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公園の女 [ミステリー?]

初夏の公園は、家族連れで賑わっている。
真ん中に人工の池があり、子供たちは容赦なく服を濡らして水しぶきを上げる。
木陰のベンチは子供たちを見つめる父親と母親に占領され、居場所をなくした私はひとり、ブランコに座って時間をつぶす。
「おばちゃん、どいて」
子供に追われて立ち上がった。
「おばちゃんじゃないのよ」と小さい声で言ったみたけれど、勢いよくブランコを漕ぎ始めた子供に聞こえるはずがない。

仕方ないので公園を出て、街をぶらつくことにした。
だけど買うものなんて何もない。
あったとしても今日は買いたくない。
荷物はひとつだって少ない方がいい。
だって私は、今から不倫相手と駆け落ちするんだから。

公園に13時と言ったのに、彼はいつまでたっても来ない。
時計の針は14時を過ぎた。
電話もつながらないし、ラインも一向に既読にならない。
奥さんにバレちゃったのかな。あの人、詰めが甘いから。

もう一度公園に戻ってみた。
人がますます増えている。私の居場所はどこにもない。
荷物を駅のロッカーに預けてしまったことを、死ぬほど後悔した。
タオルも日傘も何もかも、きっとあの中に入っている。

15時を過ぎた。彼は来ない。
人工の池ではしゃいでいた子供たちは、木陰ですやすや眠っている。
家に帰って寝ればいいのに。
16時を過ぎると、ようやく家族連れが帰り始めた。
私はようやく木陰に移動して、ペットボトルの水を狂ったように飲んだ。

17時、カップルたちが増え始める。
悪いけど、木陰のベンチは譲らない。
18時、日差しが緩んだ夕暮れ、犬の散歩も増えてくる。
暗くなるとホームレスらしき人がうろつき始める。
もうここにはいられない。
そもそも私は、どうしてここにいるんだっけ。

すっかり日が落ちた街を歩いて帰った。
公園で一日過ごすって、なかなか難しい。
駅のロッカーに荷物を預けたままだけどいいや。
明日彼に電話しよう。今日のことは許すって言おう。
彼にはきっと、家を出られない事情があったのだ。

部屋を解約しなくてよかった。
ソファーもテレビもそのまま残してある。
洋服も、タオルも日傘も、何もかもそのまま。
あれ? じゃあ私、駅のロッカーに何を預けたんだっけ。
まあいいや。テレビをつけよう。

『……〇〇駅のロッカーから、男性の遺体が発見されました……』

ああ、そうだった。この部屋で彼を殺したんだっけ。
遠くに行ってふたりで暮らそうって約束を、彼が破ったから。
今日はお風呂に入れないな。一日中外にいて汗だくなのに、困ったな。
明日公園で、子供に混ざって水浴びしよう。
きっと気持ちがいいわ。


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コメント 20

はる

りんさん凄いミステリーですね。
ラストに来て女性の心が壊れた感じがスゴクどっきりしました。
朗読のお願いです。どうぞよろしくお願いします。
by はる (2017-05-20 19:17) 

SORI

リンさんさん こんばんは
最近の物語のように自然に終わると思っていたら、凄いインパクトのあるラストでした。いろんなタイプの物語が書けるのに驚きました。まだ余韻が残っています。
by SORI (2017-05-20 22:45) 

リンさん

<はるさん>
ありがとうございます。
朗読OKです。
もぐらさんからメールもらいました(笑)
よろしくお願いします^^
by リンさん (2017-05-21 06:32) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
最初はこんな怖い話を書くつもりではなかったのですが、書いているうちにこうなりました。
by リンさん (2017-05-21 06:34) 

たまきち

ラストの意外な結末
想像つきませんでした。

こういうの 心身の喪失っていうのかな。
女性の頭がこわれてたんですね。
人を殺す狂気って想像つきませんです。
by たまきち (2017-05-21 06:53) 

パッセンジャ

すいません、私の読解力がたりないのですが。
どうして「今日はお風呂に入れない」んでしょか?


by パッセンジャ (2017-05-21 18:57) 

リンさん

<たまきちさん>
ありがとうございます。
壊れてしまった心理状態を表したくて、あえて淡々と描きました。
想像でしかありませんが、怖いですよね。
by リンさん (2017-05-21 23:24) 

リンさん

<パッセンジャさん>
ありがとうございます。
すみません、ちょっとグロいと思ってあえて書かなかったのですが、風呂場で遺体をバラバラにした…ということです。
まだその跡が残っているのです。

わかりずらくてすみません。
by リンさん (2017-05-21 23:30) 

dan

怖い リンさんすごい。
多分人を殺したらこういう心理状態になるだろうと
納得です。
約束の時間に現れない彼にいらいらしていた単純な私。
こんな結末私には想像もできません。
さすが小説家リンさん。
面白かった? です。
by dan (2017-05-22 11:27) 

まるこ

リンさん、こんばんは。

ラストのオチ、ゾッとしました。
すでに真夏日気温の毎日なので、
ちょっと涼しくさせてもらえました(笑)
怖かった!!^^;
by まるこ (2017-05-22 22:59) 

パッセンジャ

リンさん、ご教示ありがとうございます。
まったく読解力のない読者で申し訳ございませんでした。
もっと行間を読まないといけませんね。

by パッセンジャ (2017-05-23 22:17) 

海野久実

自分で自分に嘘をつくという感じですね。
それが高じて本当だと思いこんでしまう。
以前そういうお話を書いて、「それは都合が良すぎる」と、感想をもらったことがありました。
そういう心理状態って、実際にあると思うんですよね。

今日はお風呂に入れない
何でだ? と少し考えましたが、解りました。
まともな神経なら、ずっと入れないかもですね。

by 海野久実 (2017-05-24 08:41) 

hitoyasumi-hiro

タオルや日傘をロッカーに預けたことをなぜわざわざ書くんだろう、というあたりから「変だぞ」と思い、
ペットボトルの水を「狂ったように飲む」、
「そもそも私は、どうしてここにいるんだっけ」で、
この女性が壊れていることが想像できて、ホラー感が一気に高まりました。
そして、納得の結末。
読み返してみると、初めの「おばちゃんじゃないのよ」にすでに、
不倫を続けて年を取り、もはややり直しできない女の哀しさが暗示されていたんですね。
穏やかな平凡な風景から入り、さりげなく、徐々に異常さを醸していく書き方、ほんとうにプロ並みの力量だと思いました。
ホラー掌編のお手本ですね。
by hitoyasumi-hiro (2017-05-25 10:44) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
想像でしかありませんが、こんなふうになるだろうと思って書きました。
小説家だなんて、まだまだですよ。

by リンさん (2017-05-26 22:02) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
じゃあ、真夏になったら、もっと怖いの書きますね(笑)
by リンさん (2017-05-26 22:05) 

リンさん

<パッセンジャさん>
こちらこそ、ありがとうございました。
自分だけ分かったつもりではいけませんね。
これからもよろしくお願いします。
by リンさん (2017-05-26 22:07) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
そうなんです。自分に嘘をつくうちにそれが本当だと思い込む。
まさにそんな感じですね。
きっとすぐに捕まってしまうと思いますけどね。


by リンさん (2017-05-26 22:20) 

リンさん

<ひと休みさん>
ありがとうございます。
すごく読み込んでいただけて嬉しいです。
最初はこんな怖い話になる予定ではなかったのですが、書いているうちに、だんだんこうなりました。



by リンさん (2017-05-26 22:28) 

あべせつ

なんとなく血まみれのままの女が、虚ろな目をして街中をさ迷うイメージが湧きました。

血まみれで、うろついたら、すぐに警察に通報されますよね(笑)

「タオルも日傘も何もかも、きっとあの中に入っている」の「きっと」で、
あれ?自分のしたことなのに、なぜ曖昧なのだろう?と思いながら読み進めました。

そしたら女が壊れていたことが判明し、なるほどそれで「きっと」かあと、得心がいきました。

相変わらず言葉の一つ一つを吟味されておられるなあと感心いたしております。

おそらく女は、男を殺してバラバラにし、コインロッカーへ入れるまでは、計画的で冷静で、正気であったのだろうと思うのです。

だから返り血も浴びないようにして、バラバラにしてロッカーにも人に見られないようにして入れることができた。

しかし、そのあと、公園でいるときに壊れたのだろなと思いました。

せつないお話です



by あべせつ (2017-06-01 19:46) 

リンさん

<あべせつさん>
ありがとうございます。
そこまで読み込んでいただいて嬉しいです。
普通の精神状態じゃないにしても、冷静に処理したんだと思います。そして公園で壊れた。
本当に、怖くて切ないですね。

by リンさん (2017-06-03 22:27) 

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