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東京五輪 [ファンタジー]

私もずいぶん年をとった。
ショーウインドーに映る自分の姿を見てため息をつく。

2020年、東京でオリンピックが開催される。
家族は喜んで大はしゃぎだ。
「絶対生で見ようよ」と息子夫婦が言い、
「おれ、今からオリンピック選手になろうかな」と中学生の孫が言い、
「無理じゃん。万年補欠のくせに」と高校生の孫が言う。
私は、その会話の輪に入れずにいた。
7年後、生きているかどうかもわからない。
生きていない確率の方が高いような気がする。

ふらりとプラネタリウムに入る。お気に入りの場所だ。
夏の星座の説明などどうでもよかった。
心地よいシートと暗闇。いつだって私は、すぐに眠りに落ちるのだ。

右ひじを誰かがつついた。若い女だ。
灯りがついている。プログラムが終わっていた。
「あ、すみません。すぐ出ます」
慌てて言うと、女性がクスクス笑った。
「いやだ、あなた。何寝ぼけてるの」
見ると、20年前に他界した妻だった。しかも、若い頃の妻だった。
「映画面白くなかった?まあ、わたしもちょっと期待外れだったけど」
「映画?」
正面に大きなスクリーン、すわり心地の悪い椅子、黴臭い湿った匂い。
ここは、妻とよく来た名画座だ。

「ねえ、やっぱりテレビ買いましょうよ」
妻が唐突に言った。
「安月給でも何とかなるって。東京オリンピック、テレビで見たいわ」
甘えたように妻が言う。
「東京オリンピック」が、昭和39年のオリンピックだとわかるまでに、少し時間がかかった。
「この子にも見せてあげたいの。オリンピック」
妻は少しせり出した腹をさすった。長男がこの中にいる。
「見てもわからないだろう」
「そんなことないわ。三つ子の魂百までって言うじゃない」

後ろから咳ばらいが聞こえた。
「家族会議はよそでやってくれませんか」
箒と塵取りを持った従業員に追い立てられて劇場を出た。
街は、活気にあふれている。道路の真ん中を都電が走っている。
ショーウインドーに映った私は、何て若々しい。
当時流行の帽子など被り、恥ずかしいくらいにカッコつけている。

「やっぱりあなたもテレビ欲しいんじゃない?」
後ろから妻が覗き込んだ。
見るとカラーテレビのポスターがあちこちに貼ってある。
電気屋の店先だった。
「カラーじゃなくてもいいのよ。白黒でじゅうぶん」
「そうだな。東京オリンピックか…。じゃあ、買うか、テレビ」
「ホント!嬉しい!」
妻がたくさんの人が行きかう街中で飛び跳ねた。
「おいおい、腹に赤ん坊がいるんだぞ」
「あ、そうだった」
妻がぺろりと舌を出した。

そこで、目が覚めた。
ドーム型の白い天井、すわり心地のいいシート、お気に入りのプラネタリウムだ。
右隣りには、誰もいない。

プラネタリウムを出て街を歩くと、ショーウインドーに猫背の老人が映った。
私は、背筋をぴんと伸ばす。
「2020年の東京オリンピック、おまえの分まで見てやるよ」
見上げた空に、弧を描いた5色の雲が見えた気がした。


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コメント 14

池山淳

はじめまして。
オリンピック楽しみですね^^
by 池山淳 (2013-09-16 19:39) 

みかん

良い~ すっごく良いです♪
2020年の東京オリンピック 見てほしいわ^^
by みかん (2013-09-17 00:09) 

海野久実

いいですねぇ、これは。
懐かしくあったかい気持ちになりました。
でも結局夢を見ていただけなんですね。
その辺がSF好きとしては物足りないところですけど(笑)
>ショーウインドウに映った猫背の老人が、見覚えのある帽子をかぶっていた。
とかね。
>ふと自分の手を見ると古臭い一昔前のテレビのカタログを握っていた。
とか。
それではまだまだファンタジーですね。
タイムトラベル物にすると、これは日本のロバートFヤングか、ジャックフィニイか、というような作品になったような気がしますね。
by 海野久実 (2013-09-17 11:26) 

雫石鉄也

そうですね。このままでは夢オチですね。
私も、海野さんと同じくSF好きですから、ファンタジーではなく、SFにして欲しいところです。
タイムトラベルに冷凍睡眠をからめれば、ハイラインの「夏への扉」になりますが、やはり、私の大好きなロバート・F・ヤングのせんに行って欲しいです。
1964年と2020年の東京オリンピック、この56年という年月をロマンチックにあつかいたいです。
どうすればいいか、考えているのですが、私もなかなか思いつきません。なんだか無責任なコメントになってしまって申し訳ありません。
by 雫石鉄也 (2013-09-17 14:22) 

麻乃あぐり

こんばんは、リンさん。

亡き奥様が、主人公に生きる糧を与えてくれたんですね。
あたたかみのあふれるラストが素敵です。

あとプラネタリウムから名画座へのタイムスリップ(結局は夢ですが…)
が違和感がないというか、とてもスムーズで、
物語内に自然に溶け込んでいますね。さすがです♪
by 麻乃あぐり (2013-09-18 00:45) 

dan

私のこと?と思ったくらいの場面が多々ありました。
東京五輪が決まった時すぐ年のこと考えたもの。
主人公にこんないい夢見させてくれて嬉しいです。
温かくて懐かしくて話題性もあって素敵です。
by dan (2013-09-18 11:59) 

あかね

前の東京オリンピックを知っている世代の人が、わーい、楽しみ、と無邪気に言っているのを聞くと複雑な気分です。
あのころは子どもだったのだろうから、無邪気に楽しかっただろうし、時代も無邪気だったけど、今の日本、そんなことをしている場合?

現実的にはそうなのですけど、フィクションの世界ではこんなのもいいですね。
私には夢を見ていたというよりも、主人公が老人だからこその、現実とファンタジーの狭間って感じがして、よかったですよ。

by あかね (2013-09-18 16:18) 

リンさん

<池山淳さん>
コメントありがとうございます。
オリンピックホントに楽しみ。
池山さんもショートを書いているんですね。
あとで伺いますね^^
by リンさん (2013-09-19 21:22) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
そうですね。「生きてるかな」なんて言わないで、見て欲しいですね^^
by リンさん (2013-09-19 21:23) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
SF風にですか。それは考えませんでした。
本当は、テレビに変わる何かを主人公が買って帰るようにしたかったんです。
だけど今は何でも持っていますからね。
オリンピックを見るためにテレビを買う、みたいなことはないんだなと思いました。
実際にタイムスリップしていた話も、ちょっと考えてみますね^^
by リンさん (2013-09-19 23:31) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
雫石さんもSF派ですね。
そうですね、最初は夢だと思っていたけど、プラネタリウムに行くたびに過去に戻れる…というのはどうでしょうね。
ちょっと、じっくり考えてみたいですね。
by リンさん (2013-09-19 23:43) 

リンさん

<麻乃あぐりさん>
ありがとうございます。
無条件でオリンピックを楽しみにしていた時代を思い出したのですね。
今より、きっと盛り上がっていたんじゃないかなと思います。
プラネタリウムって、けっこう寝ちゃいますよね(笑)
by リンさん (2013-09-19 23:48) 

リンさん

<danさん>
7年後、どうなっているのかわかりませんが、いっしょに楽しめたらいいですね。
東京オリンピックが2回見られるなんて、すごいことですよ^^
by リンさん (2013-09-19 23:55) 

リンさん

<あかねさん>
ありがとうございます。
いろいろ問題山積みですよね。
でも、これをきっかけに汚染問題などに本気になってくれたらいいと思います。
今まで、とても本気で取り組んでいるとは思えませんでしたから。

まあ、この主人公には、オリンピックを生きる糧にしてほしいですね。
by リンさん (2013-09-19 23:59) 

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