20:30) 

かよ湖

とても切ないお話ですね。
悲しさから逃れて楽しい人生が送れると思い、アンドロイドになったのでしょうが、悲しい事・寂しい事があっても、やっぱり色々な感情を持ち合わせている人間がいいですね。
改めて思いました。
ありがとうございます。
by かよ湖 (2011-09-06 21:32) 

ぼんぼちぼちぼち

あっしは、自分の母親がアンドロイドだったほうがどれほど救われたことか! と思いやす。
エゴイズムのために日々殺されそうになる恐怖を体験しなくていいなら 院や施設のほうがよほどマシでやす。
殺されそうになったことは 今もよく夢でうなされやす。
チップになるならとり出したい過去でやす。

あ、これは個人的感想でやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2011-09-06 23:59) 

リンさん

<ヴァッキーノさん>
鉄郎のお母さんも機械人間でしたっけ?
メーテルも機械だったんですよね。
999面白かったなあ。

メーテルには、ちゃんと感情がありましたよね。
世の中が感情のない人間ばかりになったら怖いです。
by リンさん (2011-09-07 12:37) 

リンさん

<川越さん>
ありがとうございます。
SFは得意じゃないんですよ。専門知識がまったくないので。
だからSFマガジンに投稿なんて、考えたこともありませんでした。
そうですか。原稿料もらえるんですか。へえ~(その気になってる)
by リンさん (2011-09-07 12:40) 

リンさん

<海野久実さん>
科学的なものは全然書けません(笑)

そうですか。そういわれればアンドロイドはロボットですよね。
人造人間というのは、サイボーグなんですね。
何となく言葉的にアンドロイドのほうが良かったので使ってしまいました。
書く前に、いちおうネットで「アンドロイド」を調べたんですよ。
そしたら「アンドロイドケイタイ」ばかりが出てきて、面倒になってやめてしまいました。(笑)
by リンさん (2011-09-07 12:45) 

リンさん

<ケリーさん>
ありがとうございます。
どうぞ、お茶飲んでください(笑)
難しいSFは書けないので、こんな話になりました。
喜んでいただけてよかったわ。
by リンさん (2011-09-07 12:47) 

リンさん

<矢菱さん>
アンドロイドーミセスロイド??
なんじゃそりゃ(笑)虫も寄り付かないぞ。^^

困難を乗り越えずに感情をなくしては駄目ですね。
もはや人間じゃなくなっちゃう^^;
by リンさん (2011-09-07 12:50) 

リンさん

<haruさん>
読みながら朗読のことを考えるなんて、プロですね(笑)

ちなみに、私はものすご~く楽天家なので、人に当たったり落ち込むことはめったにありません。
忘れ物や目玉焼き崩すことは、よくあります^^;
by リンさん (2011-09-07 12:53) 

リンさん

<浅葱さん>
ちょっと切なかったですね。
今回はハッピーエンドにならなかった。。。
別バージョンが思いついたら書いてみます。
by リンさん (2011-09-07 12:54) 

リンさん

<かよ湖さん>
人間らしい感情が、すべてなくなってしまったら悲しいですね。
アンドロイドになった本人は幸せなのかもしれませんが、子供にとっては温もりのないロボットみたいですものね。
by リンさん (2011-09-07 12:58) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
つらい過去を思い出させてしまいましたか?すみません。
勝手に話を作っていますが、時々誰かがこれを読んで気を悪くするかな?などと考えることがあります。
ぼんぼちぼちぼちさんが、今はとても幸せであることを願っていますね。
by リンさん (2011-09-07 13:02) 

雫石鉄也

>雫石さん合ってますか?(笑)
海野久実さんへ、あってます。

出色のロボットSFです。ほんと、このまま埋もれしまうのは惜しいです。
東京創元社から出ている、年間SF傑作選に掲載されてもおかしくないと思いますよ。

by 雫石鉄也 (2011-09-07 13:52) 

海野久実

雫石さんありがとうございます。

ところで、りんさん。
>人造人間というのは、サイボーグなんですね。
サイボーグは、改造人間ですね。
色んな目的に合わせて人間を改造したものがサイボーグ。
この作品に使うにはちょっと大げさな感じがします。
間隔としては矢菱さんのおっしゃるロボトミー手術が近いようですね。
でもまた違います。

やっぱり新しい言葉を考えたほうが良いかもしれません。
そして、ぜひどこかへ投稿してください。
by 海野久実 (2011-09-07 17:56) 

海野久実

間隔→感覚 ね。
by 海野久実 (2011-09-07 17:57) 

川越敏司

>りんさん、SFマガジンの件、真剣に検討した方がよいと思いますよ。海野さん、雫石さんのような重鎮がお墨付きを与えていますので。

>海野さん、雫石さん、
たぶん、この作品の場合、ICチップで感情を消すだけでなく、身体能力も上がっているので(家事を完ぺきにこなすとか)、ロボトミー手術ではないと思います。といって、サイボーグでもない。おまけに、女性なのでアンドロイドでもない(ガイノイドですね)。

一番近いイメージは、キャシャーンですね。機械の身体に、元の人間の人格や記憶の一部だけを移したものです。たぶん、こういうモチーフの作品は他にもあると思います。キャプテン・ハーロックの乗るアルカディア号にも親友の魂だけが乗り移っていたりしますね。

こういうのを総称して何というのか。残念ながら知りません。わたしなら、とりあえず、サイバネティック手術ということにしますかね。身体の一部と脳の機能の一部を機械化するという意味で。バイオニック・ジェミーとか600万ドルの男のようなものです。ちなみに、こちらではバイオニック手術と呼んでいましたね。
by 川越敏司 (2011-09-07 18:24) 

春待ち りこ

またまた、すごいオチを考え付きましたね。さすがです。
こういうお話、大好きです。
読み終わって、思わず。。。ほぉ~。。。っと言ってしまいました。
私は、何かの賞の受賞作品を読んだ時
時々、ほぉ~って言っちゃうんですが。。。
それと同じ。。。ほぉ~。。。でした。
わかりにくい説明でごめんなさい。(笑)

私もこの作品は、投稿向きだと思います。
楽しみました。ありがとっ♪
by 春待ち りこ (2011-09-09 23:53) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
まずはその本を読んでみますね。
SFの本は星新一とか眉村卓とか、その辺しか読んだことがないので。
もっと勉強しないと、ですね。
by リンさん (2011-09-10 10:30) 

リンさん

<海野久実さん>
そうですか…。新しい言葉を考えてみますか^^;
私の中では、脳だけを改造しただけなんですよね。
手塚治の漫画に出てきそうな感じなんですけどね。
難しい…^^;
by リンさん (2011-09-10 10:34) 

リンさん

<川越さん>
なるほど。勉強になりました^^
by リンさん (2011-09-10 10:35) 

リンさん

<りこさん>
祝!復活ですね。
いつもありがとうございます。
ほぉ~って言ってもらえて嬉しいです(笑)
投稿か…。ちょっと先になりそうですが、考えてみます。
by リンさん (2011-09-10 10:38) 

雫石鉄也

年間日本SF傑作選「結晶銀河」をブックレビューしました。TBしましたが、この記事でこの作品をリンクしました。
by 雫石鉄也 (2011-10-13 18:52) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
さっそく拝見しました。
きのうのアクセス数がやけに多いなと思ったら、雫石さんが紹介してくださったんですね。
ありがとうございました。
by リンさん (2011-10-14 17:30) 

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