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おとぎ話(笑)17 [名作パロディー]

おむすびころりん

「どれ、お昼にするか」
おじいさんが弁当を広げると、おむすびがころころ転がって、穴に落ちてしまいました。
「まてまて」
追いかけたおじいさんも穴に落ちました。
「ねずみさんたち、わしのおむすびを知らんかね」
「ああ、そこに転がってるよ」
「だれも食べんのか?」
「だって消費期限過ぎてるし」
……コンビニおにぎりだったのか!



浦島太郎

乙姫から玉手箱をもらって竜宮城を後にした浦島太郎。
しかし戻ってみれば村はすっかり変わっていた。
浦島は役場に行き、自分の家を聞いてみた。
「すみません。私の家はどこでしょう」
「調べますので、マイナンバーカードを提示してください」
「なんですか、それ」
「マイナンバーカードがないと調べられません」
時代はすっかり変わり、もう生きているのも嫌になった浦島は、乙姫にもらった玉手箱をあけた。入っていたのは紙切れだった。
「なんだ、紙くずか」
そこには、12ケタの番号が…。



おやゆび姫

あたしは、おやゆび姫。
お花の中から生まれたの。
花びらの上にちょこんと座っているのよ。
可愛いでしょう。
ほら、みんながスマホをかざして、あたしを撮影してるわ。
あれ? ちがうの?
ポケモン探してるって? なにそれ。
あたしの方がずっとレアよ!



かぐや姫

かぐや姫が月に帰って、おばあさんは悲しくて仕方ありません。
「おじいさん、竹やぶに行って、また赤ん坊を連れてきておくれ」
そんなわけで、おじいさんは竹やぶに行きました。
数時間後、おじいさんはニコニコしながら帰ってきました。
「おかえり、おじいさん、赤ん坊は見つかったかい?」
「いや、そのかわり新しいポケモン3匹つかまえた」
じいさん、おまえもか!


*****
暑い、暑い
本格的な夏に、創作意欲が低迷しています。
こんなときは、おとぎ話シリーズがいちばん。
さて、ポケモンでも探しに行くか。
(暑いんじゃなかったの?)

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水を求めて [SF]

わたしたちウォーター族は、水がないと生きていけません。
皮膚が渇くと、干からびて死んでしまうのです。
わたしたちは、水の惑星で暮らしていました。
小さな星には、シンボルとなる「永遠の泉」があり、そこから絶え間なく湧き出る水が、わたしたちの体を常に潤していました。

ところが突然異変が起こり、泉は永遠ではなくなりました。
水の量が徐々に減り、ついには底が見えるほどになりました。
仲間はたくさん死にました。このままでは、絶滅してしまいます。

優れた技術者が、なんとか生き残れる方法を考えました。
それは、水に入ると体が小さくなるという薬です。
その薬を飲んだわたしたちは、少ない水でも生きられるようになったのです。
それでも水がすっかり枯れたら終わりです。
時間はありません。
生き残ったわたしたちは、わずかな水を容器に詰めて、新しい星を探す旅に出たのです。

水が豊富な星を見つけました。
地球という大きな星です。
たくさんの生物が暮らしています。
わたしたちはさっそく、水を求めてさまよいました。

「うみ」という巨大な水がありました。
しかしそれはしょっぱくて、わたしたちの体質に合いません。
「かわ」は流れが早くて危険です。
「みずうみ」は、しょっぱくなくて流れも穏やかだと聞き、そこへ行くことにしました。
ところが長旅の疲れと、持ってきた水が濁ってきたことによる体調不良で、みんな動くことができません。

あたりはもう真っ暗で、右も左もわかりません。
こんなところで死にたくありません。
「水の匂いがする」
仲間が言いました。
フェンスに囲まれた四角い堀の中に、たっぷりの水がありました。
「ぷーる」と呼ばれるものです。

わたしたちは、フェンスをよじ登り、ふらふらになりながら水の中に飛び込みました。
「ああ、生き返った」
薬によって体が小さくなったわたしたちにとって、「ぷーる」はとても広くて快適でした。
わたしたちは、「ぷーる」の中にぷかぷか浮きながら、空を見上げました。
なんてきれいな空でしょう。
たくさんの星がまたたき、ゆるやかな風が吹いています。
ずっとここにいたいと思いながら、わたしたちは久しぶりにゆっくり眠りました。

翌朝目覚めると、おおぜいの地球人が「ぷーる」のまわりを囲んでいます。
ああ、わたしたちは侵略者として、捕まってしまうのでしょうか。
しかし、地球人たちはなぜかとても楽しそうです。

「どうして学校のプールに金魚がいるんだ?」
「すげえ、おれ、金魚すくいやりたい」
「あたし、おうちで飼うわ」

どうやら、薬を飲んで小さくなったわたしたちは、「きんぎょ」という生物に似ているようです。
地球人たちはわたしたちを、きゃあきゃあ言いながらつかまえました。
子供のようですが、なかなかに狂暴です。
元の姿に戻るのは危険だと、誰もが思いました。

そしてわたしは今、地球人の家の中にいます。
きれいな水槽に入れられて、水草たちと一緒に静かに暮らしています。
「キンちゃん」なんて名前で呼ばれています。
水から出ない限り、元の姿に戻ることはありません。
わたしは「きんぎょ」ではないけれど、「きんぎょ」として生きるのもいいと思い始めています。
だってここにいれば、死んでしまう心配はありませんもの。

ところで、わたしの仲間、あなたのおうちにいないかしら?

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うちの金魚たち。ま、まさか!

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クズと守護霊 [ファンタジー]

ヤツはぐうたらだ。
「暑い、暑い」と言いながら、朝からシャワーを浴びる。
「暑い、暑い」と言いながら、朝からビールを飲む。
「暑い、暑い」と言いながら、ふたたび眠る。

ヤツは働かない。だから金がない。
金がないから嫁も来ない。
来るのは借金取りくらいだ。

ドンドンドン「おい、出てこい! いるのはわかってるんだ」
ほら、噂をすれば借金取りが来た。
こんなに激しくノックしても、ヤツは起きない。
並の神経ではないのだ。
うるさいし、仕方がないから追い返そう。

「うわ、いきなり植木鉢が落ちてきた。なんだ、なんだ、うわっ!」
植木鉢を落として、ホースの水をかけてやったら逃げて行った。
借金を返さないヤツが悪いのはわかっている。
助ける必要はないのかもしれないが、なにしろ私は、ヤツの守護霊だ。
たとえクズでも、ヤツを守るのが私の仕事なのだ。
カビが生えたパンを食べて死にそうになった時も助けてやった。
根っからのダメ人間だから、放っておけないのだ。

ああ、どうして私は、こんなヤツの守護霊なのだろう。
もっと守り甲斐のあるヤツだったらいいのに。
汗水たらして働く好青年の守護霊だったら、どんなによかったか。

ヤツが寝ている間に、守護霊組合に行く。
「お願いしますよ。守る人間を変えてくださいよ。もう限界ですよ」
「よし、そこまで言うなら変えてやる」
何度も願いを出しているせいか、ようやく許可が出た。

翌日から私は、かわいらしい少女の守護霊になった。
優しくて品行方正。私が守らなくても、すべての人に守られている幸せな子だ。
穏やかだ。
借金取りも来ないし、かびたパンを食べることもない。

こうも穏やかだと、ヤツのことが気になってくる。
腐ったものを食べていないか。電気を止められていないか。
ちょっと様子を見てこよう。

ヤツがぐったりしている。顔が腫れているではないか。
借金取りが来て、ボコボコにされたんだな。
ちょっと可哀想だ。
それでもヤツは時計を気にして立ち上がった。
ヤツは仕事を始めたようだ。さすがに、このままではまずいと思ったのだろう。
それとも借金取りに殴られて目が覚めたか。
日雇いの工事現場だ。
「水分だけはしっかりとれよ」と耳元で、ささやいてやった。

夕方ヤツは、もらった金を手にスーパーに行き、酒と花を買った。
花? 私が離れたとたん、彼女でも出来たか?
ヤツは酒と花を持って、アパートと反対方向に歩き出した。
行き先は墓地だ。

ヤツが立ち止まった墓は、なんと私の墓だった。
よく見たら、私が生前好きだった酒ではないか。
「じいちゃん、なかなか来れなくてごめんよ」
すっかり日が暮れた墓場で、ヤツはいつまでも手を合わせていた。

そうか。ヤツは私の孫だったか。
自ら進んで孫の守護霊になったことを、私はすっかり忘れていた。
自分の孫だから、少しばかり甘やかしすぎたのだ。

私は守護霊組合に頼んで、ふたたびヤツの守護霊にしてもらった。
今度は甘やかさんからな。
しっかり生きろよ。タカシ。

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優しい別れ [公募]

達郎の部屋は蒸し暑い。
ひどくのどが渇いているのに、目の前でうつむく彼は水さえも出さない。
相変わらず気が利かない男だ。
言いたいことはたくさんあるのに、上手く言葉が出ない。
首筋の汗を指先で拭うと、ようやく気付いたように彼が立ち上がった。

「ごめん、エアコンが壊れてるんだ」
西側の窓を開けると、一瞬にしてよどんだ空気が流れはじめた。
光の粒が舞い上がり、それと同時にチロチロと可愛い音がした。
カーテンレールに吊るされた風鈴だ。青いガラスの小さな風鈴が、優しく揺れた。

新しい彼女ができたのだと思った。
窓辺に風鈴を吊るすような風情は、達郎にはない。
道端の花を平気で踏みつぶすような人だった。
風も雨も、彼にとってはただの自然現象にすぎない。
それでも私たちは楽しくやっていた。
星よりもネオンが輝く都会で、ふたりの将来を夢見ていた。

友人が主催するパーティで知り合って、すぐに意気投合。
都合が合えば夜の街を飲み歩き、愛を語りあった。
ずっとこのまま、離れることはないと思っていた。
互いに結婚を考え始めた3年目、達郎が突然地方に転勤になった。
東京から新幹線で3時間、在来線で40分の小さな町だ。
2年後には戻ってくるという言葉を信じ、電話とメールで遠距離恋愛を続けて一年が過ぎた。
距離に負けたくないけれど、正直限界を感じ始めていた。

そんなとき、「別れてほしい」と達郎から電話があった。昨夜のことだ。
予感はあったけれど、電話で別れを告げる無神経さに腹が立ち、遠恋後初めて彼の部屋を訪れた。

達郎が、冷蔵庫からようやく麦茶を出してきた。ガラスの容器に入っている。
「麦茶、自分で作ってるの?」
「あ、うん」と達郎が頷く。キッチンをちらりと覗くと、長ネギとジャガイモが見えた。
「自炊してるの?」
「ああ…、この辺は野菜が安いから」
驚いた。炭酸飲料とピザとカップ麺で暮らしていた人が、麦茶を作って自炊?
「もしかして、タバコもやめた?」
「うん」
「やっぱり新しい彼女ができたのね。彼女のために、タバコもやめたんだね」

達郎が、あきらかに動揺した。目が泳いでいる。
「安心して。会わせろなんて言わないから」
思わず咳込んだ達郎が、青い顔で麦茶を流し込んだ。
「大丈夫?」なんて、背中を擦ったりしない。
新しい彼女がやりそうなことを、私は一切しない。
料理を作ることも、部屋の掃除も、タバコをやめさせることも、3時間40分かけて、逢いに来ることも。

負けた。距離ではなく、その人に。
「きっと優しい人なのね」
立ち上がって風鈴を鳴らした。彼女の存在を知って、どこか安心している自分がいる。
もういいじゃない。私は私で楽しくやるわ。
振り向いて、精一杯強がりの笑顔を見せた。

「いいわよ。別れてあげる」
達郎は、心底安心したように微笑んだ。うっすらと涙が浮かんでいる。男のくせに何?
「彼女と、おしあわせに」
送っていくと言う達郎を断って、駅までの道をひとりで歩いた。
思ったよりも傷ついていないことに気づいた。
あの風鈴の音色が、胸に残っているせいかもしれない。
達郎が、少し痩せて男前になっていたことが、ちょっとだけ悔しいけれど……。


早足で歩く彼女を、達郎は二階の窓から見ていた。
一度も振り返らない。彼女らしいと思う。
抑えていた咳が、体全身を震わせて激しく吹き出した。
引き出しから薬を取り出して飲むと、少しだけ落ち着いた。
窓辺にしゃがみこんで、空を見る。雲の流れが早い。季節は夏へと向かっている。

達郎が余命宣告をされたのは、一か月前のことだった。
もうすぐ、この部屋を出て実家で余生を過ごすことになっている。
タバコもやめた。体にいいものを食べるようにした。

最後に、彼女に逢うことが出来てよかった。彼女の笑顔が見られてよかった。
短い人生の中で、一番輝いていた時を過ごした大切な人だ。
自分の死で、彼女を悲しませることだけは避けたかった。

初夏の風に、風鈴が寂し気に鳴った。病院の帰りに、縁日で買った風鈴。
それは、初めて会ったパーティの夜に、彼女が着ていたドレスの色に似ていた。
見慣れた景色に、彼女の姿はもうない。達郎は窓を閉めて、指先で風鈴を鳴らしてみた。
「さようなら」と優しい音がした。

******
公募ガイドTO-BE小説工房で落選した作品です。
テーマは風鈴です。
ちょっとありきたりな話だったかなと反省。
最優秀の話はすごく良かった。次回、頑張ります!

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恋の松竹梅 [男と女ストーリー]

高木は、午後6時になると500円玉をにぎりしめて、弁当を買いに行く。
「幕の内の梅ですね」
高木が注文する前に、弁当屋の看板娘が言う。
毎日同じものを注文するから、すっかり覚えてしまっている。
「はい、485円です」
500円を渡すと、左手をそっと添えてお釣りを手のひらに乗せてくれる。
高木はいつもここでときめく。
笑顔が素敵で、キビキビ動く彼女に、高木はほのかな恋心を抱いている。

高木は漫画を描いて生計を立てている。
まったく有名ではないが、何とか食べていける収入はあった。
幕の内の梅は、高木にとってささやかな贅沢だった。

あるとき、「いらっしゃいませ」と元気に挨拶した彼女の顔がくもった。
「あら、ごめんなさい。幕の内の梅、売り切れちゃったの」
「え?ホント?」
「ええ、竹ならあるんだけど」
「じゃあ、今日は竹にするよ」
そう言って500円を出した高木だったが、幕の内の竹は590円だった。
「あ、足りない。家に帰って金持ってくるよ」
慌てて500円をひっこめた高木だったが、看板娘は竹を袋に入れて差し出した。
「500円でいいですよ。毎日来てくれてるから。あっ、パパとママには内緒ね」
そう言ってにっこり笑った彼女に、高木は大きな勘違いをした。
『もしかして、この子、オレのこと好きかも』
高木は夢心地で、少しだけ豪華な弁当を食べた。

いいことは続くもので、原稿を出版社に持っていくと、
「このまえの読み切り評判いいよ。連載にしようかって話が出てるんだ」
「本当ですか。やった!」
高木はすぐに思った。
きょうは、幕の内の松にしよう!

千円札を握りしめ、勇んで買いに行くと、弁当屋の前に高級な外車が停まっている。
すげーな。デラックス幕の内でも買いに来たのかな。
そう思っていると、看板娘のあの子がいつになく着飾って出てきた。
「お待たせしました」
よそ行きの声の彼女が、微笑みながら車に乗り込んだ。
弁当屋に不似合な外車が、スマートに走り出し、高木の横を通り過ぎた。
彼氏か…。そうだよな。あんなかわいい子に彼氏がいないわけがない。
うなだれながら高木は帰った。今夜はカップ麺でいいや。

それからしばらく、弁当屋へ行かなかった。
彼女のことがショックだったのもあったが、初めての連載が決まって、高木は急に忙しくなった。

高木は数週間後、久しぶりに弁当屋に行った。
「いらっしゃい。あら、久しぶりですね」
彼女の笑顔は、心なしか少し淋しげだった。
「梅ですね」
「いや、今日は、松にしようかな」
高木はそう言って、千円札を出した。
「毎日梅だと飽きるからさ、たまには贅沢しなきゃ」
彼女はクスッと笑いながら松の弁当を詰めた。
「はい、780円なので、220円のお釣りです」
いつものように手のひらに釣銭を乗せて、彼女はふっとため息をついた。
「松のお弁当も、毎日食べると飽きるものよ」
「?」

彼女は金持ちの御曹司に見初められて、つきあい始めた。
しかしデートの度に豪華なディナーやパーティ。
ブランドで身を固めたセレブの友人たち。会話は全く意味不明。
自分らしさを出せぬまま、彼女は御曹司と別れてしまったのだ。

そんなことはつゆ知らず、高木は松の弁当を食べながら思った。
「梅の方が好きかも」

高木は翌日、500円玉を握りしめ、弁当屋へ行った。
「いらっしゃいませ。今日は松竹梅どれにする?」
「梅にする。やっぱり俺には梅がいちばん合ってる気がする」
そう言って500円を差し出す高木に、なぜか不思議な安心感を覚える彼女であった。
「15円のお釣りです」
いつものように手のひらに釣銭を乗せて、彼女はふと思った。
「わたし、この人のこと、わりと好きかも」

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楽しいきもだめし [公募]

夏休みです。夏祭りにキャンプ、子供会の行事は楽しいことがいっぱいです。
だけど小夏には、たったひとつだけ、にがてなことがあります。
それは、きもだめしです。

まっくらな夜に子供だけで集まって、二人一組でお墓を一周するのです。
四年生の小夏は、今年から低学年をひっぱる立場です。
「むり。ぜったいむり」
小夏は、とても怖がりで泣き虫でした。

きもだめしの日がきました。
小夏は、咲という一年生の女の子と組むことになりました、
話したこともない、おとなしそうな子です。
よりによっていちばん小さな子と組むなんてと、小夏はお墓に入る前から泣きそうでした。
「泣いたらばつゲームだ」
男子たちがゲラゲラ笑って小夏をからかいました。
生あたたかい風がふいています。

小夏たちの番がやってきました。
「咲ちゃん、大丈夫だからね」
そう言って先を歩く小夏の方が、よっぽどふるえています。
「小夏ちゃん、怖いの?」
「こ、怖くないよ。四年生だもん」
強がっても足がすくみます。
小夏は木の枝がざわっとゆれただけで、ひめいをあげて飛び上がりました。

「小夏ちゃん、だいじょうぶ?」
咲はまるで怖がっていません。
「咲ちゃんは平気なの?」
「うん。楽しいよ。みんないるから」
「みんなって?」
「ほら、あそこに魚屋のおじいさんがいる」
咲は木の下のお墓を指さしました。だれもいません。
だけどそのお墓は、去年亡くなった魚屋のおじいさんのお墓でした。
「あの……咲ちゃん、もしかして、ゆうれいが見えるの?」
「うん。ここにはすごくたくさんいるよ。子供たちが遊びにきたから、みんなうれしくて出てきたんだよ」
小夏は背すじがゾクッとしました。

「小夏ちゃん、ちっとも怖くないよ。みんなとてもやさしいよ」
「やさしくてもゆうれいでしょう?」
「小夏ちゃん、あそこに、肉屋のおじさんがいるよ。小夏ちゃんのことを見てるよ」
「え? 駅前のお肉屋さん? あそこのコロッケ、おいしいから大好き」
小夏はふるえながらも、あげたてのアツアツコロッケを思いうかべました。
「おじさんが、毎度あり~って言ってるよ」
「ほんと?」
小夏は、だんだん怖くなくなってきました。

「あそこには、駄菓子屋のおばさんがいるよ」
「わあ、いつもおまけしてくれたおばさん? お店がなくなって、わたしさみしいよ」
「おばさんが、ありがとうって言ってる」
小夏は、とても楽しくなってきました。

「ねえ咲ちゃん、もしかしてわたしのおばあちゃんもいる?」
小夏は、やさしかったおばあちゃんに、もう一度会いたいと思っていました。
「あそこで手をふっているよ。ピアノの練習、ちゃんとやっているかなって言ってる」
「ちゃんとやってるよ。今度の発表会でショパンをひくよ」
「あとね、お盆には、おまんじゅうをそなえてほしいって」
「おばあちゃん、おまんじゅう好きだったもんね。わかったよ。約束ね」
小夏は、胸がじんわりあたたかくなりました。

そしてお墓を一周して、みんなのところへ帰りました。
ニコニコと笑いながら帰ってきた小夏を見て、男子たちはひょうしぬけしました。
ぜったい泣きながら帰ってくると思っていました。

「小夏、よくひとりで行けたな」
男子の一人が言いました。
「え? ひとりじゃないよ。咲ちゃんといっしょだよ」
「咲ちゃんって、だれ?」
「一年生の咲ちゃんだよ」
「そんな子いないよ。それに今年は、一年生は参加してないよ。小夏ちゃんと組むはずだった二年生は風邪でお休みだったんだよ」
「うそ……」
小夏はとなりを見ましたが、だれもいません。
ついさっきまでいっしょだった咲の顔を思い出そうとしましたが、不思議なことに思い出せません。
「小夏ちゃん、その子、ゆうれいじゃない?」
子供たちは、いっせいにひめいをあげてお墓から逃げ出しました。
だけど小夏は、少しも怖くありません。

お墓をふりかえって、にっこり笑いました。
「咲ちゃん、また来年ね」
小夏は、きもだめしがすっかり大好きになっていました。

*******

公募ガイドの「童話コンテスト」に応募した作品です。
入選は出来ませんでしたが、ベスト20に選んでいただき、講評を送っていただきました。
それを参考に、少し手直ししたものをアップしました。
講評がいただけると思わなかったので、すごくうれしく、また勉強になりました。
いろいろ落ちまくっているので、童話には向かないのかなと思っていましたが、少しだけ自身が持てました。

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七夕ブルー [コメディー]

織姫ちゃんが遊びに来た。
七夕が近づくと、いつも来るの。
「ことちゃん、私、憂鬱なの。このまま彦星と付き合っていても、将来が不安だわ」
ほら来た。いつもの愚痴が始まった。

「だいたい年に一度しか逢えなくて、恋人って言える?」
やれやれ、自分たちが悪いくせに。
仕事もせずにいちゃついていたから離ればなれにされたんでしょう。

「ねえ、ことちゃん、彦星ってちょっと頼りないと思わない? 去年も一昨年も、デートのプランは私が考えたの。ノープランで逢いに来るなんて男としてどうなの?」
織姫ちゃんが我儘だからでしょう。彦星君は優しいからあんたに合わせているのよ。

「プレゼントはいつも花束。花を贈れば女は喜ぶと思っているのね」
織姫ちゃんってぜいたく。花をもらって嬉しくない女はいないわよ。それに、自分だっていつもプレゼントは手編みのマフラーじゃないの。季節感ゼロだわ。

「ねえ、ことちゃん、私って彦星以外の男と付き合ったことないじゃない。一度他の男と付き合ってみようかな」
出た!二股宣言。

「合コンやろうよ。宇宙飛行士なんかどうかな。宇宙船で天の川なんて、ひとっ跳びじゃない?」
無理だよ。人間にとって星なんて研究対象。恋愛対象になるわけないでしょ。

「あ~あ、明日は七夕か。面倒くさいな。ばっくれちゃおうかな」
織姫ちゃん、あんたの話聞いてる方が面倒くさいわ。
そろそろ〆るか。

「織姫ちゃん、あたしが代わりに行ってあげようか」
「え??? ことちゃんが、私の代わりに?」
「うん。あたし、彦星君のこと嫌いじゃないわ。花束も欲しいわ」
「いや、それはちょっと。ことちゃんも忙しいのに悪いわ。それに彦星はやっぱり私じゃないと」
「そんなことないわ。彦星君もあんがい織姫ちゃんに飽きてるかも」
「やめてよ。彦星はずっとずっと死ぬまで私が好きなのよ」
「でも、織姫ちゃんは逢いたくないんでしょう?」
「逢いたいに決まってるじゃん。ことちゃんのいじわる」
「じゃあ早く帰って、明日のためにお肌の手入れでもしたら?」
「言われなくてもそうするわよ。ふん、ことちゃんなんか、もう絶交よ」

やれやれ、やっと帰った。
絶交とか言って、来年また来るんでしょう。
ああ、うらやましい。

<一口メモ>
織姫は、こと座のなかで一番輝く星(ベガ)です。
こと座のことちゃんは、いつも織姫ちゃんを見守っているんです。
ちなみに彦星は、わし座の中で一番輝く星(アルタイル)です。
七夕の夜に、逢えるかな~。

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開かずの信号 [ファンタジー]

村のはずれの信号は、いつも赤だ。
青になることも黄色になることもない。
そもそも車が通らない。だから信号が赤でも青でも関係ない。

あるとき、若い男が、どういうわけかこの村に迷い込んだ。
彼はひどく疲れていた。
クレーム対応に追われ、あちこち謝罪に回った帰り道だ。
「道を間違えた。参ったなあ。ここはどこだろう」
村はずれの信号が赤だったので、男は止まった。
信号はずっと赤のままだ。
「長いな、この信号」
そう思いながらも、男は待っていた。
車は1台も通らない。いっそ信号無視で行ってしまおうか。
いやいや、行った途端に人が飛び出してくるかもしれない。
陽がくれて見通しが悪い。

そのとき、腰の曲がった老婆が横断歩道を渡ってきた。
やはり止まっていてよかったと男は思った。
老婆は男の車に近づき、ニコニコ笑いながら窓を開けるように言った。
「ほら、晩ご飯だよ。お食べ」
老婆が、おにぎりとお茶を持ってきた。
「え?」
「冷めないうちに食べな」
男は腹が減っていたので、遠慮なく食べた。
「う、美味い。美味いです、これ」
顔を上げると老婆はもういなかった。
久しぶりのちゃんとした食事を終えても、信号はまだ赤だ。

痩せた老人が近づいてきて、「一局どうだね」と、将棋を指す身振りをした。
「将棋か。ガキの頃よく親父の相手をしたな」
路肩に縁台と将棋盤が用意されている。
男は車を下りて老人と将棋を指した。
「若いの、なかなかやるな」
「待ったなしだよ。おじいさん」
そこに、さっきの腰の曲がった老婆が、蚊取り線香とスイカを持ってきた。
「ほら、勝負はひとまずおあずけだ。スイカをお食べ」

遠慮なくスイカにかぶりつくと、ちらちらと小さな灯りが見えた。
「ホタルだよ」
老婆がうちわで蚊を追いながら言った。
「ホタル?初めて見た」
儚い光が、懸命に生きている。光がにじみ、泣いていることに男は気づいた。

なんていい夜だろう。
男は子どもの頃、田舎の祖父母の家で過ごした夏を思い出した。
優しい風に身をゆだね、このまま眠りたいと、男は思った。

プップー!
けたたましいクラクションが鳴った。
はっと気づくと、信号が青になっている。
後ろの車がせかすようにクラクションを鳴らしていた。
男はいつのまにか眠っていたようだ。
信号待ちの間に眠るなんて、よほど疲れていたんだな……。
男は苦笑いしながら、車を発進した。
散々迷った道は、不思議なほどすぐに大通りに出た。

夢だったのか。いい夢だった。
今の仕事が一段落したら、少しまとまった休みを取ろう。
久しぶりに田舎のじいちゃんとばあちゃんに会いたくなった。
心がずいぶんと軽くなった。
男がズボンに張り付いた、スイカの種に気づくのは、もう少し先のことだ。

ところで、村のはずれの信号は、また赤信号に変わったままだ。
ふたたび疲れた誰かが通るまで、信号が変わることはない。

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