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失くしたもの [コメディー]

<17歳 女子高生>
この夏に失くしたもの
・お気に入りの水色のシュシュ
・海で流されたキティちゃんのサンダル
・山で風にさらわれたカンカン帽
・動物園でサルに奪われたおにぎり
・親友に奪われたカレシ
・親友…
ちくしょう~、きれいになって見返してやる!

<27歳 OL>
この夏に失くしたもの
・彼の部屋で行方不明になったティファニーのペンダント
・彼の部屋で行方不明になったブルガリの時計
・彼の部屋で行方不明になったグッチの財布
・彼の部屋で行方不明になった現金
・行方不明になった彼
・彼に貸したお母さんの手術代50万
やっぱりあたし、騙されたのか?

<37歳 主婦>
この夏に失くしたもの
・息子が大事にしていたアイドルのカード
・夫が大事にしていた時計
・姑が大事にしていた帯留め
・舅が大事にしていたネクタイピン
・結婚指輪
・家族の信用
まあ、いっか。けっこう高く買い取ってもらったし。

<47歳 会社員>
この夏に失くしたもの
・近くを見る視力
・つやのある黒髪
・肌の張り
・ウエストのくびれ
・記憶力
・体力
だけど、まだまだ若い子には負けないわ。


夏の終わり、季節は一気に秋ですね。
この夏、みなさんは何か失くしましたか?
私は帽子を2つ失くしました。
Come back My hat!!

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再会 [男と女ストーリー]

久しぶりね。元気だった?
2年ぶりかしら。
ねえ、出会った日のこと憶えてる?
あなたは交通取り締まりの警察官。
そして私は、スピード違反で捕まったマヌケなOL。

「30キロオーバーです」
「ごめんなさい。急いでいたの」
「免許証を拝見します」
「それは、ちょっと…」
「持ってないんですか?」
「見せたくないの。だって写真写りがすごく悪いんだもの」
「大丈夫ですよ。あなたくらいの美人なら、多少写りが悪くても充分きれいです」
「あら…お上手ね」

それで私が免許証と一緒にアドレス渡して、交際が始まったのよね。
休みが合わなくて、なかなかデートできなかったわね。
寂しくて私、つい浮気しちゃったんだ。
ごめんね。
結局それで別れちゃったけど、私すごく後悔したわ。
あなたのこと、本当に好きだったんだもん。
今でも好きよ。ねえ、やり直せない?私たち。
こんな風に再開したのも何かの縁じゃないかしら。
今から一緒にドライブする?
あ、仕事中か。終わるの何時? 私、待ってるから。
ああ、本当に会えてうれしいわ。
もう、さっきから私ばっかりしゃべってる。
あなたも何か言ってよ。

「30キロオーバーです。免許証を拝見します」
「あ…、やっぱり…」



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怪談タクシー2 [ホラー]

怪談タクシーへようこそ。
お盆も過ぎて、ようやく寝苦しい夜ともお別れですね。
とは言っても、まだまだ残暑は厳しいですよ。
そんな時は、当怪談タクシーをご利用ください。
経験豊富な運転手が、世にも恐ろしい体験談をお聞かせしますよ。
さあ、では始めましょう。

あれは、蒸し暑い夏の夜でした。
夜になって降り出した雨のおかげで、駅のロータリーにはたくさんの人が乗車を待っていました。
ドアを開けると、仕事帰りと思われる男と女が乗り込んできました。
いくらか酒の匂いがしました。
「どちらまで?」
尋ねると、女のほうが小さな声で地名を言いました。
聞き覚えのない地名だったので聞き返すと、
「案内しますので進んでください」と言いました。
男のほうは、酔って眠ってしまったのか何も言いません。

女の言うとおりに走ると、車はどんどん市街地を外れていきます。
「お客さん、この道でいいんですか?」
「はい。まっすぐ進んでください」
しかし家などまるでありません。
道は次第に細くなり、まるで獣道のようです。
鬱蒼と木が茂り、その先には灯りひとつありません。
「お客さん、本当にこの道ですか?」
私は恐ろしくなって何度も聞きました。
そのたびに女は「もう少しです」と、落ち着いた声で言うのです。

とうとう、行き止まりになりました。
深い森です。これ以上進めません。
「お客さん、行き止まりですよ」
振り返ると、そこに女はいませんでした。
いつの間にか降りた?いや、そんなはずはありません。
私は男を揺り起しました。
「起きてくださいよ」
男は目を開け、狐につままれたようにきょろきょろしました。
「ここはどこです?」
「お客さん、こっちが聞きたいよ。駅で女性と一緒にタクシーに乗ったでしょう?」
「いや、僕はひとりでタクシーに乗ったはずだ。乗った途端に眠くなって…」
「とにかく、あんたのお連れさんの言うとおりに走ったら、こんなところに来ちゃったんですよ。あの人はどこへ行ったんです?」
「さあ、何が何だか…」

とにかく引き返そうと、車をバックさせました。
その時、車に何かがぶつかりました。
「何か轢いたぞ?」
「タヌキか何かでしょう」
私はそう言って確認のため車を降りました。

「ひい!」自分でも驚くほどの悲鳴をあげ、その場で腰を抜かしました。
女が、ぶら下がっていたのです。
木の枝にロープをくくって、だらりと首を吊っていたのです。
顔はよくわかりませんが、髪型と服装は、さっきまで乗せていた女によく似ていました。
「どうしました?」
車を降りてきた男が、同じように悲鳴をあげました。
そのとき急に強い風が吹き、一瞬ですが女の髪が揺れて顔が見えました。
その目が、ぎろりと男を睨みつけました。
暗かったし、一瞬のことでしたから見間違いかもしれません。
しかし男は、発狂したように怯え、「許してくれ」と叫び続けました。

後でわかったことですが、女はこの男に、遊ばれた上に捨てられて、この森で自殺したそうです。
自分を捨てた男を、遺体の発見者にしたかったのでしょうね。
恐ろしい怨念です。

お客さん、今日の話はいかがでしたか。
雨が降ってきましたね。気を付けてお帰りください。
おや、さっきまで一緒だった女性はどうしました?

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お盆日記 [ファンタジー]

日記帳 5年3組 夏川はづき

8月13日 くもり

お父さんが帰ってきました。
5年前に死んだお父さんは、毎年お盆に帰ってきます。
1年ぶりだからうれしくて、たくさん話をしました。
だけど、お母さんにはお父さんは見えません。
だからいつも、
「はづき、何ひとりでしゃべってるの?」
と不思議そうに言います。

8月14日 雨

今日はお客さんがきました。
お母さんの彼氏です。
お母さんはこのおじさんと、再婚したいと思っています。
『はづき、誰なんだ、この男。お母さんとどういう関係だ。何歳だ?仕事は何をしている?年収は?お母さんとどこまでいってる?』
お父さんがあんまりうるさいから、うざくなりました。
「ちょっと、お父さん!」
思わず大声を出したら、おじさんが目をうるませていました。
「はづきちゃん、お父さんって呼んでくれるんだね」
お母さんもうれしそうです。
「はづき、お母さん再婚してもいいのね」

気がついたら、お母さんの再婚話が、すっかり決まっていました。

8月15日 晴れ

お父さんがいじけています。
朝からうざいです。
『お母さん再婚するのか。うん、わかってるんだ。お母さんが幸せならいいじゃないか。よさそうな人だし、はづきのことも大事にしてくれそうだ。おれはもう死んでいるから何もしてやれない。だから祝福してあげるべきだと思うんだ。うん、そうだよね。頭ではわかっているんだけどさ、気持ちがさ…』
朝からずっとこんなふうにイジイジしています。
集中して宿題ができません。

8月16日 晴れ

困ったことになりました。
お父さんが帰りたくないと言っています。
お父さんの居場所はここではありません。
このまま居座ったら、悪霊になってしまいます。
「お父さん、お墓に送っていくから帰ろう」
『いやだ。新しいお父さんができたら、はづきはお父さんのことを忘れちゃう』
「忘れないよ」
『うそだ。お父さんはずっとここにいる』
すねて体育座りをしています。本当に面倒くさい人です。
わたしはわざと大きな声で、お母さんに話しかけました。
「お母さん、お父さんとおじさん、どっちが好き?」
お母さんは、すかさず答えました。
「お父さんよ」
「そうなの?」
「おじさんも、亡くなった奥さんを今でも好きなのよ。私たち、大切な人を亡くしているから解りあえるの。だから、一緒に生きていきたいのよ」

お母さんは仏壇に手を合わせました。
「さあ、お墓へ行くわよ」
『はあい』って、返事をしたのはお父さんでした。
お父さんは、照れたように頭をかきながら、お母さんのうしろをついていきました。
やれやれ。
明日から、落ち着いて宿題ができそうです。
だけど本当は、ちょっとだけ寂しいです。

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最後のゲスト [公募]

本当に大きなお屋敷だったの。
20人は座れる大きなテーブルが真ん中にあって、天井には素敵なシャンデリア。
ゲストルームもあってね、週末には必ずお客様を迎えて、ちょっとしたパーティをしたの。
みんな素敵なお洋服を着ていたから、私もその日はブルーのドレスをおねだりしたわ。

ゲストの中には同じ年の少年もいて、一緒にかくれんぼをしたわ。
思えば、あれが私の初恋かしら。
母は、決まって美味しいローストビーフを焼いて、父はお気に入りのワインを振る舞ったわ。
私はまだ飲めなかったけど、ワインを開ける音は大好きだったのよ。

私が大人になるころには、我が家の財政は破たんしていたわ。贅沢しすぎたのね。
あの家を手放すとき、母は信じられないほど泣いたわ。
命を失ったように静まり返った家で、母の泣き声だけが響いていたの。

**
男は、黙って私の話を聞いていた。
「ねえ、最後にあの家に行ってみたいの。だめかしら」
「過去に戻りたいということですか?」
「そうじゃないの。最後に一度でいいから、あの家にゲストとして招かれてみたいの」
男は深いため息をついて、ふうっと消えてしまった。

余命を告げられたのは数か月前だ。「会いたい方はいませんか」と医者は言った。
誰もいなかった。両親はとっくに天に召されたし、兄弟もいない。
一度は結婚したけれど、ひどい男ですぐに別れた。よって子供もいない。

ひとりで穏やかにその時を迎えようと決めた。そして今日、男が現れた。
死神と名乗るその男は、「お迎えにあがりました」と抑揚のない声で言った。
穏やかに逝くと覚悟したのに、急に我儘を言いたくなった。
未練はひとつ。私がいちばん幸せだったあの家に、もう一度行ってみたい。

死神はなぜ消えてしまったのだろう。
いったん戻って上司と相談しているのだろうか。
そんなことを考えていたら、可笑しくなってひとりで笑った。
胸が苦しい。やはり今夜が寿命のようだ。
痛い足を引きずりながら台所でローズマリーのお茶を淹れた。
最後のお茶はローズマリーと決めていた。
そして魔法にかかったように、私は深い眠りに落ちた。

体を揺さぶられて、夜中に目を覚ました。死神が戻っていた。
「あら、上司との交渉は上手くいったの?」
寝ぼけながらジョークを言ってみたけれど、死神は表情を変えず、「急いでください。時間がありません」と、私の手を取った。
旅立ちはいつも忙しないものだ。死神に手を引かれ暗闇をさまよう。
怖くはないけれど、未練を捨て切れてはいない。

突然、視界が開けた。柔らかい光に揺れる若葉。薔薇が咲誇る庭にバイオリンの音色が響く。
そこは、ずっと夢に見た私の家だった。
いつのまにか、ターコイズブルーのドレスを着ていた。死神は消えていた。
「ようこそ。お待ちしていました」
メイドに招かれて中に入ると、懐かしい父と母がいた。
「いらっしゃい」「さあどうぞ」
大きなテーブルの真ん中に座った。ゲストは私ひとりだ。
「お招きありがとうございます」私は言った。
お父さん、お母さんとは呼ばなかった。
なぜならふたりは、今の私よりずっと若いから。

母は白いエプロンを身に着けて、得意のローストビーフを運んできた。
子供の頃は苦手だった西洋わさびの味も今ならわかる。
父はとっておきのワインを持ってきた。
ぎりぎりと瓶にしがみつくコルクを回し、ポンと引き離す。
トクトクとグラスに注がれる音は、私の心音に似ていた。
「ああ、美味しい」

父がワインの薀蓄を語り、母が穏やかにたしなめる。
昔から見ている風景に胸がいっぱいになった。楽しい時間は過ぎるのが早い。
気づいたら暗闇に戻っていた。元の寝巻姿で、となりには死神がいる。
魔法がとけたシンデレラみたいだ。

「気が済みましたか」
相変わらず抑揚のない声で言った。
「ええ。とても素敵だったわ。死神さんがこんなにサービスがいいなんて驚いたわ」
「特別です」
「あら、そうなの? どうして?」
「私もあの家に招かれたことがあるからです」
「え? やだ、あのときの少年? まさかね。天使のような少年が、死神のわけないわね」
「天使が死神になってはいけませんか」
抑揚のない声だが、少し拗ねたように聞こえる。
何度もジャンケンに負けてオニばかりさせられた少年の、拗ねた顔を思い出した。
「やっぱりそうなの?」
死神は応えなかった。感覚が徐々に薄れていく。
「ありがとう」と言ってみた。返事はない。
暗闇に紛れてしまったのか、その姿はもう見えなかった。

*****

公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただいた作品です。
しかも今回は、次点ということで、選評にも名前を入れていただきました。
課題は「余韻のある結末」 相変わらず難しくて、これでいいのかな?と思いながら送りました。
佳作がいただけるとは本当に思っていなかったので嬉しかったです。

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ロビン [SF]

妹が訪ねてきた。
「彼氏と一週間旅行に行くの。そのあいだ、ロビンを預かってほしいのよ」
「ロビン?犬かしら。それとも猫?」
「ロボットよ」

ロビンは、妹が働く研究所で造られた癒し系ロボットだという。
今はまだ試作段階で、それぞれの研究員に一体ずつ与えられたという。
「一週間動かさないと、プログラムに不具合が起こるらしいの。だからお願い。一緒にいるだけでいいの。特別なことはしなくていいから」

翌日、妹がロボットのロビンを連れてきた。
可愛い人形みたいなロボットだと思っていたが違った。
ロビンは人間そっくり。しかもかなりイケメンの男だった。
「じゃあお姉ちゃん、よろしくね。一緒にいるだけで、何もしなくていいから。すぐに慣れるわ。ただのロボットだもん」

ロビンとの暮らしが始まった。
ロボットとわかっていても緊張する。
ロビンの顔は、すごく私の好みだった。

「レイナさん、コーヒーが入りました」
名前を呼ばれただけで、胸がきゅんとなる。
しかもロビンは、私が欲しいものを先回りして用意してくれる。
顔を洗えばタオルを差し出し、のどが渇けば水をくれる。

仕事に行くときは
「行ってらっしゃい。仕事は大変でしょうけど、頑張りすぎないでくださいね」
帰ってきたら
「お帰りなさい。お仕事お疲れ様です」
欲しい言葉を言ってくれて、ほどよい力でマッサージをしてくれる。
食事をとらないことと、深夜の充電を除けば、どこから見ても理想の男だった。

ロビンとの暮らしは、柔らかいスイートピーみたいな淡いピンク色だ。
初恋の甘酸っぱい想いがよみがえる。
毎日がときめいて、楽しくて仕方ない。

ロビンといると、私の中の女性の部分が目を覚ます。
自由奔放な妹に比べ、私は恋愛経験に乏しかった。
そうだ、ロビンを相手に、恋愛のシミュレーションをしてみようか。
こんなイケメンが近くにいるのに、何もしないなんてもったいない。
ロボットだし、感情がないんだから何をしてもいいじゃないか。
私はロビンの顔をじっと見つめた。
「レイナさん、どうしました?何がお望みですか?」
「ロビン、いいからじっとして」

数日後。
ああ、どうしよう。もうすぐ妹が帰ってくる。
言えない。ロビンが壊れちゃったなんて。
ロビンは急に動かなくなった。
これからというときに、急に動かなくなった。

妹が帰ってきた。
「お姉ちゃん、ありがとう。ロビンを迎えに来たわ」
「あの…それが…」
「お姉ちゃんに言い忘れちゃったんだけど、ロビンの全てをコントロールするICチップが口の中に入っているの。まあ、キスでもしない限り壊れることはないけどね。いくら彼氏いない歴30年のお姉ちゃんでもロボットにキスはしないよね…あっ」

ロビンは、だらしなく口を開けて座っている。
「お姉ちゃん、まさか…」
「ごめん、つい。でも、いくらイケメンロボでも、まともにキスも出来ないようじゃダメだわ。研究の余地があるわね」
「お姉ちゃん…彼氏紹介しようか?」
「お願い。できれば、人間の男にして」


これって、SF?(笑)

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怪談タクシー [ホラー]

怪談タクシーへようこそ。

連日の熱帯夜で、眠れませんよね。
こんな夜は、怖い話に限ります。
当タクシーの経験豊富な乗務員が、お客様にひと時の涼を贈ります。

ご乗車ありがとうございます。
では、早速はじめさせていただきます。

あれは、今夜と同じような蒸し暑い夜でした。
午前2時を回ったころでございます。
タクシーを走らせていましたが、客はつかまらないうえに、ひどい睡魔に襲われました。

公園の駐車場に車を停めて、少しばかり仮眠をとることにしたのです。
目を閉じてウトウトしかけたとき、運転席の窓をたたく音がしました。
とんとんとん…控えめなか細い音です。
客かと思って目を開けましたが、そこには誰もいませんでした。

「風の音か」と、ふたたび目を閉じると、また窓をたたく音がします。
とんとんとん…さっきより、いくらか大きな音でした。
目を開けても、やはり誰もいないのです。
誰かのいたずらかと思い、車の外に出てみました。
するとそこに、小さな子供がうずくまっていたのです。

いくらなんでも、こんな夜中に子供がいるはずがない。
不審に思いましたが、放っておくわけにもいきません。
私は声をかけました。
「こんな時間に、何をしてるんだい?」

子供は男の子で、今どき珍しく半袖半ズボンに白いハイソックスを履いていました。
よく見ると、ハイソックスの足首から先がぼやけています。
これは霊だ、と思いました。
おそらくこの近くで亡くなった、子供の霊だろう。

私は恐ろしくなって、車に戻ろうとしましたが、体が思うように動きません。
子供が立ち上がって、にやりと笑いました。
「おじさん。ぼくもいっしょに連れて行っておくれよ」
子供はそう言って、私の手首をつかみました。
子供とは思えないほどの力でした。
「や、やめてくれ」
私は叫んで、思い切り手を振り払い、急いで車に戻りました。
バタンとドアを閉めるのと同時に、車を急発進させました。

どくどくと汗が流れ、心臓が爆発しそうでした。
大通りに出ても、客を拾う気になどなれませんでした。
私はそのまま事務所に帰りました。
事務所の灯りは、どれだけ私を安心させたでしょう。

「いやあ、恐ろしい目にあったよ」
事務所に戻ると、先に帰っていた同僚が、怪訝な顔で言いました。
「おまえの右手の手首にくっついているのは何だ?」

私は自分の右手を見ました。
そこには、小さくて白い子供の手がありました。
私の手首に巻き付いていたのです。
私はあのとき、子供の霊に手をつかまれたまま車のドアを閉めたため、手首だけがちぎれてついてきたのです。

そのあと、どんなにお祓いをしても、手首から子供の手が離れることはありません。
ですから私は、今でもこの手といっしょに暮らしているんですよ。
ほら、見てください、私の右手を。
まるで体の一部のように、小さな手が私の手首を握っているでしょう。

お客さん、そんなに怖がることはありませんよ。
この手は悪さなんてしませんから。
ただ、午前2時になると、どうしても来てしまうんですよ。
この公園に…。
ほら、お客さん、見てください。
手首のない子供が、手を振っているでしょう。

どうです?涼しくなりました?
二度と乗りたくないとか言わないでくださいね。

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占い少女 [コメディー]

昼休み、黒ミサが僕の前に立った。
本名、黒川ミサト。自称中学生占い師。
「山田君、占ってあげる」
逃げよう…と思ったけど遅かった。

黒ミサの占いは、すこぶる評判が悪い。
いやなことばかり言う。
「事故に遭うわ」「受験に失敗するわ」「彼氏に振られるわ」
おまけに変な手作りマスコットを押し付けて、
「これを身につければ大丈夫。はい、100円」
と、売りつけられる。
みんな目を合わさないようにしているのに、つかまってしまった。

「今日は水晶占いよ」
黒ミサはカバンから水晶玉を取り出した。
「それ、本物?」
「当たり前でしょう。トンキホーデで買ったんだから」
び、微妙…。

「あら、山田君、彼女ができるわ。割と身近な女の子よ」
「いや、僕たち中3の受験生だし、恋をしてるヒマなんかないよ」
「あんたそれでも男?結婚したら家庭と仕事を両立しなきゃいけないのよ。勉強と恋愛が両立できないなんて、あんた一生独身でいるつもり?」
「意味がわからないよ…」
「いいから、この恋愛成就のおまじないをペンケースに付けなさい。はい、100円」

ブタみたいなイヌみたいなマスコットを無理やりペンケースに付けられた。
100円を払う僕を、クラスメートが憐みの目で見ていた。

翌日、市の図書館で勉強していたら、隣町の女子中学生に声をかけられた。
図書館でたまに見かける勉強仲間の女の子だ。
「それ、めっちゃかわいい」
黒ミサに買わされたマスコットを指さした。
「彼女の手作り?ネコかな?ネズミ?」
「買ったんだ。100円で。彼女なんていないよ」
「じゃあ、一緒に勉強しない?実は前から気になってたの」

彼女の名前は七海ちゃん。僕と同じM高を受けるらしい。
一緒に勉強をしながら愛を深めれば、受験と両立できるじゃないか。

僕はさっそく黒ミサに報告した。
「あら、よかったわね。じゃあ彼女との将来を占ってあげる」
黒ミサが水晶玉を覗き込んだ。
「うーん。何か大きな障害が現れるわ。でも大丈夫。この魔よけのお守りがあれば防げるわ。彼女の分と二人分で200円。買う?」
「もちろん買うよ」

翌日、ブタだかイヌだかネコだかネズミだかわからないマスコットを七海に渡した。
「僕のクラスに占い師がいてさ、僕たちのためにお守りを作ってくれたんだ」
「ふうん。山田君、占い好きなんだ」
七海は嬉しそうにマスコットをカバンに付けた。

夏休みに入り、僕たちは毎日一緒に勉強をする…はずだった。
しかし七海は、あのマスコットを渡した翌日に悲しい顔で別れを告げた。
「ごめんね。私たち、もう会うのやめよう」
「なんで?」
「山田君、占い好きだって言ってたから、私もいろいろ調べてみたの。そうしたら、星占いに名前占い、四柱推命、血液型、あなたと私の相性は、どれを見ても最悪よ」
「え?そんなの当たらないよ」
「だって山田君、占い信じるって言ったじゃない。もう無理よ。さよなら。受験頑張ろうね」

七海は図書館の出口で待っていた、相性のよさそうなイケメンと出て行った。
障害って、あのイケメン?それとも、占い?
がっかりしながら蝉が鳴く炎天下を歩いていたら、冷たいものが首筋に当たった。
振り向くと黒ミサが立っていた。
首筋の冷たいものはアイスだった。
「山田君の占いが当たったおかげで客が増えたから、お礼」
「あ、ありがとう…。でも、あの魔よけは効かなかったよ」
「ごめん。間違って、別れさせるおまじないかけちゃった」
「は?どうして…」
「だって、山田君の彼女になるのは…あの子じゃないわ」
黒ミサが腕をからませてきた。ドキッとした。
私服の黒ミサ、結構いいかも…。

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