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七五三なので [コメディー]

「すまないが誰か、明日休日出勤してくれないか?」

「………」

「鈴木君、どうかな、明日出てくれるかね」

「すみません、課長。明日は娘の七五三でして」

「そうか、七五三なら仕方ないな。吉田君はどうだ? 君は子供いないだろう」

「すみません、課長。明日は甥っ子の七五三パーティに招待されてます」

「そうか。パーティじゃ仕方ないな。石川君はどうだ? 君は一人っ子で独身だ」

「すみません、課長。僕の実家は神社でして、明日は七五三で大賑わい。手伝いを頼まれました」

「そうか、家が神社じゃ仕方ないな。桂木さんはどうかな? 独身だし、実家もたしかサラリーマンだったね」

「すみません、課長。私は明日、不倫相手の子供が七五三なので、ちょっと嫌がらせにでも行こうかと」

「そうか。嫌がらせなら仕方ないな。白井さんはどうかな? お子さんはもう大きいし、不倫もなさそうだ」

「すみません、課長。飼ってるネコが七五三で」

「そうか。ネコが七五三なら仕方ないな。新入社員の荒木君、君はどうかな? 独身だし、寮だからペットもいないだろう」

「すみません、課長。ネットの中で育ててる美少女のクルミちゃんが、めでたく七五三を迎えました」

「そうか。クルミちゃんが七五三なら仕方ないな。うーん、どうしよう」

「課長が出たらいいじゃないですか」

「いや、私は明日7・5・3の三連単で勝負しようと思ってるんだ」

「ああ、競馬ですか。競馬なら仕方ないですね」

「…というわけで、すみませんが部長、出勤してください」

「ふざけるな!!」

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ハロウィンと社長 [コメディー]

その1 ハロウィンパレード

「なんだねキミ、この行列は」
「ハロウィンパレードですよ、社長」
「うっ!…い、いつもの発作が…うぅぅ」
「社長、しっかりしてください。でも大丈夫ですよ。実に運がいい。ほら、こんなにナースがたくさんいます」
(いや、仮装だからね)


その2 ご招待

「明日、取引先のハロウィンパーティに招待されているんだが、キミも来てくれ」
「はい、社長。ですが明日は親戚の葬式なので、少し遅れるかもしれません」
「かまわんよ」
「途中で抜けて、なるべく早く行きますので」
「急ぐ必要はない。火葬してから来るように言われているから」
(いや、だから仮装だってば)


その3 ハロウィンパーティ

「社長、遅くなりました」
「ああ、キミか。ちゃんと仮装してくるなんて、なかなかやるな」
「それにしてもすごいパーティですね」
「ああ、ゾンビだらけだ」
「本物のゾンビみたいですね」
「キミは本物のゾンビを見たことあるのかね?」
「ええ、実は葬式に行ったら、死んだはずの親戚がゾンビになっていました」
「そ、それでキミ、まさか…」
「はい、噛まれて私もゾンビになりました」
(仮装じゃなかったのね~)

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みなさん、ハッピーハロウィ~ン ♪


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毎日ネコノミクス [コメディー]

喫茶店で、二人の女がテーブルをはさんで座っている。
ひとりは大のネコ好きの女(自称:永遠の18歳)
ひとりはネコアレルギーの女(アラフォー)

「あなた、うちの主人とどういう関係なの?」
「だから~、さっきから言ってるじゃにゃいですか。鈴木さんとわたしは、ただのネコ友にゃんです」
「ネコ友?」
「奥さんがネコアレルギーだから、鈴木さん、ネコカフェに通ってるんですよぉ。そしてわたしも、ペット禁止のマンションに住んでいるから、ネコちゃんに会いたくてネコカフェに行ってるんですぅ。そこで知り合っただけにゃんです」
「うそよ。夫を返してよ。このどろぼうネコ!」
「え、どろぼうネコ[黒ハート] いや~ん、わたし、ネコですか」
「なに喜んでるのよ。猫なで声なんか出して気持ち悪い」
「え、ネコなで声[黒ハート] 私の声、そんなにカワイイ?嬉しいんですけどぉ」
「だから褒め言葉じゃないわよ。変な人ね」

「奥さん、コーヒー飲まにゃいんですか?」
「放っておいて。猫舌なのよ」
「え、奥さん、ネコ舌[黒ハート] いいにゃあ~、ネコ舌[黒ハート]
「何がいいのよ。あのね、あなたまだ若いんだから若い人とつきあいなさいよ。主人のような猫背の中年男、どこがいいの?」
「え、鈴木さん、ネコ背[黒ハート]きゃわいい~。好きになっちゃうかも~」
「やめてよ。とにかく主人とはもう会わないで」
「だったら鈴木さんのおうちでネコちゃんを飼ったらいいじゃにゃいですかぁ。そしたら鈴木さん、ネコカフェに来にゃくなりますよ」
「だから、私はネコアレルギーなのよ」
「お庭にネコちゃん専用の小さなおうちを建てればいいじゃにゃいですか」
「猫の額ほどの庭にどうやって建てるのよ」
「え、ネコの額[黒ハート] きゃわいいお庭ですね。今度見に行っていいですかぁ」
「ダメに決まってるでしょう」

「じゃあ、今度、奥さんも鈴木さんといっしょにネコカフェに来ればいいんですよぉ。そうすれば、わたしたちがただのネコ友だってわかりますよぉ」
「行かないわよ。さっきから言ってるけど、私はネコアレルギーなの」
「それ、もう治ってるんじゃにゃいですか?」
「どうして?」
「だって、ここ、ネコカフェですよ」

ニャー、ニャー、ニャー

「にゃんてこった!」

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*写真は、はるさんちのそらくんです

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宿題屋 [コメディー]

もうすぐ夏休みが終わる。プールにかき氷に花火。
楽しい時間はあっという間。残っているのは憂うつだけだ。
宿題が終わらない。
絵と漢字ドリルと自由研究は何とか終わった。
だけど苦手な算数ドリルと読書感想文が手つかずのままだ。
ああ~、どうしよう。

と思っていたら、窓を叩く音がした。
開けてみるとおばあさんが立っている。
「宿題屋だが、終わってない宿題はないかね」
「宿題屋?」
「1教科たったの千円だ。どうだい?」
超苦手な算数ドリルと読書感想文をやってもらえるなんてラッキーだ。

「ちょっとまって」とボクは、貯金箱をひっくり返した。
取っておいたお年玉が千円と、小銭が500円。
「算数ドリルと読書感想文をお願いしたいけど、1500円しかないんだ。まけてくれる?」
「そいつは困ったね。じゃあこうしよう。算数ドリルは全部やって、読書感想文は半分だ」
ボクは考えた。読書感想文なんて、決まった枚数があるわけじゃないし、半分書いてもらえたらあとは『おもしろかったです』とか適当にまとめればいいんだ。
「うん。じゃあそれでお願いします」
ボクは、1500円払って、おばあさんに算数ドリルと課題図書と原稿用紙を渡した。

おばあさんが来たのは夏休み最後の日だった。
「おばあさん、遅いからヒヤヒヤしたよ」
「すまん、すまん。算数ドリルが思いのほか手こずってのお。でもほら、ちゃんと終わったぞ。全問正解だと怪しまれるから、ところどころ間違えておいたぞ」
「サンキュー。気が利くね。さすが宿題屋だ。それで、読書感想文は?」
「ああ、ほい、これじゃ」
おばあさんは、何も書いてない原稿用紙をそのまま戻した。
「何も書いてないじゃないか。半分書いてくれるって言っただろう」
「ああ、半分はやったよ」
「何も書いてないよ」
「読書感想文の半分は、本を読むことだ。あたしゃ、しっかり本を読んだからね、あとはあんたが書きなさい」
「そ、そんな~」
おばあさんは「ひひ」と笑って「毎度あり」と帰って行った。

時計の針は午後5時半。
今から読書感想文を書くのか。…っていうか、本を読まなきゃ。
あ~あ、終わるかな~。

ボクは泣きそうになりながら、「来年のお年玉はちゃんと取っておこう」などと、懲りずに思ってしまうのだった。(教訓になってない)

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いい意味で [コメディー]

初めまして。こんにちは。
お電話では失礼しました。
急にコンサートに行けなくなって、チケットが無駄になるところでした。
いろいろ声をかけて、やっと買ってくださる方がいて助かりました。
電話の声がきれいだったから、どんな美人が現れるかとドキドキしていましたけど、庶民的な方でよかったわ。
あ、いい意味でね。

コーヒーでも飲みながらお話しましょ。
失礼ですけどおいくつですか?
1955年生まれ? まあ、わたしと同じだわ。
てっきり、わたしよりずっとおねえさんかと。
あ、いい意味でね。

同じ年だったら高校はどこ? 地元じゃないの?
あら、東京出身なの?
意外だわ。だってとても素朴な方だから。
あ、いい意味でね。

あら、ブラックで飲むんですか?
お砂糖3杯くらい入れるのかと思っちゃいました。
ふくよかでいらっしゃるから。
あ、いい意味でね。

忘れないうちにチケット2枚ね。16000円です。
毎度あり。うふふ。
どなたと観に行くの? まあ、ご主人と?
仲がよろしいのね。
うちの主人なんか会社を経営してるから、忙しくて一緒に出掛けることなんてありませんわ。
おたくのご主人、おヒマな方で羨ましいわ。
あ、いい意味でね。

ご主人ってどんな方?
え? 20歳年下? 身長182センチ?
レストランチェーンのオーナー? あの有名な?
写メがあるの? どれどれ。
やだ…イケメン。
もしかしてすごく性格悪いとか。暴力振るうとか、浮気するとか。
あらそう。真面目で優しいの。へえ…。
幸せすぎて怖いって…
あんたホントにムカつく女。
あ、もちろんいい意味で。

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七夕ブルー [コメディー]

織姫ちゃんが遊びに来た。
七夕が近づくと、いつも来るの。
「ことちゃん、私、憂鬱なの。このまま彦星と付き合っていても、将来が不安だわ」
ほら来た。いつもの愚痴が始まった。

「だいたい年に一度しか逢えなくて、恋人って言える?」
やれやれ、自分たちが悪いくせに。
仕事もせずにいちゃついていたから離ればなれにされたんでしょう。

「ねえ、ことちゃん、彦星ってちょっと頼りないと思わない? 去年も一昨年も、デートのプランは私が考えたの。ノープランで逢いに来るなんて男としてどうなの?」
織姫ちゃんが我儘だからでしょう。彦星君は優しいからあんたに合わせているのよ。

「プレゼントはいつも花束。花を贈れば女は喜ぶと思っているのね」
織姫ちゃんってぜいたく。花をもらって嬉しくない女はいないわよ。それに、自分だっていつもプレゼントは手編みのマフラーじゃないの。季節感ゼロだわ。

「ねえ、ことちゃん、私って彦星以外の男と付き合ったことないじゃない。一度他の男と付き合ってみようかな」
出た!二股宣言。

「合コンやろうよ。宇宙飛行士なんかどうかな。宇宙船で天の川なんて、ひとっ跳びじゃない?」
無理だよ。人間にとって星なんて研究対象。恋愛対象になるわけないでしょ。

「あ~あ、明日は七夕か。面倒くさいな。ばっくれちゃおうかな」
織姫ちゃん、あんたの話聞いてる方が面倒くさいわ。
そろそろ〆るか。

「織姫ちゃん、あたしが代わりに行ってあげようか」
「え??? ことちゃんが、私の代わりに?」
「うん。あたし、彦星君のこと嫌いじゃないわ。花束も欲しいわ」
「いや、それはちょっと。ことちゃんも忙しいのに悪いわ。それに彦星はやっぱり私じゃないと」
「そんなことないわ。彦星君もあんがい織姫ちゃんに飽きてるかも」
「やめてよ。彦星はずっとずっと死ぬまで私が好きなのよ」
「でも、織姫ちゃんは逢いたくないんでしょう?」
「逢いたいに決まってるじゃん。ことちゃんのいじわる」
「じゃあ早く帰って、明日のためにお肌の手入れでもしたら?」
「言われなくてもそうするわよ。ふん、ことちゃんなんか、もう絶交よ」

やれやれ、やっと帰った。
絶交とか言って、来年また来るんでしょう。
ああ、うらやましい。

<一口メモ>
織姫は、こと座のなかで一番輝く星(ベガ)です。
こと座のことちゃんは、いつも織姫ちゃんを見守っているんです。
ちなみに彦星は、わし座の中で一番輝く星(アルタイル)です。
七夕の夜に、逢えるかな~。

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サダコ2号 [コメディー]

「充電シテクダサイ、充電シテクダサイ」
ええ?もう電池切れ?バッテリーが弱っているのかしら。
お料理の途中なのに困ったわね。料理を作り終えてからにしてほしかったわ。

家政婦ロボットの『サダコ2号』は、結婚した時に嫁入り道具で母が持たせてくれたもの。
当時は最新型で、料理のレパートリーの多さに目を見張った。
掃除も洗濯も完璧だったのに、最近はどうも動きが鈍くなってきたみたい。
10年も経っているんだから仕方ない。

サダコ2号を充電しながら、思わずため息。
この10年、いろいろあったな。
子供が生まれて、育児ロボットをレンタルしたら、姑に嫌味言われたな。
「育児をロボットにやらせるなんて、まあ今どきのママは楽でいいわねえ」
平成生まれは頭がかたいわね。なかっただけでしょ、ロボットが。

結婚7年目、夫の浮気が発覚。
「彼女の料理が美味しくて、胃袋つかまれちゃった」だってさ。
なによ、最新型の家政婦ロボ「マリア5号」が作る料理よ。
洋食が好きなら言いなさいよ。
結局離婚したわ。夫はサダコよりマリアを選んだ。
それだけのことよ。

「ママ、おなかすいた」
「あらジュリちゃん、今サダコ充電中なのよ。もう少し待ってね」
「また充電?もう新しいの買ったら?」
「そうなんだけどね、10年も使っていると愛着が…」
「この前、本棚に食パンが入ってたよ」
「あら、そういえば電子レンジに靴下が入っていたことがあるわ」
「もう寿命だよ」
「でもねえ…」

「ママ、サダコから煙が出てる!」
「まあ大変。サダコ、大丈夫?」
サダコはショート寸前で、途切れ途切れの言葉を発した。
「オク…サマ…、モウ限界デス…。今マデオ世話ニナリマシタ」
「サダコ!」
10年もわたしを助けてくれたサダコ。お礼を言うのはわたしの方よ。
ありがとう、ありがとう。

サダコと涙のお別れをした翌日、新しいロボットが届いた。
「奥さん、実に運がいい。なかなか手に入らない最新型ロボットが手に入りましたよ。その名も『主夫ロボット蒼汰1号』です。
「あら、カッコいい」「すごいイケメン」

蒼汰は、仕事はちょっと雑だけど、見ているだけでキュンキュンするの。
「あたし友達に自慢しよう」
「一緒にショッピングに連れて行こうかしら」
「よかったね。サダコがちょうどいいタイミングで壊れてくれて」
「そうね。サダコは、仕事は完璧だったけど、見た目が地味で暗かったもんね」
「それに比べて蒼汰は超さわやか」
「ジュリちゃん、なんだか最近おしゃれじゃない?その服、よそ行きでしょ」
「ママこそ化粧が濃くない?」
「ああ、本当によかった。サダコが壊れてくれて」

「あれ?ママ、テレビのモニターが急に暗くなったよ」
「まあ、買ったばかりの15Kテレビなのに」
「あ、なんか映った」
「…なに?井戸?」
「なんか出てきた。長い髪に白いエプロンドレス。こっちに来るよ」

「……サダコ」

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愛しのベジタブル [コメディー]

僕はひどいあがり症だ。
人前で話すだけで顔はまっ青、足はガクガク、声は1オクターブ高くなる。
そんな僕が、留学先の高校の演劇大会で、主役に抜擢されてしまった。
「先生、無理デスヨ。ボク留学生ダシ、日本語モ下手デス」
「大丈夫だよ。セリフ少ないから」

本番の日、やっぱり無理だと先生に訴えた。
「緊張シテ、上手ク出来マセン」
「客を全員野菜だと思えばいいよ。ほら、かぼちゃとかキャベツとか」
「無理デスヨ。ダッテ人間ダモン」
「じゃあ、人が野菜に見えるおまじない、教えてやろうか」
「ソンナモノガ、アルンデスカ?」
「あるよ。先生の後に続いて唱えてみなさい」
先生は高らかに声を張り上げて「エブリバディ・ベジタブル」と、何ともベタな呪文を唱えた。
僕も背に腹はかえられないので、同じように呪文を唱えた。
「エブリバディ・ベジタブル、エブリバディ・ベジタブル」

すると、目の前の先生が突然ピーマンになった。
小道具を運ぶ女子はダイコン、演出の男子はゴボウ。
「スゴイデス、先生」
「よし、じゃあ頑張れ」

おかげで舞台は大成功だった。何しろ客席にはカボチャやサツマイモやニンジンがいるだけだ。少しもあがらない。
劇は大成功。僕たちのクラスは最優秀賞をもらった。

ところが、舞台を降りてもずっと、魔法が解けない。
ホームステイ先のおばさんはキュウリ、おじさんはジャガイモだ。
「今日の舞台よかったわよ。おばさん感激しちゃった」
「なかなか堂々とした演技だったぞ」
「アリガトウ」と言いながら、キュウリとジャガイモに言われてもな…と思った。

翌日も魔法は解けない。
先生は相変わらずピーマンのままだ。
ピーマンの授業は何だか中身がない。
となりの席の山田君は玉ネギ。
見ているだけで涙が出る。
いちばん人気のエリカちゃんはトマト。
学級委員は頭でっかちのカリフラワー。
みんな野菜だから、発表もぜんぜん緊張しない。

だけど困ったことに、野菜が食べられなくなってしまった。
ホームステイ先の家族はベジタリアンだから、食卓は野菜料理ばかり。
「ジャガイモをすりつぶしたスープよ」
と言われると、おじさんの顔を見てしまう。
キュウリのサラダはおばさんが身を削っているようで切なくなる。
耐えられなくなって、故郷のママに連絡した。
「ママ、このままじゃ僕、栄養失調になっちゃうよ」
「まあ可哀想。だから留学なんて反対だったのよ。すぐに帰ってきなさい」

そんなわけで僕は、志半ばで故郷に帰ることになった。
「故郷に帰っても、私たちの顔を忘れないでね」
クラスメートは言うけれど、人間だったころの顔はもはや憶えていない。
それでも別れは悲しいもので、涙をこらえて宇宙船に乗り込んだ。
故郷の『ナスビ星雲第3惑星のナガナス星』に向けて全速力だ。
地球人との交流って、なかなか難しかったな。


「ナスビ君、帰っちゃったね」
「演劇大会のゾンビ役は最高だったな。メイクしなくても顔が紫だったから」
「茄子を見るたびにナスビ君を思い出すわ」

ホームステイ先では…
「ナスビくんが帰ったから、心置きなくナスが食べられるわね」
「今日は、焼き茄子とマーボ茄子にしよう!」

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家庭訪問です! [コメディー]

1.過保護はいけません!

「先生、うちの子、男の子なのにおとなしすぎませんか」
「心配いりませんよ。授業中もちゃんと手を上げるし、友達もいるようです」
「そうですか。でも先生、最近いろんな事件があるから、私心配で。毎日学校までついていきたくなっちゃうんです」
「お母さん、お気持ちはわかりますが、過保護すぎてもいけません。少しは子離れしないと」
「そうですね。ところで先生、あちらの方はどなたです?」
「ああ、僕の母です。僕がちゃんと家庭訪問できるかどうか心配で、ついてきたんです」
「子離れしろよ!」


2.うすいんです!

うすい先生、いつも娘がお世話になっています。
あっ、お茶どうぞ。ちょっとうすいかしら。
うすい先生、うちの娘、最近化粧を覚えて困ってますの。
もちろん、うすい化粧ですけどね。
毛抜きで眉毛も抜いているんですよ。あの子の眉毛、うすいでしょう?
もっと勉強にハゲんでほしいんです。
気性もハゲしくて、すぐキレるんです。本当に毛が…いや、気が抜けません。
本当に頭がうす…いや、痛いですわ。
あら、やっぱりお茶うすいわね。ごめんなさい、うすい先生、淹れなおします。
やだ、お茶碗の模様がハゲてるわ。
お客様用なのに、本当に失礼しました、うすい先生。

「あの、お母さん、僕の名前は、臼井(うすい)ではなくて、白井(しらい)です」
「まあ、うすいだけじゃなく、白髪も?」
「お母さん!!」


3.迷いました!

「先生!」
「ああ、タカシ君のお母さん、迎えに来てくれたんですか?」
「先生があまりにも遅いから心配で」
「すみません。すっかり迷ってしまって」
「道、わかりづらかったですか?」
「いや、迷ったのは道じゃないんです」
「え?じゃあ何を迷ったんです?」
「迷いに迷って、ようやく決心しました」
「何を?」
「タカシ君のお母さん、結婚してください」
「ムリ!」
「少しは迷ってよ~」

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遅刻の言い訳 [コメディー]

入社早々、3度目の遅刻だ。
まずい。怒られる。言い訳を考えなければ。
「駅のホームで線路に落ちた老人を助けた」というのはどうだろう。
その人を介抱して電車に乗り遅れた。
そうだ。そうしよう。

会社に着いて上司に言い訳をしようとしたら、いきなり握手を求められた。
「スズキくん。君はなんて勇敢なんだ」
「は?」
「ホームに落ちた老人を助けて、介抱までするなんて」
ええ? どういうこと? 僕の考えた言い訳が本当になってる?
「スズキさん、あなたは素晴らしいわ。ネットですごい反響よ」
営業部のマドンナ、景子さんが目をキラキラさせている。
何だかよくわからないけど、僕は頭を掻いた。
「いやあ、当然のことをしただけですよ」

1週間後、また遅刻をした。
今度の言い訳はどうしよう。
「迷子の子供を保護して家まで送り届けた」っていうのはどうだろう。
よし、それでいこう。
会社に行くと、上司が目を潤ませて僕の肩をつかんだ。
「迷子の子供を保護したんだってな。えらいぞ、スズキ」
「え?」
「ネットで大騒ぎよ。スズキさん、子供にも優しいのね」
景子さんも目を潤ませている。
どうやら僕が考えた言い訳は、本当になるようだ。
「子供は日本の宝ですから、当然ですよ」

次に遅刻をしたときは不思議だった。
「チンピラにからまれたOLを助ける」という言い訳を考えたら、僕の顔に殴られた跡がついた。もちろんまったく痛くない。
「スズキくん、自分を犠牲にしてまでOLを救うなんて、君はなんていいやつなんだ」
「スズキさん、傷の手当てをしましょう。ネットで見たけど、あなたが助けたOL、けっこう美人ね。あたし妬いちゃうわ」
景子さん、拗ねた顔も可愛い。
まったく覚えがないけど、美人だったんだ、そのOL。

それから遅刻の度に、僕はヒーローになった。
運転手が心臓麻痺を起こし、暴走したバスに飛び乗って事故を防いだ。
人質をとって立てこもった犯人を説得して、事件を解決した。
UFOに連れ去られ、人体実験をされた。
その後襲ってきた宇宙人と戦って地球を守った。
「スズキくん、地球を救ってくれてありがとう」
「ネットで総理大臣も感謝してたわ。国民栄誉賞もらえるかもね」
「いや、景子さん、僕はそんなものが欲しくて戦ったわけではありません。愛する人を守るためです」
「それって…」
「もちろん、景子さんのことです」
「スズキさん、今夜、うちに来ない?」
ああ、なんて素晴らしい展開。地球を救った覚えはまったくないけれど。
次はどんな言い訳にしようか。よし、明日も遅刻するぞ!

「……という長~い夢を見て、目が覚めたら9時でした」
「スズキくん、明日から会社来なくていいよ」
「スズキさん、私物まとめておいたから。就活がんばって」
景子さんが冷たく言って背を向けた。
ああ、会社辞めなくて済む言い訳、ないかな。

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