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派遣鬼 [コメディー]

「みなさん、嬉しいお知らせがありま~す。今年の豆まき会に、本物の鬼が来てくれることになりました」
わーい(パチパチ)

「ひろみ先生、すごいわね。本物の鬼を呼ぶなんて」
「うふ、実は彼氏が鬼と知り合いなの」
「いいなあ。ねえ、今度紹介してよ」
「いいわよ。赤鬼と青鬼どっちがいい?」
「やっぱり青鬼かな。優しそうだし」
「オッケー、合コン設定してもらうわ」

そして2月3日
「どうも、鬼です。お呼びいただきありがとうございます」
「あら、赤鬼をお願いしたのに…」
「すみません。赤鬼と青鬼は人気のため出払っておりまして」
「だからって…ピンクはないわ」
「すみません。白鬼と赤鬼のハーフなんです」
「まあいいわ。言っておくけど、子供はしつこいわよ。豆も容赦なくぶつけるけど、その金棒で殴ったりしないでね」
「安心してください。麩菓子で出来た金棒です」
「あら、おいしそう」

「オニは~そと」「フクは~うち」「オニは~そと」「フクは~うち」
「園児たち、楽しそうね」
「去年は私たちが鬼だったから大変だったわ」
「ホントホント、3日間筋肉痛だったわ」
「あら、私は1日で治ったわ」
「若いふりして何よ!」

「はあはあ…あの、先生。豆まき終わったんですが、子供たちが鬼ごっこをやりたいと言ってます。ふう…」
「あら鬼さんごくろうさま。本物の鬼で鬼ごっこだって。贅沢ねえ」
「お願いするわ、鬼さん、頑張って」

「さて、子供の相手は鬼さんにまかせて、海外ドラマでも見る?」
「わあ、賛成!」

「ぜーぜー…はあはあ…ふう…。終わりました」
「ああ、鬼さん、お疲れさま、こっちのドラマも今終わったわ」
「では、お会計をお願いします。オプション込みで12,000円になります」
「オプションって何よ」
「鬼ごっこです。こちらは別料金です」
「ええ~、聞いてないわよ。オマケしてよ」
「勘弁してくださいよぉ」
「だいたいね、色がピンクっていうだけで割引対象よ。ちっとも怖そうじゃないわ」
「わ…わかりました。1万円で結構です(人でなし…)」

***

「ただいま」
「あら、あなたお疲れさま。幼稚園の仕事どうだった?」
「もうくたくただよ。〝渡る世間は人ばかり″だよ」
「パパ~。見て、今日学校で人間のお面作ったよ」
「わあ、上手にできたな、鬼太郎。じゃあ、豆まきでもするか」
「うん」

「人は~そと」「オニは~うち」

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覚悟 [男と女ストーリー]

「ああ、息もしたくないほど寒い」
レイナは黒いマフラーで顔半分を隠している。
「コンビニ強盗でもするの?」
僕の問いかけを無視して歩き出す。
「コンビニじゃなかったらどこ行くの?」
答えない。

付き合って1年。一緒に暮らし始めて2か月。
一緒に暮らしてみると、レイナは気が強くてわがままで、もちろん可愛いところもたくさんあるけれど、正直振り回されることが多い。
今日だって突然「出かけるからついてきて」と無理やり起こされた。
休日くらい昼まで寝ようと思ったのに。
寒がりのレイナはやけに厚着だ。
そんなに寒けりゃ家にいればいいだろう。

レイナが立ち止まった。
病院だ。しかも産婦人科。
「え?まさか、子供が出来たの?」
「たぶん」とレイナは目を伏せた。

待合室は、当たり前だけど妊婦がほとんどだ。
僕より若い女性もいる。みんな、どこか優しい顔をしている。
レイナは僕より3歳下の26歳だ。ここに並んでいても少しも不思議じゃない。
「7週目だった」
診察から戻ったレイナが、短く言った。
「産むか産まないか、あんたが決めてよ」
投げやりな言い方だ。
「何言ってるんだよ。おまえはどうなの?産みたくないのか?」
「わからない」
「わからない?」
「自分が母親になるなんて想像できないよ。今はただ、タバコ止めなきゃとか、そんなことしか思いつかない」
レイナの肩が、小刻みに震えている。
赤ちゃんの泣き声が、どこからか聞こえた。

木枯らしの帰り道、ヒールの低い靴を履いたレイナが、やけに小さく見えた。
気が強いけど寂しがり屋で、わがままだけど素直で明るい。
僕はひとつの覚悟を決めた。

「おれも今日からタバコ止めるよ」
レイナが振り向いて、少しだけ笑った。
病院の待合室で見た、妊婦の顔みたいに優しかった。
なんだ。もう母親になってるじゃん。

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百年ノ花 [ファンタジー]

百年に一度しか咲かない花が咲いたというニュース。
郊外の植物園に、たった1本しかない古い木。
「百年ノ花」と呼ばれたその花は、今しか見ることが出来ない。
どうしても見たくて、日帰りのバスツアーに申し込んだ。

植物園は、平日なのに混んでいた。
みんな百年ノ花が目当てだ。
植物園のほぼ中央に、その木はあった。
普段はきっと見向きもされないような古い木に、今は枝も隠れそうな大きな花が咲いている。
真紅の花びらは、百年分の想いを込めて咲いたかのように凛としている

「この木を中心に、植物園が造られたと言われています」
ガイドさんが慣れた口調で説明する。
木の周りにロープが張られ、近づくことは出来ない。
人々は、我先にと写真を撮り、終わると満足してすぐに立ち去る。
だけど私は、この花をずっと見ていたかった。

「百年前も、あなたは今と変わらず凛と咲いたのでしょうね」
心の中で、百年ノ花に語りかけた。
「百年前は、きっとこんなに大騒ぎはしなかったでしょうね」
前に咲いたのは、デジカメもスマートフォンもない時代。
いっせいにカメラを向けられて、さぞかし驚いているでしょう。

そんなことを想像していたら、すっかりツアー客とはぐれてしまった。
集合時間に遅れたら大変。
私は急いで出口に向かった。

植物園を出ると、バスがなかった。
バスどころではない。車が一台もない。
アスファルトの駐車場もない。
ただ広い草原が広がっているだけだ。

出口を間違えたと思い振り返ると、植物園が消えていた。
どこまでも続く草原の向こうに、1本の木があった。
真紅の美しい花が咲いている。
百年ノ花だ。
ロープで周りを囲まれることもなく、ただ風に揺れていた。
ああ、百年前に咲いたとき、あなたが見た風景はこれなのね。
真紅の花を、私はこの目に焼き付けた。

「……さん、早くバスに乗ってください。みなさんお揃いですよ」
肩を叩かれて振り向くと、バスが目の前に来ていた。
「ああ、すみません」
現実に引き戻された。
バスの中は、にぎやかだ。
スマホで撮った写真を確認する人、ネットで流す人。
百年後は、どんな世の中になっているかしら。
私は目を閉じて、草原の風に揺れる真紅の花を想った。
百年後も、あなたは変わらず凛と咲くのでしょう。

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屋根裏のルビー [ファンタジー]

この屋根裏部屋が、わたしのすべてだ。
天窓から見える星を、マオといっしょに数えた。
10も数えないうちに、マオは寝息をたてる。
マオがすっかり眠ったのを確かめて、わたしは姿を消す。

マオはたったの7歳なのに、両親を悲しい事故で亡くした。
親戚の家に引き取られ、この屋根裏部屋を与えられた。
マオはなかなか新しい家族になじめない。
みんなでご飯を食べても、ひとりぼっちみたいに感じてしまう。
寂しいマオは、架空の友だちを作った。
それがわたし。

ルビーと名付けてもらったわたしは、マオにしか見えない幻。
だけど唯一の友だちだ。
「ねえルビー、おじさんもおばさんも、悪い人じゃないの。いとこのミキちゃんも、悪い子じゃないの。だけどね、本当の家族じゃないから、どうしていいかわからない」
マオは悲しそうに言う。大丈夫よ、マオ。わたしがいるわ。

「ねえ、ルビー、おばさんがね、セーターを編んでくれたの。ミキちゃんとお揃いなの。ミキちゃんがピンクで、マオが黄色。ホントはね、ピンクがよかったけど言えないよね。わがまま言ったらダメでしょう。だから黄色で我慢するの」
マオはそう言ったけど、黄色のセーターはマオにすごく似合っていた。

「聞いて、ルビー、おじさんがお好み焼きを作ってくれたの。紅ショウガが嫌いだって言えなかった。たくさん食べなって言われたけど、あんまり食べられなかった。悪いことしちゃったかな。おじさんに、嫌われたかな」
マオはしょんぼり、うなだれた。目をつぶって食べてごらん。案外おいしいものよ。

「おばさんが授業参観に来てくれたの。最初にミキちゃんの方に行って、それからマオの教室に来てくれたの。算数苦手だから、手を上げられなかったけどね。帰りはおばさんとミキちゃんと3人で帰ったの。ミキちゃんがずっとおばさんと手をつないでいたけど、マオはつながなかった。もう一つの手は、カバンを持っていたんだもん」
マオは左手をじっと見た。小さな手に月の灯りが差し込んだ。

「ルビー、大変。ミキちゃんがね、屋根裏部屋で寝てみたいって言うの。可愛いお部屋があるのに変だよね。それでね、今夜はお部屋を交換することにしたの。可愛いイチゴ柄のベッドに、マオが寝るんだよ。すごい楽しみ」
マオはすごくうれしそう。じゃあ今夜一晩、わたしとはお別れね。だってわたし、この屋根裏部屋を出られないもの。

その夜、マオに代わってミキちゃんが屋根裏部屋に来た。
「ふーん、せまいけどいいじゃん。マオにはもったいない部屋だ」
ミキちゃんはそう言って、机の引き出しを乱暴に開けた。
マオのノートを取り出すと、鉛筆で大きな字を書いた。
『マオのバカ ママを返せ ママは、ミキだけのママだ!!』
ああ、この子も寂しい想いをしている。ママをマオに取られたと感じている。
だけど、こんな落書きを見たらマオが傷つく。止めなければ。

「やめなさい」と、声を出してみた。
ミキちゃんの手が止まって、こちらを振り向いた。
どうやらミキちゃんにも、わたしが見えるようだ。
「え?おばちゃん?マオのおばちゃん?死んだんじゃないの?」
ミキちゃんは、怯えた顔でわたしを見た。
そうか、わたしはマオが作った幻像だから、マオの母親にそっくりなのか。
わたしは優しく微笑んだ。
「ミキちゃん、マオと仲良くしてあげてね。マオはミキちゃんが大好きなのよ」
ミキちゃんはポロポロ泣き出した。
天窓から見える星がひとつ、ミキちゃんの涙のようにすべり落ちた。
ミキちゃんが泣きつかれて眠るまで、わたしはずっとそばにいた。

翌日の夜、マオが屋根裏部屋に帰ってきた。
「ルビー、見て。ミキちゃんがノートをくれたの。昨日マオのノートを間違って破っちゃったんだって。プリンセスのノート、ずっと欲しかったんだ」
マオは浮かれていた。
「あとね、明日から一緒に宿題をすることになったの。ピアノも教えてくれるって」
よかったね。
「あとね、今度みんなで遊園地に行くの。ミキちゃんとジェットコースターに乗るの。すごいでしょう。あれ?ルビー?どこにいるの?」
ああ、ついにこの日が来た。マオにわたしが見えなくなった。
もうわたしは、マオには必要ではなくなった。

「わあ、星がきれい。ミキちゃんを呼んでいっしょに見よう」
マオはわたしのことなどすっかり忘れたように星を見ている。
それでいい。それでいいの。
「バイバイ、マオ」
そうつぶやいて、わたしは闇に消えた。

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福ネコ [コメディー]

「おめでとうございます。おたくのミーちゃんが、今年の『福ネコ』に選ばれました」
ネコの着ぐるみを来た人が、突然やってきた。
「うちのミーちゃんが福ネコ?」
福ネコは、毎年日本中のネコから1匹だけ選ばれる、『今年のネコだ』。
福ネコに選ばれたネコは、ネコ代表として1年間アイドル活動をする。
何という幸運。3年前に娘が公園で拾ったネコなのに。
飼ってあげて本当によかった。
「さあミーちゃん、今年一年、ネコ代表として頑張ってくださいね」
わかっているのかいないのか、ミーちゃんが「ニャー」と返事をした。

その日から、我が家は俄然忙しくなった。
まずはミーちゃんの取材。ネコ雑誌、女性雑誌にスポーツ紙。
テレビ雑誌の表紙まで飾った。
「はい、ミーちゃん、レモン持って。ああ、じゃれちゃダメ。もう、かわいいなあ」
ネコカフェのイベントにも引っ張りだこ。
握手会ならぬ「抱っこ会」は大盛況。
2月22日のネコの日は、テレビでトップアイドルと共演もした。
CMも3本決まり、テレビで見ない日はないほどだ。
ファンから毎日のように高級ネコ缶が贈られた。
エサ代は助かるけど置き場に困る。

「12月までスケジュールがいっぱいね」
「最後の仕事はやっぱり紅白か?」
「ミーちゃんはメスだから、紅組の応援ね」
「今から衣装を作ったほうがいいかしら」
「さあ、明日はバラエティー番組2本よ」

人気のうらはら、ミーちゃんは疲れていた。
ストレスが溜まってイライラして暴れた。
「たまにはストレス発散させよう。夜のお散歩に行っておいで」
そう言ってミーちゃんを送り出した翌日のことだった。
ミーちゃん初の熱愛スキャンダル記事が出た。
『福ネコミーちゃん、路上で交尾』
マネージャーが青い顔でやってきた。
「どういうことです?どうして外に出したんですか」
「最近忙しかったから、ちょっとお散歩に行かせただけよ。こんなことになるなんて」
「これはまずいですよ。イメージダウンです。CM打ち切りになりますよ。どう責任を取ってくれるんですか」
「じゃあ、ネコ違いってことで、とぼけちゃいましょう。三毛猫なんてどこにでもいるでしょ。この写真のネコは、ミーちゃんじゃないわ」
「では、そういうことにしましょう」

会見を開いて、熱愛を全否定したのもつかの間、ミーちゃんが妊娠した。
「もうだめですよ。妊娠中のネコは気が荒いんです。仕事は無理です」
半年で契約を切られた。賠償金を請求されないだけいいと言われた。

「ああ、せっかくの福ネコ生活が水の泡だ」
「ドラマの話もあったのにね」
「そのうち、『あのネコは今』って番組に出るかもね」
「いいじゃないの。こんなかわいい子ネコが生まれたんだもの」
ミーちゃんは、福ネコを引退して5匹の子供を産んだ。
今ではすっかりお母さんだ。
「あ、ねえ、ベビー用品のCMなんかどうかしら。さっそくマネージャーに電話を…」
「ママ!福ネコはもう終わり」
「あ、そうだった」

さてさて、子ネコたちのエサ代を稼ぐために、私もパートに出ようかな。
なにしろあれ以来、ミーちゃんは高級ネコ缶しか食べないんだもん。

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視線上のY [公募]

私の夫は、姉の婚約者だった。
略奪愛と呼ばれる私たちの恋愛は、双方の家族にとっては殺人よりも重罪だ。
激しい非難を受け、理解されぬまま、家族も故郷も捨てた。

夫とふたり、遠くの町でゼロからのスタート。
夫は小さな町工場で働き、私は近くのスーパーで働いた。
生活の何もかもが変わったけれど、ふたりでいれば幸せだった。

あるとき、Yの視線に気づいた。
Yは、近所に住む四十代の主婦で、何かを感じて振り向くと、必ず私を見ている。
ぞくっとした。その目は、私たちを軽蔑して非難した家族の目に似ていた。 
「ご主人とは、どこで知り合ったの?」
ゴミ捨てのついでに行われる井戸端会議で、誰かが私に話しかけた。
「合コンです」と答えた。早く話を切り上げるために用意した答えだ。
「あら、今どきの若い人は、そうよねえ」
数人がクスクス笑う中、またあの視線を感じた。
Yが、こちらを見ている。
唇をゆがめ、蔑むような、憐れむような視線を向けている。
やはりこの人は、私たちのことを知っている。

主婦たちの輪を抜けて、急いで家に帰り、夫の胸にすがった。
「私たちのことを知っている人がいるわ」
「まさか。こんな町で」
「三軒先のYさんよ。あの人、お姉ちゃんの知り合いかしら。怖いわ」
「落ち着いて。僕たち、何も悪いことをしてないよ。出会ったのが遅かっただけだ」
夫が優しく背中を撫でてくれた。少し気持ちが楽になった。

出会いは、姉の婚約パーティだった。
パーティと言っても親族だけのホームパーティで、私は初めて会った彼に、信じられないほどの運命を感じてしまった。彼の方も同じだったらしく、私たちは急激に恋に落ちた。
私たちの関係を知った姉は、大きな目に涙をためて、「どうして?」と繰り返した。
「どうして、どうして」と狂ったように叫び、どんなに視線を外しても、姉の目はどこまでも私を追いかけた。責めるような、蔑むような、憐れむような目だった。

木枯らしが吹き始めた。この町に来て、初めての冬だ。
仕事を終えて帰ると、アパートの前にYが立っていた。
「あら、お帰りなさい」
不審に思いながらも、ぺこりと頭を下げた。
「何か御用ですか」
「これ、ちょっと作りすぎちゃったからおすそわけ。レバーは嫌いかしら?」
タッパーに入った黒い物体。レバーを甘辛く調理したものだとYは言った。
私は、急に吐き気を感じてYを振り払って家に入った。

「待って、奥さん。私、知ってるのよ」
背中にYの声を聞いた。やっぱりYは、私たちのことを知っている。
レバーは夫の好物で、姉がよくこんな料理を作っていた。
家族や姉の目から逃げて、こんな遠くまで来たというのに。
西陽が差し込む狭いキッチンで、私は肩を震わせてしゃがみこんだ。

それから、体調のすぐれない日が続いた。外に出るのが怖い。Yの目が怖い。
Yは密かに姉と連絡を取っているかもしれない。
『あんたなんか、絶対幸せになっちゃいけないのよ』
Yの目と、姉の目が交互に現れる。
『家族にも世間にも背いた人が、平穏に暮らせるはずがないでしょう』
目眩がして、このところ寝てばかりだ。
最初は優しかった夫も、散らかった部屋でうんざりしたようにため息をつく。
「僕だって慣れない仕事でくたくたなんだよ」
苛立ちながら洗濯物を取り込む。ごめんなさい。
こんなはずじゃなかったのに。きっと罰が当たった。
私は暗い部屋で、ただただ泣いていた。

いくらか暖かい午後だった。隣の奥さんが、回覧板を持ってきた。
「顔色悪いわね。大丈夫?」
優しい言葉にも、ただ頷くだけだ。
「そういえば、Yさんに聞いたんだけど……」
ぎくりとした。もう終わりだ。Yはきっと近所中にふれ回った。
私が姉の恋人を奪った恐ろしい女だと。
姉の目が、こんな遠い町まで追いかけてきた。
ふらふらと倒れそうな身体を隣の奥さんが支えてくれた。

「やっぱりあなた、妊娠してるのね」
「妊娠…?」
「Yさんが言ってたの。あの人、子だくさんだから、そういうのわかるのよ。ずいぶん心配してたのよ。貧血じゃないかって」
妊娠……。そういえば思い当たる節がある。
大きく息を吐いて、お腹に手を当ててみた。小さな温もりを感じた。
顔を上げたら、冬の日差しに洗濯物が揺れていた。
三軒先のベランダで、Yさんが優しい瞳で私を見ていた。

*****

公募ガイドTO-BE小説工房で、落選だった作品です。
テーマは「そこはかとない不安」
最優秀作品を読んで、ああ、こういう風に書けばよかったのかと納得。
テーマの意図を、きちんと理解していなかったのかもしれません。
あ~、一度でいいから最優秀取ってみたい。応募数も多いから、難しいですね。
でも、頑張ります!!

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天使のお年玉 [ファンタジー]

あけましておめでとうございます。

お正月だけど、なんだか暖かいわね。まるで春だわ。
…と思ったら、空から白いものがふわりと落ちてきた。
え?まさか雪?
手のひらにのせても溶けない。
とても甘い匂いがする。おいしそう。
口に入れたら舌の上でほろりと溶けて、何とも言えない上品な甘さが広がった。
「おいしい。もっと食べたい」
上を見たら、羽根のある小さな生き物がしくしく泣いている。

「もしかして天使?なぜ泣いているの?」
「神様からもらったお年玉を落としちゃったんだ」
「どんなお年玉?」
「ふわふわした甘いキャンディだよ。知らない?」
「さ…さあ?知らないわ」
困った。まさか食べちゃったなんて言えない。

「神様に、もうひとつもらえばいいじゃない」
「だめだよ。お年玉はひとり一個だもん」
「神様なのに意外とケチね。お年玉がアメ玉一個なんて」
「ただのキャンディじゃないもん。食べたら願いが叶うキャンディだもん」
「え?そうなの?」
「世界平和を願おうと思ったのに」

正月早々縁起がいいわ。
だって食べた私の願い事が叶うってことでしょ。
世界平和も大切だけど、やっぱり彼氏が欲しいな。
それとも、一生贅沢できるお金にしようか。
ゲットし損ねたブランドの福袋も捨てがたい。
「ねえ天使さん、もしもキャンディを食べたとしたら、どうやって願いを叶えるの?」
「願い事を3回唱えるの。大きな声でね。まさか君、食べたの?」
「ま、まさか。興味本位で聞いただけよ。雪みたいなキャンディなんか知らないわ」
「雪みたいなキャンディなんて言ってないけど。あやしいな」
ヤバい。逃げよう。

「待ってよ。ねえ、本当に食べてない?ぼくのキャンディ」
「知らないってば」
「ねえ、食べたなら世界平和って3回唱えてよ。たのむよ」
「いやよ。だって私、欲しいものがいっぱいあるんだもん」
「やっぱり食べたんだ。ねえ、変なお願いしないでよ。神様に怒られちゃう」
ああ、もうウザい!このちび天使、追い返そう。

「あの、天使さん、私忙しいからもう帰って」
「え?」
「もう帰って」
「え?」
「もう帰って!」
あっ、消えた。さて、じゃあ、願い事を…はっ、しまった。
「帰れ」って3回唱えちゃった!

『やれやれ。人間は欲深いな。あ、そこのあなた。もしも白くてふわふわした雪みたいな甘いキャンディが落ちて来たら、世界平和を願ってね』

*****
改めまして、あけましておめでとうございます。
気づけばもう6日ですよ。
ようやく落ち着いてパソコンを開けました。
4日から仕事だったので、せわしない正月でした。
ぼちぼちペースを戻していきます。
今年もどうぞよろしくお願いします。

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