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30歳、職業「鬼」 [コメディー]

はじめまして。
はあ…、プロフィールに書いてある通りです。
職業は「鬼」です。
どんな仕事かというと、映画の鬼役とか、子供向けイベントの鬼役とか、あとは何といっても節分の鬼です。
2月は稼ぎ時ですよ。すでにオファーが殺到しています。
収入の面では、問題ないかと。

鬼役だけで一生食べていけるのかって?
ええ、確かにCGやメーキャップの技術は上がっていますがね、本物にはかなわないわけですよ。
そうです。僕は本物の鬼です。

今では数少ない、鬼の末裔なんですよ。
ご先祖様はね、こぶとりじいさんと踊ったり、桃太郎と戦ったり、青鬼の手紙読んで泣いたりしたんですよ。
今ではすっかり人間に馴染んで、角も牙も退化してしまいましたがね。

それでね、ここからが本題なんですが、
実は鬼の世界も少子化でしてね、女の鬼が少ないんですよ。
しかも最近は、人間と結婚してしまう女が増えて困っているんです。
ほら、鬼嫁っているでしょ。
あの中に、本物いますよ。

まあ、僕も今年で30ですから、本気で結婚したいんです。
もう人間の女で妥協しようかと思っているんです。
次の節分で、彼女をお披露目したいんですよ。
だから、お願いです。
福子さんを嫁にください。

え? なに豆なんか取り出してるんですか。
用意がいいですね。まだ1月ですよ。
やっぱりそうきます?

「オニは~そと、ふくは~うち」


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ジョンの代わり

大好きだったジョンが死んだのは、寒い冬の夜だった。
僕はまだ9歳で、妹は7歳だった。

その夜は、何となく別れの予感がしたのだろう。
僕たち家族は、深夜を過ぎても誰も眠ろうとしなかった。
いつもだったら「早く寝なさい」という母も、眠い目をこすっている妹を抱きしめていた。
父はウイスキーを飲みながら、覚悟を決めたように何度か息を吐いた。
そしてジョンは、眠るように静かに逝った。
硬くなったジョンの感触は、今でも僕の胸に残っている。

その話をしたら、彼女は泣いてくれた。
「いい家族ね」と言ってくれた。
「ジョンは、何歳だったの?」
「たぶん、15歳くらいじゃないかな。僕が生まれたときはすでに家にいたんだ。僕と妹が背中に乗っても、ちっとも嫌がらないヤツでね」
「優しかったのね。でも、15歳なら長生きした方よ」
「そうかな。もっと生きて欲しかったよ」
「きっとジョンは幸せだったわね。いいご家族に見守られて」
「うん。そうだといいね」

「あなたがもうペットを飼いたくないという気持ちは、よくわかったわ」
「でもね」と、彼女は分厚いカバンから、パンフレットを取り出した。

「こちらの商品をご覧ください。最新のペットロボット『愛犬3号』です。毛並みも吠え方も肉球も、愛らしい目も、犬とまったく変わりません。その上エサはいらないし、排泄はしないし、なにより一生あなたの傍にいますよ」

いろんな種類のロボット犬が、パンフレットの中から僕を見ている。
「どうです? お安くしますよ」
「いや、でも」
「ジョンそっくりに造るオプションもありますよ。ちょっとお値段は高くなりますけどね。まあ、あまりこだわらないのであれば、こちらがお勧めです」

やり手のセールスレディは、もはや僕とジョンの想い出に興味はない。
僕は丁重にお断りして帰ってもらった。
彼女は、「泣いて損した」と言わんばかりに僕を睨んで帰って行った。
ちょっと美人だったけど、ペットの押し売りなんてごめんだよ。
そもそもジョンが犬だなんて、僕はひとことも言っていない。

大好きだった亀のジョンは、たった15年で死んでしまった。
一万年生きると信じていたのにさ。


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授かりました [公募]

半年間の海外赴任から帰った日、妻の沙織が神妙な顔で言った。
「子どもを授かりました。九週目に入ったところです。つまり、妊娠三ケ月です」
「えっ? いや、僕は半年前に海外赴任になって、その間一度も家に帰っていないじゃないか。いったい誰の子だ」
面食らって慌てふためく僕を尻目に、沙織は至って冷静だ。
「神様から授かった子どもよ」
「はあ?」

沙織には、幼少期からずっと信じている神様がいる。
南の島に昔から伝わる由緒ある神で、沙織の祖母がその島の出身だったから当然のように信じ、毎朝祈りを捧げている。
新婚だったにも関わらず海外赴任についてこなかったのも、神への祈りが疎かになることを恐れたからだ。

時差ボケもあって頭の整理がつかないまま、僕は同僚二人と酒を飲んだ。
「なんだ、そりゃ」
鈴木は腹を抱えて笑った。
「そりゃ、間違いなく奥さんが浮気してできた子だろう。聖母マリアじゃあるまいし、すげー言い訳だな」
「でもさ、とても嘘をついているように思えないんだ。後ろめたい気持ちが、まるで感じられないし、神様に祈るときみたいに穏やかな顔で腹を擦っているし」
ずっと黙って聞いていた山下が、腕組みをしながら「そういう話、聞いたことがある」と静かに言った。
「知り合いに、小さな島の出身者がいるんだけど、住民がすべて島を離れて、今は無人島になっているんだ。その島に祀られていた神様は、島の記憶を残すために、神を信じ続ける人に命を授けるそうだよ」
そういえば、沙織が信じる神が祀られた島も、今はもう無人島になっている。
「奥さんとよく話し合ってみろよ。神様のことも、ちゃんと理解した方がいいな」
山下は、いつも的確な答えをくれる。
その横で赤い顔をした鈴木が「ありえねえだろ」と、相変わらず笑っていた。

翌日、僕は沙織と向き合った。
沙織は、壊してはいけない宝物を預かったように、優しくお腹を撫でていた。
「つまりその子は、神様ということかな?」
「そうじゃないわ。神様が授けてくれた、私とあなたの子よ」
「将来は教祖様になるとか、そういうことじゃないの?」
「宗教団体じゃないのよ。私たちの神様は、私たちの心の中にいるの」
「僕は、その神の子と、どう接すればいい?」
「父親として普通に接するのよ。もしかしたら、あなたに似ていないかもしれない。だけど神様があなたと私を信じて授けてくださったのよ。ねえ、一緒に育てましょう」

完全に理解したわけではないけれど、僕は沙織を信じることにした。
沙織に男の影などまるでない。
かいがいしく家事をこなし、夕飯は僕の好きなおかずを並べてくれた。
休日はゆっくり散歩をして、胎教にいい音楽を聴いて過ごした。
お腹が大きくなると、不思議なことに父親としての自覚が芽生え、無事に生まれることだけを願った。

「奥さん、そろそろ臨月か」
そう言いながら、山下がビールを注いだ。
「いいのか? 他の男の子供かもしれないぜ」
鈴木は未だに疑っている。
「生まれたら見に来いよ」
僕の心は穏やかだ。沙織は今まで以上に熱心な祈りを捧げるようになった。
「子供と、あなたの分も祈っているのよ」
菩薩のように優しい顔だ。僕はお腹の子供に話しかける。「お父さんだよ」

しばらくして、沙織は女の子を産んだ。沙織にそっくりな可愛い子だ。
「島の記憶を持って生まれたのかな」
「島の記憶? なにそれ?」
「前に同僚の山下が言っていたんだ。今は誰も住んでいない島の記憶を残すために、神様が信者に命を授けるって話」
「そうか。そういうことなのね」
沙織が愛おしそうに赤ん坊の頬を撫でた。

***
数日後、ひとりの男が沙織の病室を訪ねた。
「あら、山下さん、仕事中じゃないの?」
「抜けてきたんだ。土日に来るわけにいかないだろう。それよりおめでとう。可愛い女の子だね。俺に似なくてよかった」
「ええ、ちょっとドキドキしてたわ」
「しかし君も嘘がうまいな」
「あなたこそ。山下さんのおかげで、あの人すっかり信じたわ」
「罰が当たるかな、俺たち」
「大丈夫よ。私、毎日拝んでいるもの」

*******

公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「神」でした。難しいテーマです。
今月の課題は「桜」
きれいな話を書きたいけど、まだ手付かずです。
いいご報告が出来るように頑張ります^^


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ありがとうございました

みなさま、ご心配をおかけしました。
お悔やみやお気遣いのコメントありがとうございました。

身内を亡くすのは初めてだったので、いろいろ戸惑いましたが、無事に見送ることができました。
母も元気そうなので、私は今日から仕事に行きました。

父は高齢でしたが、病院のお世話になることもなく、前日までお酒を飲んで普通でした。
お年寄りの方はよく、「ピンピンコロリで死にたい」などと言いますが、父はまさにそうでした。
きっと本人にとっても、いい最期だったと思います。

次からは、いつもの小説ブログに戻ります。
みなさま、本当にありがとうございました。

お知らせ

父が、急逝いたしました。
少しのあいだ、ブログをお休みします。

いつも読んでくださる方、コメントをくださる方、
ありがとうございます。

すぐに戻りますので、ご心配なく。
コメント返しもその時に…。

おみくじ屋

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

では、2017初のショートです。

◇ おみくじ屋 ◇

あるところに、2軒のおみくじ屋が並んでいました。
ひとつは、大吉がたくさん出るという、おみくじ屋。
ひとつは、凶がたくさん出るという、おみくじ屋。
だけどその2軒は、外観がまるで同じです。
売っている人も同じ顔です。
だって二人は、そっくりな双子なのです。

明子さんは、今年こそは運命の人と出逢いたい。
どうしても大吉を引きたいと思っていました。
ふたつのおみくじ屋の前で、大吉がたくさん出るおみくじ屋はどちらだろうと考えていました。

すると、右のおみくじ屋から出てきた人が、やけに悲しそうな顔をしています。
一方左のおみくじ屋からは、笑顔の人が出てきます。
「これはきっと、大吉がたくさん出るのは、左のおみくじ屋だわ」
明子さんはそう思って、左のおみくじ屋に入りました。

「いらっしゃい。今年最初の運試しをどうぞ」
明子さんは、おみくじを引き、ドキドキしながら開けました。
結果は…「凶」
「ウソでしょう? どうして凶なの?」
「すみません。うちは凶がたくさん出るおみくじ屋なんです」
「え、だって、さっきこの店から出てきた人は、すごい笑顔だったわよ」
「ああ、うちは凶と大凶しか入れてないので、凶を引いたということは、実に運がいいんですよ」
「まあ、そうなの。じゃあ、お隣でおみくじを引いた人が悲しい顔をしていたのはなぜかしら」
「隣は大吉と吉しか入れてないから、吉が出てしまったら運が悪いということで、がっかりしてしまうんですよ」

なるほど。
凶で喜び、吉で悲しむ。人間の心理って面白い。
明子さんはそんなことを思いながら「待ち人来らず」「恋愛成就せず」の凶のおみくじを笑顔で持ち帰るのでした。

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