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純愛日記 [男と女ストーリー]

2017年3月

卒業式で、大好きな先輩が答辞を読んだ。
凛々しい先輩を見るのは、今日で最後。
溢れる涙をこらえて、私は先輩の姿を目に焼き付けた。
「思い切って告白すれば?」
友達は言ったけれど、私は見ているだけで幸せだった。

家に帰ると日記帳を開く。
入学した日に、桜吹雪の中で先輩を見た日から毎日書き続けている日記。
先輩への想いが詰まった2年間の日記。
最後の想いを綴って日記帳を閉じ、鍵のかかった引き出しにしまった。

翌日、学校から帰ると、部屋の様子が微妙に違っている。
日記の鍵を入れた小物入れの蓋が少しずれている。
日記帳は引き出しにちゃんと入っていたが、誰かに見られたような気がした。
だけど母はパートでいないし、中学生の弟は部活で私より帰りが遅い。
きっと気のせいだ。私は日記を読み返して、先輩との思い出に浸った。

そんな思い出が、黒く塗りつぶされるような出来事が起きた。
先輩に彼女が出来た。
その彼女というのが、私に「告白すれば?」といつも言っていた親友だった。
「あんたが告らないから、あたしが言ったの。すぐにOKもらえたよ」
私はその夜、大泣きしながら日記帳をびりびり破って捨てた。
こんな思い出、もういらない。
切ない恋と儚い友情を、思い知った夜だった。

2042年3月

子供のころから書くことが好きだった私は、小説家になった。
一度大きな賞を頂いたけれど、その後はなかなか書けずにいる。
今手掛けているのは、純愛小説なんだけど…。
「先生、主人公、高校生ですよね。なんだか、中年女みたいなんですよね。もっとこう、ピュアな恋愛とか、書けませんか」
編集さんによる鋭いダメ出し。
青春物で賞をもらったから、次は純愛物をと意気込んだけれど、恋なんて何年もしていない。
そういえば、高校生の頃、すごくピュアな片思いをしていた。
その頃のことを思い出してみたが、そういう感情はもはやどこかへ消えてしまった。

そういえば、あのころ日記を書いていた。
あの日記、どうしたかしら。
実家に行って探してみたけれど見つからない。ああ、そうだ。嫌なことがあって、破って捨てたことを思いだした。

数年前から始まった、タイムトラベルサービス。
まだ開発途中で、過去にしか行けないのだけれど、確か滞在時間1分1万円だ。
利用してみようか。
日記帳を超小型高性能カメラで読み取って、戻ってくるまで10分もかからないだろう。出せない金額ではない。

私は、私が日記帳を破り捨てる前の2017年3月に戻った。
懐かしい部屋だ。17歳の私は、この部屋で泣いたり笑ったりしていた。
感慨に浸っている場合ではない。1分1万円だ。
引き出しの鍵の場所はもちろん知っている。
素早く事を終え、私は2042年に帰り、日記に詰まったたくさんの純愛を文字にしていった。

小説「純愛に死す」はベストセラーになった。
「この作品は、先生の体験が元になっているそうですね」
「はい、私は、この辛い失恋の後、なかなか次の一歩が踏み出せませんでした。脆くて切なくて純粋だったころの自分と、主人公を重ねて書いたものです」
「先生が未だに独身なのも、この純愛が関係あるのでしょうか」
「そうかもしれませんね」

2017年3月

びりびりに日記帳を破り捨てて大泣きしたらすっきりした。
さあ、次の恋しよう!


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クリスマス・イルミネーションデート [男と女ストーリー]

キラキラしたものは好きだけど、イルミネーションはきらい。
クリスマスは好きだけど、お祭り騒ぎはきらい。

夕方の駅は、人が多すぎて目眩がしそうよ。
こんなところに私を呼び出すなんて、テツオもずいぶん偉くなったものだわ。
テツオはね、私の幼なじみなの。
一緒にクリスマスを過ごすのは、もう10回以上だわ。
小学校のクリスマス会も入れたら…だけどね。

大通りに続く並木道はシャンパンゴールド。
どこまでも続く光の道ね。
きれいだけど、どうしても造りものに思えてしまうの。

テツオが来た。キョロキョロしている姿がマヌケで笑えるわ。
声はかけないの。だってこっちが先に見つけたなんて悔しいもん。
キョロキョロしているから、外人さんに道を尋ねられてるわ。
へえ、英語出来るんだ。中学の時は私の方が成績よかったのに。

「リカ!」
「3分20秒の遅刻ね」
「今、そこで外人に道聞かれちゃった」
知ってる。見てたから。
「さあ、行こうか」
「どこに行くの?」
「おしゃれなレストラン。スイーツが美味しいんだって」
ふーん。松屋の団子が世界一って言ってるテツオがスイーツだって…。
「会社の同期の子が教えてくれたんだ。予約もしたよ」
同期の子?
「あ、先輩からライン。飲みに行こうってしつこいんだよな。この前なんかカラオケでさ、同じ曲を何度も歌うんだ。5回目にはさすがにトイレに逃げたよ」

就職してから、テツオの世界は広がった。
私の世界は変わらない。
家から10分のお弁当屋さんで、9時から15時までのアルバイト。
それだけ。あーあ。

「リカ、どうしたの? 空に何かあるの? UFOでも見えた? それとも、また変な妄想してるの?」
「星が見えないわ」
「うん。曇ってるね」
「みんながイルミネーションばかり見てるから、悲しくなってどこかへ行っちゃったのよ」
やだ。ちょっと泣きそう。ばれないように、しばらく上を見ていよう。

「リカ、おしゃれなレストランやめようか。ケーキとチキン買って家で食べようか」
「だって、同期の可愛い女の子に教えてもらったんでしょう」
「えっ、いやたしかに同期の女の子だけど、全然可愛くないよ。あ、全然ではないけど、普通だよ。いや、そういうことじゃなくて、リカが人混み苦手なことも、こういうイベントが嫌いなことも知っているのに、なんかひとりで浮かれてごめん」
テツオは、ちっとも悪くないのに、いつも謝るの。
我儘な私は、いつかテツオの世界から排除されてしまうのかしら。

星のない空から、白いものがふわりと落ちてきた。
黒い空から、無数の白いものたちが落ちてくる。きっと星の反乱よ。
「リカ、雪だよ」
テツオが珍しくはしゃいだ声で言った。
まわりの人たちも、いっせいに空を見上げている。「雪だ」「わあ、雪だ」
「見て、テツオ、今まで夢中でイルミネーションを見ていた人たちが、みんな雪を見ているわ。自然が人工の物に勝った瞬間よ。雪の勝利よ」
「えっ、何の勝負だよ」
「ああ、お腹が空いた。早くテツオが予約したスイーツの美味しいレストランに行きましょう」
「…いいの?」
「うん。だって、大して可愛くもない同期の女の子が教えてくれたんでしょう」

テツオとふたりで、雪の街を歩いた。
イルミネーションたち、卑屈になることはないわ。
今回は雪に負けたけど、あなたたちも充分に美しいわ。

テツオは、スイーツが美味しいおしゃれなレストランで、照れながらプレゼントをくれた。
小さな宝石がついた、細くて可愛い指輪。
イルミネーションよりも、星よりも雪よりも、間違いなく輝いている。
「今夜の勝者は、ダントツでテツオね」
「だから、何の勝負だよ」

悔しいけど認めるわ。
世界でいちばん大切な幼なじみは、世界でいちばん大切な恋人になったの。

***
テツオとリカのシリーズも6作目になりました。
6作目にして、やっと一歩前進ね。
前作をお読みになりたい方はこちらからどうぞ。
熱帯夜妄想デート
初詣わがままデート
新緑ドライブデート
七夕、星空デート
春爛漫、さくらデート


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夫婦喧嘩は犬が食う [男と女ストーリー]

ボクはトイプードルのジャム。
この家に来てもうすぐ2年だよ。
ダンナさんとオクさんは、前はとっても仲良しだったのに、最近はケンカばかり。
オクさんが、何かに不満を持っているみたいだけど、ダンナさんはそれに全く気付いていないみたいなんだ。

今日のケンカは特にすごい。
とうとう離婚っていう言葉が飛び出しちゃった。

「離婚の協議をしましょう。私、本気よ」
「わかった。このマンションは、もともと君が住んでいたから、俺が出ていけばいいんだろう」
「そうね。家具や家電はどうする?あなたが買ったものもあるけど」
「いらないよ。全部置いていく」
「そう」
「俺はジャムだけ連れて行くよ」
「えっ? どうしてジャムを連れて行くの?」
「だって、ジャムは俺の犬だし」
「はあ? 何言ってるの? ふたりで選んで買ったんじゃないの」
「金を出したのは俺だ」
「違うわよ。あのお金は、いつかハワイ旅行に行くためにふたりで貯めた貯金から出したのよ」
「そうだっけ。でもそれだって俺の方が多く貯金してたよ」
「うわ、せこい。男のくせにそういうこと言う?」
「ジャムは俺に懐いている」
「私がしつけたからよ。毎日ご飯あげてるのは私よ」
「朝の散歩は俺が行ってる」
「それは私が朝ご飯を作るからでしょう。夕方の散歩は私が行ってるわ」
「帰りが早いんだから当たり前だ」
「あなたは気が向いたときに可愛がるだけじゃない。あなたが好き勝手に旅行に行ってるとき、ジャムを見ているのは私よ」
「旅行って…、出張だよ。仕事だよ」
「この前の熱海は?」
「あれは同窓会だ。仕方ないだろう」
「ずるいわ。私、同窓会なんて何年もやってない」
「それは自分の学校の幹事に言えよ」
「だけど、そんなにしょっちゅう出張に行く人に、ジャムは渡せないわ」
「ペットホテルとかあるだろ」
「高いわよ。あなたの収入じゃ無理ね」
「あっ、じゃあ妹のユキに預けよう。ユキは大の犬好きで、一時期獣医の勉強をしてたんだ」
「えっ、そうなの? ユキさん、獣医の勉強してたの?」
「うん。出来ちゃった婚で諦めたけどな」
「なに、そういうの早く言ってよ」
「ん? 出来ちゃった婚の話?」
「ちがう!ユキさんが喜んでジャムを預かってくれるって話よ」
「えっ…と、それが何か?」
「だから、行けるじゃないの、ハワイ」
「ハワイ?」
「そうよ、やっとお金が貯まったのに、ジャムがいるから旅行に行けないでしょう。それなのに、あなたばっかりいつも出かけて、もう私、耐えられない。私だって行きたいのよ、旅行に!」

え??? ボクが原因だったの?

「じゃあ、行く? ハワイ」
「行きましょう。私、日程を組むから、あなたはユキさんに電話して。ああ、忙しくなるわ。会社に休暇届出さなきゃ。あなたも早めに出してよ」
「それで、離婚は?」
「しないわよ。だってあなたも私も、ジャムを手放したくないんでしょう。今まで通り一緒に暮らすしかないわ」
「そうだね」

ダンナさんとオクさんは、代わる代わるにボクを抱いて頬ずりした。
夫婦喧嘩は犬も食わないって言うけどさ、何だかボク、もうお腹いっぱいだよ。

11月22日は、いい夫婦の日です。


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コスモスの丘で [男と女ストーリー]

久しぶりの休日だ。
たまった洗濯物を干し終えて、太陽に向かって大きく伸びをした。
「いい天気だし、どこか行く?」
まだ夢の中のマサルに声をかけても返事はない。
ずっと残業続きだったから、ゆっくり寝ていたいのだろう。
自分も働いているから、マサルの気持ちがよくわかる。
「たまには、ひとりで出かけてみようかな」
コスモスの丘はどうだろう。結婚前にふたりでよく行った場所だ。
たしか美味しい蕎麦屋があったはず。

マサルを起こさないように支度をして、車に乗り込んだ。
結婚して3年。最近は互いに仕事が忙しくて、一緒に出掛けることもない。
「おひとりさま」も流行っていることだし、疲れている夫をわざわざ起こして連れ出すこともない。何事もひとりで楽しめる自分になろう。
私は、なんだか冒険に行くようでわくわくしていた。

コスモスの丘は、家族連れやカップルで賑わっていた。
ちょうどコスモスが見ごろで、多くの人がスマホで写真を撮っていた。
自撮りしてみようかな。カメラを自分に向けたが、どうもうまくいかない。
「撮りましょうか?」
若いカップルの女性が声をかけてきた。
「ありがとうございます」
写真を撮ってもらい、礼を言うと、女性は少し気の毒そうに「おひとりですか」と聞いた。
「ええ、まあ」
「ここって、カップルで来ると、永遠に結ばれるんですよ」
「そうなの?」
「はい。だから、頑張ってくださいね」
え…? 何を?
私は思わず左手の指輪を隠した。この人ぜったい私を憐れんでいる。
そういえばさっきから私、カップルばかりをじっと見ていた。
寂しい30女に見えたのかしら。
遠ざかる若いカップルを見送ると、たまらなく可笑しくていつまでも笑った。

売店でコーヒーを買って、今度は家族連れをじっと見た。
そろそろ子どものことも考えないと、女性にはタイムリミットがある。
子どもができたら、マサルの帰りも少しは早くなるかな。
女の子が投げたボールが、ころころと転がってきた。
取って手渡すと、あどけない声で女の子が言った。
「おばちゃん、ひとりなの?」
ん? おばちゃん? きみのママよりたぶん若いけどね。
という言葉を飲み込んで、「ひとりだよ」と答えた。
「じゃあこれあげる」と、女の子はイチゴのキャンディをくれた。
ぱたぱたと女の子が走り去った後に、少し溶けたキャンディが残った。
私って、そんなに寂しそうに見えるのだろうか。

本でも持ってきて読めばよかった。
ただじっと、カップルや家族連ればかり見ているから愛に飢えた女に見えるんだ。
それならコスモスを見よう。
爽やかな秋の風に揺れる可憐な花。可憐なのに芯が強い花。
「君はコスモスみたいだね」って、結婚前にマサルが言ってくれたっけ。
遠い昔のことみたいだ。
ぼんやりしながらコスモスを眺めていたら、見覚えのある男が近づいてくる。
「え? マサル?」
マサルが息を切らしながら走ってきた。
「どうしたの?」
「電話しても出ないから、きっとここだと思って」
「電話。あっ、マナーモードにしてたから気づかなかった」
「ごめん」と、突然マサルが頭を下げた。
「なに? あなた何かしたの?」
「忘れたわけじゃないんだ。今日が結婚記念日だってこと」
「へ?」

今日が結婚記念日ということを、すっかり忘れていたのは私の方だ。
マサルは、いつまでも起きない自分に腹を立て、私がプチ家出をしたと思ったらしい。
コスモスの丘はふたりの想い出の場所だから、ここに来れば会えると思ったようだ。
ひとりの休日を満喫するつもりだったのに、結局ふたりになっちゃった。
まあ、でも、ひとりでいても私、マサルのことばかり考えていたんだけどね。

「お蕎麦食べる?」
「そういえば腹減った」
私たちは腕を組んで、コスモスの道を歩いた。
さっきの若いカップルと、キャンディをくれた子どもの姿を探したけれどいなかった。
「私のダンナさまよ」と自慢したかったのに。残念。

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ペアルックデート [男と女ストーリー]

敦くんにデートに誘われた。
男の子との初デートは、おしゃれなカフェって決めていた。

高校までずっと女子高で、大学も女子大。
男の子とろくに話せないまま20歳になって、さすがに焦って他校のサークルに参加した。
ぽつんと座っていた私に、敦くんが話しかけてくれて、優しい人だなと思った。
帰り際、「ルミちゃん、土曜日ヒマ?」って聞かれた。

すごく迷って服を選んで、髪型決めるのに30分。
それなのに、駅で待ち合わせた敦くんに、青いTシャツを渡された。
「それ着て」
敦くんも青いTシャツを着ている。
え? もしかしてペアルック? 初デートでペアルック?

連れていかれたのは、サッカー場だった。
まわりはすべて、青い服。とんだペアルックだ。
サッカーなんてさっぱりわからない。
青い服と白い服の選手が入り混じってちょこまか動いているだけ。
敦くんは、「よし、そのまま行け!」とか「今のオフサイドじゃないだろう!」とか、興奮しながら叫んでいる。
オフサイドって、なに?

「ちょっと、今のどこがファールなの!」
隣に座った女の人が、まわりに聞こえるような声で言った。
敦くんがそれに反応して、私を挟んで彼女と話し始めた。
「あの審判、誤審が多いよね。前の試合でも、ほら、〇〇が倒されたとき…」
「そうそう、あのときは訴えてやろうと思ったわよ」
「あっ、〇〇が抜けた。チャンスだ」
「きゃー、そのままシュートよ!」
青い服の人が蹴ったボールが、網に入った。
何が起こったかわからないほどの歓声と、騒音にしか思えない怒涛のどよめき。
敦くんと、隣の女の人が立ち上がって手を叩いている。
何だか、私だけ別世界にいるみたい。

「のど渇いちゃった」
私のつぶやきに敦くんが気づき、
「あっ、ごめん。前半が終わったらハーフタイムに何か買ってくるよ」
前半? 後半もあるの? ハーフタイムって、なに?

どうやら、そのハーフタイムとやらに入ったようで、みんなが立ち上がった。
「トイレ行ってくる」と立ち上がって、正直もう帰っちゃおうかと思った。
でも敦くんの車で来たから帰り道分からないし。
涙目でトイレを終えて手を洗っていたら、「ねえ」と声をかけられた。
さっき隣に座っていた女の人だ。
「あなたサッカーに興味ないでしょう。彼氏に無理やり連れてこられたカンジ?」
「いえ、無理やりっていうか…、ブルーフェアリー行こうって言われて、あたし、素敵な名前のカフェだと思ったの。まさかサッカーチームの名前だなんて思わなかったんだもん」
ぽろぽろと涙が出てきた。
女の人は「ぷっ」と吹きだした。
「やだ、カワイイ」
「バカにしてます?」
「いいえ。でもね、そのTシャツ、似合ってるわよ。あなたが思っているよりずっと。彼とあなたもね」
女の人は笑いながら出て行った。確かにこの色は、嫌いじゃない。

席に戻ると、敦くんが淡いブルーのドリンクをくれた。グラスの端に南国の花があしらわれている。きれいな色だ。
「このスタジアム限定のカクテルだって。ルミちゃん、こういうの好きそうだから」
「ありがとう。こういうの大好き」
敦くんが私のことを、ちょっと知っててくれて嬉しい。

極度の緊張とカクテルのせいで、後半戦はずっと寝てた。
「終わったよ」って起こされた。5-0で勝ったらしい。
あのあと4点も入ったってことは、敦くんと隣の人は4回立ち上がって拍手したのか。
それでも起きなかった私って……。
完全に嫌われたと思ったけど、敦くんは優しかった。
「サッカーに興味なかったんだね。ごめん。この近くに女の子が好きそうなカフェがあるんだって。さっきサポーターの人に聞いたんだ。行ってみる?」
「うん。行きたい」
サポーターって、もしかしてあの女の人かな?

私は車の助手席に身を沈めて、敦くんの横顔をそっと見た。
好きなチームが勝って嬉しそうな顔。なんだか可愛い。
あなたのことを、もっともっと知りたい。
「ねえ敦くん、オフサイドってなに?」
まずは、ここからかな。

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恋の松竹梅 [男と女ストーリー]

高木は、午後6時になると500円玉をにぎりしめて、弁当を買いに行く。
「幕の内の梅ですね」
高木が注文する前に、弁当屋の看板娘が言う。
毎日同じものを注文するから、すっかり覚えてしまっている。
「はい、485円です」
500円を渡すと、左手をそっと添えてお釣りを手のひらに乗せてくれる。
高木はいつもここでときめく。
笑顔が素敵で、キビキビ動く彼女に、高木はほのかな恋心を抱いている。

高木は漫画を描いて生計を立てている。
まったく有名ではないが、何とか食べていける収入はあった。
幕の内の梅は、高木にとってささやかな贅沢だった。

あるとき、「いらっしゃいませ」と元気に挨拶した彼女の顔がくもった。
「あら、ごめんなさい。幕の内の梅、売り切れちゃったの」
「え?ホント?」
「ええ、竹ならあるんだけど」
「じゃあ、今日は竹にするよ」
そう言って500円を出した高木だったが、幕の内の竹は590円だった。
「あ、足りない。家に帰って金持ってくるよ」
慌てて500円をひっこめた高木だったが、看板娘は竹を袋に入れて差し出した。
「500円でいいですよ。毎日来てくれてるから。あっ、パパとママには内緒ね」
そう言ってにっこり笑った彼女に、高木は大きな勘違いをした。
『もしかして、この子、オレのこと好きかも』
高木は夢心地で、少しだけ豪華な弁当を食べた。

いいことは続くもので、原稿を出版社に持っていくと、
「このまえの読み切り評判いいよ。連載にしようかって話が出てるんだ」
「本当ですか。やった!」
高木はすぐに思った。
きょうは、幕の内の松にしよう!

千円札を握りしめ、勇んで買いに行くと、弁当屋の前に高級な外車が停まっている。
すげーな。デラックス幕の内でも買いに来たのかな。
そう思っていると、看板娘のあの子がいつになく着飾って出てきた。
「お待たせしました」
よそ行きの声の彼女が、微笑みながら車に乗り込んだ。
弁当屋に不似合な外車が、スマートに走り出し、高木の横を通り過ぎた。
彼氏か…。そうだよな。あんなかわいい子に彼氏がいないわけがない。
うなだれながら高木は帰った。今夜はカップ麺でいいや。

それからしばらく、弁当屋へ行かなかった。
彼女のことがショックだったのもあったが、初めての連載が決まって、高木は急に忙しくなった。

高木は数週間後、久しぶりに弁当屋に行った。
「いらっしゃい。あら、久しぶりですね」
彼女の笑顔は、心なしか少し淋しげだった。
「梅ですね」
「いや、今日は、松にしようかな」
高木はそう言って、千円札を出した。
「毎日梅だと飽きるからさ、たまには贅沢しなきゃ」
彼女はクスッと笑いながら松の弁当を詰めた。
「はい、780円なので、220円のお釣りです」
いつものように手のひらに釣銭を乗せて、彼女はふっとため息をついた。
「松のお弁当も、毎日食べると飽きるものよ」
「?」

彼女は金持ちの御曹司に見初められて、つきあい始めた。
しかしデートの度に豪華なディナーやパーティ。
ブランドで身を固めたセレブの友人たち。会話は全く意味不明。
自分らしさを出せぬまま、彼女は御曹司と別れてしまったのだ。

そんなことはつゆ知らず、高木は松の弁当を食べながら思った。
「梅の方が好きかも」

高木は翌日、500円玉を握りしめ、弁当屋へ行った。
「いらっしゃいませ。今日は松竹梅どれにする?」
「梅にする。やっぱり俺には梅がいちばん合ってる気がする」
そう言って500円を差し出す高木に、なぜか不思議な安心感を覚える彼女であった。
「15円のお釣りです」
いつものように手のひらに釣銭を乗せて、彼女はふと思った。
「わたし、この人のこと、わりと好きかも」

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次女の恋 [男と女ストーリー]

三姉妹は、幼いころから両親に言われ続けた。
「三人のうち、誰か一人はお婿さんをもらってね」
姉妹は当然、長女の和子が婿をもらって家を継ぐと思っていた。
しかし和子は、アメリカ留学中に知り合った日系三世のアメリカ人と結婚してしまった。
家を継ぐどころか、日本にさえいない。

続いて三女の美佐子が、勤め先の銀行で大会社の御曹司に見初められて結婚。
玉の輿だから、親も大賛成だった。
残ってしまった次女の二美子は、婿を取ることを余儀なくされた。

合コンに行っても「あなたは次男ですか?」と、まず聞かなければならない。
会社の男性社員とは迂闊に付き合えない。
婿に入れないと知り、別れたときに会社に居づらい。
そんなこんなで二美子は、気づいたら彼氏いない歴32年。
姉と妹にはすでに可愛い子供がいるのに。
貧乏くじを引いたと、夜ごと枕を濡らす二美子。
見かねた両親が見合いの話を持ってきたけれど、一度も恋愛しないまま結婚するのは嫌だった。

そんなとき、街を歩いていた二美子が、若い男にナンパされた。
初めての経験だ。
「おねえさん、めっちゃタイプなんだけど、俺とお茶しない?」
「何コイツ」と二美子は思ったけれど、条件反射で聞いてしまった。
「次男ですか?」
「六男っす。六人兄弟の末っ子」
「うそ!お兄さんが5人も? 素敵!そういう人を探していたの」
「え?」
「じゃあ行きましょう」
二美子は男の腕を取って歩き出した。
「いや、マジでお茶だけっすよ。結婚とかしませんからね」

男は27歳。チャラチャラして見えるが実は公務員。
市役所の苦情処理ばかりしているせいでストレスがたまり、休日は羽目を外してチャラ男を演じている。
押しに弱いタイプで、すっかり二美子のペースに乗せられている。

一方、二美子はこの人を逃したら後がないと思っていた。
男は意外と真面目だったし、顔もなかなか好みだった。
3度目のデートで家に招いた。
「まあ、六男ですか。それは素晴らしい」
「二世帯住宅にリフォームしようと思うんだが、どうかね?」
「あなたの家になるんだから、そんなにかしこまらないでね」

トントン拍子に話が進む中、男は大切なことを言い出せずにいた。
「ああ、5人の兄貴、みんな婿に行っちゃったんだよな~」

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雨男・晴れ男 [男と女ストーリー]

初めてのデートは雨だった。
私は雨女じゃないから、もしかして彼が雨男?

「ごめん、おれ、究極の雨男なんだ」
やっぱり…。
それから彼とのデートはいつも雨。
遊園地もドライブも、公園デートも旅行もすべて雨。
それでも彼は優しくて、一緒に過ごす時間は楽しかった。

1年後、彼から突然のプロポーズ。
嬉しかったけど、ふと考えてしまった。
彼と結婚したら、間違いなく結婚式は雨だ。新婚旅行も雨。
私はいいけれど、子供が生まれたらどうだろう。
家族でお出かけ、入学式、運動会、すべて雨。
ちょっと可哀想じゃないかしら。

迷って返事を先延ばしにしていたところに、突然現れた晴れ男。
取引先のエリート社員が、私に急接近。
恋人がいるからと断り続けたけれど、グイグイ来られてついにデートをすることになった。
彼は究極の晴れ男。
デートは素晴らしいお天気で、青空の下でテニスやバーベキュー。
ああ、やっぱり私、アウトドアが好き。
結局私は、雨男と別れて、晴れ男と付き合うことにした。
晴れ男とのデートは、いつも晴れだった。
降水確率70%をも覆す力がある。
イケメンだし、遊びも上手でお金持ち。
半年後、妊娠がわかって出来ちゃった結婚。
結婚式はもちろん最高のお天気だ。

しかし晴れ男は、釣った魚にエサをやらない主義だった。
家庭を顧みず、外で遊んでばかり。
社交的な彼は友達が多い。
子供が生まれてからは、子育てに協力するどころか「泣き声がうるさい」と、ますます出かけることが多くなった。
やがて浮気が発覚。
慰謝料がっぽりもらって離婚した。
もちろん、離婚した日も晴れだった。

つまらないことで人生を間違えた。
まさか私がシングルマザーになるなんて。
息子は可愛い。この子の成長だけが私の生きがい。

息子は、父親に似て晴れ男だ。
幼稚園の入園式、遠足、おゆうぎ会、運動会、すべて晴れ。
そして年長になり、幼稚園最後の運動会に、初めて雨が降った。
朝からずっと晴れていたのに、年少組のかけっこが始まるころ、突然雨が降り出した。
テントや建物の軒下にみんなが避難して、恨めしそうに空を見上げた。
するとひとりの男が、雨が降りしきる園庭に立ち、「すみません」と頭を下げた。

彼だった。好きだったのに、つまらない理由で結婚を迷った究極の雨男だ。
「僕のせいで雨が降りました。みなさん、すみません。僕は究極の雨男だから、こんな楽しい日にここへ来てはいけなかった。だけどどうしても、息子が走る姿をひと目見たくて」
雨男の彼が深々と頭を下げる。
彼の妻と思われる女性が、彼の隣に走り寄り、一緒に頭を下げた。
「主人が雨男でごめんなさい」
どっと笑い声が沸き上がる。怒っている人など誰もいない。
やっぱり彼は素敵な人だ。
優しそうな奥さんと、照れたように笑っていた。

雨雲とともに去っていく彼の背中を見送ると、苦い後悔が心を支配した。
バカだったな、私。あの奥さんのように、彼を受け入れればよかったのに。
雲の切れ間から陽が射して、子供たちが園庭に戻っていく。
息子がふと立ち止まり、「ママ」と叫んだ。
「ママ見て、虹が出てるよ」
園庭を包む大きな虹を背に、息子が最高の笑顔を見せた。
「うん、きれいだね」
ああ、この可愛い晴れ男を、ずっと愛していこう。
心の靄が、すっかり晴れた。

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弟の彼女 [男と女ストーリー]

弟の彼女は可愛い。
色が白くてぽっちゃりしていて、性格もすごくいい。
会社の帰り、街でばったり彼女と出会った。
彼女はひとりだったから、ちょっと誘ってみた。
いとも簡単に、彼女はついてきた。
弟に後ろめたい気持ちはあったが、僕は彼女と楽しい時を過ごした。

彼女の職場が、僕の会社から近いことを知り、たまに待ち伏せて逢瀬を重ねた。
彼女はいつも断らなかった。

彼女は弟を愛している。
それなのになぜ、僕の誘いに応じるのか。
答えは簡単。僕が弟そっくりだからだ。
僕たち兄弟は双子だ。親も見分けがつかないほど似ている。
彼女は、僕を弟だと思っているのだ。
だから僕を、弟の名前で呼ぶ。

弟と彼女の結婚が決まった。
僕の秘密の恋も、もう終わろう。
弟のふりをして彼女に会うのは、もうやめよう。
弟と彼女の幸せを、僕は心から望んでいる。


私、道ならぬ恋をしているの。
相手は、姉の恋人。
初めて紹介されたときから、ずっと気になっていたの。
その彼が、突然私を誘ってきた。
姉の顔がちらついたけど、自分の気持ちを抑えられなかった。

それからたまに、彼と会っている。
彼に優しくされるたび、罪悪感でいっぱいになるの。
彼が愛しているのは姉だ。
そう、彼は私を姉だと思っている。

私たち姉妹は、親も見分けがつかないほどそっくりな双子なの。
彼が私の名前を呼ぶことはない。
それでもいいと思っていたけれど……。
姉と彼の結婚が決まった。
だからもう終わり。
姉のふりをして彼と会うのは、もう終わりにするわ。


結婚式当日、新郎の兄は、新婦が双子の姉妹であることを知る。
結婚式当日、新婦の妹は、新郎が双子の兄弟であることを知る。

「君、もしかして」
「あなた、もしかして」
見つめ合うふたりに、恋の女神は微笑むだろうか。
まずは、自己紹介から始めてみよう。

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春爛漫、さくらデート [男と女ストーリー]

15時過ぎに駅に着いた。
たった1年離れただけなのに、少しだけよそ者になったような気がする。
研修を兼ねた大阪勤務が終わった。
なかなか過酷な1年だった。
この研修で、辞めてしまう社員もいるらしい。
慣れるまでの3か月が特につらかった。
7月の、あの七夕の日にリカが逢いに来てくれて、どれだけ救われたかわからない。

いつも僕を呼びつけることを日課にしていたリカが、大阪まで逢いに来るなんて。
驚いたと同時に、僕は少し欲張りになった。
リカが駅まで迎えに来ていることを期待した。
大阪まで来たんだから、歩いて10分の駅まで来てもいいんじゃないか…と。
だけどリカはいなかった。
忘れているのかな。電話してみよう。駅まで飛んでくるかもしれない。

「もしもし、リカ?」
「テツオ? なんやねん。どないしたん」
「いや、もう関西弁はいいんだ。帰ってきたから」
「ふうん、そうなの? 今どこ?」
「駅」
「じゃあ早く帰ってきなさいよ」
「迎えに来ないの?」
「行かないわよ。あたしは今、ハーブティーに合うお菓子の研究で忙しいの」
うそばっかり。ハーブティーなんて好きじゃないくせに。
まあ、想定内の反応だ。他の手段を考えよう。

「駅前の桜並木がすごくきれいだよ」
「ホント?」
「満開だよ。この桜を見ないなんて、一生の損だ」
「行く。すぐに行くから待ってなさいよ」
ほらね。リカは桜に弱いんだ。

10分後にリカが来た。
桜色のワンピースに緑のスカーフを巻いている。
さくら餅みたいだ。怒られるから言わないけど。
「ただいま」
「どうしてお正月に帰ってこなかったのよ」
「忙しくて。年賀状送っただろ?」
「知らないわ。ヤギに食べられちゃったもん」
「ふーん、ヤギ飼ってるんだ。名前は?」
「…テツオ」
リカがくるりと背を向けた。

桜並木を並んで歩いた。少し不機嫌な横顔。
本当は満開じゃない。5分咲きといったところだ。
もしかして、それを怒っているのかな。
「あのさ、よく見たら満開じゃなかった。ごめん」
「知ってたわよ。満開じゃないことくらい」
「そうなの?」
「朝から3度も駅に来たら、いやでもわかるわ」
「3度も駅に?どうして?」
「テツオが時間を言わないからでしょう」
「あっ、そうだっけ」
やっぱり迎えに来ていた。リカは、本当はすごく優しいんだ。
そっと手を握ったら、リカの頬がピンクに染まった。
「ますますさくら餅みたい」
あ、いけない。つい声に出してしまった。
「なに?」
「あ、いや、さくら餅が合うんじゃないかな。ほら、ハーブティーに」
「何言ってるの? さくら餅には緑茶よ」
「買って帰る?」
「じゃあ、草餅も買いなさいよ」
「了解」

リカがやっと笑った。
やっぱりリカの機嫌を直すのは食べ物だな。
「満開の桜もテツオと見たいわ」
ふいにリカが言う。言った後であわてて、
「ヤギのテツオよ」と口をとがらせた。
こういう会話が、僕の人生に不可欠だということに、今さら気づく。
リカにとってもそうならいいのに。
とりあえず僕たちの恋は、まだ3分咲き程度かな。

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