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ハロウィンと社長 [コメディー]

その1 ハロウィンパレード

「なんだねキミ、この行列は」
「ハロウィンパレードですよ、社長」
「うっ!…い、いつもの発作が…うぅぅ」
「社長、しっかりしてください。でも大丈夫ですよ。実に運がいい。ほら、こんなにナースがたくさんいます」
(いや、仮装だからね)


その2 ご招待

「明日、取引先のハロウィンパーティに招待されているんだが、キミも来てくれ」
「はい、社長。ですが明日は親戚の葬式なので、少し遅れるかもしれません」
「かまわんよ」
「途中で抜けて、なるべく早く行きますので」
「急ぐ必要はない。火葬してから来るように言われているから」
(いや、だから仮装だってば)


その3 ハロウィンパーティ

「社長、遅くなりました」
「ああ、キミか。ちゃんと仮装してくるなんて、なかなかやるな」
「それにしてもすごいパーティですね」
「ああ、ゾンビだらけだ」
「本物のゾンビみたいですね」
「キミは本物のゾンビを見たことあるのかね?」
「ええ、実は葬式に行ったら、死んだはずの親戚がゾンビになっていました」
「そ、それでキミ、まさか…」
「はい、噛まれて私もゾンビになりました」
(仮装じゃなかったのね~)

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みなさん、ハッピーハロウィ~ン ♪


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ネコふんじゃった(2) [ファンタジー]

オレの名前は拓馬。いたって健全な、ごく普通の大学生だ。
訳あって、今はネコだけどな。
どうしてオレがネコになったか教えてやろう。誰にも言うなよ。

数日前のことだ。
オレはテニスサークルの女子更衣室の前にいた。
誤解するなよ。べつに覗いてたわけじゃねえ。
ミスM大が、更衣室に入っていくのを見て、ついつい想像していたんだ。
女子更衣室の中で繰り広げられる、めくるめく魅惑の光景を。
そのとき、一匹の黒猫が更衣室から出てきた。
オレは思った。
「いいなあ~、ネコは女子更衣室に堂々と入れて」
そして空に向かって願った。
「ネコになりて~!」

どこぞの神様がオレの願いをきいてくれたのか、オレはその瞬間にネコになった。
それからは悲惨続きだ。
意気揚々と女子更衣室に入ったら、すでに着替えは終わっていて、それどころかミスM大に首根っこをつかまれて外に出された。
「このノラ猫また来やがった。うすぎたねえヤツ」
生着替えが見られない上に、ミスM大の裏の顔まで見てしまった。
オレより口が悪い。

すぐに人間に戻ると思ったのに、全然戻らない。
その後は、どこに行っても邪魔者扱いだ。
腹が減って学食に行ったら、頭を叩かれて追い出された。
「オレは人間だ。この大学の学生だ」
言っても通じない。やつらにとってオレの声は、ただの鳴き声だ。

ふらふらになりながらトボトボ歩き、日が暮れて夜になってもネコのままだ。
歩道にうずくまって寝ていたら、明け方、思い切り腹を踏まれたんだ。
オレを踏んだのは若い女だ。やけにのんびりしたノー天気な女で「ごめんね」とふわふわした声で言った。苛つく女だ。
「ごめんで済めば警察はいらねーんだよ」
「ネコがしゃべった」
あっ、この女には話が通じる。
この機会を逃したら、オレはぜったい飢え死にする。
「おまえの家に連れていけ。美味いもん食わせろ」

まあ、そんなわけで、このナナコという女の家に厄介になっている。
持ち物すべてに名前を書いている、小学生みたいな女だ。
部屋はきれいに片付いていて、言葉遣いも丁寧だ。
口の悪い両親に育てられたオレとは、育ちが違うな。
ミスM大のように裏表はないし、オレの我儘をブツブツ言いながらもきいてくれる。
「お肉が食べたいって言うけど、高いお肉は買えないのよ。お父様から20歳になるまではアルバイト禁止されているの。心配なのはわかるけど、少し過保護なのよ」
「一人暮らしなんだから、バイトしてもバレねーだろ」
「だめよ。わたし、とっても嘘が下手なんだもの」
「ふーん、どうでもいいけどフォアグラはいつ食わせてくれるんだ」
「無理に決まってるでしょう」

3日も過ぎると、さすがにナナコは困ったように「出て行ってください」と言う。
だけどオレだって、ここを追い出されたら路頭に迷う。
意地でも出て行かねえぞ。

ある朝、ナナコは散歩に行った。いつものことだけど、なぜか嫌な予感がした。
ネコになって1週間、動物の勘ってやつが備わったのか。
オレは窓から抜け出して、ナナコの後をつけた。
相変わらず、とろとろ歩いてるぜ。
ふと、ナナコの後ろを歩く男に気づいた。どう見てもナナコの後をつけている。
さすがのナナコも気づいて走ったけど、恐ろしく足が遅い。
追いつかれて男に捕まっちまった。
オレは塀の上から男に飛びかかり、顔を引っ搔いてやった。
「ナナコ、今のうちに逃げろ!」
ナナコの叫び声に男は逃げたけど、オレは思い切りアスファルトに叩きつけられた。
「いてえ…」

ナナコがオレを抱きしめて、いっしょうけんめい擦ってくれた。
「大丈夫よ。すぐに動物病院に連れて行くからね」
ぽろぽろ泣いている。きれいな涙だ。ナナコ、おまえは本当にいい女だな。
最後の我儘だ。
「ナナコ…オレにキスしろ」
「やっぱり偉そう」
そう言いながら、ナナコはオレに優しくキスした。唇が柔らかい。
夢心地だ。もう死んでもいいや。

気がついたら、女子更衣室の前にいた。人間に戻っている。
体中が痛くて重い。こんなところで寝ていたせいか。
夢だったのか。やけに生々しい夢だった。
ナナコの唇の感触が、まだ残っている。
更衣室から、テニスウエアのミスM大が出てきた。
「おはよう」ってにっこり笑いかけてくれたけど、不思議なくらい何も感じない。
教室に行くと友達に「拓馬、おまえ1週間も休んでどうしたんだよ」と言われた。
1週間? やっぱり夢じゃなかったのか。

しばらくは、たまっていたレポートに追われた。
徹夜した朝、しらじら明ける空を見ていたら、たまらなくナナコに会いたくなった。
「ナナコのやつ、まさか懲りずに散歩行ってねーだろうな」
オレはそのままナナコのアパートに行った。
ほんの数日前のことなのに、やけに懐かしい。
見上げると、ナナコが窓辺で頬杖をついていた。少し寂しそうな顔。
朝日に赤く染まった髪がきれいだ。

「ナナコ、散歩行こうぜ」
「誰?」
キョトンとするあどけない顔に、オレは思わず笑った。
「散歩付き合うから、フォアグラ食わせろ」
「アクマなの?」
だから、オレの名前はタクマだってば。とろいな。とろいけど可愛い。
可愛すぎて、苛めたくなるんだよな。

あっ、そこのおまえ、オレがネコになった理由、ナナコに絶対言うなよ。

ネコふんじゃった(1) [ファンタジー]

とても素敵な朝だったので、散歩に行った。
目覚めたばかりの街は神秘的。鳥のおしゃべりや朝露をまとった花のささやき。
なんて爽やかな朝。
ふと、足元から「フギャー」という、この朝に似つかわしくない声がした。
「何かしら」
見ると、お気に入りのピンクのスニーカーの下に、黒いネコがいた。
「あらネコちゃん、ごめんなさいね」
抱き上げると、ネコは鋭い目で私を睨んだ。
「ごめんで済めば警察はいらねーんだよ」
「はっ? ネコがしゃべった?」
「あー、いてえ。責任とってくれるんだろうな」
「じゃ、じゃあ、動物病院に…」
「病院なんかごめんだよ。お前の家に連れてけ。美味いもん食わせろ」
何だか偉そうなネコ。仕方がないので、アパートに連れて帰った。

「静かにしてね。ここはペット禁止ですから」
私は冷蔵庫からミルクとツナ缶を出して、ネコに差し出した。
「なんだよ。しけてんな。肉はねえのか」
「え? ネコはお魚を食べるんじゃないの?」
「肉だよ。極上のステーキ食わせろ。焼き方はレアだ」
「ないわよ」

その日から、悪魔のようなネコが住み着いてしまった。
本当に悪魔みたいだから、「アクマ」という名前をつけた。
「おい、ナナコ」と、私を呼び捨てにして、偉そうに指図をする。
布団が硬い、マッサージしろ、デザートを出せ、フォアグラ食わせろ。
私はまだ、親から仕送りをいただいている女子大生。フォアグラなんて食べたこともない。

ある日管理人さんに言われた。
「あんたの部屋から男の声が聞こえるって噂になってるけど、まさか男を連れ込んでいないよね」
私のアパートは女子大生専用で、男子禁制だ。
「ネコです」とも言えないし、「アイドルの男の子を育てるゲームをしていま~す」と、笑ってごまかした。

もう限界だ。「出て行ってください」と言えば、わざとらしくお腹を押さえ、
「傷がまだ痛いよ~」と、下手な演技をする。
寝ている間にどこかに捨ててこようと思ったが、アクマは隙を見せない。
同じアパートの友達に相談してみた。
「じゃあ私が追い出してあげる」と、友達が部屋に来た。
すると、今まで横柄だったアクマが、急に可愛いネコになり、「にゃ~」と鳴いて、友達のひざにちょこんと乗った。
「なんだ。可愛いネコちゃんじゃない。すごくいい子だわ」
頭を撫でられて、アクマはすっかり甘えている。
「普段は違うのよ。すごくわがままで横柄で言葉遣いも汚いわ」
「言葉遣いって、ネコでしょう」友達はケラケラ笑った。
そして、「管理人さんには内緒にしてあげる」と、アクマの頭を撫でて帰っていった。

友達が帰ると、アクマは途端に肩ひじをついて寝そべりながら、私が隠していたハーゲンダッツのアイスを食べた。
「今の女、ナナコより胸でかいな。Fカップか?」
「知らないわよ」
もう泣きそうです。蹴とばしてやりたいけど、動物をいじめてはいけないという、お母様の教えに従って我慢した。

そんなある日のこと。
いつものように朝の散歩に出た私は、不審な男に後をつけられた。
怖くなって走って逃げると、男も走ってついてくる。
路地を曲がったところで追いつかれ、羽交い絞めにされた。
口を押えられて声が出ない。誰か助けて。

そのとき、黒いものが私の上を通り過ぎ、男の顔に貼り付いた。
アクマだ。アクマが男の顔をバリバリとひっかいている。
油断して男が手を放した隙に、私は大声で叫んだ。
「助けて!助けて!」
ジョギングの男性が気づいて近づいてきてくれた。
男は「ちくしょう」と、アクマをアスファルトの歩道に叩きつけ、逃げていった。

私はぐったりしたアクマを胸に抱いた。ゼーゼーと息が荒い。
「ありがとう、アクマ。大丈夫だよ。すぐに動物病院に行こうね」
「病院はごめんだぜ。…それよりナナコに最後のお願いだ」
アクマは息も絶え絶えに言った。
「最後に、おれに、キスしろ」
「やっぱり偉そう」
私はポロポロ泣きながら、アクマに優しくキスをした。
アクマは目を閉じると、ふわっと風のように消えてしまった。
手の中にあった重みが、跡形もなく消えた。
いつのまにか集まってきたたくさんの人が私を囲み、「怪我はないか」といたわってくれたけど、私はただ、ぼうっとしながら黒いネコを探していた。

アクマがいなくなった部屋は、元どおり平穏が戻った。
それを望んでいたはずなのに、なんだか寂しい。
朝の散歩も、あれ以来やめた。
「つまらないわ」と、窓辺で頬杖をついていたら、どこからか声がする。
「ナナコ」と呼ぶ声。アクマの声に似ている。
窓を開けると、若い男子が見上げている。
「ナナコ、散歩行こうぜ」
「…誰?」
「散歩付き合うから、フォアグラ食わせろ」
アクマだ。アクマが男の子になって帰ってきた。
私はぐるぐる回る頭の中で考えたけど、何が何だかわからない。
とりあえず、彼と一緒にお散歩しましょう。

*これは2部作です。アクマの正体は、続編でお楽しみください。
2,3日後にアップします。

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浦島太郎反省会 [名作パロディー]

ただいまより、浦島太郎反省会を行います。

◇カメの反省

ええ、浦島さんには悪いことをしました。
恩返しとはいえ、竜宮城にお連れするなんて。
あそこは時間の流れが人間界と違うんですよ。
竜宮城の1日が、人間界では数年。
1万年生きるカメには何てことなくても、浦島さんは生身の人間ですからね。
いやあ、申し訳ないことをしました。
でもね、これが私の仕事なんです。
若い男を竜宮城に連れていくことがね。
え? 私をいじめた子どもたちですか?
ああ、劇団の子役です。最近の子役は演技が上手いですね。
まあともかく、残りの3875年、反省して生きますよ。
だから許してくださいね。


◇乙姫さまの反省

はい、浦島さんをお引止めしたのはわたくしです。
だって、あんな海の底で、毎日タイやヒラメの踊り見ててもつまらないんですもの。
たまには若い男とゆっくりお話ししたいでしょう。
でもね、奪った時間はきちんとお返ししましたよ。
玉手箱に入れて、決して開けないようにと忠告までしましたのよ。
開けてしまったのは、わたくしのせいではありませんわ。
でもまあ、おじいさんになるまでお引止めしたことは、本当に悪かったと思っています。
…以上ですか?
取材ご苦労様でした。
お土産の玉手箱です。決して開けないでくださいね。ふふふ。


◇浦島太郎の反省

母ちゃん、すまねえ。
ずっと漁師ひとすじで、遊んだこともなかったから、あんなキラキラした城で、あんな美人に会って、ついつい時間を忘れちまった。
戻ったら故郷が変わってて、マジでたまげた。
母ちゃん、老後の面倒みられなくてごめん。
せめて墓参りでもしようと思ったけど、母ちゃんの墓、どこだっけ?


◇浦島太郎の母の反省

物語には直接登場しませんが、ひとこと言わせてください。
太郎や、そんなに反省しなくていいんだよ。
母ちゃんは、てっきりあんたが死んだと思って、生命保険がっぽりもらったんだよ。
まさか生きてるなんて思わないだろう。
それでね、その金で不老不死の薬を買ったんだよ。
おかげで今でも楽しくやってるよ。
今のあんたより若いよ。
だからさ、反省なんてしなくていいよ。
え? あたしの反省? 特にないよ。
じゃあ、いいかな。忙しいんだよ。
今から『ホストクラブ竜宮城』に行かなきゃならないからさ。

以上で、浦島太郎反省会を終わります。
「あー、おつかれー」
「りんさん、この箱なんですか?」
「それね、乙姫にもらった玉手箱。開けちゃだめだよ。開けちゃダメだってば。ちょっと、ホントにダメだよ。ああああああ!」

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一方通行 [公募]

世の中には、一方通行があふれている。

 ◇15歳の恋
陽菜は受験生だが、正直受験どころではない。
家庭教師の青山悠人に、かなり本気の恋をしている。
しかし大学生の悠人にとって、中学生など恋愛対象外。しかも教え子だ。
彼が気になるのは陽菜ではなく、陽菜の成績だ。
「このままだと志望校は危ないぞ」
成績不振の原因が、まさか自分にあるとは知らずに、悠人は真剣に悩む。
その憂いのある横顔に、陽菜の恋心はますます募る。
「先生、次の模試でA判定もらえたら、遊園地に連れて行って」
思い切って言ってみた。
「遊園地か。そういう息抜きも必要かもな。よし、行こう。ただしA判定が条件だぞ」
「やった!」
遊園地で、少しでも距離を縮めたいと願う、可愛い15歳の恋である。

 ◇24歳の恋
青山悠人は二浪して入った大学で、さらに一年留年をした。
だから24歳にして未だに大学生だ。
親の仕送りは年々減るが、もらえるだけ幸せだと思う。
家庭教師はなかなかの収入源だ。
神田陽菜という生徒は素直で真面目だが、最近成績が伸び悩んでいる。
もしかしたら自分の恋愛が、陽菜の集中力の妨げになっているのではないだろうか。
そんなふうに思い悩む悠人の恋の相手は、陽菜の母親である。
母親の麻紀は、37歳とは思えないほど若くてきれいだ。
夫は海外に単身赴任中で、そのせいかいろいろな相談事を持ちかけてくる。
いつもどこか淋しげで、儚くてか弱い。ずっと年上なのに、守ってあげたいと思う。
叶わぬ恋だとわかっている。募る想いを必死で隠す、切ない24歳の恋である。

 ◇37歳の恋
神田麻紀は、幸せな結婚生活を送っているように見える。
周りの誰もがそう思っている。
5歳年上の夫である宏明は、優しくて真面目で、誰もがうらやむ良き夫である。
しかし麻紀は、結婚してからもずっと、宏明に悲しい片思いをしている。
夫から愛情を感じたことがない。
宏明には、ずっと以前から変わらずに、想いを寄せている女性がいる。
それを知りながら結婚した。
いつか愛してくれることを信じながら、気づけば15年が過ぎている。
単身赴任中に、その女と連絡を取り合っているのではないか、娘の陽菜が成人したら、自分はあっさり捨てられるのではないか。
そんな不安で押しつぶされそうになる。
優しく接してくれる陽菜の家庭教師に、ついよろめきそうになるが、どんな男も宏明には勝てない。ため息の海に溺れそうな、37歳の恋である。

 ◇41歳の恋
「次の週末に帰国できそうだ」と、神田宏明は妻にメールを送った。
東南アジアの暮らしは刺激的だが、やはり日本が恋しい。
娘の陽菜は受験生だし、家のことも気にかかる。
しかしこうして異国にいると、どうしても非日常を考えてしまう。
宏明には、生涯を通じて添い遂げたい女性がいた。
しかし若かった宏明は、たった一度過ちを犯した。
別の女性と関係を持ち、妊娠させてしまった。それが、今の妻である。
娘は無条件に可愛く、妻は健気で優しい。
絵に描いたような幸せな家庭だが、時おり苦しくなる。
嘘で固めた人生のように思えるときがある。
愚かな自分のせいで傷つけた彼女は、今どうしているだろう。
真っ暗な窓ガラスには、あの頃の彼女の顔ばかりが浮かぶ。
逢いたいが、逢うのが怖い。
いっそ消えてしまいたいと思う反面、家族の待つ家に帰りたいと願う。
複雑な、41歳の恋である。

とある日曜日、陽菜は悠人と遊園地にいた。
模試で見事にA判定をもらい、約束通り息抜きをしている。
しかし遊園地に来たのはふたりではない。
悠人が母親の麻紀を誘い、麻紀が帰国中の宏明を誘い、4人で来ている。

爆発しそうな不満と、密かな恋心を隠しつつ、4人はそれなりに楽しく振る舞った。
最後に観覧車に乗った。4人いっしょのゴンドラは、妙に狭くて息苦しかった。
四人はそれぞれ、徐々に小さくなる景色を眺めて、たくさんの感情を胸に納めた。

「観覧車って、一方通行だね」
陽菜が小さくつぶやいた。
街のすべてを染めていく大きな夕陽が、それぞれの想いを飲み込んでいく。


***
公募ガイドTO-BE小説工房で落選だったものです。
課題は「標識」
入選作はどれも面白かったです。
今回も応募は200超え。次、頑張ります!

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12月の結婚

どうも、カレンダーです。
残すところ、あと3枚になりました。
スリムになって嬉しいですが、あと3ケ月でお払い箱だと思うと、やはり寂しさを隠せません。

ところで私は、日付の下にスペースがある、いわゆる書き込み式です。
持ち主の女性A子さんは、1月1日に私をリビングにかざってくれました。
そして書き込みました。

『12月23日/結婚』

12月23日は天皇誕生日ですが、A子さんの誕生日でもあります。
30歳の誕生日。
この日までに結婚したいという願望でしょうか。

しかしA子さんに彼氏の影は微塵もありません。
毎日判を押したように同じ生活です。
朝7時50分に家を出て仕事に行き、夕方6時半に帰ってきます。
帰ってからは、録画した海外ドラマを見て過ごします。
もう10月なのに、デートのひとつもしていません。
12月の結婚は……はっきり言って無理じゃね?

A子さんに、焦る様子はまるでありません。
せめて合コンの予定くらい入れましょうよ。
そうこうしているうちに、ハロウィンも終わりです。
仮装パーティーもなしです。
そろそろ婚活でもしたらどうですか?
12月の結婚は……本当に無理じゃね?

11月になっても、A子さんの生活は変わりません。
真面目に仕事をして、まっすぐ家に帰り、土日もデートしている様子はありません。
相変わらず海外ドラマ漬けの日々です。
最近は、それに加えて英会話の勉強を始めました。
結婚よりもスキルを上げて、キャリアウーマンを目指すことにしたのでしょうか。
それとも海外ドラマ好きが高じて、旅行にでも行くのでしょうか。
いずれにしても、12月の結婚は……完全に無理じゃね?

いよいよ12月になりました。
私もついに残り1枚です。
A子さんは、小さなクリスマスツリーを飾りました。
最近は英会話に加え、料理の本を読んでいます。
まだ諦めていないのでしょうか。しぶとい人ですね。
しつこいようですが再び言います。12月の結婚は無理じゃね?

12月23日がやってきました。
A子さんは、ちょっとだけおしゃれをしていますが、出かける様子はありません。
誕生日くらい、せめておしゃれをしたい女心は、わからないではありません。
私が人間の女子だったら、女子会を開いて差し上げますのに。
「大丈夫だよぉ。30歳なんて若いよぉ。急いで結婚することないよぉ」
と慰めて差し上げるのに。
ああそれよりも、私が人間の男子だったら、迷わずあなたを選びます。

夕方、突然ひとりの男が訪ねてきました。
バラの花束とケーキを抱えています。
A子さんは、笑顔で彼を迎えました。
「待っていてくれたんだね」
「あんなに熱烈な年賀状をもらったのは初めてよ」
だ…誰ですか?

彼は、A子さんが10年前に別れた彼でした。
ふたりは同じ大学で、とても素敵な恋をしていましたが、彼が研究のためにアメリカに渡ることになりました。
彼について行くには、A子さんは若すぎました。
彼もまた、A子さんを縛ることは出来ずに別れを決意しました。
彼は、アメリカに旅立つときにA子さんに言いました。
「30歳を過ぎても、お互いにひとりだったら、そのときは結婚しよう」

もちろんA子さんは、その言葉を鵜呑みにしたわけではありません。
だけど心のどこかで待っていたのです。だからA子さんは、学生時代からずっと同じアパートに住んでいます。
そこへ今年の元旦、アメリカから年賀状が届いたのです。
『この住所にはがきが届くということは、きみはまだひとりでいるということかな』
そんなふうに始まったはがきには、熱烈な想いが綴ってありました。
彼もまた、A子さんを忘れられずにいたのです。
「誕生日に逢いに行く」という言葉は、すなわちプロポーズです。
A子さんは、すぐさま私をめくり、12月に『結婚』の文字を書き込んだのでした。

ふたりは、楽しいクリスマスを過ごし、互いの親に挨拶をしました。
A子さんはもうすぐアメリカへと旅立ちます。
残念ですが、私はA子さんの幸せを見届けることは出来ません。
最後にひとこと、言わせてください。
よかったじゃん。幸せになれよ!

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