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ハロウィンを楽しもう! [コメディー]

今年の仮装はゾンビにしたの。
看護師の白衣を赤い絵の具で血まみれにして、特殊メークはお姉ちゃんにやってもらった。
歩き方も練習したし、これでバッチリ。
さあ、ハロウィンパレードに出かけよう。

「あんた、その格好で電車に乗るの?」
「平気だよ。ハロウィンだもん」
思った通り、電車の中は仮装した人でいっぱい。
魔女に妖精、ドラキュラにミイラ男。
白雪姫やピーターパンとか、ちょっと趣旨と違う人もいるけどいいの。
だってハロウィンだもん。楽しまなきゃ。

駅に着いて会場を目指していたら、突然男の人に声をかけられた。
インディ・ジョーンズみたいな格好してる。
「君は本物か?」
「は?」
「本物のゾンビかと聞いている」
「やだ~、本物に見える~?お姉ちゃんの特殊メークすごいでしょ。プロを目指しているんだって」
「ということは偽物だな。あ~やれやれ」
「なんなの?」
「じつは俺は、世界でも数少ないゾンビハンターだ」
「へえ」
「ゾンビを探して退治している」
「ほお」
「それにしても何て日だ。こんなに偽物のゾンビがうようよしていたら、本物が探せないじゃないか」
「ふうん」
やだ、この人頭おかしい人だ。さっさと行こう。

「あ、君の前を歩いている、あのゾンビは本物かもしれない」
「ちがうんじゃない。衣装にドンキホーテの値札がついてるよ」
「じゃあ、あの男はどうだ」
「えー、絶対ちがうよ。軽快にエグザイル踊ってるもん」
変な人。つきあってたら遅くなっちゃう。
パレードの会場まで全力でダッシュだ。(ゾンビなのにね)

会場にはたくさんの人がいる。
思った以上にゾンビが多い。みんな気合十分だ。

「気を付けろ。あそこに本物のゾンビがいる」
げっ、さっきのインディ・ジョーンズ。いつの間に来たの。
「パレードに参加しない人は向こうに行ってよ」
「そういうわけにはいかない。あいつは絶対本物だ」
インディが指さす先には、完璧なゾンビがいた。
すごいわ。仮装大賞だったら絶対チャンピオンよ。

「みんな、離れて!そいつは本物のゾンビだ!」
インディが叫んだ。
会場がざわざわして、完璧なゾンビがこっちに向かって歩いてきた。
うそ。怖い。まさか、本当に本物なの?
唸り声、死んだような目、やだ。本物だわ。
ゾンビが迫ってくる。周りはパニックだ。

あ、足がすくんで動けない。
こっちに来た。ギロッて睨んだ。襲われる。あたし、本物のゾンビになっちゃう。
インディ、はやくこいつを退治してよ。
ゾンビの手があたしの肩に…と思ったら、すーっと横を通り過ぎた。

「あれえ~、山田じゃん」
ゾンビが人懐っこい笑顔でインディに話しかけた。
「山田、おまえ今年はインディ・ジョーンズ?だっせえな」
「うるせえ。今年の俺はゾンビハンターだ」
「なんだよそれ、だっせえ~」
「今年のハロウィン、ゾンビ多すぎ。おまえ探すの苦労したぜ」
「じゃ、一緒にパレードしようぜ。あ、そこのキュートなゾンビちゃんも一緒に歩く?」
ゾンビが振り向いた。よく見たら、めっちゃ作り物じゃん。
「なんなの。あんたたち」
「え?君と同じ。純粋にハロウィンを楽しんでいるだけだよ」

はあ~、こういうのもアリか。
やっぱハロウィンは楽しいわ。

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パジャマデート [男と女ストーリー]

コツン、コツン。窓ガラスに小石が当たる音。
時計を見たら深夜1時。
窓を開けたら、ユウジ君が手を振った。
ピンクのカーディガンを羽織って、抜き足差し足。
両親に見つかったら怒られちゃう。

「深夜のドライブ行こうぜ。リサコに見せたいものがあるんだ」
ユウジ君が、愛車のドアを開けた。
「待ってて。着替えてくるから」
「そのままでいいよ。だって、俺もパジャマだもん」
ユウジ君が笑った。
バカみたい。だけど、ユウジ君のこういうところ、嫌いじゃないの。

私たち、結婚の約束をしてるけど、私の両親が大反対。
深夜に一人娘を連れだすような人だもん。仕方ないよね。

車がほとんど走っていないまっすぐな道を、ぐんぐん進んでいくの。
対向車のライトが、時おりユウジ君の横顔を照らす。
寝癖がついた髪が、ちょっとかわいい。
流れる音楽は洋楽で、私はちっともわからない。

ウトウトしかけていたら、突然冷たい風が吹き込んだ。
「もう、いきなり窓を開けないでよ」
「いいから、前を見て」
ユウジ君がライトを照らすと、目の前に海が広がっていた。
「わあ、すごい。夜の海って初めて見たわ」
寄せては返す波の音が、耳に、心にしみていく。

「波って、地球の呼吸みたいな気がするんだ」
「呼吸?」
「絶え間なく続く地球の呼吸。星も懸命に生きてると思うと、俺、何だか元気が出るんだよ」
「ふうん」
ユウジ君、ふだんはいい加減だけど、時々こういうことを言うのよね。
私は、ユウジ君の肩に頭を乗せて、繰り返す地球の呼吸を感じていた。
「ずっと、こうしていたいね」
ユウジ君は応えなかった。
私、本当は気づいていたんだ。
たった今、ユウジ君の心臓が止まったこと。

ユウジ君は、3日前に交通事故に遭った。もう助からないと言われた。
最後に会いに来てくれたんだね。
午前1時、真夜中の部屋で目覚め、私は朝まで泣き続けた。

でもね、命の営みは続いていたの。
私の中には、ユウジ君が残してくれた小さな命が宿っていたの。
私、この子といっしょに、ユウジ君の分まで生きるからね。
いつかきっと迎えに来てね。

**
コツン、コツン。窓ガラスに小石が当たる音。
時計を見たら深夜1時。
窓を開けたら、ユウジ君が手を振った。
懐かしい笑顔。迎えに来てくれたのね。

人生の最期は、生まれ育った家で迎えたいと、娘夫婦に無理を言った。
だって、ユウジ君が来た時に、家がわからなかったら困るでしょう。

「さあ、行こうかリサコ」
「私、またパジャマだわ」
「大丈夫。俺もパジャマだもん」

***

「ねえママ、おばあちゃん、笑ってるよ」
「そうね。きっと、おじいちゃんが迎えに来たのね」


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彼女が消えた夜 [ミステリー?]

仕事を終えて帰宅すると、彼女がいなかった。
晩ご飯も作っていない。
一緒に暮らして1年。こんなことは初めてだ。

寝室のベッドにはトレーナーとジーンズが脱ぎ捨てられている。
急いで出かけたようだ。
クローゼットを開けると、お気に入りの黒のドレスがなかった。
僕たちが出会った日に着ていたドレスだ。
すごく似合っていた。彼女のために作られたようなドレスだった。
そのドレスを着て、彼女はいったいどこへ行ったのだろう。
友人とのパーティ?
そもそも、彼女に友人などいただろうか。
家族もいない。友達もいない。彼女は天涯孤独だ。
だから僕が帰ってくると、心底安心したような笑顔を見せた。
いったいどこへ行ってしまったのだろう。
とりあえず、電話をかけてみる。

RRRRRR
リビングのソファーで鳴った。忘れて行ったらしい。
ふと見ると、リビングの隅にバッグが置いてある。
財布も入っている。
金も持たずに出かけた?どうやって?金がなければバスにも乗れない。
誰かが迎えに来たのか?
そこで初めて、男の存在を疑った。
悪いと思いながら、彼女の携帯を見る。
僕以外からの連絡は一切なかった。もちろんSNSもやっていない。

このまま帰ってこないような気がして溜息をついた。
何か、不満があったのかな。
何でも完ぺきにこなす彼女に甘えて、家事をすべて押し付けていた。
忙しくて、遊びにも連れて行かなかった。
彼女がいない部屋は、真冬のように空気が冷たい。

たまらずテレビをつけた。
お化けカボチャの帽子を被ったお天気キャスターが、陽気に週間予報を伝えている。
ああ、今日はハロウィンか。
彼女と出会ったのも、ハロウィンの夜だった。
ドラキュラの仮装をした僕と、可愛い魔女の帽子を被った彼女。
「こんばんはドラキュラさん。わたし魔女です」
ニコッと笑った彼女に一目ぼれ。
そのまま手をつないで月夜の遊歩道を歩いた。ドラキュラと魔女のデートだ。
帰る場所がないというので家に連れてきた。
そして僕たちは、一緒に暮らし始めた。
考えてみれば、僕は彼女のことを何も知らない。

今夜も、美しい月が出ているだろうか。
窓を開けてみた。
いつもより大きな月が出ている。
どこかで仮装したカップルが歩いているかもしれない。

月の前を、黒い影が横切った。
何かが、こちらに向かって飛んでくる。
鳥かな?いや違う。人間だ。黒いドレスを着ている。
「…え?」

「ただいま」
彼女が、ほうきに乗って帰ってきた。
「ママが病気だと聞いて、魔界に帰っていたの」
え? ママ? 魔界?
「でもね、仮病だったの。わたしが1年も帰らないものだから、心配したのね」
彼女は、ほうきを鉛筆くらいに小さく縮め、くるりと回した。
たちまちテーブルの上に、たくさんのご馳走が並んだ。
ワインのコルクが勝手に開いて、トクトクとふたつのグラスを満たしてゆく。

「魔法?」
「そうよ。わたし魔女だもん。初めて会った日に言ったでしょう。さあ、飲みましょう。あなたのために用意した特別なワインよ」
彼女が差し出したワインは、血の味がした。
「いや、俺はドラキュラじゃないから!」

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地獄に仏 [コメディー]

ああ~、どうしよう。天国に行くはずの人を、間違って地獄に落としちゃった。
「459」なんて番号だから勘違いしちゃったよ。
ごろ合わせ「ジゴク」だもんな~。
蜘蛛の糸垂らして連れてこようかな。だめだめ、他の奴らも来ちゃうよ。
あ~あ、ばれたら減給かな。それとも降格、まさか懲戒免職?
どうしよう~!!

<地獄>
「おい、新入りの奴ら、よく聞け。おまえらは現世でさんざん悪事を働いた。だからここでは苦しんで苦しんで苦しみぬくのだ。さあ働け。少しでもさぼったら、針の山と血の池行きだぞ」

「459番、おまえ、現世でどんな悪事をしたんだよ」
「あ、僕ですか?そうですね。そういえば、兄のプリンを間違えて食べてしまったことがあります。名前が書いてなかったものですから」
「え?それだけ?」
「あとは、学生の頃、友人の宿題を手伝いました。長い目で見れば、あれは彼のためにならなかったかもしれません。あと、刃物を持った男性に〝金をくれ″と言われましたが、あいにく持ち合わせがなくてご希望に添えなかったことがあります」
「あんた…なんていいやつなんだ」


「おや、具合が悪そうですね。仕事を代わりましょう」
「え?いいの?」
「はい。無理は禁物です。死んでしまいますよ」
「もう死んでるけどな」
「こら、459番、人の仕事を代わっちゃいかん」
「あ、見張り番さん。お願いです。見逃してください。僕が2人分働きますから」
「なんていいやつなんだ」

**
「どうしました?何を泣いているんです?」
「今から針の山に行くのさ。ちくしょう。ちょっとタバコ吸っただけなのに」
「それなら、僕が代わりましょう」
「え?いいの?」
「はい。健康に気をつけていたおかげで、足つぼとか全然痛くなかったんですよ。ちょうどいい刺激になって、脳の働きがよくなるかもしれません」
「前向きだな。あんた、ほんとにいいやつだ」

***
「おい、なんだか最近、地獄の雰囲気がおかしいぞ」
「あ、閻魔様、実はですね、あの459番に、みんなが癒されてるんです」
「なんだと?」
「見張り番まで彼のとりこです。ほら、見てください」

「では、以前は天国にいたのに左遷されて地獄に来たんですか。お気の毒ですね。さぞお辛かったでしょう。だけど見張り番さん、物は考えようです。影があるから光が輝く、悪者がいるからヒーローが引き立つ、地獄があるから天国が良く見えるんです」
「なるほど。459さん、あんた本当にいいやつだ」

****
「ね、すっかり癒されてますよ」
「うーん。このままでは地獄の秩序が乱れるな」
「あ、閻魔様、459番、どうやら間違えて地獄に来たらしいです」
「そうか。ではすみやかに天国に行ってもらおう」

*****
「え?僕が天国にですか?それは構いませんが、僕を間違えて地獄に落としちゃった方の処分はどうなります?」
「まあ、そりゃ、降格や減給は当たり前だろう」
「それでは気の毒です。僕は地獄で大丈夫です。そう言えば、飼っていた鳥を不注意で逃がしてしまったことがあります。あの鳥は、どこかで死んでしまったかもしれません。僕は極悪人です。だから地獄で構いません。地獄だって、住めば天国です」
「おまえ、本当にいいやつだな。しかしこのままでは…」
「閻魔様、いっそのこと、生き返らせてはいかがです?幸い459番の遺体はまだ病院です」
「そもそも若いのになぜ死んだんだ?」
「交通事故ですよ。子供を助けて代わりに撥ねられたんです」
「どこまでいいやつなんだ」

<病院>
「あらやだ、生き返っちゃった。生命保険もらえると思ったのに」
「すみません。お母さん」
母は、いい人ではなかった。


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危ない事情聴取 [公募]

あなたたちは誤解をしています。私は怪しい者ではありません。
身元を明かすものは持っていませんが、自己紹介をするなら私は、人類最後の男です。本当です。
私の話を聞いていただけますか。

時は二十三世紀。世界中を巻き込む大きな戦争がありました。
多くの人を苦しめた長くてつらい戦争です。
追い打ちをかけるように、ある国が殺人ウイルスを撒きました。
感染すると半日で命を落とす恐ろしいウイルスです。
ウイルスはあっという間に広がりました。
私は研究者で、ウイルスの抗体を作っていました。
しかしウイルスはすごい勢いで進化を続け、姿を変えて人間を蝕みました。
どんなに抗体を作っても間に合いません。
殺人ウイルスを撒いた国も自滅しました。本末転倒です。
兵士も次々に感染したため、戦争は終わりました。それどころではなかったのです。
人類は、限りなく滅亡に向かっていました。

抗体を作れる科学者は、とうとう私ひとりになりました。
無菌室にこもって研究を重ね、ついにウイルスを絶滅させる薬を作りました。
しかしそれは、どういうわけか女性にしか効かなかったのです。

ウイルスが絶えて、すべてが終息したときには、人類の数は激減していました。
百人も残っていなかったと思います。そして、男は私ひとりになっていました。
数少なくなった人間たちでムラを作り、共同生活を始めました。
女たちは実にたくましく、荒れた畑を耕して野菜を作ったり、汚染されていない山奥の湖まで水を汲みに行きました。
ただひとりの男である私は、力仕事のひとつもせずに、涼しい屋敷で女たちが運んでくる食事を食べていました。それだけ私は大事に扱われていたのです。
私の仕事はただひとつ、子孫を残すことでした。
女たちは誰もが子供を欲しがりました。
特に男の子を産んで人類の絶滅を回避しようと必死でした。

見ての通り、私は少しも美男子ではないし、研究ひとすじで女にもてたことなど一度もありません。
そんな私のところに、女たちは昼夜を問わずやってきました。
そしてその体を惜しげもなく差し出すのです。
若い女、中年の女、痩せた女、グラマーな女、私は夢中になりました。
一回りも若い少女が来たときは、さすがに後ろめたい気持ちになりましたが、私は快楽に溺れていきました。

しかし、そんな快楽は最初の頃だけでした。
義務だと思うと少しも楽しめなくなったし、次々にせまられて体力も限界です。
しかも女たちは誰ひとり妊娠せず、ますます躍起になりました。
そして女たちは、私をめぐって醜い争いをするようになったのです。

もう、うんざりでした。私は、逃げ出しました。もう女を見るのもいやでした。
灯りひとつない真夜中に屋敷を抜け出して走りました。
走って走って、化け物が出そうな森を三日三晩さまよいました。
空腹でふらふらでしたが、もう死んでもいいと思いました。
人類の滅亡など、知ったことじゃありません。
倒れそうになって限界を感じたとき、遠くに明るい光が見えました。
森の出口です。私は導かれるように、光に向かって歩きました。

森を抜けるとそこは別世界でした。
街灯があり、たくさんの車が走り、きれいな街並みがあり、戦争もない平和な街でした。
そうです。あの森は二十一世紀の、この世界につながっていたのです。
驚きました。この時代は実に素晴らしい。何より男がたくさんいます。
私は嬉しくなって、男を見ると握手を求めたり、抱き付いたりしました。
誤解しないでください。そういう趣味があるわけではないんです。
本当に嬉しかったのです。
まあ、それで不審者扱いされて、こんなところに連れてこられたわけですが…。
 
私はもう、あちらの世界には帰りたくありません。
何しろ女しかいないのです。さかりのついた猫みたいな女ばかりです。
女の年齢ですか? 下は十代の少女から、上は五十代の熟女まで。
いちばん多いのは、三十代前半くらいの女性です。
中には女優のようなきれいな女もいます。
見たこともない豊満なバストの持ち主もいます。
だけど私にとってはみんな同じです。もう女の相手をするのは本当にうんざりなんです。
誰かが代わってくれたならどんなにいいでしょう。

その森の場所ですか?
この建物の前の道を西側にまっすぐ進んだ先にあります。
ああ、あの時もちょうど今みたいな赤い月が出ていました。
今なら、二十三世紀の世界とつながっているかもしれません。
あの、女だらけの忌々しい世界と。
私は帰りませんよ。豊満なバストを揺らしてせまってくる女など、二度とごめんです。

あれ、みなさん、どこへ行くんですか?

******

公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただきました。
課題は、「人類最後の男」
レベルがどんどん上がっているような気がします。
最優秀への道は厳しい。

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ママの里帰り [ファンタジー]

パパとママがケンカをした。
ママはわたしの手をつかんで、家を飛び出した。
「ママ、どこに行くの?」
「地球よ」
「地球…って…どこ?」

筒型の狭い船に押し込められて、ママとわたしはエンジン全開、宇宙へと旅立った。
ビュンビュンと、フルスピードで闇を進む。
時間の感覚がまったくわからない。
いくらか眠って目覚めたら、目の前に青い星が見えた。
あれが地球。なんて美しい。

宇宙船は地球に着いた。
緑色の細長い植物がたくさん生えていた。
「竹やぶよ」
「タケヤブ?ねえママ、この植物、わたしたちの船に似てるね」
「これは竹よ。さあ行きましょう。竹やぶの先にママが育った家があるの」
ママは逸る気持ちを抑えきれないように、竹のあいだを縫うように走った。
「待ってよ~」

竹やぶを抜けたママは、呆然と足を止めた。
そこには、大きな建物が立ち並び、整備された道をたくさんの乗り物が走っている。
「ママ、地球ってすごいね」
ママはわたしの手をぎゅっと握って震えていた。
「これは、私が知ってる都じゃないわ。おじいさまの家はどこかしら。あの人たちに聞いてみましょう」

「タケトリノオキナ?何それ?絶滅危惧種的な?」
「イリオモテヤマネコ系?」
「なになに?見つけたら金もらえんの?」

ママはがっかりして竹やぶに戻った。
「あの人たちの言葉がわからない。都も人も、すっかり変わってしまった」
ママは竹に寄りかかって目を閉じた。
「ここは変わらないわ。竹を揺らす風も、高い竹の間から見える空も、昔と同じよ」
「ママは地球で生まれたの?」
「そうよ。優しいおじいさんとおばあさんに育ててもらったの。でも、時代は変わったのね。私が帰る家はもうないわ」

ざわざわと竹が揺れた。かすかに差し込む光が優しい。
「不思議ね。地球にいたときは月が恋しくて仕方なかったけど、月に帰ったら地球が恋しくてね。あなたが生まれてからは、おじいさんとおばあさんに一目だけでもあなたを見せたかった。なのにパパに反対されて大ゲンカ。あ~あ、もしかして、パパは知っていたのかもね。地球が変わってしまったことを」
太陽が沈んだ。青、赤、紺。地球の空って、色が変わるんだね。

「ねえママ、空に浮かんでいるあの丸いものは何?」
ママが泣きそうな顔で空を見上げた。
「月よ」
「え?あれが月?わたしたちの月?」
きれいだ。すごくきれいだ。

「帰ろうか」
ママが立ち上がった。
そのとき、竹やぶの上からひとすじの光が降ってきた。
「あっ、パパ!」
パパがふわりと降りてきた。
「お迎えに上がりました。お姫様」
「あなた…」
「君を迎えに来るのは2度目だね」
差し出されたパパの手を、ママがそっと握った。
少しほろ苦いママの里帰りは、こうして終わった。

このあと、月と地球の交流が始まって、わたしは「かぐや姫」の娘として地球に招かれることになるけれど、それは少し先のお話。
あ、地球時間では、ずっと先のお話だけどね。

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そっくりさん

「君、もしかして双子?」
M大に入学してから、やたら男たちが尋ねてくる。
「違うけど」
「M大通りのカフェにさ、君にそっくりな女の子がバイトしてるんだよ」
知ってる。何度も聞いた。見たことないけど。
「髪型も雰囲気も違うし、別人なのはわかるけどさ、とにかく顔が似てるんだよ。双子じゃなかったら、お姉さん?もしくは妹?従妹っていう説もあるな」
「一人っ子だし、そういう従妹もいないけど」
うんざりしながら答える。

どうやら、そのそっくりさんは、明るくて可愛くて、学生たちのアイドルらしい。
上京したばかりで友達もいない、暗くてダサい自分とは大違いだ。
顔が似てるって、本当かな。
ちょっと気になるけど、おしゃれなカフェなど入ったことがない。気後れしてしまう。
自分そっくりの子がニコニコ笑って接客しているなんて、想像するとぞっとする。

そんなある日、学食で一人ランチをしていたら、数人の男が近づいてきた。
「またか」と思ったら、彼らの後ろから髪の長い女の子がいたずらっぽく現れた。
ショートパンツにチェックのシャツ。モデルみたいに足が細い。
「うわあ、ホントに似てる~。ビックリ!」
彼女はゆるくカールした髪を揺らして、男たちに笑いかけた。
「M大に、あたしにそっくりな人がいるって聞いて、どうしても会いたくて来ちゃったの。ホントに似ててビックリだわ。あなたがロングヘアーだったら、きっと瓜二つね」
無邪気にはしゃぐ洗練された彼女を取り囲むファンの男たち。
何が可笑しいのかゲラゲラ笑ってムカつく。ランチが台無しだ。
「うるさいんだけど」
思わず叫んだ。
「どこが似てんの? 全然ちがうけど。はっきり言って迷惑だし」
彼女の顔が曇った。はしゃぎすぎた自分を恥じたのか、赤い顔をして「ごめん」と言った。
取り巻きの男たちも、バツが悪そうに離れて行った。
後味がすごく悪かった。

その日から、男たちが寄ってくることはなくなった。
だけど周りに避けられている気がする。
何だか居心地が悪い。
あのとき、本当はすごく似ていると思った。
だけどキラキラした彼女と自分とでは、まるで光と影だ。
だから卑屈になってあんな態度をとってしまった。

ふと思いついて、なけなしの小遣いでロングヘアのカツラを買った。
被ってみるとやっぱり彼女に瓜二つ。鏡の前でニコッと笑ってみた。
目眩がしそうなくらい似ている。
ショートパンツは持っていないけど、細いジーンズにチェックのシャツを合わせてみた。
ますます似ている。
このままカフェに行ってみようと思った。あの子に、この前のことを謝ろう。

街を歩くとみんな振り返る。アイドルってこんな気分なのかな。
カフェまで来たけれど、中に入る勇気がない。
ウロウロしていたら、突然彼女が店から出てきた。
「あなた、何してるの?」
「あ、え…っと、この前は似てないって言ったけど、カツラ被ったらすごく似てたから、それで、この前のことを謝ろうかと…」
「は?あなたバカなの?」
「え…、変かな」
「変だよ。だってあなた、男でしょ」

あっ、確かに。僕、頭おかしくなってる?
ぶっと彼女が吹きだして、僕のカツラをむしり取った。
「コーヒー飲んでけば」
彼女が笑った。やっぱり可愛い。
「僕も化粧してみようかな」
「マジでやめろ」

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