So-net無料ブログ作成

カーネーションが2本

仏壇に、2本のカーネーションが供えられている。
長女の美菜と、次女の美緒が母の日に一本ずつ買ったものだ。
5年前に天国へ旅立ったふたりの母親は、写真の中で笑っている。

私は半年前、この家に嫁に来た。
9歳の美菜と7歳の美緒の新しいお母さんになった。
ふたりとも亡くなった母親のことはあまり憶えていない。
だからかどうかわからないが、私にとても懐いてくれている。

母になって初めての「母の日」、やはり私は期待した。
期待したけれど、何もなかった。
美菜と美緒が、おこずかいで買ったカーネーションは、実の母親の仏壇に供えられた。
そういうことだ。
結局私は、まだ母親として認められていないということだ。
その証拠に、まだ「お母さん」と呼ばれたことがない。
娘たちは私を「裕子さん」と呼ぶ。親戚のお姉さんみたいに。
夫は「ゆっくり家族になって行けばいいよ」と言ったけれど、なんだか自信を失くした母の日だった。

次女の美緒が学校から帰ってきた。
「裕子さん、ただいま。あのね、学校でお母さんの絵を描いたの。今日返してもらったよ」
「へえ、上手に描けたね。そっくりだね」
私は、美緒の絵を、母親の写真と並べて見せた。
「ちがうよ。それは裕子さんの絵だよ。だって美緒のお母さんは裕子さんでしょ」
思わず涙が出そうになった。
そういえば、髪型が今の私と同じだ。

「ただいま」と元気よく、美菜が帰ってきた。
「裕子さん、これ、先週学校で書いたお手紙。きのう渡すつもりだったのに、学校に忘れてきちゃったの」
『ゆうこさん、いつもおいしい料理を作ってくれてありがとう』
カーネーションのシールをちりばめた便箋に、可愛い字で書いてあった。
「ありがとう」
「それでね、友達がね、お母さんなのに名前で呼ぶのはおかしいって言うの」
ああ、子供は残酷だ。それぞれの家に家庭の事情と言うものがあるのに。
「美菜ちゃん、気にすることないよ」
「うん。でも、わたしもそう思ったから、今日から裕子さんのことをママって呼ぶね」
「え?」
「ずるーい。美緒もママって呼ぶ」
「じゃあ、今日から一緒にママって呼ぼうね。いいでしょ、ママ」
「え…、いいけど」
「わーい、ねえママ、晩ご飯なに?」
「ハンバーグ」
「やった、ママのハンバーグ大好き」

あれ、ちょっと待って。こんなあっさり?
ホームドラマみたいな感動シーンは?
やっとお母さんと呼んでくれたのね…的な涙のシーンは?

「ママ、ハンバーグにチーズのせて」
「美緒もチーズのせる」
「わかった。じゃあ、お手伝いしてくれる人、手を上げて」
「はーい」

まだまだ新米ママだけど、ちゃんと受け入れてくれてるみたい。
競い合うようにキッチンに向かうふたりを見送って、仏壇をふりかえると、心なしか、写真の母親が少し拗ねているように見えた。
「大切に育てますから」
そう言って手を合わせた。
2本のカーネーションが、優しく揺れた。


にほんブログ村