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一方通行 [公募]

世の中には、一方通行があふれている。

 ◇15歳の恋
陽菜は受験生だが、正直受験どころではない。
家庭教師の青山悠人に、かなり本気の恋をしている。
しかし大学生の悠人にとって、中学生など恋愛対象外。しかも教え子だ。
彼が気になるのは陽菜ではなく、陽菜の成績だ。
「このままだと志望校は危ないぞ」
成績不振の原因が、まさか自分にあるとは知らずに、悠人は真剣に悩む。
その憂いのある横顔に、陽菜の恋心はますます募る。
「先生、次の模試でA判定もらえたら、遊園地に連れて行って」
思い切って言ってみた。
「遊園地か。そういう息抜きも必要かもな。よし、行こう。ただしA判定が条件だぞ」
「やった!」
遊園地で、少しでも距離を縮めたいと願う、可愛い15歳の恋である。

 ◇24歳の恋
青山悠人は二浪して入った大学で、さらに一年留年をした。
だから24歳にして未だに大学生だ。
親の仕送りは年々減るが、もらえるだけ幸せだと思う。
家庭教師はなかなかの収入源だ。
神田陽菜という生徒は素直で真面目だが、最近成績が伸び悩んでいる。
もしかしたら自分の恋愛が、陽菜の集中力の妨げになっているのではないだろうか。
そんなふうに思い悩む悠人の恋の相手は、陽菜の母親である。
母親の麻紀は、37歳とは思えないほど若くてきれいだ。
夫は海外に単身赴任中で、そのせいかいろいろな相談事を持ちかけてくる。
いつもどこか淋しげで、儚くてか弱い。ずっと年上なのに、守ってあげたいと思う。
叶わぬ恋だとわかっている。募る想いを必死で隠す、切ない24歳の恋である。

 ◇37歳の恋
神田麻紀は、幸せな結婚生活を送っているように見える。
周りの誰もがそう思っている。
5歳年上の夫である宏明は、優しくて真面目で、誰もがうらやむ良き夫である。
しかし麻紀は、結婚してからもずっと、宏明に悲しい片思いをしている。
夫から愛情を感じたことがない。
宏明には、ずっと以前から変わらずに、想いを寄せている女性がいる。
それを知りながら結婚した。
いつか愛してくれることを信じながら、気づけば15年が過ぎている。
単身赴任中に、その女と連絡を取り合っているのではないか、娘の陽菜が成人したら、自分はあっさり捨てられるのではないか。
そんな不安で押しつぶされそうになる。
優しく接してくれる陽菜の家庭教師に、ついよろめきそうになるが、どんな男も宏明には勝てない。ため息の海に溺れそうな、37歳の恋である。

 ◇41歳の恋
「次の週末に帰国できそうだ」と、神田宏明は妻にメールを送った。
東南アジアの暮らしは刺激的だが、やはり日本が恋しい。
娘の陽菜は受験生だし、家のことも気にかかる。
しかしこうして異国にいると、どうしても非日常を考えてしまう。
宏明には、生涯を通じて添い遂げたい女性がいた。
しかし若かった宏明は、たった一度過ちを犯した。
別の女性と関係を持ち、妊娠させてしまった。それが、今の妻である。
娘は無条件に可愛く、妻は健気で優しい。
絵に描いたような幸せな家庭だが、時おり苦しくなる。
嘘で固めた人生のように思えるときがある。
愚かな自分のせいで傷つけた彼女は、今どうしているだろう。
真っ暗な窓ガラスには、あの頃の彼女の顔ばかりが浮かぶ。
逢いたいが、逢うのが怖い。
いっそ消えてしまいたいと思う反面、家族の待つ家に帰りたいと願う。
複雑な、41歳の恋である。

とある日曜日、陽菜は悠人と遊園地にいた。
模試で見事にA判定をもらい、約束通り息抜きをしている。
しかし遊園地に来たのはふたりではない。
悠人が母親の麻紀を誘い、麻紀が帰国中の宏明を誘い、4人で来ている。

爆発しそうな不満と、密かな恋心を隠しつつ、4人はそれなりに楽しく振る舞った。
最後に観覧車に乗った。4人いっしょのゴンドラは、妙に狭くて息苦しかった。
四人はそれぞれ、徐々に小さくなる景色を眺めて、たくさんの感情を胸に納めた。

「観覧車って、一方通行だね」
陽菜が小さくつぶやいた。
街のすべてを染めていく大きな夕陽が、それぞれの想いを飲み込んでいく。


***
公募ガイドTO-BE小説工房で落選だったものです。
課題は「標識」
入選作はどれも面白かったです。
今回も応募は200超え。次、頑張ります!

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コメント 20

SORI

リンさんさん おはようございます。
せつない片思いが一方通行だったのですね。陽菜さんはみんなの思いを感じたのでしょうね。
by SORI (2016-10-12 06:40) 

選考委員

「落選」ですか…(恥めまして:恥ずかしがり屋なので/苦笑)

「落選」の4人が一方通行の思いで、「観覧車」に…あれ、観覧車は一方通行じゃないはず?

だって「ずっと乗り続けることが出来る(閉園になるまでは)」し、4人一緒だから、4人の思い・考えが交錯しているけど、少なくとも「一緒に時間を共有出来ている」でしょ?

たぶん、この4人はメリーゴーラウンドにも4人一緒に乗ったはず?
”食事”も4人一緒だったでしょう 

知らない人が見たら、たぶん「4人家族」に見えたんじゃないかな
⇒少なくとも本当の「4人家族」でも、心がバラバラな「4人家族」よりは、
良くはなくても「マシ」だったと思えるのです 

「疑似家族」の4人ですけどね まだ救いが有るような気がするのは何故?

~たぶん、リンさんは未だ若い(?)のでしょうね 私には、このようなストーリーは書けないです 
 中高生のみなさま でなく 中高年のみなさま のほうなので♪
別の「一方通行」のストーリーなら、書ける自信は有ります☆

by 選考委員 (2016-10-12 17:12) 

海野久実

あ、そうですね。
選考委員(ほんとに?)さんのおっしゃる様に、観覧車は一方通行ではない。
一方通行、両方通行、対面通行、交互通行などとはまた次元の違った動きをしますもんね。
同じゴンドラに乗ると、ずっと一緒。
違うゴンドラに乗ると、いつまでも追い付く事がない。
一方通行の象徴に観覧車を持って来たのはちょっと違うかもしれませんね。
by 海野久実 (2016-10-13 08:24) 

雫石鉄也

面白かったです。読まされました。
欲をいえば、一方通行ではなく、ループにして欲しかったですね。
陽菜→悠人→麻紀→宏明
で、止まってますね。
宏明→X。このXに「彼女」を代入してもいいですし、「彼」を代入してもいいです。そしてX→陽菜ときてループを完成するのです。
とすると、「彼女」なら「彼女」はレズで、「彼」なら宏明がホモとなりますし、その「彼」はロリコンです。
こうなると、下手をすればかなりアブナイ話しになりますが、面白いと思います。
by 雫石鉄也 (2016-10-13 13:40) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
テーマが標識だったので、何を選ぶか迷って一方通行にしました。
一方通行と言えば、やっぱり片思いですよね^^
by リンさん (2016-10-13 21:09) 

リンさん

<選考委員さん(ホントですか?)>
コメントありがとうございます。
最初に申し上げておきますが、私はぜんぜん若くありません。
精神年齢だけは若いつもりですが^^

そうですね。
気を使いながらも、この4人はそれなりに楽しく過ごしたのでしょうね。
もっと切ない思いが描かれた方がよかったでしょうか。
5枚の中でまとめるのは、本当に難しいです。

by リンさん (2016-10-13 21:29) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
そうですか。同じ方向に向かうので観覧車にしましたが、言われてみれば…
(そういえば浅草花やしきの観覧車は逆回転したかも)
観覧車から見る大きな夕陽を、最後に持ってきたかったんですよね。
もう少し考えればよかったですね。
by リンさん (2016-10-13 21:33) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
私も書いてて、ループだったら面白いと思いました。
今回はテーマが標識だったので、一方通行としましたが、確かにめぐり巡って最初の陽菜に戻るというのは、すごく面白いですね。

by リンさん (2016-10-13 21:38) 

海野久実

雫石さんのコメントを見て、なるほどと。
でも課題が「標識」。
りんさん、ループの標識もあります。
日本では環状交差点と言って、ごく数は少ないようですが、ヨーロッパではラウンドアバウトと言って、一般的だそうです。
舞台はヨーロッパだなあ(笑)
ラウンドアバウト交差点に入ったものの、どの路か分からなくなって、ぐるぐるぐるぐる、と言うエピソードを絡めてみたりしてね。
by 海野久実 (2016-10-14 06:36) 

まるこ

こんばんは。
宏明の添い遂げたかった女性はもしかして
悠人の母親なのか・・・なんて一人で
想像してしまっていました(笑)
一方通行な思いって自分にも経験あるので
その時のほろ苦くて、今では優しい時間を思い出して読みました^^
by まるこ (2016-10-14 13:13) 

あべせつ

こうした連作風に繋がるお話、わたしは好きです。
今度、挑戦してみたいと思います。

Tobeは、以前、編集者の方が「一度、最優秀賞に選ばれた方は、立て続けにという訳にはいかないので、いいなとおもっても、ほとぼりが冷めるまでおいておかざるをえない」みたいなことをおっしゃられていました。

なので、また次回を楽しみになさって下さいね

わたしも、いつか
りんさんのように、阿刀田先生からお褒めの言葉をいただけるよう、がんばります





by あべせつ (2016-10-14 19:52) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
ラウンドアバウトって初めて聞きました。
ネットで写真をみましたが、日本では見かけませんね。
海野さん、物知りですね。
今度この設定で、ぜひ書いてください^^
by リンさん (2016-10-15 16:57) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
宏明の元カノが悠人の母親だと、時間的に合わないけど、悠人の父親と再婚した設定ならイケるかも。
もう少し長い話だったら、これ、面白くなりそうですね。
by リンさん (2016-10-15 17:05) 

リンさん

<あべせつさん>
ありがとうございます。
せつさんのブログにコメントしたかったのですが、メンバー以外ダメみたいだったので、murakamiさんのブログにコメントしちゃいました。

改めまして、佳作おめでとうございます。
面白かったです。
主人公にとっては悲劇ですが、クスッと笑えるオチがよかったです。

編集者の話、そんなことがあるんですか。
なるほど~
でもまあ、応募数も多いですから、立て続けになんて難しいですよね。お互いに、頑張りましょうね。
by リンさん (2016-10-15 17:13) 

あべせつ

今、myrakamiさんのコメント欄を拝読させていただきました。
お礼が遅くなりまして、申し訳ありません。<m(__)m>

すごくうれしいコメントに、目頭がジワッと熱くなりましたですよ。本当にありがとうございました。

アメブロの設定、「どなた様からのコメントもOK」にしていたつもりなのですが、投稿できなかったとのことで、すみませんでした。今一度、設定しなおしてみましたので、またよろしければ、いつでもご訪問くださいませね。

私も、りんさんのブログを楽しみにしています(^^)/


by あべせつ (2016-10-15 19:17) 

dan

面白かったです。
それぞれの恋が一方通行で切ない。
「標識」というテーマから一方通行を導き出すのだから
やっぱりリンさんの頭の中凄いです。
でも皆さんが言われるように観覧車は一方通行では
ないので、そこにもう一工夫欲しかったと思います。
by dan (2016-10-15 20:58) 

リンさん

<あべせつさん>
こちらこそすみません。
せつさん、ブログ2つあるんですね。
私、もうひとつのブログに行ってました。
次からはちゃんと訪問しますね。
末永くよろしくお願いします^^
by リンさん (2016-10-16 22:45) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
なかなか難しかったです。
そうですね、ちょっと無理やりだったかもしれません。
いい報告ができるように頑張ります^^
by リンさん (2016-10-16 22:51) 

さきしなのてるりん

切ない、、というのか、でも出木杉なストォリィだったかも。
by さきしなのてるりん (2016-10-28 12:30) 

リンさん

<さぎしなのてるりんさん>
ありがとうございます。
「せ・つ・な・い・片思い♪」っていう歌がありましたね。
一方通行は切ないです。
by リンさん (2016-10-28 17:38) 

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