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ミス白雪姫 [名作パロディー]

白雪学園高等部では、毎年恒例の『ミス白雪姫コンテスト』を迎えようとしている。
目下2連覇の白雪姫子は、3年生の生徒会長。
美人で頭がよく、しかも理事長の孫娘であった。
「今年もわたくしがミスの座を射止めますわ」

姫子は鏡を見ながらいつも問いかける。
「この学園で、いちばん美しいのは誰かしら?」
「はい、もちろん姫子さんです」
鏡が答えるわけはなく、取り巻きの生徒会役員が代わりに答えるのである。

そんなある日、姫子が廊下を歩いていると、
「小雪ちゃん、めっちゃ可愛いよな」
「見つめられただけでメロメロだよ」
と話す男子学生に遭遇した。
「ちょっとあなたたち、小雪って誰ですの?」
「1-Eに編入してきた白浜小雪だよ。色が白くて目が大きくて、唇がふっくらで超カワイイ!」
これはうかうかしていられないと、姫子は1-Eの教室に向かった。

「ちょっと、白浜小雪さんってどなたかしら」
ざわめく教室で、ひときわ輝く美少女が立ち上がった。
「生徒会長どの。拙者が白浜小雪でござる。以後お見知りおきを」
小雪は、時代劇で日本語を学んでいる帰国子女であった。
「変わった方ね。まあいいわ。あなた、ミス白雪姫コンテストに出場する気はあって?」
「何でっか?白雪姫コンテストゆうのは」
小雪は、上方落語でも日本語を学んでいた。
「学園一の美女を決めるコンテストですわ」
「そんなもん出るかいな。興味あらへんわ」
「あらそう」
「だいたい女性をランク付けするなんざ、許せねえ。たとえお天道様が許しても、この白浜小雪が許さねえ」
「つくづく変わったお方」

姫子が背を向けると、クラス中の女子が呼び止めた。
「生徒会長、小雪ちゃんの言うことはもっともです。どうして女性だけをランク付けするんですか?」
「それなら男子もやりましょうよ。ミスタープリンスコンテストなんてどうですか?」
「あ、それいい。ミス白雪姫とミスタープリンスはカップルになって壇上でキスするの」
「キャー、それ素敵。やりましょう、生徒会長」

ミスタープリンス?
姫子は考えた。ミスタープリンスといえば、間違いなく2-Aの王子君だ。
王子君と壇上でキス?胸キュンの少女漫画みたいだ。
「やりましょう」

ということで、今年はミス白雪姫とミスタープリンスコンテストが行われることになった。
姫子は立候補。小雪は多くの推薦を受けて出場することになった。
「本場ベルギーのチョコレートよ。さあ召し上がれ。これを食べた方は、白雪姫子に投票なさってね」
姫子が着々と根回しをする中、小雪は何もしなかった。
相変わらず時代劇と上方落語で日本語を学ぶ毎日であった。

コンテスト当日、思った以上に小雪が優勢であることを知った姫子は、取り巻きたちに命令して、小雪を初等部の体育倉庫に閉じ込めた。
会場にいなければ棄権とみなされるからだ。
「てめえら、こんなことしてただで済むと思うなよ。叩き切ってやる!」
どんなに叫んでも、外から鍵をかけられて開けることが出来ない。

一方、ミスタープリンス間違いなしの王子君は、日課であるジョギングをしていた。
彼はサッカー部のエースなので、日々体を鍛えているのである。
初等部の前を走っていると、7人の小学生が体育倉庫の前で困っていた。
「君たちどうしたんだい?」
「あのね、この倉庫の中に誰かいるみたいなの。だけど鍵がなくて開けられないの」
「職員室にも鍵がないんだ。だからね、僕たち石で鍵を壊そうとしていたの」
「ふーん。南京錠か。よし、おにいさんが壊してあげよう。子供じゃ無理だよ」
王子君は大きな石を振り下ろして鍵を壊した。
中には、泣き疲れた小雪がマットの上で寝ていた。
「お姫様みたい」「めっちゃきれいな人」
「この人、1年の白浜さんだ。たしかコンテストに出ていたな」
王子君はようやく、コンテストのことを思い出した。そうだ、俺も出ていたんだ。

コンテスト会場では、投票が終わり、発表が始まった。
「ミスタープリンスは、圧倒的な得票数で、2-Aの王子君です」
「すみません。王子君はトレーニング中です。もうすぐきます」
姫子が「もう少し待ってあげて」と言ったものだから、しばらく中断となった。

「遅くなりました」
爽やかな笑顔で王子君が走ってきた。
その後ろにぴったりと寄り添う白浜小雪。手までつないでいる。
「あ、ちょうどよかった。改めて発表します。ミスタープリンスの王子君、そして、ミス白雪姫の小雪ちゃんです」
拍手喝采で迎えられたふたりに、姫子の怒りはマックスになった。
「何よ、遅れてきたくせに。無効だわ」
手を振りあげた瞬間、体育倉庫の鍵が落ちた。
すべての悪事がばれた姫子は、祖父である理事長に、こっぴどく叱られることになる。

「さあ、ミスとミスター、壇上でキスを」
「あっ、おれ、もうしちゃった」
「え?」
「寝顔があまりにも可愛かったから」
まさに王子様のキスで目覚めた白雪姫だ。

「白浜小雪さん、ひとことお願いします」
「ごっつあんです」
相撲でも日本語を学んでいる小雪であった。

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小犬のワルツ

白い壁の大きな家。レンガの塀伝いに歩くと、ピアノの音が聴こえてきた。
『小犬のワルツ』だ。学校の音楽鑑賞で聴いたことがある。
ひとことで言えば、可愛い音だった。
ところどころつまずくことはあっても、音が外れることはない。

小学校の帰り、僕は必ずそこを通った。
通るたびにピアノが聴こえた。
日に日に上手になっていくピアノの音に、僕は誇らしささえ感じた。
いったいどんな子が弾いているのだろう。
僕は想像した。
きっと可愛い女の子だ。髪が長くて頬がピンクで、白いワンピースを着ている。
そしてカスミ草みたいに優しく笑うんだ。

時おり母親らしき声がする。
「もっとゆっくり」とか、「丁寧に」とか厳しい声が聞こえる。
「はい」と返事をする小さな声は、たぶん彼女のものだ。
母親の指導の成果か、彼女のピアノは実に美しい音を奏でるようになった。
こんな大きな家だから、きっと私立の小学校に通っているのだろう。
セーラー服が眩しい、丘の上の小学校。
いつかどこかで、会うことができればいいのだけれど。

ある日、レンガの塀の向こうから、厳しい声が聞こえてきた。
「何やってるの。何回言えばわかるの?指が全然動いてないじゃないの」
泣き叫ぶ声と、乱れるピアノの音。
「練習が嫌ならやめなさい!」
ますます泣き叫ぶ彼女。
可哀想に。僕は何とか助けたいと思った。

路肩の石をにぎりしめ、塀の中に思い切り投げ込んだ。
激しい音を立てて窓ガラスが割れた。
悲鳴が聞こえて、母親の関心がピアノから離れた。これでいい。
僕は、彼女を救った。ガッツポーズをして、すぐにその場を離れた。

翌日から、違う道を通るようにした。
彼女を救ったとはいえ、窓ガラスを割るのは犯罪だ。
ピアノの音が聴けないのは残念だけど、しばらくは我慢しよう。
そして季節がひとつ過ぎたころ、再び彼女の家の前を通ったが、ピアノの音は聴こえなかった。

季節が流れ、僕は大学生になった。
高校からギターを始め、同じ学部のやつらとバンドを始めた。
ボーカルの修二とは高校からの付き合いだ。ベースの達也とドラムの健司は大学で一緒になった。
「キーボードがいれば」ということになり、近くの音大の女子をスカウトした。
修二の知り合いだという千春ちゃんは、すごく清楚な子だった。
弾いてみてと言ったら、彼女はキーボードで『小犬のワルツ』を弾いた。

あれ? と僕は思った。
遠い昔、小学校の頃に聴いたあのピアノにすごく似ていた。
「千春ちゃん、家って東京?」
「そうだよ」
彼女が言った住所は、思った通り僕の家の近くだった。
「レンガの塀?」
「そうだけど」
間違いない。僕が想像した通りの女の子に成長している。

「君のピアノ、いつも学校帰りに聴いてたんだ」
「うそ、恥ずかしいな」
「だんだん成長していくのが嬉しくてさ。音大でピアノ続けてるんだね」
僕は嬉しくなって、ついあの日のことも話してしまった。
「千春ちゃん、お母さんにすごく怒られたことがあったでしょう。憶えてるかな。家に石が投げ込まれたことがあるでしょう。あれ、俺がやったの。怒られている君を救うためにさ」
「え?」
千春ちゃんが首を傾げた。

代わりに立ち上がって奇声を上げたのは修二だった。
「おまえだったのか!」
はっ?
「おまえが投げた石が腕に当たって、ピアノコンクールに出られなかったんだ。おかげで俺はピアノをやめたんだ」
「修二…、お前の家って…」
「レンガの塀、コンクールで弾くはずだった曲は、小犬のワルツだ!」

ピアノをやっていたとは思えないゴツイ手で一発殴られて、おまけに千春ちゃんが修二の彼女だと知りダブルパンチ。
ああ、ショパンに罪はないけれど、小犬のワルツは二度と聴きたくない。

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早起きは三文の徳

「ひろき、散歩に行くぞ」
じいちゃんに無理やり起こされた。
「なんだよ、まだ5時半じゃないか」
「早起きは三文の徳っていうじゃないか」
「なんだよ、それ。昔のお金?いくらだよ」
「わしも知らん」

半分寝ぼけながら、じいちゃんについていく。
じいちゃんは昼寝が出来るからいいけど、僕は中学生だぞ。
授業中に居眠りしたらどうするんだよ。

まだ早朝なのに、歩いている人は意外と多い。
「おはよう、あら、若いのに早起きでえらいわね」
大概の人が笑顔で僕に声をかけていく。
「ほらね、ひろき、いいことあるだろう?」
「別に、得した気はしないよ」
「早起きすると、ご飯がおいしいぞ」
「僕はいつ食べたっておいしいよ」

走っている人もいる。
「朝からあんなに汗かいて嫌じゃないのかな」
「わしも昔はよく走ったさ。今じゃ足腰が弱ってかなわん」
「いや、じいちゃん、僕を叩き起こすくらいだからまだ元気だよ」
「ははは、ひろきと歩くのも久しぶりだな」
「まあ、たまには付き合ってやるよ」

じいちゃんの散歩コースを一周して家に帰ると、お母さんが朝ご飯を作っていた。
「あら、ひろき早起きね」
「じいちゃんに無理やり起こされた」
「あらあら、毎朝じいちゃんに起こしてもらおうかしら」
お母さんは笑いながらおかずを並べた。

「あれ?じいちゃんは?」
「ソファーで寝てるわ」
「なんだよ。まったく人を突き合わせておいて二度寝かよ」
「いいじゃないの。早起きは三文の徳よ」
「だから、それいくらだよ」
「ふふ、文句言いながら、もう3杯目よ」
「まあ、たしかにご飯はうまいな」

学校へ行くと、憧れの美咲ちゃんが話しかけてきた。
「ねえ、ひろき君、今朝歩いてたでしょう」
「え?どこかで会った?」
「うちの前を通ったのよ。ずいぶん早起きなのね」
「あ、そうなんだ」
「ねえひろき君、今度うちに遊びに来ない?」
うわ!すごい展開。やっぱりいいことあった。三文の徳ってやつ?

僕はじいちゃんに報告したくて、帰宅後いきおいよくドアを開けた。
「ただいま!」
リビングでお母さんが、目を真っ赤にして泣いていた。
見るとソファーで、じいちゃんが静かに息絶えていた。
「買い物から帰ったら冷たくなっていたの。寿命だったのよ」
僕は力が抜けて座りこんだ。
「きっと最後にひろきとお散歩したかったのね」
お母さんはそう言って涙を拭った。

ゴールデンレトリバーのGちゃんは、僕が生まれたときにはすでに家にいた。
だからずいぶんと年寄だ。
兄弟みたいに育ったから心が通じ合っていると思っていたけど、僕はGちゃんの寿命に気づかなかった。
ごめんね、Gちゃん。

Gちゃんに教えたかったな。
憧れの美咲ちゃんがすごい犬好きで、今度、飼ってるヨークシャテリアを見せてくれるんだ。
Gちゃんも一緒に行きたかったね。

僕は、Gちゃんのきれいな毛並みをそっと撫でた。

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虹を渡って [ファンタジー]

あの子は虹の向こうから来たんだ。
きれいな七色の服を着ていたよ。
虹を渡らないと家に帰れない。
だから、虹が出るのを待っているんだ。

虹の向こうは雨ばかりの世界。
だから最初は、太陽のまぶしさに驚いていたよ。
降りそそぐ光に手のひらをかざしたりしてさ。
ずいぶんはしゃいでいたんだよ。

だけどやっぱり家が恋しくて、この頃は泣いてばかりいるんだ。
あの子の服の色が、ひとつ消えた。
泣くたびに、色が消えるとあの子は言った。
全部消えると、わたしも消えてしまうの…と。

雨がぼつぼつ降りだすと、あの子は窓から身を乗り出して手をかざす。
ねえ、今日こそ虹がでるかしらって、少し寂し気に笑うんだ。
またひとつ、あの子の服の色が消えた。

本当はね、とっくに虹は出ていたんだよ。
高層ビルが立ち並ぶ都会では、うまく見ることが出来なかっただけだ。
僕はあの子に恋をした。
ずっと一緒にいたかった。
だから、虹が出たことを教えなかったんだ。

あの子の服の色が、また消えた。
少しずつ、痩せていくあの子は、もう笑うこともなくなった。

服の色が2色になってしまった日、僕はあの子を車に乗せた。
雨と晴れの境目に向かって、とにかく僕は走ったんだ。
助手席で、あの子の服はとうとう1色になった。
もう少しだよ。頑張って。

道のないどこまでも続く草原が、目の前に広がった。
雨がぴたりと止んで、やわらかい日差しが降りそそいでいる。
雨と晴れの境目だ。
車を降りて、すっかり小さくなったあの子を抱いた。
「ほら、大きな虹が出ているよ」
ふらふらと虹の前に立ったあの子は、ようやく笑顔を取り戻した。
服の色が七色に戻っていく。

あの子は元気に走り出し、虹の向こうに消えてしまった。
一度も振り向かなかったな。
そんなものさ。
まあいいよ。気まぐれなあの子のことだから、雨に飽きたらまた来るさ。

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ハナミズキ [公募]

 実家を処分すると、兄から連絡があった。母の一周忌を終えて間もなくのことだ。
生まれ育った家がなくなるのは寂しいけれど、住む人がいないのだから仕方がない。
もっともいつだって仕事優先で、母の臨終にも間に合わなかった私に、口を挟む資格はない。

五月の連休を利用して、兄夫婦と私で家の片づけをした。
几帳面の母は整理上手で、作業は思ったよりもスムーズに進んだ。
家族の写真や、私たちの賞状や通知表も、きちんとファイルされていた。
「真紀子が嫁に行けなかったのは、この家庭科の成績が原因だな」
兄が私の通知表を広げて笑った。
「失礼ね。嫁に行けないんじゃなくて、行かないの。兄さんこそ、この音楽の成績……」
大げさに憐れむ表情をしたら、義姉が吹きだした。
てきぱきとダンボールを運ぶ義姉は、兄よりずっと逞しい。
「あれ?」と兄が手を止めた。
「電話が鳴ってる」
私たちはそれぞれのポケットを探って携帯を確認したが、着信はない。
「この音、懐かしくない?」
音を辿ってダンボールを開けると、昔使っていた黒電話が出てきた。
電話線も繋がっていないのに、けたたましくベルが鳴っている。

「なにこれ。兄さん、出てよ」
「いやだよ」
怖気づく兄妹を押しのけて、逞しい義姉が受話器を取った。
「もしもし、え? お、お義母さん?」
義姉が慌てて受話器を兄に押し付けた。
「何言ってるんだよ。母さんの訳ないだろう」
受話器を耳に当てた兄が青ざめた。母の声が、隙間から漏れて聞こえた。
天国から、母が電話をかけてきた。
信じられない事態だが、私は思わず兄から受話器を取り上げた。
「もしもし、お母さん?」
「あら、真紀子なの? あんた元気なの?」
「お母さんこそどうしたの? 寂しいの?」
「寂しいわけないでしょう。ここにはお父さんもいるのに。それより真紀子、ちゃんとやってるの?仕事が忙しくても、きちんと食べなきゃだめよ。風邪なんかひいてない?」

母はいつもそうだった。
こちらの方が気遣わなければいけない立場なのに、母はいつも私の体を心配する。
都会に出てから好き勝手に暮らし、結婚もせず、仕事にかまけて帰省もしなかった。
父が他界しても、母が入院しても、親身になってあげられなかった。
「お母さん、ごめんね」
最期を看取れなかったことを詫びた。涙で言葉が詰まった。

「真紀子。ハナミズキがきれいに咲いたよ」
優しい声で、母が言った。毎年聞いていた言葉だ。
庭に目をやると、白い光を集めたようなハナミズキが眩しかった。
母の好きな花だ。いつもこの季節に、母は電話をかけてきた。
花を慈しむ心など、私にはなかった。
いつも適当に相槌を打って、早く電話を切りたかった。
「ごめんね。お母さん」
もう一度言ってみたけれど、いつの間にか受話器から音が消えていた。
母の声も通信音もない。優しい余韻だけが耳に残った。

泣きじゃくる私の肩に、兄が温かい手をのせた。子供のように兄にすがった。
「ねえ兄さん、あのハナミズキだけでも残せない?」
「無理だよ。更地にすることが条件なんだ」
「うちの庭は狭いから、移植も無理だわ」
心苦しそうに義姉が言う。私は庭に出て、ハナミズキの細い幹を両手で包んだ。
ずっと母に寄り添ってくれていた兄夫婦を困らせるつもりはない。
空に向かって手を振ると、白い花の隙間から、母の笑顔が見えた気がした。

片付けが終わり、私は黒電話をもらって帰った。
最後にもう一度ハナミズキを眺めて、二度と帰ることのない家に別れを告げた。
黒電話をリビングの窓辺に置くと、空しか見えないマンションの窓に、白い花が見える気がした。
電話が鳴ることはない。電話線は繋がっていない。
それでも私は、時おり受話器を耳に当ててみる。

「ハナミズキがきれいに咲いたよ」
「きれいでしょうね。今度帰るわ」
あの頃言えなかった言葉を、無音の受話器が吸い取っていく。

季節が巡り、再び母の命日を迎えるころ、義姉から電話があった。
庭にハナミズキの苗木を植えたという報告だった。
「お母さんのハナミズキのようになるのは、まだまだ先だけどね」
「咲いたら教えてね。見に行くから」
「もちろん。いつでも帰ってらっしゃい」
「それから……お義姉さん、ありがとう」
「やだ、なに急に。気持ち悪い」
義姉が豪快に笑った。天まで聞こえるような笑い声だった。


******

公募ガイドTO-BE小説工房の落選作です。
読み返してみるとイマイチかなと自分でも思いました。
テーマは「電話」でした。
テーマが書きやすいものだったからでしょうか。300を超える応募数でした。
厳しいわ~

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カエルとお散歩

ビニール傘を開くと、フェンスの上にいたカエルがペタリと傘の上に張り付いてきた。白い腹が無防備に動いている。

「おいカエルくん、僕は今から街の本屋に行く。歩いて15分だ。カエルにしてみたらけっこう遠いぞ。このまま傘に張り付いていたら、家族とも離ればなれになるぞ。下りるなら今だぞ」
カエルは動かない。まるでここが定位置のようだ。
しかたない。連れていくか。

雨がパラパラと傘に当たる音は嫌いじゃない。
ビニール傘は雨粒が見えるから好きだ。
今日はカエルの白い腹まで見えて面白い。
ウキウキする。これで、お目当ての本が見つかれば最高だ。

「カエルくん、見てごらん。紫陽花がきれいじゃないか。きみも傘の上より、紫陽花の葉っぱの上の方がいいんじゃない?」
カエルはやっぱり動かない。
僕の傘がそんなにいいのかい?

歩道橋の上から雨の街を見下ろす。
「カエルくん、ちゃんとワックスかけてる車と、洗車してない車ってすぐにわかるね。きみ、もっと遠くに行きたかったら、車のフロントガラスに張り付くといいよ。ただし、ワイパーに気をつけないとだめだよ」
カエルは相変わらず動かない。

相合傘のカップルとすれ違う。
「カエルくん、運命の出会いってあるのかな。雨が好きで本が好きな優しい女性がいたら、僕はたちまち恋に落ちるよ。カエルくんは、恋人いるの? あ、そもそもきみは、オスかな、メスかな?」

本屋に着いた。
「カエルくん、傘を閉じるよ。さあ、下りておくれ」
軽く傘を振ったら、カエルがようやく気付いたように傘を離れた。
カエルは、ちょうど本屋から出てきた女性の傘にピョンと飛び移った。
やっぱりおまえ、傘が好きなんだな。

「あら、カエル? あたしは今からあずま町まで帰るのよ。歩いて15分。カエルさんにしてみたら、ずいぶん遠くまで行っちゃうわよ。下りるなら今よ」
女性は優しくカエルに話しかけた。
「大丈夫だよ」
僕は思わず声をかけた。
「そのカエル、あずま町から来たんだ。僕の傘に乗ってね」
「あら、じゃあおうちに帰るのね。なんだかちゃっかりしてるわね」
「うん、ずいぶん楽なお散歩だね」

袋から、彼女が買った本がちらりと見えた。
「あ、僕もその本を買いに来たんだ。まだあるかな」
「あと一冊残っていたわ。早く買って来たら」
僕は急いで欲しかった本を買い、店を出ると彼女が待っていた。
「一緒に帰らない?」
「あ…うん。かえる、かえる」
何だか変なダジャレみたいだ。
僕たちは笑いながら、雨の街を並んで歩いた。

ねえカエルくん、やっぱり僕は、君と同じで雨が好きだよ。

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サダコ2号 [コメディー]

「充電シテクダサイ、充電シテクダサイ」
ええ?もう電池切れ?バッテリーが弱っているのかしら。
お料理の途中なのに困ったわね。料理を作り終えてからにしてほしかったわ。

家政婦ロボットの『サダコ2号』は、結婚した時に嫁入り道具で母が持たせてくれたもの。
当時は最新型で、料理のレパートリーの多さに目を見張った。
掃除も洗濯も完璧だったのに、最近はどうも動きが鈍くなってきたみたい。
10年も経っているんだから仕方ない。

サダコ2号を充電しながら、思わずため息。
この10年、いろいろあったな。
子供が生まれて、育児ロボットをレンタルしたら、姑に嫌味言われたな。
「育児をロボットにやらせるなんて、まあ今どきのママは楽でいいわねえ」
平成生まれは頭がかたいわね。なかっただけでしょ、ロボットが。

結婚7年目、夫の浮気が発覚。
「彼女の料理が美味しくて、胃袋つかまれちゃった」だってさ。
なによ、最新型の家政婦ロボ「マリア5号」が作る料理よ。
洋食が好きなら言いなさいよ。
結局離婚したわ。夫はサダコよりマリアを選んだ。
それだけのことよ。

「ママ、おなかすいた」
「あらジュリちゃん、今サダコ充電中なのよ。もう少し待ってね」
「また充電?もう新しいの買ったら?」
「そうなんだけどね、10年も使っていると愛着が…」
「この前、本棚に食パンが入ってたよ」
「あら、そういえば電子レンジに靴下が入っていたことがあるわ」
「もう寿命だよ」
「でもねえ…」

「ママ、サダコから煙が出てる!」
「まあ大変。サダコ、大丈夫?」
サダコはショート寸前で、途切れ途切れの言葉を発した。
「オク…サマ…、モウ限界デス…。今マデオ世話ニナリマシタ」
「サダコ!」
10年もわたしを助けてくれたサダコ。お礼を言うのはわたしの方よ。
ありがとう、ありがとう。

サダコと涙のお別れをした翌日、新しいロボットが届いた。
「奥さん、実に運がいい。なかなか手に入らない最新型ロボットが手に入りましたよ。その名も『主夫ロボット蒼汰1号』です。
「あら、カッコいい」「すごいイケメン」

蒼汰は、仕事はちょっと雑だけど、見ているだけでキュンキュンするの。
「あたし友達に自慢しよう」
「一緒にショッピングに連れて行こうかしら」
「よかったね。サダコがちょうどいいタイミングで壊れてくれて」
「そうね。サダコは、仕事は完璧だったけど、見た目が地味で暗かったもんね」
「それに比べて蒼汰は超さわやか」
「ジュリちゃん、なんだか最近おしゃれじゃない?その服、よそ行きでしょ」
「ママこそ化粧が濃くない?」
「ああ、本当によかった。サダコが壊れてくれて」

「あれ?ママ、テレビのモニターが急に暗くなったよ」
「まあ、買ったばかりの15Kテレビなのに」
「あ、なんか映った」
「…なに?井戸?」
「なんか出てきた。長い髪に白いエプロンドレス。こっちに来るよ」

「……サダコ」

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3次会に消えた恋 [ファンタジー]

見覚えのない部屋で目を覚まし、ホテルに泊まったことを思い出した。
夕べ、高校卒業後20年目のクラス会に初めて参加した。
宿泊組は、私を入れて8名だった。
その中に桂木君はいただろうか。

桂木君は、私の初恋の人で、高校時代に1年だけ付き合った。
20年ぶりに会った彼がまだ独身だと知って、心の奥の酸っぱい想いが甦った。
「うそ、美沙ちゃんも独身? おれもだよ」
久しぶりに名前で呼ばれて、懐かしさに話が弾んだ。
付き合っていた頃に観た映画の話、待ち合わせの神社、初めてのケンカ。
楽しかった。こんな気持ちは久しぶりだ。
恋に発展する予感はあったけれど、桂木君は数人の男友達と3次会に消えてしまった。

7時30分にメールが来た。桂木君からだ。
『朝食いっしょにどう?』
ああ、やっぱり彼も宿泊組だった。運命を感じる。
髪を整えて化粧をして、朝食のレストランへ向かった。
桂木君が窓側の席で手をふった。
「他の人は?」
「まだ寝てるんだろう。ほら、3次会行ったから」
私以外の宿泊組はたぶん、みんな3次会へ流れたのだろう。

朝食が運ばれてきた。私の分だけだ。
「桂木君、もう食べたの?」
「気にしないで食べて。僕はここに泊まったわけじゃないから」
「え?じゃあ、どうしているの?」
「美沙ちゃんにもう一度会いたかったからだよ」
桂木君が小さく笑った。
こういうことが、さらっと言えるようになったんだと、可笑しくなった。
コーヒーを飲むように勧めたが、だるそうに首を振った。
二日酔いだろうか。あまり寝ていないのかもしれない。
それでも会いに来てくれたことが嬉しくて、年甲斐もなくときめいた。

「桂木君、このあとどうする?私、今日中に東京に帰れればいいから」
「ああ、ごめん、あいつらと行くところがあるんだ」
「ふうん。男同士で遊びに行くんだ。3次会がよっぽど楽しかったのね」
「いや、大した店じゃない。美沙ちゃん、来なくてよかったよ」
「若いおねえちゃんがいる店かしら。いやね、男は」
桂木君が弱弱しく笑った。朝の陽ざしが彼の横顔を白く照らした。

「じゃあ、そろそろ行くよ」
桂木君が立ち上がる。
「え?もう?」
「会えてよかった。気を付けて帰れよ」
「また会える?」と言おうとしたところに、コーヒーのおかわりが運ばれてきた。
そして顔を上げたら、湯気の向こうに彼はもういなかった。

10分ほどぼんやりしていたけれど、宿泊組の同級生は誰も来なかった。
何だか拍子抜けして部屋に戻り、テレビをつけた。
『今日未明、〇〇町の雑居ビルで火災が発生しました。火元は5階のスナックとみられ、客と従業員12名が死亡しました』

「いやだ、このホテルの近くじゃないの」
独り言をつぶやきながら荷物を整理していたら、電話が鳴った。
昨夜アドレス交換をした女友達からだった。
「美沙子、火事のニュース見た?」
「うん。今見たところ」
「あの火事の火元、きのうの3次会の店だったのよ。行った人全員亡くなったって…」
「うそ。だって…」

桂木君の言葉を思い出した。
「あいつらと行くところがある」「美沙ちゃん、来なくてよかったよ」
ああ……。崩れ落ちるようにベッドに倒れた。震えが止まらない。
ついさっき会った桂木君の顔を思い出そうとしたけれど、朝の光にぼやけた顔しか浮かばない。
その代わりに、制服を着た17歳の桂木君が現れて、無邪気な笑顔で手を振った。
「ちょっと4次会に行ってくる」
動揺を抑えきれない私に変わって、セーラー服を着た17歳の私が「バイバイ」と明るく手を振った。

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