So-net無料ブログ作成
検索選択

純愛日記 [男と女ストーリー]

2017年3月

卒業式で、大好きな先輩が答辞を読んだ。
凛々しい先輩を見るのは、今日で最後。
溢れる涙をこらえて、私は先輩の姿を目に焼き付けた。
「思い切って告白すれば?」
友達は言ったけれど、私は見ているだけで幸せだった。

家に帰ると日記帳を開く。
入学した日に、桜吹雪の中で先輩を見た日から毎日書き続けている日記。
先輩への想いが詰まった2年間の日記。
最後の想いを綴って日記帳を閉じ、鍵のかかった引き出しにしまった。

翌日、学校から帰ると、部屋の様子が微妙に違っている。
日記の鍵を入れた小物入れの蓋が少しずれている。
日記帳は引き出しにちゃんと入っていたが、誰かに見られたような気がした。
だけど母はパートでいないし、中学生の弟は部活で私より帰りが遅い。
きっと気のせいだ。私は日記を読み返して、先輩との思い出に浸った。

そんな思い出が、黒く塗りつぶされるような出来事が起きた。
先輩に彼女が出来た。
その彼女というのが、私に「告白すれば?」といつも言っていた親友だった。
「あんたが告らないから、あたしが言ったの。すぐにOKもらえたよ」
私はその夜、大泣きしながら日記帳をびりびり破って捨てた。
こんな思い出、もういらない。
切ない恋と儚い友情を、思い知った夜だった。

2042年3月

子供のころから書くことが好きだった私は、小説家になった。
一度大きな賞を頂いたけれど、その後はなかなか書けずにいる。
今手掛けているのは、純愛小説なんだけど…。
「先生、主人公、高校生ですよね。なんだか、中年女みたいなんですよね。もっとこう、ピュアな恋愛とか、書けませんか」
編集さんによる鋭いダメ出し。
青春物で賞をもらったから、次は純愛物をと意気込んだけれど、恋なんて何年もしていない。
そういえば、高校生の頃、すごくピュアな片思いをしていた。
その頃のことを思い出してみたが、そういう感情はもはやどこかへ消えてしまった。

そういえば、あのころ日記を書いていた。
あの日記、どうしたかしら。
実家に行って探してみたけれど見つからない。ああ、そうだ。嫌なことがあって、破って捨てたことを思いだした。

数年前から始まった、タイムトラベルサービス。
まだ開発途中で、過去にしか行けないのだけれど、確か滞在時間1分1万円だ。
利用してみようか。
日記帳を超小型高性能カメラで読み取って、戻ってくるまで10分もかからないだろう。出せない金額ではない。

私は、私が日記帳を破り捨てる前の2017年3月に戻った。
懐かしい部屋だ。17歳の私は、この部屋で泣いたり笑ったりしていた。
感慨に浸っている場合ではない。1分1万円だ。
引き出しの鍵の場所はもちろん知っている。
素早く事を終え、私は2042年に帰り、日記に詰まったたくさんの純愛を文字にしていった。

小説「純愛に死す」はベストセラーになった。
「この作品は、先生の体験が元になっているそうですね」
「はい、私は、この辛い失恋の後、なかなか次の一歩が踏み出せませんでした。脆くて切なくて純粋だったころの自分と、主人公を重ねて書いたものです」
「先生が未だに独身なのも、この純愛が関係あるのでしょうか」
「そうかもしれませんね」

2017年3月

びりびりに日記帳を破り捨てて大泣きしたらすっきりした。
さあ、次の恋しよう!


にほんブログ村
nice!(14)  コメント(11)  トラックバック(0) 

nice! 14

コメント 11

SORI

リンさんさん こんばんは
なんと、部屋の様子が微妙に違って感じられたのは未来の自分だったとは驚きです。未来が変わってしまうので、落書きしたらいけないのでしょうね。
by SORI (2017-02-26 20:02) 

雫石鉄也

うん、なかなかけっこうなタイムトラベルSFになっています。良かったです。
タイムトラベルものではタイムパラドックスの扱いがポイントになります。
たとえば過去へ行けたとして、時空の移動で、時間だけが移動したとしたら、空間はそのままです。厳密なことをいうと、宇宙は膨張してます(最新の理論では)銀河は回っています。太陽は惑星を引き連れて移動してます。地球は太陽の回りを回っています。日本はマントル対流に乗って動いてます。じっとしてるところはどこもないのです。で、時間だけ移動したら、過去に実体化するところが、なにもない宇宙空間になる確立が高いのです。りんさんがりんさんの家でタイムマシンに乗って、20年前に行っても、そこはりんさんの家ではないんです。りんさんの家の絶対場所は空間的に移動してるのです。
とはいいつつも、こういうことを厳密に考える必要はないでしょう。ハードSFならともかく。ただ、この作品の場合、過去の自分とはちあわせする可能性がありますね。その処理をどうするかですね。過去の自分とはちあわせさせてドタバタを書くのか、必然的にそういう可能性をさけざるをえない状況をつくるのかですね。
それはそれとして、この作品、わたしの好きなロバート・F・ヤング
http://seigunonline.web.fc2.com/sfm-70.htm
を思いおこしました。
by 雫石鉄也 (2017-02-28 13:45) 

ひと休み

おもしろかった!
「2042年」でアレ物だとはわかったんですが、最後がびっくり。
そうか。そうゆう性格だったんですね!
たしかにお金の計算いっしょうけんめいやってるのとも合うし。
で、けっきょく独身……。
いろいろ考えると果てしないですね(^^;)
by ひと休み (2017-03-01 01:13) 

ひと休み

ごめんなさい。言い忘れました。
題名うまい!
by ひと休み (2017-03-01 01:16) 

まるこ

リンさん、こんにちは!

小物入れの蓋がずれてた真相。。。
面白かったです!
ラスト、とても前向きで明るい締めくくりが
気持ち良かった!

あと妙に共感してしまったのが、

「高校生の頃、すごくピュアな片思いをしていた。
その頃のことを思い出してみたが、そういう感情はもはやどこかへ消えてしまった。」

・・・でした(笑)
私ももうすっかりそういう年代になってしまったんだなー^^;
by まるこ (2017-03-01 10:02) 

海野久実

SFとしては定番のストーリーなんですが、その定番にきっちりはまったよく出来たお話でした。
主人公のしたたかさにニンマリ。

by 海野久実 (2017-03-01 14:03) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
そうですね。落書きはいけませんね。
『あなたは明日日記を破る』なんて予言めいたことを書いてはいけません^^
by リンさん (2017-03-03 18:40) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
本格的なSFは、難しいものですね。
過去に戻っても、過去の家は存在しないのですね。
驚きでした。

過去で自分に会ってしまう可能性は、過去の自分が学校に行っている時間を選べば避けられますね。
その辺をきちんと書いた方がよかったですね。


by リンさん (2017-03-03 18:53) 

リンさん

<ひと休みさん>
ありがとうございます。
あえてカテゴリーをSFにしなかったのですが、バレバレですよね^^
本のタイトル「純愛日記」では売れないだろうと思って「純愛に死す」にしました。
そこに注目いただけて嬉しいです^^
by リンさん (2017-03-03 19:10) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
ピュアな気持ちって、消えてしまうものですね。
いまだに少女漫画好きな私は、そういうところで勉強してます(笑)
by リンさん (2017-03-03 19:14) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
純愛物と見せかけてSFだったのですが、もはやバレバレですね^^
by リンさん (2017-03-03 19:16) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この記事のトラックバックURL: