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おとぎ話(笑)13 [名作パロディー]

<鶴の恩返し>

「あれほど覗くなと言ったのに、見てしまいましたね。そうです。私はあの日おじいさんに助けてもらった鶴です」
「はて?鶴など助けた記憶はないが…」
「おじいさん、そういえば3軒先の与作さんが、矢に刺さった鶴を助けたと言っていましたよ」
「げげっ!まさかの人違い?」
「どうする、おつう、与作さんのところで恩返し、やり直すかね?」
「もう羽根がねーわ!」

<さるかに合戦>

『カニ、栗、蜂、馬糞、臼は力を合わせてサルをこらしめましたとさ。めでたし、めでたし』
「どうじゃ、面白かったか?」
「あ、じいじ、ごめん。ボク、冒頭の柿の木が気になって集中できなかった。種を植えてから柿の実がなるまで、すごく早いよね。特殊な品種なのかな?だとしたらすごい発見だね。ネットで調べてみようかな。あと、カニがおにぎりを持っているけど、カニっておにぎり食べるのかな?生物学的にどうだろう。ネットで調べてみよう」
「…やりづらい…」


<白雪姫>

テイク1.
「お嬢さん、毒リンゴをお食べなさい」
カット~!毒リンゴって言っちゃダメでしょ
「あ、そうか」

テイク2.
「お嬢さん、リンゴをお食べなさい」
「まあ、おいしそうな毒リンゴ」
カット~!白雪姫、毒リンゴって言っちゃダメ

テイク3.
「白雪姫、リンゴをお食べなさい」
カット~!白雪姫って言っちゃダメ。変装してるんだから。

テイク4
「お嬢さん、リンゴをお食べなさい」
「まあ、おいしそうなリンゴね。お義母さま」
カット~!お義母さまって言っちゃダメ。
ああ、もう、話がぜんぜん進まない。今日は中止だ。
森の奥でスタンバイしてる小人たちにも伝えて。弁当渡して帰ってもらえ。

あ~あ、しょうがないから「赤ずきん」の話にしよう。
シーン1.母親のセリフから
「赤ずきん、おばあさんになりすまして寝ているオオカミのところに、お見舞いに行っておくれ」
カット~~~~~!!!

<こぶとりじいさん>

「ばあさん、わしじゃよ。お前の亭主だよ。頼むから家に入れておくれよ」
「何言ってるんだい。うちのじいさんは頬に大きなコブがあるんだよ」
「だから、鬼に取られたんだってば」
「そんな話信じられるかい。とっとと帰っておくれ。警察呼ぶよ」

「…というわけなんです。お願いです鬼さん。コブを返してください」

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good-by [競作]

修は、入院中の叔父を見舞うために神戸に来た。
元気そのものだった叔父が、あんなに痩せてしまった。
ショックだった。
今日中に東京に帰らなければならないが、このまま帰る気になれなかった。
たしかこの辺りに、以前叔父と来たバーがあった。「海神」という名前だった。
少しだけ飲んでいこうと、記憶をたどって店に行った。

「いらっしゃいませ」
静かな店だ。穏やかで人のよさそうなマスターが修を安心させた。
たしか「鏑木さん」と叔父は呼んでいた。

修がカウンターに座ると鏑木は、高木と書かれたボトルを手に取った。
「こちらでよろしいですか?」
「え?僕のこと、憶えてるんですか?」
「高木さんの甥御さんですよね。高木さんから、あなたが来たら飲ませてくれと言付かっています」
「叔父さんらしいな」と思いながら、修は水割りをゆっくり飲んだ。
もう長くはないと知りながら、神戸を訪れる修のためにボトルを入れたのだろう。

「叔父は僕を、自分の息子のように可愛がってくれました」
「ここでも、よくあなたの話をしていました」
「もう一度、飲みたかったな」
しんみりした空気を振り払いように、修はおかわりを頼んだ。
こんな寂しい飲み方を、叔父は望まない。楽しい酒が好きな人だ。

時計を気にしながら、「また来ます」と席を立った。
ボトルはまだ半分ほど残っている。

数か月後、修は再び海神を訪れた。
「いらっしゃいませ」
鏑木は、グラスを磨く手を止めた。
修に支えられて、別人のように痩せた高木が力なく「よお」と手を上げたからだ。
「高木さん、お久しぶりです」
「ボトルを全部、修に飲まれちゃかなわんからな」
病院から、外出許可をもらってきたという。
「最後の晩餐や」と高木が笑い、「毎日そう言いながら食ってるよね」と修がさらに笑う。

高木は、かなり薄く作った水割りに、少し口をつけただけだ。
それでも明るい笑顔は健在だ。
「俺には子供がいないから、修と飲めるのはほんま嬉しいんや」
「叔父さん、それ55回は聞いたよ」
「そうか。そしたらあと45回言おう。100回できりがいいやろ」
「勘弁してよ」
微笑ましいふたりに、鏑木もつられて笑った。
彼らには、どれだけの時間が残されているのだろう。
小一時間ほどで、席を立った。
「また来るよ」と高木が弱弱しく手を上げた。
修が、鏑木にだけ聞こえるように「最後に来られてよかったです」と言った。

ふたりを見送って、少し残ったボトルを下げると、テーブルに水滴で描かれた文字が見えた。
『good-by』
また来ると言ったのに…。鏑木は思わず目頭をおさえた。

秋の夜風がいくらか肌寒い。
修は高木の身体を気遣いながら、ゆっくりタクシーに乗り込んだ。
「いい夜やったな」
高木が絞り出すような声でつぶやいた。
「そうだね」
修は、そう答えるのがやっとだった。

**********
雫石鉄也さんのブログから生まれた「バー海神」
とても素敵なお店なので、サイドストーリーを書きました。
雫石さんのお話はこちらです。
http://blog.goo.ne.jp/totuzen703/e/a194d1e39a491e43ff24434ad3c5c5e1

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ひまわり [男と女ストーリー]

9月も中旬を過ぎたのに、まだひまわりが咲いている。
そう言えば、ひまわりみたいな人だったな…と、ふとミドリのことを思い出した。

ミドリとは、ずいぶん前に同じ会社で机を並べていた。
僕が22歳で、ミドリは20歳。
年下だったけど、高卒のミドリは先輩で、新入社員の僕にあれこれと指示をした。
「わからないことがあったら聞いてね、大谷君」
年下なのに僕を大谷君と呼ぶ。
ちょっとムッとしたけど、ミドリは明るいムードメーカーで仕事も早かった。
頼れる先輩であることに、間違いなかった。

「大谷君、この仕入れの数字、間違っていたから直しておいたよ」
「え?ほんと?」
「うん。このまま提出したら会社が大損するところだったよ」
「あ、ありがとう」
「大谷君に貸しがひとつ。今度奢ってね」
そんなわけで、週末ふたりで飲みに行った。
まだ20歳なのに、ミドリの飲みっぷりに驚いた。
「何歳から酒飲んでるんだよ?」
「20歳からに決まってるでしょう。法律知らないの?」
「絶対ウソだ」

僕たちは、その日を境に急激に親しくなった。
週末はふたりで飲みに行き、会社の話や人生の話。
今にして思えば、若造が何を…と思うような深い話もしていた。
楽しかった。
すごく楽しかったけど、僕はミドリを恋人だと思ったことはない。
恋愛の対象から、故意に外していたのかもしれない。

「大谷君、さっきカオリ先輩と何話していたの?」
給湯室の前でミドリに声をかけられた。
「カオリ…?ああ、庶務課の吉井さん?映画に誘われたんだ。吉井さん、ホラー映画が好きなんだけど、一緒に行く友達がいないんだって。だから行こうって言われた」
「行くの?」
「うん。ホラー、けっこう好きだし、割引券あるっていうから」
「なんで?なんであたし以外の女と映画に行くの?」
「え?なに?ダメなの?」

僕のその言葉に、ミドリはひどく傷ついたらしく、涙目で走り去った。
結局映画は行かなかったけど、僕とミドリの関係はぎくしゃくしたまま過ぎて行った。
1年後、僕は本社に移動になった。
ミドリとは気まずいままだったから、正直どこかホッとした。
送別会も終わり、支店での最後の日、ミドリがランチに誘ってきた。
変わらない笑顔がありがたかった。
「栄転おめでとう。あたしのおかげだね」
「なんでだよ」
「仕入れの金額間違えたとき、直してあげたでしょ。あのままミスしてたら、今のあなたはなかったわ」
そうだった…と僕は頭をかいた。

「うそだよ」
「ん?」
「仕入れの金額、ホントは間違ってなかったの。大谷君と親しくなりたくて、うそをついたの。君は最初から優秀だったよ」
相変わらずの上から目線に閉口しながらも、何となくミドリが可愛く見えた。
最後までゴメンとは言わなかったけど、「おわび」と言ってランチをご馳走してくれた。
それが最後。
本社勤務になってしばらくして、ミドリは会社を辞めてしまった。
その後のことは何もわからない。結局僕が中途半端だったから、輝いた時間を共有した大切な人を失ってしまった。

女心がわからない僕は、38歳の今でも独身だ。
ひまわりのようなミドリの笑顔を今更思い出したのは、きっと弱っているからだ。
順風満帆だった会社は、2年前から経営が危うくなり、この春倒産した。
再就職などすぐにできると思っていたが、そう上手くはいかない。
ネクタイを締めて、面接に向かう。
輸入食品を扱う小さな会社だけど、海外での買い付けなどで自分のスキルが生かせればと思って履歴書を送った。

面接官はやり手の女社長。
さぞかし怖そうな女性かと思ったら、ひまわりのような笑顔が僕を迎えた。
「え?ミ、ミドリ?」
「社長をいきなり呼び捨てにするなんて、いい度胸してるわね、大谷君」
ああ、この上から目線。やっぱりミドリだ。
戸惑いながら、僕は深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」とミドリが笑った。温度が2度くらい上がった。
9月も中旬を過ぎたのに、やっぱり君はひまわりだ。

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ビューティフルネーム [コメディー]

もうすぐ敬老の日だから、嫁が食事に誘ってくれたの。

「お義母さん、いらっしゃい」
「今日はお招きありがとね」
「おばあちゃん、こんにちは」
「まあまあ、孫たちも大きくなって。じゃあ、上がらせてもらうよ」

孫は全部で5人もいるの。
だけどね、名前がなかなか覚えられないのよね。年かしら。
「ええ~と、あなたは確か、月ちゃんだったかしら」
「違うよ、おばあちゃん。わたしは月の姫と書いて、月姫(かぐや)だよ」
「ああ、そうだった。かぐやちゃんね。あなたは、大ちゃんだったかしら」
「違うよ、おばあちゃん。僕は大きい河と書いて、大河(ナイル)だよ」
「あ、ああ、ナイルくんね。あなたは、真くんよね」
「違うよ、おばあちゃん。僕は真珠の星と書いて、真珠星(スピカ)だよ」
「あ、ス、スピカくん…ね。あなたは、鈴ちゃんだったわよね」
「違うよ、おばあちゃん。わたしは鈴の音と書いて、鈴音(べる)だよ」
「ああ、べるちゃんか…」

「お義母さん、この子が春に生まれた5人目の子よ」
「まあ、可愛い。名前は確か、雪ちゃんだったかしら」
「違いますよ、お義母さん。この子は雪の女王と書いて、雪女王(エルサ)です」
「ああ…エルサちゃんね。ああ、もう、難しい名前で覚えられないわ」

「ねえ、おばあちゃんの名前は何ていうの?」
「おばあちゃんの名前は簡単よ。だってひらがなだもの」
私は、紙にサラサラと自分の名前を書いて孫たちに見せたわ。

『ゑゐ』

「え?何、この字?」
「何て読むの?」
「ゑゐと書いて、ゑゐ(えい)よ」

「えええ~、おばあちゃんの名前がいちばんスゴイ!」
「本当だわ。お義母さんの名前、すごいキラキラネームだわ」

あらいやだ。こんなに名前を褒められるのは初めてよ。
長生きはするものね。

obaachan2.gif

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金魚拾い [公募]

金魚を拾った。
路肩の青いバケツの中で、赤い金魚が救いを求めるように口をパクパクさせていた。
真夏の陽射しは容赦ない。このままでは、小さなバケツの水はすぐにお湯になってしまう。

僕はバケツを持って歩き出した。
エサがないことに気づき、コンビニに寄った。
冷房が効いた店には、女性店員がひとりだけ。
長くて赤い髪の毛先を指に巻きつけて、退屈そうにあくびをしている。
無愛想で「いらっしゃいませ」の挨拶もない。
胸には「吉田」と書かれた名札をつけている。

「あの、金魚のエサはありますか?」
「あるわけないじゃん。ペットショップじゃないんだから」
予想はしていたが、吉田は恐ろしく接客態度が悪かった。僕が店長ならすぐにクビだ。
「それより早く冷たい水に入れてやれよ。死んだらあんたのせいだからね」
吉田は金魚を見ながら言った。
「余計なお世話だ」と悪態をつきながらアパートに帰った。
バケツの水は替えたが、金魚鉢などない。
元気を取り戻した金魚に、バケツはひどく窮屈そうだ。

僕は風呂場に行き、バスタブに水を張った。
金魚を入れてやると、気持ちよさそうに泳ぎだした。
しばらく風呂に入れないけど、夏だしシャワーで充分だ。
よく見ると尾ひれが長くてきれいだ。
こんな金魚の横でシャワーを浴びるのは、ずいぶん贅沢な気がする。

翌朝、真っ先に金魚の様子を見に行った。朝からうだるような暑さだ。
風呂場の窓を開けて、朝の風を入れてあげよう。

ところが、金魚はいなかった。
バスタブには水も溜まっていないし、青いバケツもない。どういうことだ。
すべては熱帯夜が見せた夢だったのだろうか。
それならば、恐ろしく無愛想な吉田というコンビニ店員も夢だったのだろうか。
着替えてコンビニに行き、店長らしき男に聞いてみた。
「吉田さんという女性店員はいますか?」
「吉田という者はおりませんが…」
やっぱりそうか。すべては夢だったのか。
僕は頭を掻きながら、スポーツドリンクを買って帰った。
アパートに着くと、部屋のドアが開いている。閉め忘れたのだろうか。
中で物音がした。恐る恐る入ってみると、見覚えがある赤い髪が見えた。
毛先を指に巻きつけている。

「よ、吉田?」
「は? 呼び捨てかよ」
振り向いたのは、確かに昨日の無愛想なコンビニ店員、吉田だった。
「何してるの? どうやって入ったの?」
「金魚のエサを持って来てやったんだよ」
吉田は風呂場に行き、浴槽にパラパラとエサをまいた。
そこには赤い金魚が、確かにいた。夢中になってエサにくらいついている。
「うまそうだ」と吉田が言った。まさかこの女、金魚を食べるつもりか。

吉田は突然するりと服を脱いだ。朝日が当たって、腰まで伸びた赤い髪が美しい。
透けるような白い肌が眩しすぎて思わず目を逸らした。
吉田はするりと湯船に滑り込み、金魚と一緒に泳ぎだした。
膝を曲げなければ入れなかった湯船が、プールみたいに大きく見えた。
赤い金魚はいつのまにか姿を消し、吉田が魚のように優雅に泳いでいる。

そうか、これはまだ夢の中だ。
吉田のような若い女性が、ほとんど初対面の男の家で裸になって風呂に入るなど、夢でなければありえない。
夢ならば、何をしたってかまわない。僕も服を脱いで、湯船の中に飛び込んだ。
生ぬるい水の中、吉田の赤い髪の隙間から、光の粒が揺れている。
今日も暑くなるな。
僕は光の届かない湖の底に、吉田と一緒に落ちていきたいような不思議な感覚にとらわれていた。

目が覚めた。夢というのは、いつもいいところで覚めてしまう。生ぬるい水だけは、夢と変わらない。
青いバケツの中に、僕はいる。
となりには尾ひれの長い赤い金魚が、元気をなくして口をパクパクさせている。
「大丈夫?」
話しかけても、彼女はいつも無愛想だ。
僕たちの飼い主だった吉田さんは、今朝どこかへ引っ越した。
青いバケツに入れられた僕たちは、忘れられたのか、それとも置いて行かれたのか。
いずれにしても戻ってくる可能性は極めて低い。

真夏の陽射しは容赦ない。こんなバケツの中で、僕たちの命は終わってしまうのか。
お願いだ。誰か拾って!

k.png

***

公募ガイド、TO-BE小説工房でボツだった作品です。
課題は「夢のまた夢」
最優秀の作品を読んで、「夢のまた夢」の意味するところがわかりました。
難しいですね。

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サボテン女子 [ファンタジー]

サボテンと暮らし始めたのは、半年ほど前だ。
会社の帰り道、アパートの近くで拾った。
ダンボールに入って、『誰か拾って』と書かれた札を下げていた。
拾い上げると、目をうるうるさせた。
「お嬢さん、連れて行ってくれるんですか」
サボテンがしゃべった。しかも、お嬢さんなんて誰にも言われたことがない。
私はサボテンを連れて家に帰った。

「サボテンなんて育てたことないわ。水とか、どうすればいいの?」
「水よりも、あなたの愛が欲しいです」
「まあ、サボテンさんったら」
軽い気持ちでボディダッチしたら、指に棘が刺さった。
「すみません、お嬢さん。だけど、俺に触れたら怪我するぜ」
ああ、優しいだけじゃなくてワイルド。私はますますのめりこんだ。

その日から私は、合コンも女子会も断って、まっすぐ家に帰った。
サボテンとの暮らしは本当に楽しかった。
音楽をかけると、くねくねと腰を揺らして踊る。
スローバラードを、甘い声で囁くように歌う。
思わず頬ずりしたら、激痛が走った。
所詮はサボテンと人間。
私たちは愛し合えない運命だ。
いっそ忘れられたらと、行きずりの男と付き合ったりした。
虚しさだけが残った。

ある日、母が見合いの話を持ってきた。
結婚などまだ考えていなかったが、プロフィールに『趣味:サボテン』と書いてあったので興味を持った。
「どう思う?」
サボテンに聞いた。
「いいと思います。サボテン好きに悪いやつはいません」
見合いなんかするな、と言って欲しかったけど、サボテンだから言うわけない。
私は、彼と会うことにした。

彼は、見合いの席にサボテンを連れてきた。
小さくて頭のてっぺんに赤い花が咲いている。
「すみません。片時も離れたくないんです」
彼は言った。
「気持ち、すごくわかります」
私たちは、付き合うことになった。

彼を初めて家に招いたとき、悲劇は起こった。
私のサボテンが、彼のサボテンに一目ぼれ。
そして彼のサボテンも、私のサボテンに一目ぼれ。
サボテンたちは、あっという間に恋におち、人目もはばからずイチャイチャ、ベタベタ。
「どういうこと?半年間育てた恩も忘れて、そんなちんちくりんと…」
「ちんちくりんとは何だ。僕だってこんなトゲトゲの化け物と一緒にするためにサボテンを育てたんじゃない」
「化け物ですって。ひどい。もう帰ってよ」

そんなわけでケンカ別れ。
その日から、サボテンはめっきり元気を失った。
どんな言葉にも答えず、栄養も水も採ろうとしない。
このままでは枯れてしまう。

彼のサボテンも同じだったようで、私たちは話し合い、再びサボテンたちを会わせることにした。
「そろそろ、サボテン離れしなくちゃな」
「そうね」
私は仲良しのサボテンを眺めながら、そっと彼に寄り添った。
「痛くないわ」
「あたりまえだよ。僕には棘がないからね」
彼の手を握りながら、久しぶりに安らぎを覚える夜だった。


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