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主婦ブロガーの願い事 [コメディー]

あら、願い事をひとつ叶えてくれるの?
ひとつか…、悩むわね。
私はね、もともと専業主婦になりたかったの。
だけど現実は、家事と仕事と子育てに追われて、自分の時間もないのよ。
楽しみはブログを書くことだけよ。専業主婦の方が羨ましいわ。

― では、願い事は「専業主婦になる」でいいか ー

あっ、待って。専業主婦になってもお金がなかったら仕方ないわ。
お出かけも、ママ友とランチも出来ず、節約に追われる毎日なんて。
ブログのネタにも困っちゃうわ。
宝くじでも当たって大金持ちになるならいいけど。

― では、願い事は「宝くじが当たって大金持ちになる」でいいか ー

待って、待って。
そんなことでお金持ちになったら、ろくな人生じゃないわ。
ブランド品を買い漁ったり、店ごと洋服を買うような女になるわ。
もっと違う方法でお金が入るほうがいいわ。
そうだ。このブログが評判になって出版されてベストセラーになるのはどうかしら。
それで私はテレビに出るの。クイズ番組とか、バラエティとか、あとは、ドラマとか。
それでね、アイドルのTくんやKくんに会って「ファンです」とか言われるの。
「いや、私の方こそファンです」って。
ヤバくない?

― では、願い事は「ブログが評判になって本になる」でいいか ー

やっぱりダメ。
だってもしもTくんやKくんに誘われて不倫しちゃったら大変。
SNSで悪口書かれるわ。「ブスのくせに」って。
ブログも炎上しちゃう。
それに、そんなことで大切な家族を失いたくないわ。

― では、願い事はどうするんだ ー

待って。もう少し時間を…。
はっ、やだ、もうこんな時間。夕飯の支度をしなくちゃ。
ねえ、夕飯のメニュー考えてくれない?

― わかった。では1週間分のメニューを、おまえの脳に送る ー

えっ、ちょっと、それ願い事じゃないから。
ああ、消えちゃった。

でも考えてみたら、毎日の悩みって夕飯の献立くらいだわ。
さて、サバの味噌煮作ろう。あら、メニューが次々浮かぶわ。
お料理ブログに変更しようかしら。


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おばけカボチャ [コメディー]

秋の日暮れはつるべ落とし。
おばあさんは夕食の支度の手を止めて、カーテンを閉めようと窓辺に寄った。
「おや?」
庭に、おばけカボチャが立っていた。
いつもなら、ギャーと叫んで失神するところだが、おばあさんは驚かない。
なぜなら今日はハロウィンだから。

「あらあら、おばけカボチャに仮装しているのね。どこの子供かしら。ええっと、お菓子をもらいに来たのよね。たしか、頂き物のクッキーがあったわ。ちょっと待っててね。おばけカボチャさん」

おばあさんはキッチンの戸棚からクッキーの缶を取り出した。
「あったわ」
振り向くと、おばけカボチャが、おばあさんのすぐ後ろにピタリとついていた。
「ああ驚いた。なあに。待ちきれなかったの? はい、クッキーよ」
おばあさんがクッキーを差し出しても、おばけカボチャは受け取らない。
「いらないの? これしかないのよ。困ったわね」
おばけカボチャは何も言わない。じっとおばあさんを見ている。

「そろそろおじいさんが寄り合いから帰ってくるわ。夕飯の支度をしなくちゃ」
おばあさんはスーパーの袋から大きなかぼちゃを取り出して、まな板の上に置いた。
流しの下から出刃包丁を取り出し、「えいやあ」と振り下ろし、かぼちゃを真っ二つに切った。
「ひいっ!」
と叫んだのは、おばけカボチャだ。
「おやまあ、あんた、どうしたの?」
振り向いたおばあさんの手には、よく研がれた包丁が握られている。
「うわあああああ」
おばけカボチャは、一目散に走り去った。
「あらまあ、お菓子はいらないのかしら。変な子ね」

夜になって、寄り合いから戻ったおじいさんは、大好物のかぼちゃの煮物を食べた。
「美味いかぼちゃだ」
「おじいさん、そういえばね、今日、おばけカボチャさんが来たのよ」
「なんじゃ、それは?」
「ハロウィンの仮装よ。どこかの子供がおばけカボチャに仮装してきたのよ」
「子供? ここは老人専用の集合住宅だぞ。子供なんかいるもんか」
「あら、そういえばそうね。じゃあ、あれ、本物のおばけだったりして」
おばあさんは、かぼちゃの天ぷらを食べながら首をひねった。

***
おばけカボチャは、こっぴどく叱られていた。
「人間を驚かせるのがおまえの仕事なのに、逆に脅されてどうする」
「すみません。でも、あのばあさん、まるで山姥ですよ」
「ハロウィンと重なってしまったのが失敗だった。次こそ頑張れ。リベンジの日は12月22日だ」
「はい。今度こそ、しっかり驚かせます」

****
「ねえ、おじいさん、西洋ではカボチャと言えばハロウィンだけど、日本はやっぱりカボチャと言えば冬至ね」
「そうだな。ばあさん、美味しいカボチャを頼むよ」

今年の冬至は、12月22日です。

KIMG0257.JPG


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無人島に持っていくもの [コメディー]

無人島に何かひとつだけ持っていくとしたら、何を持っていく?

よくある質問だわ。
そもそも無人島に行くことがわかっているのに、ひとつしか物を持って行かない人っている?
用意周到、準備万端で行くものじゃないの?
「行かない」っていう選択肢もあるしね。

スマホを持っていくって答えたバカがいたけど、電波来てないし、もし来ていても充電切れたらどうするの?
「大丈夫っす。充電器持っていきますから」
ホントにバカ。

ナイフって答えた人も多かったな。
確かに便利よ。だけど危険。死にたくなっちゃうもの。
水、ライター、毛布、薬、本って答えた人もいたな。
まあ、どうせお遊びだから、危機感がないのは当たり前ね。

さて、今夜は魚料理にしようかな。デザートはフルーツ盛り合わせ。
星空レストランの三ツ星料理よ。お酒が飲めないのが残念だけど。
ああ、満点の星がきれいだわ。

乗っていた船が沈没して、この無人島にたどり着いたのは半年前(たぶんね)
何も持っていなかったけど、何とかなるものよ。
石や木を使って火を熾したり、木に登って果実を取ったり、魚を捕まえたり、大概のことは出来るようになるわ。
いちばん必要なのは、強靭な体力と鋼のような精神力ね。
だけど今、いちばん欲しいのは、やっぱり男かな(笑)

おーい、だれか見つけてー


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眼精疲労 [コメディー]

最近さー、目が痛くてさー、ネットで調べたら「眼精疲労」ってヤツらしい。
そんで、ネットでツボとか調べて押してみたんだけどさー、ぜんぜん治らなくて。
ネットで眼科も調べたんだけどさー、いまいちいいところがなくてー。
そもそも原因って何かなーと思ってネットで調べたんだけどさ、いろいろ書いてあって読むの疲れちゃってー。
友達に聞こうと思ってSNSやりまくったんだけどー、
『遠く見ればいいんじゃない?』
『緑を見るといいらしいよ』
『森に行け、森に』
って感じでさー、役に立たないんだよー。ねえ、原因なんだと思う?
あっ、やばい! やられる! あああー
よっしゃ! ステージクリアしたー。

彼女はずっと猫背でスマホのゲームをしながら、眼精疲労の相談をする。
ぜったい原因それだろ!

あああー、目が痛い。ねえ、次のステージ、超むずかしい!
それでさ、どうすれば治るかな? 眼精疲労。(だめだ、こりゃ)

*********

実はこのところ、ちょっと体調が悪いです。
たぶん眼精疲労が原因だと思います。目の奥が痛い。
頭痛、肩こりなど滅多にしないのに、頭ズキズキで肩は張るし。
初めてバファリンの偉大さを知りました(今まで飲んだことがなかった)

会社でもパソコンの仕事が多かったし、家でもパソコンやっていたからかな。
目薬つけても全然効かず、よく見たら「ものもらい用」の目薬だった。
ダメじゃん!

そんなわけで、更新がちょっと遅れてしまいました。
コメントくださった方、返事が遅くてすみません。
ようやく体調も戻ってきたので、少しずつペースを戻します。

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妄想ボーイカフェ [コメディー]

日曜日の午後3時、僕がバイトするカフェに、吉田さんが来た。
カフェは僕らの町から少し遠くて大人の雰囲気だから、同級生は滅多に来ない。
まさか学校一の美少女が来るなんて。今日シフト入れてよかった。
制服を着ていない彼女を見るのは初めてで、ドキドキした。

「あれ? E組の矢代君だよね。ここでバイトしてたんだ」
「吉田さん、俺のこと知ってるんだ」
「知ってるよ。同じ学校だもん。それに、矢代君、けっこう女子に人気あるよ」
「え、そんな、まさか~」

「おい、矢代、何ぼーっとしてるんだ。早く注文聞け」
店長に言われて正気に戻った。
いけない、いけない。つい、妄想しちゃった。
「カプチーノ」と吉田さんは、僕の顔も見ずに言った。
カプチーノ飲むんだ。可愛いな。
「450円です」
おつりを渡すとき、ちょっと手が触れた。またドキドキした。

「ねえ、矢代君、バイト何時まで?」
「4時までだけど」
「じゃあ、買い物つきあってくれないかな。私、テニスラケットが欲しいんだけど、ひとりで選べなくて。矢代君、中学の時テニス部だったんでしょう」
「あ、うん。俺でよければ」

「おい、矢代、カプチーノ早くしろ」
あっ、また妄想しちゃった。
吉田さんが、僕の中学時代を知るわけがない。
カプチーノを受け取ると、吉田さんは僕の顔を見ることなく奥の席に消えた。

「矢代君、お砂糖もうひとつもらっていい?」
「いいよ。吉田さん、意外と甘党だね」
「…白状するわ。矢代君と話したかったの。砂糖は口実」
「えっ?」
「太ったら、責任とってよ」

「おい、矢代、次の注文聞け」
また妄想しちゃった。
その後もそんなふうに妄想は続き、僕は5回くらい店長に怒られた。

バイトを終えて店から出ると、吉田さんが立っていた。
「ねえ、E組の矢代君だよね」
「あ…、うん」
「あたし、同じ高校なの」
「知ってるよ。A組の吉田さんでしょ」
吉田さんはにっこり笑った。ああ、これも妄想か。

「矢代君、うちの高校、バイト禁止だよね」
「あ、うん、でもさ、割とみんなやってるよ」
「ばれたらヤバいよね。下手すると停学だよ」
「それは、困るな」
「じゃあ、口止め料、ちょうだい」
「はっ?」
吉田さんが手を出した。ヘビーな妄想だ。

「買い物しすぎちゃったの。カプチーノ注文した後、財布に50円しか残ってなかったの。帰りの電車賃がないの。マジで焦ったとき、ぼーっとしたバイトに見覚えがあったの」
「あ…、お役に立ててよかったよ」

妄想だ。きっと妄想だ。
だけど僕の財布からは500円玉が消えていて、翌日吉田さんを見かけても、まったくときめかなかった。
あれって、恐喝だよな~。


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メモリー銀行 [コメディー]

いらっしゃいませ。
こちらはメモリー銀行でございます。
お預かりするのは金銭ではございません。
あなたの、あらゆる記憶をお預かりいたします。

仕事関係の方の名前、役職、電話番号、特徴、趣味など。
大切な方の誕生日、記念日など。
それから、カーテンや家具の寸法。急な買い物に便利です。
もちろん、いろいろなIDやパスワード。
今は、これを預ける方がいちばん多いです。
IDとパスワードを忘れたら、ログインが出来なくて大変ですものね。

セキュリティは万全です。ご安心ください。
ネズミ一匹さえも逃げられない刑務所ほどに万全です。
あっ、例えが悪かったですね。失礼しました。

お預かり方法は、ネットからでも、直接メモや名刺や写真をお持ちになっても結構です。どんなものでもお預かりいたします。
お引き出し方法は、パソコン、スマートフォン等にID,パスワード、暗証番号を入力してログインしていただきますと、全てご覧になることができます。

当行の会員になられますと、もう何も覚えておく必要がないのです。
全てはわたくしどもが管理いたしますので。
いかがですか。
只今キャンペーン中で、入会金が無料となっております。

そうですか。ありがとうございます。
では、こちらにお名前、ご住所、電話番号、会費引き落としの口座番号をお願いいたします。
それから、記憶を引き出す際のIDとパスワードと暗証番号を、こちらのモニターに入力願います。
IDとパスワードは、必ず半角英数字と記号を入れてください。
わかりやすいものではいけません。
なるべく難解な組み合わせにしてください。
それでは覚えられないって?
なるほど。では、そのIDとパスワードと暗証番号もお預かりいたしましょう。

それでは記憶の引き出しができないって?
ご安心ください。
そのうち、当行に預けたことも忘れてしまいますから。

ありがとうございました。


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ぼくんちのお盆 [コメディー]

お盆が来ると、たくさんの親戚が集まる。
叔父さん家族4人、伯母さん家族5人、東京に行った兄ちゃん。
お父さん、お母さん、おばあちゃん、おじいちゃん、中学生のぼく。
総勢15人が、居間に集まる。
ふすまを外して2部屋の仕切りをなくすと、旅館の大広間みたいに広くなる。

お母さんは朝から大忙しだ。
掃除に料理。納戸からお皿を出したり布団を用意したり。
おばあちゃんは手伝わないのに「あの皿の方がいいべ」とか「座布団足らんぞ」とか指図ばかりする。

宴会が始まると、お母さんは料理を並べたりお酒を出したりして、ちっとも座らない。
座ろうとすると決まって「好子さん、ビールがないぞ」と言われたり、「好子さん、ごめんなさい、お醤油こぼしちゃった」と言われたり、「好子さん、子供らにスイカ切ってやってくれ」と言われて、結局お漬物の一切れも食べられない。
ぼくが心配になって台所に顔を出すと
「どうしたの? 早く戻ってみんなと遊びなさい」と追い出される。
従弟たちと遊ぶのは楽しくて、結局お母さんのことを気にしていたのは最初だけだった。

宴会が終わるとお風呂の用意や布団の用意。そして後片付け。
汗を拭いながら、全部お母さん一人でやる。
お母さんがお風呂に入ったのは、おそらく午前0時を回っていた。

翌朝も、お母さんは働く。
誰よりも早起きで、みんなの朝ごはんを作る。
欠伸をしながら起きてきた叔父さんや伯母さんは、当たり前のように座っている。
「好子さん、うちの子、生たまごダメなのよ。目玉焼きにしてくれる?」
「あ、好子さん、うちもお願い」
「牛乳ないの?」「ご飯おかわり」「お茶入れてくれや」
みんな好き勝手言って、お母さんはそのたび台所と居間を行ったり来たり。

昼前にみんなが帰ると、お母さんはやっと座り、ゆっくりお茶を飲んだ。
お父さんと兄ちゃんは釣りに出かけ、おじいちゃんとおばあちゃんは畑に行った。
「お母さん、どうしてお母さんばっかり忙しいの? みんなに手伝ってもらえばいいのに」
「いいのよ。だって他の人に手伝ってもらったら、取り分が減るでしょ」
「ん? 取り分?」

夜になると、お母さんはおばあちゃんに封筒を渡した。
「お義母さん、昨日と今日の請求書です」

『準備費(掃除・布団干し含む)………30,000円
 夕食調理、配膳、後片付け……………50,000円
 床の準備(シーツ洗濯代含む)………10,000円
 朝食調理、配膳、後片付け……………30,000円』

「〆て12万円になります」
「好子さん、去年より高くないかい?」
「去年より、料理の腕が上がっていますから」
「仕方ないねえ。まあ、来年も頼むよ」
お母さんは「毎度あり」と言って、おばあちゃんからお金をもらっていた。

「お母さん、働いた分のお金、ちゃんともらっていたんだね」
「そうよ。だってね、おばあちゃん、叔父さんと伯母さんから10万円ずつもらっているのよ。何もやらないくせに独り占めさせるものですか」

お母さん、すげー。
ぼくは密かに、来年はお手伝いをしよう。1万円でいいや、と思った。


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お父さんのかくれんぼ [コメディー]

一家の大黒柱であるにも関わらず、私の存在感はティッシュペーパーよりも薄い。
「あら、お父さん、いたの?」と、毎日のように言われる。
ネコのミーコの姿が見えないと一家総出で探すくせに、私がいなくても誰も気づかない。

日曜日の朝、どうせ存在感がないのなら…と、ソファーの後ろに隠れてみた。
誰かが「あれ? お父さんは?」と言ったら、
「ここに居るぞ」と出て行こう。きっとウケるぞ。
「もう、お父さん、何やってるのよ」と、みんな笑うぞ。

妻が朝食をテーブルに並べている。
娘のカンナがリビングに来た。
「おはよう、お母さん、今日友達とカラオケ行っていい?」
「いいけど、ちゃんと勉強もするのよ」
「はあい」
息子のユウキが起きてきた。
「お母さん、ジョンの姿が見えないけど」
「車庫で寝てるわ。あそこ涼しいから」
「そっか。よかった」
おいおい、お父さんより犬の心配か。

3人で朝食を食べ始めた。「お父さんは?」と誰も言わない。
「そういえば」と妻が言った。いよいよか?
「お隣のおばあさん、見つかったんですって」
「え? どこにいたの?」
「それがね、家の中にいたんだって。押し入れに隠れてたらしいの。まあ、年を取ったら子供に戻るっていうけど、かくれんぼでもしているつもりだったのかしらね」
「徘徊じゃなかったんだ。人騒がせだね」
「姿が見えなくて心配したけど、よかったわ」
隣の他人より、夫の心配をしろ。

けっきょく誰の口からも、「お父さんは?」という言葉は出なかった。
そもそも私の朝食はあるのだろうか。覗いてみると目玉焼きが3つ。
朝食すら用意されていないのか。ショックだ。
出るに出られず、ソファーの陰で悶々と時が過ぎるのを待った。
そしてリビングがすっかり静かになったころ、狭い空間を抜け出してようやく座った。

妻が掃除機を持って入ってきた。
また邪魔者扱いされるんだろうな…と思ったら、目を潤ませて
「お父さん!」と駆け寄ってきた。
「お父さん、いったいどこに行っていたの? ずいぶん探したのよ」
え? なんだなんだ?
「カンナ、ユウキ、お父さんが、リビングにいるわ」
妻が呼ぶと、カンナとユウキが走ってきた。
「お父さん、3年も何してたんだよ」
さ、3年? いや、私が隠れていたのは7時から9時までの2時間だが。
「お父さん、わたし、高校生になったよ」(知ってるし)
「お父さん、ぼく、中学でバスケやってるよ。身長10センチも伸びたよ」(知ってる。毎日見てるから)
3人が泣きながら私にすがりつく。いったいどういうことだろう。
だけど今、私は間違いなく必要とされている。富士山並みの存在感だ。
「さあ、お父さん、お腹すいたでしょう」
「お父さん、あのね、聞いてほしいことがいっぱいあるの」
「ぼくが先だよ。ねえ、お父さん」
「だめよ、お父さんのご飯が先よ」
ああ、なんて素晴らしい。家族が私の取り合いをしている。
夢か。これは、夢か。

ドンと足を蹴られた。
「もう、お父さん邪魔よ。なんでこんなところで寝てるのよ」
掃除機を持った妻が立っていた。
あ……やっぱり夢だった。
「ほら、朝ご飯食べちゃってよ」
テーブルに、目玉焼きがあった。
「これ、俺の目玉焼き?」
「そうよ。早く食べちゃってよ。片付かないから」
忘れられたわけではなかった。冷めた目玉焼きが死ぬほど美味い。
「お父さん、食べ終わったらジョンを散歩に連れてってね」
ガーガーと掃除機をかけながら妻が言う。
「あと、粗大ごみを捨ててきてほしいの。今日回収の日だから」

俺って、意外と必要とされている……のかな?


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お兄ちゃん [コメディー]

あれ、ジュンちゃん、どうしたの?
明日まで広島出張じゃなかった? 一日早く帰ってきたんだ。
そ、そうなんだ。
え? 何も慌ててないよ。やましいことなんかないよ。
あるわけないでしょ。会いに来てくれて嬉しいよ。

タバコ臭い? ああ、えっとね、昨日ユミが来たの。
ほら、あの子タバコ吸うから。
ベランダに男物の下着? ああ、それはね、えっと、防犯だよ。
ほら、女性のひとり暮らしは物騒でしょ。
だからね、しまむらで買ってきたの。しまむらブランド。いいでしょ。

洗面所に髭剃り?
ヤバ……、えっとね、最近女性ホルモンが足りないのかなあ~
髭が生えてきちゃって。へへへ。
でも大丈夫だよ。もう剃ったから。

寝室に男が寝てる?
あっ、えっとね、あの……、紹介します。兄です。
ひとりっ子だろうって? 
それがですね、生き別れの兄がいることが判明して、昨日涙のご対面。
……昨日はユミが来たんだろうって? ハハ、聞き逃さないねえ、さすがだね。
そうだよ。ユミに立ち会ってもらって3人で会ったの。
いやあ、話がはずんじゃってね、お兄ちゃん終電逃しちゃってさ、泊まってもらったの。

挨拶したいって? いやいや、お気遣いなく。
なんか、お兄ちゃん、よく寝てるし、今度ゆっくり紹介するから今日は帰って。
ごめんね、ジュンちゃん、また電話するね~。
あ、お土産のもみじ饅頭だけはもらっておくね。

は~、何とかバレずに済んだ。(いや、ふつうにバレてるだろ)

「おはよう」
「お、おはよう。あっくん。もう昼だよ」
「さっき、男の声がしたけど、誰か来たの?」
「あ、えっとね~、お兄ちゃん!」


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見える人、見えない人 [コメディー]

我が家はいわゆる「見える」家系だ。
パパもママも私も、生まれたときから幽霊が見える。
ただ、どういう訳かお姉ちゃんだけは「見えない」人だ。
霊感が全くない。
だからといって困ることなど何ひとつない。
霊なんて、見えないに越したことはないのだから。

そんな我が家に、ちょっと困ったことが起きた。
お姉ちゃんが、幽霊を連れてきてしまったのだ。
青白い顔の男の霊が、お姉ちゃんの肩に乗っている。

「どうする? パパ、ママ、教えてあげた方がいいかな?」
「あの子は怖がりだから、きっとパニックになるよ」
「悪い霊じゃなさそうだし、明日にはいなくなるでしょ」

お姉ちゃんはまるで気づかない。
「ああ、肩が重い。誰か揉んでくれない?」
「お姉ちゃん、揉んだくらいじゃ治らないよ」
「そうか。疲れがたまってるのかな。明日マッサージ行こう」
(マッサージでも治らないけどね)

翌日、お姉ちゃんに憑りついた霊は、いなくなるどころか二人に増えた。
血を流した男の霊だ。そして日を追うごとに、男の霊が増えていく。
「お姉ちゃん、会社で何かあった?」
「なにかって?」
「人がいっぱい死んだとか」
「あるわけないでしょ」
「じゃあ、心霊スポットとか行った?」
「究極の怖がりなのに、行くわけないでしょ」
「だよね。じゃあ、最近変わったことは?」
「何もないわよ。相変わらずの氷河期よ。いい男は結婚しちゃうし、合コンはハズレばかり。私のモテ期はいつ来るの?」
あ…、いつもの愚痴が始まっちゃった。退散しよう。

とはいえ、放っては置けないということで、知り合いの霊媒師のおばばに来てもらった。
「おばば様、うちの長女はものすごい怖がりなんです。霊が憑いていたと知ったら大騒ぎです。どうか寝ているうちに除霊してください」
「ふむ、見える家系に生まれたのに、見えない上に怖がりとは、不憫なことじゃ」

お姉ちゃんの部屋に行くと、ベッドの周りに霊たちがふわふわ浮いている。
何も感じないお姉ちゃんは、すやすやと寝ている。
「悪い霊ではないな。どれ、話を聞こう」
おばばが、霊たちひとりひとりに話しかけた。
私たちには霊は見えるけど、声は聞こえない。
ここはおばばに任せて、隣の部屋で除霊が終わるのを待った。

30分後、おばばがお姉ちゃんの部屋から出てきた。
「終わったぞ。もう大丈夫じゃ」
「なぜ、あんなにたくさんの霊が姉に?」
「恋じゃ」
「はっ?」
「あの霊たちは、あの子に恋をしたそうじゃ。しかし所詮、幽霊と人間の恋じゃ。叶わないと知って、みんな離れた。切ないのう。罪な女じゃ」

翌日、お姉ちゃんはすっきりした顔で起きてきた。
「今日は肩が軽いわ~」
「よかったね」
「今日の合コンは上手くいくような気がする。私にもやっとモテ期が来るかも」
…お姉ちゃん、もうモテ期、来たよ。
生きてる男じゃないけどね。


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