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はつこい [ファンタジー]

僕の初恋は、姉のお雛様だった。
大きな屋敷にあるような七段飾りではなく、お雛様とお内裏様だけの一段飾りだ。
姉はお雛様を飾るたびに、「さわらないでよ」と言った。
だから僕は、少し離れたところから、お雛様を眺めるだけだった。

僕は小学生になった。
母と姉が出かけて、僕は子供番組を見ながらひとりで留守番をしていた。
「くすくす」と笑い声がした。
振り返ると、お雛様が笑っている。
見間違いかと思ったけれど、何度も笑う。
「テレビ、面白いの?」
「ええ、面白いわ。だってこの子、何度叱られても同じいたずらをするんだもの」
「そうだね。チャレンジャーだね」
「キミとは大違いね。キミは、お姉さんが私にさわるなと言ったら、本当にさわらないんだもの。良い子すぎてつまらないわ」
「さわって…いいの?」
「もちろんいいわよ」

僕は、お雛様に初めて触れた。近くで見ると、すごくきれいだ。
「きれいだな」
「ありがとう。お内裏様は、そんなこと言ってくれないわ」
「そうなの?」
「もともと愛なんてないのよ。政略結婚だから」
「せいりゃくけっこん?」
「キミにはわからないでしょうけど、昔はね、自分の気持ちなんて関係ないの。家のために結婚するのよ」
「ふうん」
そのとき、母と姉が帰ってきて、僕は慌ててお雛様を戻した。
「ただいま。あんた、お雛様にさわった?」
「さ、さわってないよ」
「そう。ならいいわ」

その後もお雛様は、僕がひとりのときに話しかけてきた。
たいがいはお内裏様の愚痴だった。
「あの人、何を考えているのかわからないの。ちっとも話さないしね。キミとのおしゃべりの方がずっと楽しいわ」
小学生の僕には、重い話だったけど、なぜかとても嬉しかった。
だけど月日が流れるにつれて、お雛様の愚痴はだんだん減っていった。
「あの人、無口だけど意外と優しいところもあるのよ」
「へえ」
「不器用なのよね。簡単に愛を口にする人より信頼できると思うわ」
「へえ」
「キミは、好きな子はいないの?」
「え?あっ、姉ちゃんが帰ってきた」
そんなふうに、僕たちの楽しい時間は過ぎていった。

姉は中学生になると、お雛様を飾らなくなった。
「どうして飾らないの?」
「勉強が忙しいの。お雛様どころじゃないわ。男のくせにお雛様を飾りたいなんて、あんた、もしかしてオカマ?」
姉の言葉に傷つきながらも、いつしかお雛様を飾らないのが当たり前になり、僕の人知れぬ初恋は終わりを告げた。

さらに月日は流れ、姉は結婚して男の子ふたりの母になった。
その後僕も結婚して、秋に女の子が生まれた。
「まあ、初節句ね。お雛様を買わなくちゃね」
母の言葉に僕は、姉のお雛様を思い出した。
「おれ、姉ちゃんのお雛様が欲しいんだけど」
「あんな古いお雛様より、新しいのを買ったら」
母は言ったけれど、僕はどうしても姉のお雛様がいいと言った。
妻もそれでいいと言ってくれた。
姉は「別にいいけど。あんた、小さいころお雛様にさわらせてもらえなかったのが、よほど悔しかったのね」と笑った。

久しぶりに会ったお雛様は、やはりきれいだった。
もうしゃべることはなかったけれど、見るたびに甘酸っぱい想いが甦る。
娘が3歳になった穏やかな春、家族でお雛様を飾った。
「ねえパパ」
お雛様をじっと見ながら娘が言った。
「せいりゃくけっこんって、なに?」

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優しい物々交換 [ファンタジー]

いつも時間に追われていた。
朝ご飯、息子二人と夫の弁当、洗濯、9時から3時までのパート仕事。
買い物と掃除を済ませると、あっという間に夜だ。
自分の時間なんてまるでない。

ハンバーグを作ろうとしたら、卵がないことに気づいた。
慌ててエプロンを外し、財布だけ持って夕暮れの街に出かけた。
途中の古い家に漂う金木犀の香りに足を止めた。
垣根の中から、杖をついたおばあさんが顔を出した。
「いい香りでしょう。よかったらお茶でもいかが?」
「いえ、私とっても忙しいので。買い忘れた卵を買いに行くところなんです」
「まあ、卵なら家にあるわ。差し上げるわよ」
おばあさんはそう言うと家に入って卵を1パック持ってきた。
「私は食べないからどうぞ」
「それじゃあ、お金を払います」
「いいのよ。そうねえ、それじゃあ、その鈴と交換しましょう」
おばあさんは私の財布に付いている古ぼけた鈴を指さした。
「物々交換よ。それならいいでしょう」
おばあさんは、ゴミと言われても仕方ないような鈴を嬉しそうに受け取った。

いくらなんでも、タダ同然で卵をもらう訳にもいかず、翌日スーパーでみかんを買っておばあさんを訪ねた。
「あらまあ、悪いわ。それならまた物々交換しましょう。あなたの欲しいものを言ってちょうだい」
「欲しいものなんてありません。私、もう行かないと。時間がないんです」
「あなたいつも時間がないのね。そうだ、それなら私の時間と交換しましょ」
「時間と交換?」
「私は時間を持て余しているの。だから私の1時間と、そのみかんを交換しましょ」
よく意味が解らなかったが、とりあえずみかんを押し付けて帰った。

家に着いたのは午後4時。急いで掃除をして洗濯物を取り込んでアイロンがけを済ませて時計を見ると4時。
え? どういうこと? 帰って来てから1分も経っていない。
スマホで時間を確かめたがやはり4時で、夕飯の支度を始める5時まで、まるまる1時間残っている。
ああ、そうか。きっとこれが、おばあさんと交換した1時間だ。
なんだかキツネにつままれたような気分だけど、私はその1時間でゆっくりコーヒーを飲んで、読みたかった本を読んだ。

翌日、再びおばあさんを訪ねた。
「ウールのブランケットです。これと、おばあさんの時間を交換してください。出来れば2時間」
「いいわよ。素敵なブランケットね」
こうして2時間を手に入れた私は、ずっと見られずにいた映画のDVDを観た。
なんて自由。なんという充実感。

私はだんだん欲張りになった。いくらでも時間が欲しい。
毎日おばあさんと時間の物々交換をした。
交換する物は、引き出物でもらった食器や着なくなったカーデガン、お菓子や本。
おばあさんは何でも喜んでくれた。
時間はだんだん長くなり、3時間から5時間をもらうことが多かった。
その時間で友人と会ったり、ショッピングをしたり、映画を観たりした。
しかし時間がいくらでもある生活に慣れると、あえて出かけなくてもいいと思うようになった。
だらだら過ごし、いつでも出来ると思うと、家事も自然とおろそかになる。
晩のおかずもデパ地下の惣菜で済ませるようになった。

「お母さん、制服のボタン付けてって言ったよね」
「俺のスーツ、クリーニング出してくれなかったの?」
私の答えはいつも同じだ。「明日やるわ」
そして翌日、いつものようにおばあさんの家に行った。
ボタン付けとクリーニング、今日は余計に時間をもらおう。

おばあさんの家は、いつもと違った。
白と黒の幕が張り、訃報を告げる張り紙があった。
ちょうど家から出てきた、おばあさんに目元が似ている女性に声をかけた。
「どなたか、お亡くなりになったんですか」
女性は泣きはらしたような目で私を見た。
「母が亡くなりました。昨夜急に」
「まあ…」
「母は余命宣告を受けていました。だけどまだ時間があるはずだったんです。だけど時計が止まるように突然、母の時間は止まってしまいました」
女性は「それでは」と深く頭を下げて家の中に入った。
私は立ちすくみ、雷に打たれたように動けない。
体中が震えた。おばあさんの時間を、私が奪った。
だらだらと、意味もなく過ごした時間は、おばあさんの大切な時間だった。
崩れそうになりながら、「ごめんなさい」と心の中でつぶやいた。

以前と同じ日常が戻った。時間に追われる日々。
だけどその時間の大切さが、今ならわかる。
どんなに忙しくても、おばあさんの家の前では立ち止まる。
金木犀も、もう香らない。寂しい空き家になった庭に向かって「ありがとう」と手を合わせる。
にこやかに笑うおばあさんが立っているような気がしたが、そこにはコスモスが優しく揺れるだけだった。


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ネコふんじゃった(2) [ファンタジー]

オレの名前は拓馬。いたって健全な、ごく普通の大学生だ。
訳あって、今はネコだけどな。
どうしてオレがネコになったか教えてやろう。誰にも言うなよ。

数日前のことだ。
オレはテニスサークルの女子更衣室の前にいた。
誤解するなよ。べつに覗いてたわけじゃねえ。
ミスM大が、更衣室に入っていくのを見て、ついつい想像していたんだ。
女子更衣室の中で繰り広げられる、めくるめく魅惑の光景を。
そのとき、一匹の黒猫が更衣室から出てきた。
オレは思った。
「いいなあ~、ネコは女子更衣室に堂々と入れて」
そして空に向かって願った。
「ネコになりて~!」

どこぞの神様がオレの願いをきいてくれたのか、オレはその瞬間にネコになった。
それからは悲惨続きだ。
意気揚々と女子更衣室に入ったら、すでに着替えは終わっていて、それどころかミスM大に首根っこをつかまれて外に出された。
「このノラ猫また来やがった。うすぎたねえヤツ」
生着替えが見られない上に、ミスM大の裏の顔まで見てしまった。
オレより口が悪い。

すぐに人間に戻ると思ったのに、全然戻らない。
その後は、どこに行っても邪魔者扱いだ。
腹が減って学食に行ったら、頭を叩かれて追い出された。
「オレは人間だ。この大学の学生だ」
言っても通じない。やつらにとってオレの声は、ただの鳴き声だ。

ふらふらになりながらトボトボ歩き、日が暮れて夜になってもネコのままだ。
歩道にうずくまって寝ていたら、明け方、思い切り腹を踏まれたんだ。
オレを踏んだのは若い女だ。やけにのんびりしたノー天気な女で「ごめんね」とふわふわした声で言った。苛つく女だ。
「ごめんで済めば警察はいらねーんだよ」
「ネコがしゃべった」
あっ、この女には話が通じる。
この機会を逃したら、オレはぜったい飢え死にする。
「おまえの家に連れていけ。美味いもん食わせろ」

まあ、そんなわけで、このナナコという女の家に厄介になっている。
持ち物すべてに名前を書いている、小学生みたいな女だ。
部屋はきれいに片付いていて、言葉遣いも丁寧だ。
口の悪い両親に育てられたオレとは、育ちが違うな。
ミスM大のように裏表はないし、オレの我儘をブツブツ言いながらもきいてくれる。
「お肉が食べたいって言うけど、高いお肉は買えないのよ。お父様から20歳になるまではアルバイト禁止されているの。心配なのはわかるけど、少し過保護なのよ」
「一人暮らしなんだから、バイトしてもバレねーだろ」
「だめよ。わたし、とっても嘘が下手なんだもの」
「ふーん、どうでもいいけどフォアグラはいつ食わせてくれるんだ」
「無理に決まってるでしょう」

3日も過ぎると、さすがにナナコは困ったように「出て行ってください」と言う。
だけどオレだって、ここを追い出されたら路頭に迷う。
意地でも出て行かねえぞ。

ある朝、ナナコは散歩に行った。いつものことだけど、なぜか嫌な予感がした。
ネコになって1週間、動物の勘ってやつが備わったのか。
オレは窓から抜け出して、ナナコの後をつけた。
相変わらず、とろとろ歩いてるぜ。
ふと、ナナコの後ろを歩く男に気づいた。どう見てもナナコの後をつけている。
さすがのナナコも気づいて走ったけど、恐ろしく足が遅い。
追いつかれて男に捕まっちまった。
オレは塀の上から男に飛びかかり、顔を引っ搔いてやった。
「ナナコ、今のうちに逃げろ!」
ナナコの叫び声に男は逃げたけど、オレは思い切りアスファルトに叩きつけられた。
「いてえ…」

ナナコがオレを抱きしめて、いっしょうけんめい擦ってくれた。
「大丈夫よ。すぐに動物病院に連れて行くからね」
ぽろぽろ泣いている。きれいな涙だ。ナナコ、おまえは本当にいい女だな。
最後の我儘だ。
「ナナコ…オレにキスしろ」
「やっぱり偉そう」
そう言いながら、ナナコはオレに優しくキスした。唇が柔らかい。
夢心地だ。もう死んでもいいや。

気がついたら、女子更衣室の前にいた。人間に戻っている。
体中が痛くて重い。こんなところで寝ていたせいか。
夢だったのか。やけに生々しい夢だった。
ナナコの唇の感触が、まだ残っている。
更衣室から、テニスウエアのミスM大が出てきた。
「おはよう」ってにっこり笑いかけてくれたけど、不思議なくらい何も感じない。
教室に行くと友達に「拓馬、おまえ1週間も休んでどうしたんだよ」と言われた。
1週間? やっぱり夢じゃなかったのか。

しばらくは、たまっていたレポートに追われた。
徹夜した朝、しらじら明ける空を見ていたら、たまらなくナナコに会いたくなった。
「ナナコのやつ、まさか懲りずに散歩行ってねーだろうな」
オレはそのままナナコのアパートに行った。
ほんの数日前のことなのに、やけに懐かしい。
見上げると、ナナコが窓辺で頬杖をついていた。少し寂しそうな顔。
朝日に赤く染まった髪がきれいだ。

「ナナコ、散歩行こうぜ」
「誰?」
キョトンとするあどけない顔に、オレは思わず笑った。
「散歩付き合うから、フォアグラ食わせろ」
「アクマなの?」
だから、オレの名前はタクマだってば。とろいな。とろいけど可愛い。
可愛すぎて、苛めたくなるんだよな。

あっ、そこのおまえ、オレがネコになった理由、ナナコに絶対言うなよ。

ネコふんじゃった(1) [ファンタジー]

とても素敵な朝だったので、散歩に行った。
目覚めたばかりの街は神秘的。鳥のおしゃべりや朝露をまとった花のささやき。
なんて爽やかな朝。
ふと、足元から「フギャー」という、この朝に似つかわしくない声がした。
「何かしら」
見ると、お気に入りのピンクのスニーカーの下に、黒いネコがいた。
「あらネコちゃん、ごめんなさいね」
抱き上げると、ネコは鋭い目で私を睨んだ。
「ごめんで済めば警察はいらねーんだよ」
「はっ? ネコがしゃべった?」
「あー、いてえ。責任とってくれるんだろうな」
「じゃ、じゃあ、動物病院に…」
「病院なんかごめんだよ。お前の家に連れてけ。美味いもん食わせろ」
何だか偉そうなネコ。仕方がないので、アパートに連れて帰った。

「静かにしてね。ここはペット禁止ですから」
私は冷蔵庫からミルクとツナ缶を出して、ネコに差し出した。
「なんだよ。しけてんな。肉はねえのか」
「え? ネコはお魚を食べるんじゃないの?」
「肉だよ。極上のステーキ食わせろ。焼き方はレアだ」
「ないわよ」

その日から、悪魔のようなネコが住み着いてしまった。
本当に悪魔みたいだから、「アクマ」という名前をつけた。
「おい、ナナコ」と、私を呼び捨てにして、偉そうに指図をする。
布団が硬い、マッサージしろ、デザートを出せ、フォアグラ食わせろ。
私はまだ、親から仕送りをいただいている女子大生。フォアグラなんて食べたこともない。

ある日管理人さんに言われた。
「あんたの部屋から男の声が聞こえるって噂になってるけど、まさか男を連れ込んでいないよね」
私のアパートは女子大生専用で、男子禁制だ。
「ネコです」とも言えないし、「アイドルの男の子を育てるゲームをしていま~す」と、笑ってごまかした。

もう限界だ。「出て行ってください」と言えば、わざとらしくお腹を押さえ、
「傷がまだ痛いよ~」と、下手な演技をする。
寝ている間にどこかに捨ててこようと思ったが、アクマは隙を見せない。
同じアパートの友達に相談してみた。
「じゃあ私が追い出してあげる」と、友達が部屋に来た。
すると、今まで横柄だったアクマが、急に可愛いネコになり、「にゃ~」と鳴いて、友達のひざにちょこんと乗った。
「なんだ。可愛いネコちゃんじゃない。すごくいい子だわ」
頭を撫でられて、アクマはすっかり甘えている。
「普段は違うのよ。すごくわがままで横柄で言葉遣いも汚いわ」
「言葉遣いって、ネコでしょう」友達はケラケラ笑った。
そして、「管理人さんには内緒にしてあげる」と、アクマの頭を撫でて帰っていった。

友達が帰ると、アクマは途端に肩ひじをついて寝そべりながら、私が隠していたハーゲンダッツのアイスを食べた。
「今の女、ナナコより胸でかいな。Fカップか?」
「知らないわよ」
もう泣きそうです。蹴とばしてやりたいけど、動物をいじめてはいけないという、お母様の教えに従って我慢した。

そんなある日のこと。
いつものように朝の散歩に出た私は、不審な男に後をつけられた。
怖くなって走って逃げると、男も走ってついてくる。
路地を曲がったところで追いつかれ、羽交い絞めにされた。
口を押えられて声が出ない。誰か助けて。

そのとき、黒いものが私の上を通り過ぎ、男の顔に貼り付いた。
アクマだ。アクマが男の顔をバリバリとひっかいている。
油断して男が手を放した隙に、私は大声で叫んだ。
「助けて!助けて!」
ジョギングの男性が気づいて近づいてきてくれた。
男は「ちくしょう」と、アクマをアスファルトの歩道に叩きつけ、逃げていった。

私はぐったりしたアクマを胸に抱いた。ゼーゼーと息が荒い。
「ありがとう、アクマ。大丈夫だよ。すぐに動物病院に行こうね」
「病院はごめんだぜ。…それよりナナコに最後のお願いだ」
アクマは息も絶え絶えに言った。
「最後に、おれに、キスしろ」
「やっぱり偉そう」
私はポロポロ泣きながら、アクマに優しくキスをした。
アクマは目を閉じると、ふわっと風のように消えてしまった。
手の中にあった重みが、跡形もなく消えた。
いつのまにか集まってきたたくさんの人が私を囲み、「怪我はないか」といたわってくれたけど、私はただ、ぼうっとしながら黒いネコを探していた。

アクマがいなくなった部屋は、元どおり平穏が戻った。
それを望んでいたはずなのに、なんだか寂しい。
朝の散歩も、あれ以来やめた。
「つまらないわ」と、窓辺で頬杖をついていたら、どこからか声がする。
「ナナコ」と呼ぶ声。アクマの声に似ている。
窓を開けると、若い男子が見上げている。
「ナナコ、散歩行こうぜ」
「…誰?」
「散歩付き合うから、フォアグラ食わせろ」
アクマだ。アクマが男の子になって帰ってきた。
私はぐるぐる回る頭の中で考えたけど、何が何だかわからない。
とりあえず、彼と一緒にお散歩しましょう。

*これは2部作です。アクマの正体は、続編でお楽しみください。
2,3日後にアップします。

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遊覧船に乗って [ファンタジー]

お父さんと遊覧船に乗ったの。
ドラゴンの形の遊覧船だった。
私はまだ小さかったから、船首に付いたドラゴンの顔が怖かった。
「どこに行くの?」ってお父さんに聞いたら、
「お母さんのところだよ」って言った。
お母さんに逢えるなら、ドラゴンの顔が怖くても平気だと思った。

遊覧船は、ゆっくり空へ舞い上がった。
あれ? 海じゃないの? って思った。

ぐんぐん上がって、いつの間にか辺りは真っ暗。
真正面にお月さまが見えた。
いつも遠くから眺めるお月さまが、すごく近くに見えた。
遊覧船は月に向かって進んでいたの。

月に着いたら、お母さんが手を振っていた。
白いドレスを着て、月の女神みたいにきれいだった。
「ほら、お母さんにお別れしなさい」
お父さんに言われて、私も手を振った。
抱きしめてほしかったけど、船から降りることは許されなかった。
「バイバイ、お母さん。また逢いに来るよ」
声が届いたかどうかはわからないけれど、お母さんはずっと笑っていた。
だから私も笑って手を振り続けたの。

あの遊覧船は、ずっと夢だと思っていた。
なぜなら目覚めたとき、私はちゃんとお布団で寝ていて、起きたらお父さんがいつものように新聞を読んでいた。
お仏壇にはトルコ桔梗の花が飾ってあって、写真のお母さんが笑っていた。
「な~んだ、夢か」って言いながら、牛乳を飲んで学校へ行ったわ。

だけどね、あの出来事が夢じゃなかったって、今ならわかるわ。
だって、あなたたちが遊覧船に乗って、私に逢いに来てくれたんだもの。

ここはお月さま。
私たちはここで、星になるための準備をするの。
星になったら逢えないから、大切な人に最後のお別れをすることが出来るのよ。

ありがとう。来てくれて。
あらあら、まだ小さな孫が、キョロキョロしているわ。
ドラゴンの顔を見て泣かないように、ちゃんと抱っこしてあげて。
「バイバイ」
私は、あのときのお母さんみたいに、笑顔で家族とお別れしたの。

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クズと守護霊 [ファンタジー]

ヤツはぐうたらだ。
「暑い、暑い」と言いながら、朝からシャワーを浴びる。
「暑い、暑い」と言いながら、朝からビールを飲む。
「暑い、暑い」と言いながら、ふたたび眠る。

ヤツは働かない。だから金がない。
金がないから嫁も来ない。
来るのは借金取りくらいだ。

ドンドンドン「おい、出てこい! いるのはわかってるんだ」
ほら、噂をすれば借金取りが来た。
こんなに激しくノックしても、ヤツは起きない。
並の神経ではないのだ。
うるさいし、仕方がないから追い返そう。

「うわ、いきなり植木鉢が落ちてきた。なんだ、なんだ、うわっ!」
植木鉢を落として、ホースの水をかけてやったら逃げて行った。
借金を返さないヤツが悪いのはわかっている。
助ける必要はないのかもしれないが、なにしろ私は、ヤツの守護霊だ。
たとえクズでも、ヤツを守るのが私の仕事なのだ。
カビが生えたパンを食べて死にそうになった時も助けてやった。
根っからのダメ人間だから、放っておけないのだ。

ああ、どうして私は、こんなヤツの守護霊なのだろう。
もっと守り甲斐のあるヤツだったらいいのに。
汗水たらして働く好青年の守護霊だったら、どんなによかったか。

ヤツが寝ている間に、守護霊組合に行く。
「お願いしますよ。守る人間を変えてくださいよ。もう限界ですよ」
「よし、そこまで言うなら変えてやる」
何度も願いを出しているせいか、ようやく許可が出た。

翌日から私は、かわいらしい少女の守護霊になった。
優しくて品行方正。私が守らなくても、すべての人に守られている幸せな子だ。
穏やかだ。
借金取りも来ないし、かびたパンを食べることもない。

こうも穏やかだと、ヤツのことが気になってくる。
腐ったものを食べていないか。電気を止められていないか。
ちょっと様子を見てこよう。

ヤツがぐったりしている。顔が腫れているではないか。
借金取りが来て、ボコボコにされたんだな。
ちょっと可哀想だ。
それでもヤツは時計を気にして立ち上がった。
ヤツは仕事を始めたようだ。さすがに、このままではまずいと思ったのだろう。
それとも借金取りに殴られて目が覚めたか。
日雇いの工事現場だ。
「水分だけはしっかりとれよ」と耳元で、ささやいてやった。

夕方ヤツは、もらった金を手にスーパーに行き、酒と花を買った。
花? 私が離れたとたん、彼女でも出来たか?
ヤツは酒と花を持って、アパートと反対方向に歩き出した。
行き先は墓地だ。

ヤツが立ち止まった墓は、なんと私の墓だった。
よく見たら、私が生前好きだった酒ではないか。
「じいちゃん、なかなか来れなくてごめんよ」
すっかり日が暮れた墓場で、ヤツはいつまでも手を合わせていた。

そうか。ヤツは私の孫だったか。
自ら進んで孫の守護霊になったことを、私はすっかり忘れていた。
自分の孫だから、少しばかり甘やかしすぎたのだ。

私は守護霊組合に頼んで、ふたたびヤツの守護霊にしてもらった。
今度は甘やかさんからな。
しっかり生きろよ。タカシ。

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開かずの信号 [ファンタジー]

村のはずれの信号は、いつも赤だ。
青になることも黄色になることもない。
そもそも車が通らない。だから信号が赤でも青でも関係ない。

あるとき、若い男が、どういうわけかこの村に迷い込んだ。
彼はひどく疲れていた。
クレーム対応に追われ、あちこち謝罪に回った帰り道だ。
「道を間違えた。参ったなあ。ここはどこだろう」
村はずれの信号が赤だったので、男は止まった。
信号はずっと赤のままだ。
「長いな、この信号」
そう思いながらも、男は待っていた。
車は1台も通らない。いっそ信号無視で行ってしまおうか。
いやいや、行った途端に人が飛び出してくるかもしれない。
陽がくれて見通しが悪い。

そのとき、腰の曲がった老婆が横断歩道を渡ってきた。
やはり止まっていてよかったと男は思った。
老婆は男の車に近づき、ニコニコ笑いながら窓を開けるように言った。
「ほら、晩ご飯だよ。お食べ」
老婆が、おにぎりとお茶を持ってきた。
「え?」
「冷めないうちに食べな」
男は腹が減っていたので、遠慮なく食べた。
「う、美味い。美味いです、これ」
顔を上げると老婆はもういなかった。
久しぶりのちゃんとした食事を終えても、信号はまだ赤だ。

痩せた老人が近づいてきて、「一局どうだね」と、将棋を指す身振りをした。
「将棋か。ガキの頃よく親父の相手をしたな」
路肩に縁台と将棋盤が用意されている。
男は車を下りて老人と将棋を指した。
「若いの、なかなかやるな」
「待ったなしだよ。おじいさん」
そこに、さっきの腰の曲がった老婆が、蚊取り線香とスイカを持ってきた。
「ほら、勝負はひとまずおあずけだ。スイカをお食べ」

遠慮なくスイカにかぶりつくと、ちらちらと小さな灯りが見えた。
「ホタルだよ」
老婆がうちわで蚊を追いながら言った。
「ホタル?初めて見た」
儚い光が、懸命に生きている。光がにじみ、泣いていることに男は気づいた。

なんていい夜だろう。
男は子どもの頃、田舎の祖父母の家で過ごした夏を思い出した。
優しい風に身をゆだね、このまま眠りたいと、男は思った。

プップー!
けたたましいクラクションが鳴った。
はっと気づくと、信号が青になっている。
後ろの車がせかすようにクラクションを鳴らしていた。
男はいつのまにか眠っていたようだ。
信号待ちの間に眠るなんて、よほど疲れていたんだな……。
男は苦笑いしながら、車を発進した。
散々迷った道は、不思議なほどすぐに大通りに出た。

夢だったのか。いい夢だった。
今の仕事が一段落したら、少しまとまった休みを取ろう。
久しぶりに田舎のじいちゃんとばあちゃんに会いたくなった。
心がずいぶんと軽くなった。
男がズボンに張り付いた、スイカの種に気づくのは、もう少し先のことだ。

ところで、村のはずれの信号は、また赤信号に変わったままだ。
ふたたび疲れた誰かが通るまで、信号が変わることはない。

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虹を渡って [ファンタジー]

あの子は虹の向こうから来たんだ。
きれいな七色の服を着ていたよ。
虹を渡らないと家に帰れない。
だから、虹が出るのを待っているんだ。

虹の向こうは雨ばかりの世界。
だから最初は、太陽のまぶしさに驚いていたよ。
降りそそぐ光に手のひらをかざしたりしてさ。
ずいぶんはしゃいでいたんだよ。

だけどやっぱり家が恋しくて、この頃は泣いてばかりいるんだ。
あの子の服の色が、ひとつ消えた。
泣くたびに、色が消えるとあの子は言った。
全部消えると、わたしも消えてしまうの…と。

雨がぼつぼつ降りだすと、あの子は窓から身を乗り出して手をかざす。
ねえ、今日こそ虹がでるかしらって、少し寂し気に笑うんだ。
またひとつ、あの子の服の色が消えた。

本当はね、とっくに虹は出ていたんだよ。
高層ビルが立ち並ぶ都会では、うまく見ることが出来なかっただけだ。
僕はあの子に恋をした。
ずっと一緒にいたかった。
だから、虹が出たことを教えなかったんだ。

あの子の服の色が、また消えた。
少しずつ、痩せていくあの子は、もう笑うこともなくなった。

服の色が2色になってしまった日、僕はあの子を車に乗せた。
雨と晴れの境目に向かって、とにかく僕は走ったんだ。
助手席で、あの子の服はとうとう1色になった。
もう少しだよ。頑張って。

道のないどこまでも続く草原が、目の前に広がった。
雨がぴたりと止んで、やわらかい日差しが降りそそいでいる。
雨と晴れの境目だ。
車を降りて、すっかり小さくなったあの子を抱いた。
「ほら、大きな虹が出ているよ」
ふらふらと虹の前に立ったあの子は、ようやく笑顔を取り戻した。
服の色が七色に戻っていく。

あの子は元気に走り出し、虹の向こうに消えてしまった。
一度も振り向かなかったな。
そんなものさ。
まあいいよ。気まぐれなあの子のことだから、雨に飽きたらまた来るさ。

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3次会に消えた恋 [ファンタジー]

見覚えのない部屋で目を覚まし、ホテルに泊まったことを思い出した。
夕べ、高校卒業後20年目のクラス会に初めて参加した。
宿泊組は、私を入れて8名だった。
その中に桂木君はいただろうか。

桂木君は、私の初恋の人で、高校時代に1年だけ付き合った。
20年ぶりに会った彼がまだ独身だと知って、心の奥の酸っぱい想いが甦った。
「うそ、美沙ちゃんも独身? おれもだよ」
久しぶりに名前で呼ばれて、懐かしさに話が弾んだ。
付き合っていた頃に観た映画の話、待ち合わせの神社、初めてのケンカ。
楽しかった。こんな気持ちは久しぶりだ。
恋に発展する予感はあったけれど、桂木君は数人の男友達と3次会に消えてしまった。

7時30分にメールが来た。桂木君からだ。
『朝食いっしょにどう?』
ああ、やっぱり彼も宿泊組だった。運命を感じる。
髪を整えて化粧をして、朝食のレストランへ向かった。
桂木君が窓側の席で手をふった。
「他の人は?」
「まだ寝てるんだろう。ほら、3次会行ったから」
私以外の宿泊組はたぶん、みんな3次会へ流れたのだろう。

朝食が運ばれてきた。私の分だけだ。
「桂木君、もう食べたの?」
「気にしないで食べて。僕はここに泊まったわけじゃないから」
「え?じゃあ、どうしているの?」
「美沙ちゃんにもう一度会いたかったからだよ」
桂木君が小さく笑った。
こういうことが、さらっと言えるようになったんだと、可笑しくなった。
コーヒーを飲むように勧めたが、だるそうに首を振った。
二日酔いだろうか。あまり寝ていないのかもしれない。
それでも会いに来てくれたことが嬉しくて、年甲斐もなくときめいた。

「桂木君、このあとどうする?私、今日中に東京に帰れればいいから」
「ああ、ごめん、あいつらと行くところがあるんだ」
「ふうん。男同士で遊びに行くんだ。3次会がよっぽど楽しかったのね」
「いや、大した店じゃない。美沙ちゃん、来なくてよかったよ」
「若いおねえちゃんがいる店かしら。いやね、男は」
桂木君が弱弱しく笑った。朝の陽ざしが彼の横顔を白く照らした。

「じゃあ、そろそろ行くよ」
桂木君が立ち上がる。
「え?もう?」
「会えてよかった。気を付けて帰れよ」
「また会える?」と言おうとしたところに、コーヒーのおかわりが運ばれてきた。
そして顔を上げたら、湯気の向こうに彼はもういなかった。

10分ほどぼんやりしていたけれど、宿泊組の同級生は誰も来なかった。
何だか拍子抜けして部屋に戻り、テレビをつけた。
『今日未明、〇〇町の雑居ビルで火災が発生しました。火元は5階のスナックとみられ、客と従業員12名が死亡しました』

「いやだ、このホテルの近くじゃないの」
独り言をつぶやきながら荷物を整理していたら、電話が鳴った。
昨夜アドレス交換をした女友達からだった。
「美沙子、火事のニュース見た?」
「うん。今見たところ」
「あの火事の火元、きのうの3次会の店だったのよ。行った人全員亡くなったって…」
「うそ。だって…」

桂木君の言葉を思い出した。
「あいつらと行くところがある」「美沙ちゃん、来なくてよかったよ」
ああ……。崩れ落ちるようにベッドに倒れた。震えが止まらない。
ついさっき会った桂木君の顔を思い出そうとしたけれど、朝の光にぼやけた顔しか浮かばない。
その代わりに、制服を着た17歳の桂木君が現れて、無邪気な笑顔で手を振った。
「ちょっと4次会に行ってくる」
動揺を抑えきれない私に変わって、セーラー服を着た17歳の私が「バイバイ」と明るく手を振った。

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私が人魚になる日 [ファンタジー]

ママは海の、ずっとずっと深いところにいる。
幼いころ、パパが話してくれた。
私のママは人魚だと。
魔法で人間になったママは、パパと出会って一緒に暮らした。
だけど私を産んでまもなく、元の人魚に戻ってしまった。
「魔法が切れてしまったんだ」
「ママはどこにいるの?」
「海の底の人魚の国で、きっと幸せに暮らしているよ」
そう言ったパパの顔がすごく寂しそうだったから、私はその日以来、ママの話をしていない。

海を眺めながらふと思う。
いつか私も人魚になるのかな。
この足に、七色に輝くうろこが生えてくるのかな。
そうしたら、ママが住む人魚の国へ行けるのかな。
だけど私までいなくなったらパパは悲しむだろうな。
そんなことを毎日毎日考えていた。

小学校へ上がり、水泳の授業が始まった。
私はなんと、まったく泳げなかった。
海辺の町で生まれたというのに。しかも母親が人魚なのに。
どうしたわけか、顔に水がかかっただけでパニックになってしまう。
毎日見ている海なのに、怖くて仕方ない。
どうしよう。もしもうろこが生えて人魚になったら、私溺れて死んでしまう。
こうなったら、人魚にならないことを願うしかない。

日曜の昼下がり、防波堤で釣りをするパパの隣で、いつものように海を見ていた。
「釣れないなあ。帰りに魚正で魚買っていくか」
「それならハンバーグがいい」
「真凛(まりん)は肉が好きだな。海辺の町で育ったのに」
だって共食いはいやだもん。心の中でつぶやいた。

パパが突然立ち上がった。
パパの視線の先には、白い日傘をさした女の人。
茶色の髪に派手な化粧をしている。
「夏美!」
パパが叫んだ。
「帰ってきてくれたのか!」
女の人が、日傘をくるくる回してパパに笑いかけた。
「だれ?」
「真凛、ママだよ。ママが帰ってきたんだ」
パパは、この日をずっと待っていたような、最高の笑顔でその人を迎えた。
女の人は不思議そうに私を見降ろした。
「うそ、真凛? うわ、子供って10年でこんなに大きくなるのね」
海の底から来たのだろうか。私は思わずその人の足を見た。

「あの、また魔法で人間になったんですか?」
「はあ? 何言ってんの、この子」
「だって、ママは人魚なんでしょう?」
「ぶは、ウケるんだけど、何、この子?」
パパが困ったように頭を掻いた。
「そういえば真凛が小さいころ、ママはどこにいるか聞かれて、人魚の国にいるって作り話をしたことがあったな」
「作り話?」
「やだ、相変わらずロマンチストね。まあ、もっとも本当のことは言えないわよね。子供を捨てて東京に行ったなんてね」
「捨てた?」
「だって、あたし18だったのよ。こんな田舎で一生終えるのかと思ったら耐えられなくて。でもね、都会なんて10年も暮らせば充分。なんだか海が恋しくなって帰ってきちゃった」
あっけらかんとした態度。こんな人ママじゃない。
私はその人を、思い切り海へ突き落した。

両手をばたつかせてもがくあの人。水しぶきが泡みたい。
無様だ。どうみても人魚じゃない。
「何するんだよ。夏美は泳げないんだぞ」
パパが上着を脱いで海に飛び込んで、あの人を助けた。
ずぶ濡れのあの人は、ゼーゼーと荒い息を吐きながら私を睨んだ。
「何するのよ。あたしは顔に水がかかっただけでパニックになるのよ」
あ…私と同じ。
つけまつげが取れて少し優しくなった顔には、私と同じほくろがある。
やっぱりママなのか。

私は持っていたピンクのタオルを投げてあげた。
「あんた、あたしに似て気が強いわね」
ママが笑った。隣でパパがオロオロしている。
この人と、ちゃんと家族になれる自信はあまりない。
だけど人魚になって溺れ死ぬ心配は、とりあえずなくなった。

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