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次女の恋 [男と女ストーリー]

三姉妹は、幼いころから両親に言われ続けた。
「三人のうち、誰か一人はお婿さんをもらってね」
姉妹は当然、長女の和子が婿をもらって家を継ぐと思っていた。
しかし和子は、アメリカ留学中に知り合った日系三世のアメリカ人と結婚してしまった。
家を継ぐどころか、日本にさえいない。

続いて三女の美佐子が、勤め先の銀行で大会社の御曹司に見初められて結婚。
玉の輿だから、親も大賛成だった。
残ってしまった次女の二美子は、婿を取ることを余儀なくされた。

合コンに行っても「あなたは次男ですか?」と、まず聞かなければならない。
会社の男性社員とは迂闊に付き合えない。
婿に入れないと知り、別れたときに会社に居づらい。
そんなこんなで二美子は、気づいたら彼氏いない歴32年。
姉と妹にはすでに可愛い子供がいるのに。
貧乏くじを引いたと、夜ごと枕を濡らす二美子。
見かねた両親が見合いの話を持ってきたけれど、一度も恋愛しないまま結婚するのは嫌だった。

そんなとき、街を歩いていた二美子が、若い男にナンパされた。
初めての経験だ。
「おねえさん、めっちゃタイプなんだけど、俺とお茶しない?」
「何コイツ」と二美子は思ったけれど、条件反射で聞いてしまった。
「次男ですか?」
「六男っす。六人兄弟の末っ子」
「うそ!お兄さんが5人も? 素敵!そういう人を探していたの」
「え?」
「じゃあ行きましょう」
二美子は男の腕を取って歩き出した。
「いや、マジでお茶だけっすよ。結婚とかしませんからね」

男は27歳。チャラチャラして見えるが実は公務員。
市役所の苦情処理ばかりしているせいでストレスがたまり、休日は羽目を外してチャラ男を演じている。
押しに弱いタイプで、すっかり二美子のペースに乗せられている。

一方、二美子はこの人を逃したら後がないと思っていた。
男は意外と真面目だったし、顔もなかなか好みだった。
3度目のデートで家に招いた。
「まあ、六男ですか。それは素晴らしい」
「二世帯住宅にリフォームしようと思うんだが、どうかね?」
「あなたの家になるんだから、そんなにかしこまらないでね」

トントン拍子に話が進む中、男は大切なことを言い出せずにいた。
「ああ、5人の兄貴、みんな婿に行っちゃったんだよな~」

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愛しのベジタブル [コメディー]

僕はひどいあがり症だ。
人前で話すだけで顔はまっ青、足はガクガク、声は1オクターブ高くなる。
そんな僕が、留学先の高校の演劇大会で、主役に抜擢されてしまった。
「先生、無理デスヨ。ボク留学生ダシ、日本語モ下手デス」
「大丈夫だよ。セリフ少ないから」

本番の日、やっぱり無理だと先生に訴えた。
「緊張シテ、上手ク出来マセン」
「客を全員野菜だと思えばいいよ。ほら、かぼちゃとかキャベツとか」
「無理デスヨ。ダッテ人間ダモン」
「じゃあ、人が野菜に見えるおまじない、教えてやろうか」
「ソンナモノガ、アルンデスカ?」
「あるよ。先生の後に続いて唱えてみなさい」
先生は高らかに声を張り上げて「エブリバディ・ベジタブル」と、何ともベタな呪文を唱えた。
僕も背に腹はかえられないので、同じように呪文を唱えた。
「エブリバディ・ベジタブル、エブリバディ・ベジタブル」

すると、目の前の先生が突然ピーマンになった。
小道具を運ぶ女子はダイコン、演出の男子はゴボウ。
「スゴイデス、先生」
「よし、じゃあ頑張れ」

おかげで舞台は大成功だった。何しろ客席にはカボチャやサツマイモやニンジンがいるだけだ。少しもあがらない。
劇は大成功。僕たちのクラスは最優秀賞をもらった。

ところが、舞台を降りてもずっと、魔法が解けない。
ホームステイ先のおばさんはキュウリ、おじさんはジャガイモだ。
「今日の舞台よかったわよ。おばさん感激しちゃった」
「なかなか堂々とした演技だったぞ」
「アリガトウ」と言いながら、キュウリとジャガイモに言われてもな…と思った。

翌日も魔法は解けない。
先生は相変わらずピーマンのままだ。
ピーマンの授業は何だか中身がない。
となりの席の山田君は玉ネギ。
見ているだけで涙が出る。
いちばん人気のエリカちゃんはトマト。
学級委員は頭でっかちのカリフラワー。
みんな野菜だから、発表もぜんぜん緊張しない。

だけど困ったことに、野菜が食べられなくなってしまった。
ホームステイ先の家族はベジタリアンだから、食卓は野菜料理ばかり。
「ジャガイモをすりつぶしたスープよ」
と言われると、おじさんの顔を見てしまう。
キュウリのサラダはおばさんが身を削っているようで切なくなる。
耐えられなくなって、故郷のママに連絡した。
「ママ、このままじゃ僕、栄養失調になっちゃうよ」
「まあ可哀想。だから留学なんて反対だったのよ。すぐに帰ってきなさい」

そんなわけで僕は、志半ばで故郷に帰ることになった。
「故郷に帰っても、私たちの顔を忘れないでね」
クラスメートは言うけれど、人間だったころの顔はもはや憶えていない。
それでも別れは悲しいもので、涙をこらえて宇宙船に乗り込んだ。
故郷の『ナスビ星雲第3惑星のナガナス星』に向けて全速力だ。
地球人との交流って、なかなか難しかったな。


「ナスビ君、帰っちゃったね」
「演劇大会のゾンビ役は最高だったな。メイクしなくても顔が紫だったから」
「茄子を見るたびにナスビ君を思い出すわ」

ホームステイ先では…
「ナスビくんが帰ったから、心置きなくナスが食べられるわね」
「今日は、焼き茄子とマーボ茄子にしよう!」

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雨男・晴れ男 [男と女ストーリー]

初めてのデートは雨だった。
私は雨女じゃないから、もしかして彼が雨男?

「ごめん、おれ、究極の雨男なんだ」
やっぱり…。
それから彼とのデートはいつも雨。
遊園地もドライブも、公園デートも旅行もすべて雨。
それでも彼は優しくて、一緒に過ごす時間は楽しかった。

1年後、彼から突然のプロポーズ。
嬉しかったけど、ふと考えてしまった。
彼と結婚したら、間違いなく結婚式は雨だ。新婚旅行も雨。
私はいいけれど、子供が生まれたらどうだろう。
家族でお出かけ、入学式、運動会、すべて雨。
ちょっと可哀想じゃないかしら。

迷って返事を先延ばしにしていたところに、突然現れた晴れ男。
取引先のエリート社員が、私に急接近。
恋人がいるからと断り続けたけれど、グイグイ来られてついにデートをすることになった。
彼は究極の晴れ男。
デートは素晴らしいお天気で、青空の下でテニスやバーベキュー。
ああ、やっぱり私、アウトドアが好き。
結局私は、雨男と別れて、晴れ男と付き合うことにした。
晴れ男とのデートは、いつも晴れだった。
降水確率70%をも覆す力がある。
イケメンだし、遊びも上手でお金持ち。
半年後、妊娠がわかって出来ちゃった結婚。
結婚式はもちろん最高のお天気だ。

しかし晴れ男は、釣った魚にエサをやらない主義だった。
家庭を顧みず、外で遊んでばかり。
社交的な彼は友達が多い。
子供が生まれてからは、子育てに協力するどころか「泣き声がうるさい」と、ますます出かけることが多くなった。
やがて浮気が発覚。
慰謝料がっぽりもらって離婚した。
もちろん、離婚した日も晴れだった。

つまらないことで人生を間違えた。
まさか私がシングルマザーになるなんて。
息子は可愛い。この子の成長だけが私の生きがい。

息子は、父親に似て晴れ男だ。
幼稚園の入園式、遠足、おゆうぎ会、運動会、すべて晴れ。
そして年長になり、幼稚園最後の運動会に、初めて雨が降った。
朝からずっと晴れていたのに、年少組のかけっこが始まるころ、突然雨が降り出した。
テントや建物の軒下にみんなが避難して、恨めしそうに空を見上げた。
するとひとりの男が、雨が降りしきる園庭に立ち、「すみません」と頭を下げた。

彼だった。好きだったのに、つまらない理由で結婚を迷った究極の雨男だ。
「僕のせいで雨が降りました。みなさん、すみません。僕は究極の雨男だから、こんな楽しい日にここへ来てはいけなかった。だけどどうしても、息子が走る姿をひと目見たくて」
雨男の彼が深々と頭を下げる。
彼の妻と思われる女性が、彼の隣に走り寄り、一緒に頭を下げた。
「主人が雨男でごめんなさい」
どっと笑い声が沸き上がる。怒っている人など誰もいない。
やっぱり彼は素敵な人だ。
優しそうな奥さんと、照れたように笑っていた。

雨雲とともに去っていく彼の背中を見送ると、苦い後悔が心を支配した。
バカだったな、私。あの奥さんのように、彼を受け入れればよかったのに。
雲の切れ間から陽が射して、子供たちが園庭に戻っていく。
息子がふと立ち止まり、「ママ」と叫んだ。
「ママ見て、虹が出てるよ」
園庭を包む大きな虹を背に、息子が最高の笑顔を見せた。
「うん、きれいだね」
ああ、この可愛い晴れ男を、ずっと愛していこう。
心の靄が、すっかり晴れた。

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私が人魚になる日 [ファンタジー]

ママは海の、ずっとずっと深いところにいる。
幼いころ、パパが話してくれた。
私のママは人魚だと。
魔法で人間になったママは、パパと出会って一緒に暮らした。
だけど私を産んでまもなく、元の人魚に戻ってしまった。
「魔法が切れてしまったんだ」
「ママはどこにいるの?」
「海の底の人魚の国で、きっと幸せに暮らしているよ」
そう言ったパパの顔がすごく寂しそうだったから、私はその日以来、ママの話をしていない。

海を眺めながらふと思う。
いつか私も人魚になるのかな。
この足に、七色に輝くうろこが生えてくるのかな。
そうしたら、ママが住む人魚の国へ行けるのかな。
だけど私までいなくなったらパパは悲しむだろうな。
そんなことを毎日毎日考えていた。

小学校へ上がり、水泳の授業が始まった。
私はなんと、まったく泳げなかった。
海辺の町で生まれたというのに。しかも母親が人魚なのに。
どうしたわけか、顔に水がかかっただけでパニックになってしまう。
毎日見ている海なのに、怖くて仕方ない。
どうしよう。もしもうろこが生えて人魚になったら、私溺れて死んでしまう。
こうなったら、人魚にならないことを願うしかない。

日曜の昼下がり、防波堤で釣りをするパパの隣で、いつものように海を見ていた。
「釣れないなあ。帰りに魚正で魚買っていくか」
「それならハンバーグがいい」
「真凛(まりん)は肉が好きだな。海辺の町で育ったのに」
だって共食いはいやだもん。心の中でつぶやいた。

パパが突然立ち上がった。
パパの視線の先には、白い日傘をさした女の人。
茶色の髪に派手な化粧をしている。
「夏美!」
パパが叫んだ。
「帰ってきてくれたのか!」
女の人が、日傘をくるくる回してパパに笑いかけた。
「だれ?」
「真凛、ママだよ。ママが帰ってきたんだ」
パパは、この日をずっと待っていたような、最高の笑顔でその人を迎えた。
女の人は不思議そうに私を見降ろした。
「うそ、真凛? うわ、子供って10年でこんなに大きくなるのね」
海の底から来たのだろうか。私は思わずその人の足を見た。

「あの、また魔法で人間になったんですか?」
「はあ? 何言ってんの、この子」
「だって、ママは人魚なんでしょう?」
「ぶは、ウケるんだけど、何、この子?」
パパが困ったように頭を掻いた。
「そういえば真凛が小さいころ、ママはどこにいるか聞かれて、人魚の国にいるって作り話をしたことがあったな」
「作り話?」
「やだ、相変わらずロマンチストね。まあ、もっとも本当のことは言えないわよね。子供を捨てて東京に行ったなんてね」
「捨てた?」
「だって、あたし18だったのよ。こんな田舎で一生終えるのかと思ったら耐えられなくて。でもね、都会なんて10年も暮らせば充分。なんだか海が恋しくなって帰ってきちゃった」
あっけらかんとした態度。こんな人ママじゃない。
私はその人を、思い切り海へ突き落した。

両手をばたつかせてもがくあの人。水しぶきが泡みたい。
無様だ。どうみても人魚じゃない。
「何するんだよ。夏美は泳げないんだぞ」
パパが上着を脱いで海に飛び込んで、あの人を助けた。
ずぶ濡れのあの人は、ゼーゼーと荒い息を吐きながら私を睨んだ。
「何するのよ。あたしは顔に水がかかっただけでパニックになるのよ」
あ…私と同じ。
つけまつげが取れて少し優しくなった顔には、私と同じほくろがある。
やっぱりママなのか。

私は持っていたピンクのタオルを投げてあげた。
「あんた、あたしに似て気が強いわね」
ママが笑った。隣でパパがオロオロしている。
この人と、ちゃんと家族になれる自信はあまりない。
だけど人魚になって溺れ死ぬ心配は、とりあえずなくなった。

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TO-BE小説工房 最優秀! [公募]

やっと…ついに…選ばれました!

公募ガイド「TO-BE小説工房」で、最優秀をいただきました。
第14回ではじめて。
自分の名前を見たときは。小躍りしたい気分でした。
250編もの応募があった中での最優秀。
本当に嬉しかったです。
まさかドッキリじゃないよね(笑)

課題は「影(陰)」でした。
やっぱりホラーかな と思い、少し不思議で怖い話を書きました。
ここで紹介することはできませんが、公募ガイド6月号に載っています。
よかったら、読んでみてくださいね。

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童話コンテストも応募しましたが、こちらは撃沈でした。
これからも、いい報告が出来るように頑張っていきたいです。

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お子様ランチ卒業式

パパと会うのは、いつも同じレストラン。
ピンクのテーブルクロスの真ん中に、可愛いキャンドル。
パパとママが仲良しだったころに、3人で行ったレストラン。
わたしはいつもお子様ランチを注文した。
小さなハンバーグとエビフライ。ニンジンは星の形で、ハートの容器に入ったコーンサラダとリンゴのゼリー。
プレートには夢がいっぱいで、パパとママも笑顔がいっぱいだった。

パパとママが離婚して、4年が過ぎた。
ママと暮らすことになったわたしは、月に一度パパと会う。
いつも同じレストランなのは、わたしがこの店のお子様ランチが好きだから。
…と、パパが思い込んでいるから。

正直もう、お子様ランチを食べるほど子供じゃない。
焼肉やお寿司の方がずっと好き。
だけどパパが嬉しそうにお子様ランチを注文するから、言えずにいる。
「ユイ、学校はどうだ」
「うん、まあ、ふつう」
「ふつうってなんだよ。いろいろ教えてくれよ」
パパの話はいつも同じ。ちょっとうんざりする。
「好きな男の子はいないのか」
うざい。いたとしても言うわけないでしょう。
そろそろ月に一度じゃなくて、3か月に一度、もしくは半年に一度くらいでいいかな…と思う。

食事も終わりに近づいたころ、パパが急に神妙な顔をした。
「ユイ、じつは今日、ちょっと話があってさ」
「なに?」
「うん、じつはパパ、再婚することになって」
はにかむような顔で、パパが言った。
「もちろん、再婚してもパパはユイのパパだ。何も変わらない。だけど、再婚相手の女性には、8歳の女の子がいてね」
「8歳…」
パパとママが離婚したときの、わたしの年齢。
「うん。だから、パパはその子の父親になる」
「ふうん」
「ちょっと体の弱い子でね、空気がきれいな田舎に引っ越して、一緒に暮らすことになったんだ」
「ふうん」
「だから、その…、今までのように、ユイに会えないかもしれない。いや、もちろん、ユイが望むなら、パパはいつでもユイの力になるよ。でも、月に一度の面会は、ちょっと無理かもしれない」
ふうん…。

「いいよ。わたしも中学受験で忙しくなるし、ちょうどよかった」
「中学受験するのか。大変だな」
「べつに、ふつうだし」
「またふつうか。今どきの子はふつうが好きだな」
パパが笑った。

「デザート食べるか?」
「いらない。わたし、コーヒーがいい」
「コーヒーなんか飲むの?」
「うん。家でママと飲んでるよ。甘いジュースより、ずっと好きだもん」
「そうか。もう、お子様ランチも卒業だな」
パパは、少し寂しそうに笑った。

強がって飲んだコーヒーは、やっぱり苦かった。
それでも精一杯大人のふりをした12歳のわたし。
なんとなく寂しくて、なんとなく悔しくて、「おいしかった」と言えなかった。
最後のお子様ランチだったのに。

街は鮮やかな緑であふれ、手作りのこいのぼりをかざした子供が通り過ぎた。
迎えに来たママに見られないように、帽子でそっと涙を隠した。
パパと過ごした最後の日、わたしはお子様ランチを卒業した。

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