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お父さんのかくれんぼ [コメディー]

一家の大黒柱であるにも関わらず、私の存在感はティッシュペーパーよりも薄い。
「あら、お父さん、いたの?」と、毎日のように言われる。
ネコのミーコの姿が見えないと一家総出で探すくせに、私がいなくても誰も気づかない。

日曜日の朝、どうせ存在感がないのなら…と、ソファーの後ろに隠れてみた。
誰かが「あれ? お父さんは?」と言ったら、
「ここに居るぞ」と出て行こう。きっとウケるぞ。
「もう、お父さん、何やってるのよ」と、みんな笑うぞ。

妻が朝食をテーブルに並べている。
娘のカンナがリビングに来た。
「おはよう、お母さん、今日友達とカラオケ行っていい?」
「いいけど、ちゃんと勉強もするのよ」
「はあい」
息子のユウキが起きてきた。
「お母さん、ジョンの姿が見えないけど」
「車庫で寝てるわ。あそこ涼しいから」
「そっか。よかった」
おいおい、お父さんより犬の心配か。

3人で朝食を食べ始めた。「お父さんは?」と誰も言わない。
「そういえば」と妻が言った。いよいよか?
「お隣のおばあさん、見つかったんですって」
「え? どこにいたの?」
「それがね、家の中にいたんだって。押し入れに隠れてたらしいの。まあ、年を取ったら子供に戻るっていうけど、かくれんぼでもしているつもりだったのかしらね」
「徘徊じゃなかったんだ。人騒がせだね」
「姿が見えなくて心配したけど、よかったわ」
隣の他人より、夫の心配をしろ。

けっきょく誰の口からも、「お父さんは?」という言葉は出なかった。
そもそも私の朝食はあるのだろうか。覗いてみると目玉焼きが3つ。
朝食すら用意されていないのか。ショックだ。
出るに出られず、ソファーの陰で悶々と時が過ぎるのを待った。
そしてリビングがすっかり静かになったころ、狭い空間を抜け出してようやく座った。

妻が掃除機を持って入ってきた。
また邪魔者扱いされるんだろうな…と思ったら、目を潤ませて
「お父さん!」と駆け寄ってきた。
「お父さん、いったいどこに行っていたの? ずいぶん探したのよ」
え? なんだなんだ?
「カンナ、ユウキ、お父さんが、リビングにいるわ」
妻が呼ぶと、カンナとユウキが走ってきた。
「お父さん、3年も何してたんだよ」
さ、3年? いや、私が隠れていたのは7時から9時までの2時間だが。
「お父さん、わたし、高校生になったよ」(知ってるし)
「お父さん、ぼく、中学でバスケやってるよ。身長10センチも伸びたよ」(知ってる。毎日見てるから)
3人が泣きながら私にすがりつく。いったいどういうことだろう。
だけど今、私は間違いなく必要とされている。富士山並みの存在感だ。
「さあ、お父さん、お腹すいたでしょう」
「お父さん、あのね、聞いてほしいことがいっぱいあるの」
「ぼくが先だよ。ねえ、お父さん」
「だめよ、お父さんのご飯が先よ」
ああ、なんて素晴らしい。家族が私の取り合いをしている。
夢か。これは、夢か。

ドンと足を蹴られた。
「もう、お父さん邪魔よ。なんでこんなところで寝てるのよ」
掃除機を持った妻が立っていた。
あ……やっぱり夢だった。
「ほら、朝ご飯食べちゃってよ」
テーブルに、目玉焼きがあった。
「これ、俺の目玉焼き?」
「そうよ。早く食べちゃってよ。片付かないから」
忘れられたわけではなかった。冷めた目玉焼きが死ぬほど美味い。
「お父さん、食べ終わったらジョンを散歩に連れてってね」
ガーガーと掃除機をかけながら妻が言う。
「あと、粗大ごみを捨ててきてほしいの。今日回収の日だから」

俺って、意外と必要とされている……のかな?


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コメント 10

SORI

リンさんさん こんにちは
夢まで見れて、お父さんの存在が確認出来て、かくれんぼも無駄ではなかったですね。ほのぼのとした物語に心が和みました。
by SORI (2017-07-29 15:08) 

ぼんぼちぼちぼち

このお父さんは、小柄で小太りに違いないって思いやした(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2017-07-29 21:06) 

dan

お父さんはもっと自信を持つべきですよ。
必要とされてないお父さんなんていません。
かくれんぼなんて姑息な手段で家族を試さないで。
口には出さなくてもお父さんのことみんなが
頼りにしているのです。

by dan (2017-07-30 18:04) 

まるこ

リンさん、こんにちは。
面白かったです。
後半に向けて、もしかしてタイムスリップものだったの!?と
見せかけて・・・のオチ。
私は小さい時から父親がいない人生だったので
父親って世間ではこういう扱いなのかって思って読みました(笑)
でも、父親って“必要だ”とわざわざ口にしなくても良いくらい“必要”な事が当たり前として存在してるんじゃないのかなーとも思ったよ^^
by まるこ (2017-07-31 11:15) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
お父さん、夢まで見るほど存在感が欲しかったんですね。
忘れられているわけではないんです。
家族は、お父さんの有難みがわかっていないんですね、きっと。
by リンさん (2017-08-01 23:23) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
はは^^そうですか。
そんなイメージですか^^
by リンさん (2017-08-01 23:24) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
本当にそうですね。
休みの日に邪魔にされちゃうお父さんって割と多いと思うけど、そのにはちゃんと愛があると思います。
by リンさん (2017-08-01 23:26) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
娘は父親に手厳しいですよ。
ときどき可哀想になります。
まあ、これも成長過程かな…と思いながら見ています。
いるのが当たり前だから、甘えちゃうのかも^^

by リンさん (2017-08-01 23:29) 

ひと休み

まあ、必要とされているっちゃあ、されているんでしょうが……。
せつなくも、ほのぼのとしたお話でした。
どうしめるのかなと思っていたら、最後の一行。
あ。こういうしめかたもあるんだ、と妙に新鮮でした。
by ひと休み (2017-08-02 21:10) 

リンさん

<ひと休みさん>
ありがとうございます。
お父さん、可哀想ですよね。
いないと困るのに、邪険に扱われ。。。
もっと威厳を持ってほしいです。
by リンさん (2017-08-03 23:19) 

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