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願い雛 [ファンタジー]

ねえさんは生まれた時から体が弱く、1日のほとんどを部屋で過ごしていました。
暖かい日は障子を開けて、庭を眺めていました。
私はそんなねえさんを、少し疎ましく思っていました。
母さんは、ねえさんの心配ばかりするし、食事もねえさんだけ特別だったりするからです。
庭で遊ぶ私を、恨めしそうに眺める姿も、何となく嫌でした。

桃の節句が近づいてお雛様を飾ると、友達を呼んで雛祭りをしました。
甘酒を飲んでお菓子を食べて、庭で遊ぶのです。
私は、友達にねえさんを見られるのが嫌で、障子をすっと閉めました。
ねえさんは、ただ穏やかに微笑んでいました。

その夜のことです。
夜中に目が覚めてしまった私は、奥の部屋から灯りが漏れていることに気づきました。
近づいてみると、話し声が聞こえます。
襖の隙間から覗くと、ねえさんが雛壇の前に座っていました。
誰かと会話をしているようですが、ねえさんの他に誰もいません。
ねえさんは、お雛様と話していたのです。

「お雛様、わたしは、そう長く生きられないでしょう。だからせめて1日だけでも丈夫な体が欲しいのです。妹のモモちゃんみたいに、元気に外で遊んでみたいのです」
お雛様は白い顔をねえさんの方に傾け、優しい声で言いました。
「わかりました。あなたの願い、叶えましょう」
それからお雛様は、こちらをちらりと見ました。
目が合ったように感じた私は、怖くなって慌てて床に戻りました。

夢だ、これは夢だと言い聞かせて、布団をかぶって眠りました。
翌朝目覚めると、何だか身体が重くて起き上がれません。
「モモちゃん、具合はどう?」
母さんが優しく言いました。
「母さん、私、病気なの?学校休まなくちゃだめ?」
「学校なんて…何言ってるの、モモちゃん。寝てなきゃだめよ」
「よっちゃんと縄跳びをする約束したのに」
「モモちゃん、夢でもみたのかしら…」
母さんは、切なそうな顔で微笑みました。

「モモちゃん、おはよう。給食のゼリーが余ったらもらってきてあげるね。じゃあ行ってきます」
ねえさんが、とても元気に廊下を通り過ぎました。
私とねえさんが、まるで入れ替わってしまったのです。
昨夜のあれは、夢ではなかったのです。

ねえさんが出かけて、父さんと母さんが畑に行くと、家の中は怖いほど静かです。
ようやく起き上がって障子を開けると、たくさんの陽ざしに包まれた庭が見えました。
桃の花が美しく咲いています。鳥がきれいな声で鳴いています。ノラ猫がわがもの顔で通り過ぎます。どこかの子供の楽しそうな声が聞こえます。
ねえさんは毎日、こうして外を眺めていたのです。
私がすっと障子を閉めた時、どんな気持ちがしたでしょう。

午後になると少し楽になったので、布団を出てお雛様の前に座りました。
「お雛様、私は悪い子です。ねえさんに、優しくしてあげることが出来ませんでした」
お雛様は白い顔で私を見下ろしました。
「おねえさんは、あなたが元気に遊ぶ姿を見るのが何よりの楽しみだったのです。おねえさんは、あなたのことが大好きなのですよ」
優しい顔をしていました。ねえさんによく似た穏やかな微笑みです。
私は大声で泣きました。そしてそのまま泣き疲れて眠りました。

朝が来て、母さんに肩をゆすられて起きました。
「モモちゃん、なんて寝相が悪いのかしら。あなたの布団は隣よ。早く起きて学校へ行きなさい」
わたしの体は、すっかり元に戻っていました。
そしてねえさんは、いつものように布団の中で私を見送りました。

私は、学校から帰るとねえさんの部屋に行き、いろいろな話をしました。
友達のこと、いじわるな男子のこと、遊び過ぎて授業にちょっと遅れたこと。
ねえさんは楽しそうに笑っていました。
「モモちゃん、実はわたし、学校へ行く夢を見たのよ」
「そうなの?ねえさん、もしかして縄跳びで遊んだ?」
「ええそうよ。よくわかったわね」
「だって、縄跳びの結び目が、いつもと違っていたんだもの」
「まあ…」とねえさんは驚いて、肩をふるわせて笑いました。
「お雛様にお礼を言わなくちゃね」
そんなねえさんの笑顔は、やっぱりお雛様に似ていると、私は思いました。

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コメント 16

SORI

リンさんさん こんばんは
夢ではなくてほんとのことだったのでしょうね。すばらしいファンタジーです。
二人とも元気にしてあげたい気持ちになりました。
by SORI (2014-02-26 19:55) 

四草めぐる

【 お久しぶりです 】

|電柱|・ω・`)ノ ヤァ

りんさん、お久しぶりですw
四草めぐるです。

オーソドックスで、綺麗なお話だと思いました。

余韻がいいです。
では、では。
草々。
by 四草めぐる (2014-02-26 23:51) 

雫石鉄也

この作品、分類すれば「夢オチ」に分類されるでしょう。
「実は夢だった」というパターンのショートショートは、よほど新規な展開を考えないと難しいです。確か公募ガイドの「小説虎の穴」でも、夢オチという課題があったんではないでしょうか。
この作品は、その夢オチながら、お話の展開構成がよく工夫され、よくできた話になっていました。夢オチの可能性を示唆する作品ですね。
by 雫石鉄也 (2014-02-27 13:31) 

dan

本当は仲良し姉妹の春の夜の夢物語ですね。
お雛様にはなんだか願い事を聞きいれてくれそうな
雰囲気があります。
優しいいいお話でした。

by dan (2014-02-27 16:42) 

海野久実

これはいいお話でしたね。
お話のパターン自体はよくある物だと言えばそうなのですが、そのパターンの中でりんさんの世界が描かれていて感動的なお話しになっています。
安心して感動に浸れると言う感じかな。
by 海野久実 (2014-02-27 22:14) 

みかん

うるうるしながら読みました。
障子を閉めたときの気持ち
障子が閉まったときの気持ち
せつなくなりますね。
by みかん (2014-02-28 20:30) 

はる

りんさん、とっても素敵なお話ですね。
朗読のお願いしたいけど、私にはムリかな?と悩んでいます。
でも、3月3日に朗読にしてUPしたいなぁ~!ムリかなぁ~!
なんて……(笑)「願い雛」ってタイトルもいいですね。
by はる (2014-03-01 20:46) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
私も、ふたりとも元気にしてあげたいと思いました。
by リンさん (2014-03-01 21:19) 

リンさん

<四草めぐるさん>
ありがとうございます。
ちょっと古い感じのお話が、ひな祭りのころに書きたくなります。
お雛様って、やっぱり特別ですね。
by リンさん (2014-03-01 21:22) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
そうですね。夢オチなんだけど、もしかしたら本当だったのかも…というニュアンスを、縄跳びの結び目でちりばめてみました。
公募ガイドでもありましたね。夢オチの課題。
確かに夢オチの結末は難しいです。
「なんだ夢だったのか」で興ざめされちゃうかもしれませんものね^^
by リンさん (2014-03-01 21:28) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
姉妹というのは、本当は仲が良くても、素直になれなかったり嫉妬したりするものかもしれません。
お雛様のおかげで、おねえさんの気持ちがわかって、これからは仲良く過ごせると思います。
お雛様って本当に願いをかなえてくれそうですね。
うちの娘は受験票を雛段に飾ってます。
どうなるやら(笑)
by リンさん (2014-03-01 21:33) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
設定は、少し昔のつもりで書きました。
農家の大きな家の庭、7段のお雛様を描きながら書きました。
雰囲気を感じていただけたら嬉しいです。
by リンさん (2014-03-01 21:35) 

リンさん

<みかんさん>
ありがとうございます。
そうですね。障子を閉められたお姉さんの気持ち、その立場にならないとわからないかもしれませんね。
by リンさん (2014-03-01 21:37) 

リンさん

<はるさん>
ありがとうございます。
3月3日の朗読、もちろんOKですよ。
あ、でも無理はしないでくださいね。
by リンさん (2014-03-01 21:41) 

NO NAME

夢と現実が錯綜する姉妹の共有空間。姉の夢か?の言葉の後は、夢じゃないよ、ほらこの結び目、おねえさんでしょ。だからほんとに縄跳びしたんだよ。って妹は言ったような気がする。
by NO NAME (2014-03-07 20:42) 

リンさん

<NO NAME さん(てるりんさんかしら?)>
ありがとうございます。
そうですね。きっと、妹はそう言ったと思います。
おねえさん、たった1日でも楽しい思い出が出来てよかった^^
by リンさん (2014-03-08 17:49) 

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