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2017年04月| 2017年05月 |- ブログトップ

公園の女 [ミステリー?]

初夏の公園は、家族連れで賑わっている。
真ん中に人工の池があり、子供たちは容赦なく服を濡らして水しぶきを上げる。
木陰のベンチは子供たちを見つめる父親と母親に占領され、居場所をなくした私はひとり、ブランコに座って時間をつぶす。
「おばちゃん、どいて」
子供に追われて立ち上がった。
「おばちゃんじゃないのよ」と小さい声で言ったみたけれど、勢いよくブランコを漕ぎ始めた子供に聞こえるはずがない。

仕方ないので公園を出て、街をぶらつくことにした。
だけど買うものなんて何もない。
あったとしても今日は買いたくない。
荷物はひとつだって少ない方がいい。
だって私は、今から不倫相手と駆け落ちするんだから。

公園に13時と言ったのに、彼はいつまでたっても来ない。
時計の針は14時を過ぎた。
電話もつながらないし、ラインも一向に既読にならない。
奥さんにバレちゃったのかな。あの人、詰めが甘いから。

もう一度公園に戻ってみた。
人がますます増えている。私の居場所はどこにもない。
荷物を駅のロッカーに預けてしまったことを、死ぬほど後悔した。
タオルも日傘も何もかも、きっとあの中に入っている。

15時を過ぎた。彼は来ない。
人工の池ではしゃいでいた子供たちは、木陰ですやすや眠っている。
家に帰って寝ればいいのに。
16時を過ぎると、ようやく家族連れが帰り始めた。
私はようやく木陰に移動して、ペットボトルの水を狂ったように飲んだ。

17時、カップルたちが増え始める。
悪いけど、木陰のベンチは譲らない。
18時、日差しが緩んだ夕暮れ、犬の散歩も増えてくる。
暗くなるとホームレスらしき人がうろつき始める。
もうここにはいられない。
そもそも私は、どうしてここにいるんだっけ。

すっかり日が落ちた街を歩いて帰った。
公園で一日過ごすって、なかなか難しい。
駅のロッカーに荷物を預けたままだけどいいや。
明日彼に電話しよう。今日のことは許すって言おう。
彼にはきっと、家を出られない事情があったのだ。

部屋を解約しなくてよかった。
ソファーもテレビもそのまま残してある。
洋服も、タオルも日傘も、何もかもそのまま。
あれ? じゃあ私、駅のロッカーに何を預けたんだっけ。
まあいいや。テレビをつけよう。

『……〇〇駅のロッカーから、男性の遺体が発見されました……』

ああ、そうだった。この部屋で彼を殺したんだっけ。
遠くに行ってふたりで暮らそうって約束を、彼が破ったから。
今日はお風呂に入れないな。一日中外にいて汗だくなのに、困ったな。
明日公園で、子供に混ざって水浴びしよう。
きっと気持ちがいいわ。


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カーネーションが2本

仏壇に、2本のカーネーションが供えられている。
長女の美菜と、次女の美緒が母の日に一本ずつ買ったものだ。
5年前に天国へ旅立ったふたりの母親は、写真の中で笑っている。

私は半年前、この家に嫁に来た。
9歳の美菜と7歳の美緒の新しいお母さんになった。
ふたりとも亡くなった母親のことはあまり憶えていない。
だからかどうかわからないが、私にとても懐いてくれている。

母になって初めての「母の日」、やはり私は期待した。
期待したけれど、何もなかった。
美菜と美緒が、おこずかいで買ったカーネーションは、実の母親の仏壇に供えられた。
そういうことだ。
結局私は、まだ母親として認められていないということだ。
その証拠に、まだ「お母さん」と呼ばれたことがない。
娘たちは私を「裕子さん」と呼ぶ。親戚のお姉さんみたいに。
夫は「ゆっくり家族になって行けばいいよ」と言ったけれど、なんだか自信を失くした母の日だった。

次女の美緒が学校から帰ってきた。
「裕子さん、ただいま。あのね、学校でお母さんの絵を描いたの。今日返してもらったよ」
「へえ、上手に描けたね。そっくりだね」
私は、美緒の絵を、母親の写真と並べて見せた。
「ちがうよ。それは裕子さんの絵だよ。だって美緒のお母さんは裕子さんでしょ」
思わず涙が出そうになった。
そういえば、髪型が今の私と同じだ。

「ただいま」と元気よく、美菜が帰ってきた。
「裕子さん、これ、先週学校で書いたお手紙。きのう渡すつもりだったのに、学校に忘れてきちゃったの」
『ゆうこさん、いつもおいしい料理を作ってくれてありがとう』
カーネーションのシールをちりばめた便箋に、可愛い字で書いてあった。
「ありがとう」
「それでね、友達がね、お母さんなのに名前で呼ぶのはおかしいって言うの」
ああ、子供は残酷だ。それぞれの家に家庭の事情と言うものがあるのに。
「美菜ちゃん、気にすることないよ」
「うん。でも、わたしもそう思ったから、今日から裕子さんのことをママって呼ぶね」
「え?」
「ずるーい。美緒もママって呼ぶ」
「じゃあ、今日から一緒にママって呼ぼうね。いいでしょ、ママ」
「え…、いいけど」
「わーい、ねえママ、晩ご飯なに?」
「ハンバーグ」
「やった、ママのハンバーグ大好き」

あれ、ちょっと待って。こんなあっさり?
ホームドラマみたいな感動シーンは?
やっとお母さんと呼んでくれたのね…的な涙のシーンは?

「ママ、ハンバーグにチーズのせて」
「美緒もチーズのせる」
「わかった。じゃあ、お手伝いしてくれる人、手を上げて」
「はーい」

まだまだ新米ママだけど、ちゃんと受け入れてくれてるみたい。
競い合うようにキッチンに向かうふたりを見送って、仏壇をふりかえると、心なしか、写真の母親が少し拗ねているように見えた。
「大切に育てますから」
そう言って手を合わせた。
2本のカーネーションが、優しく揺れた。


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大切なもの [公募]

藤田は子供のころから、ポケットに手を入れる癖があった。
しかもその中で指を動かすものだから、すぐに穴があいてしまう。
だから藤田は、大切なものをいくつも落とした。
母親からお使いを頼まれたときの小銭、友達にもらった光るビー玉、自転車の鍵、キャンディ、チケットなど、数えきれない。

藤田は30歳になった。
ポケットに手を入れる癖は相変わらずで、ポケットに穴をあけるのも日常茶飯事だが、学習能力がある彼は、大切なものは入れないように心がけている。
藤田の人生は順風満帆だ。大手の建設会社で働き、この春素敵な女性と結婚した。

藤田は今日、ひどく緊張している。
新しいショッピングモールの候補地を決める会議で、プレゼンをすることになっている。
必要な資料を抱えて会議室に向かう藤田を、先輩社員が呼び止めた。
「おい藤田、結婚指輪は外した方がいいぞ」
「えっ? なぜです?」
「開発部長の桐島さん、最近離婚してさ、結婚指輪をしている男に手厳しいって噂だ」
桐島部長は、この会社では珍しい女性の幹部だ。
陰で鉄の女と呼ばれるほど冷酷で厳しいと評判だ。しかも開発部長の意見は重要だ。
藤田は理不尽だと思ったが、左手の薬指から指輪を外し、ポケットに入れた。

重箱の隅をつつくような質問に、しどろもどろになりながらも、藤田は何とかプレゼンを終えた。
最後に桐島部長から「目の付け所はいいわ」と褒められ、ホッとしながら自分のデスクに戻り、指輪を嵌めようとポケットを探った。
「ない……」
ポケットには、ちょうど指輪がすり抜けるためにあいたような穴があった。

「指輪を失くしただって? 新婚なのにまずいぞ。奥さんに浮気を疑われるぞ」
そう言ったのは、さっき指輪を外すように言った先輩だ。
藤田は焦った。あの指輪は、ジュエリーデザイナーをしている妻の叔母が、特別に作ってくれたものだった。しかも追い打ちをかけるような妻からの電話だ。
「仕事中にごめんね。急なんだけど、今夜叔母が遊びに来ることになったの。ほら、指輪を作ってくれた叔母よ。だから今日、早く帰って来て欲しいんだけど大丈夫?」
「うん、わかった」と答えながら、藤田は頭が真っ白だった。指輪を探さなければ。

彼は昼休みに食事も摂らず、指輪を探した。
自分のフロアから会議室に続く廊下をくまなく見て回り、会議室も隅から隅まで見た。
見つからない。一体どこで落としたのだろう。
正直に話した方がいいだろうか。妻は優しく聡明な女性だ。
先輩が言うような、浮気を疑うような女性では断じてない……と思う。
藤田は自分を励ますように頷いて、自分のデスクに戻った。

「藤田さん、桐島部長がお呼びですよ」
女子社員に言われて、藤田は力なく立ち上がった。
平社員の藤田を直接呼ぶなんて、資料に不手際でもあったのだろうか。
泣きっ面に蜂とはこのことか。重い気持ちを抱えて、開発部に向かった。

「失礼します。藤田です」
桐島部長は、見ていた資料から顔を上げ、黒ぶちの眼鏡を外した。
「藤田君」
「はい、すみません」
「何を謝ってるの。まだ何も言ってないわ」
桐島部長は、机の引き出しから白いレースのハンカチを出し、藤田に差し出した。
「藤田君、あなた、こんな大切なものを落としちゃダメでしょう」
白いハンカチの中央に、プラチナの結婚指輪が輝いていた。間違いなく藤田のものだ。
桐島部長が指輪を拾い、その裏側に彫られた名前で、藤田の物だと気づいたのだ。
「ありがとうございます」
藤田は思わず泣きそうになりながら、指輪を嵌めた。
「大切にしなさいよ。指輪も、家族も」
鉄の女と呼ばれるその人は、真綿のような柔らかい表情をしていた。

「ねえ藤田君、ポケットに手を入れるのは、やめた方がいいと思うわ。何度か見かけたことがあるけど、あまり行儀がよくないわね」
「すみません。子供のころからの癖でして」
「これからは、その手をポケットに入れる代わりに、奥さんの手をしっかり握りなさい。絶対に離しちゃだめよ」
桐島部長はそれだけ言うと、眼鏡をかけていつもの厳しい顔に戻った。
藤田は深々と頭を下げて部長室を後にした。安心感からか急に腹が減ってきた。
「今日は早く帰ろう」とつぶやき、ポケットに手を入れそうになったとき、妻の顔が浮かんだ。
藤田はその手を戻し、指輪を見つめて歩き出した。

******

公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただきました。
テーマは「落とし物」でした。


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いつか人間に [ファンタジー]

次に生まれ変わるときは、絶対人間になりたかったのに…。

わたしはハムスターになった。
行きつく先のない回し車の上を、ただひたすらに走り続ける毎日だ。
なんて狭い世界だろう。なんてちっぽけな命だろう。

わたしはかつて、陸上選手だった。
誰よりも早く走り、オリンピックを目指していたが、戦争によって命を落とした。
生まれ変わってまた走りたいと願ったら、わたしは犬になった。
広い草原で、飼い主が投げたボールを走って拾いにいくのが、なにより楽しかった。
だけど四つ足で走るのは、やはり違うと感じた。

次にわたしは鳥になった。
翼を広げ、大空を飛ぶのは素晴らしかった。
風に身をまかせ、自由を満喫した。
だけどやはり、わたしは大地を走りたかった。

そして今度こそはと思ったのに、よりによってハムスターだ。
プラスチックのケージに入れられて、ここから出ることも許されない。
もっとも、小動物にとって外の世界がどれだけ危険かは知っている。
犬や鳥だった経験から、身に染みてわかる。
だから、この回し車の上をひたすら走り続けることが、今のわたしの全てなのだ。

飼い主は、いつも白い服を着た清潔な優しい女だ。
ときどきわたしを手のひらに乗せてくれる。
結婚をしたことはないが、女の温もりは知っている。
優しくて柔らかくて気持ちいい。

小動物の命は短い。わたしはきっと、まもなく死ぬだろう。
もしも人間に生まれ変われたら、この清潔で優しい女性のような人と結婚したい。
わたしは、彼女の手のひらで、そんな夢を見るのだった。
そしてわたしは、やはり走りたい。
出来ることならオリンピックの舞台に立ちたい。
神様、お願いです。今度こそは人間に生まれ変わりたいのです。

「教授、ハムスター、今日で7年6カ月です」
「そうか。薬が効いているようだな」
「はい。ハムスターの寿命をはるかに超えています。きっとまだまだ生きますよ」
「実験は成功だ。次はもっと大きな動物で試してみよう」
「はい、教授。人間の不老不死も夢ではありませんね」

カラカラカラ…
永遠の命を手に入れたハムスターは、今日も回し車の上を走っている。

KIMG0057.JPG
うちのハムちゃん。
長生きしてね~^^


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