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黒い服の男 [ミステリー?]

「ねえ、さっきから後ろの車がついてくるんだけど」
バックミラーをちらちら見ながら妻が言う。
夫は助手席でスマホをいじりながら「方向が一緒なんだろ」と、ぶっきらぼうに答えた。

妻がファザードをつけて路肩に止まると、後ろの車も止まった。
「やっぱり私たちを尾行してるわ」
「刑事ドラマじゃあるまいし。いいから急いでくれよ」
夫は今から、2泊3日の出張に行く。電車の時間が迫っていた。

駅のロータリーに着くと、後ろの車もピタリと止まった。
せわしなく後部座席から旅行カバンを取り出す夫を、じっと見ている。
妻は、気味が悪くなって車を降りると、後ろの白いセダンに向かって歩き出した。
「ちょっと、どういうつもり?」
運転席の窓を叩き話しかけたが、運転席には誰もいない。
「うそ。いつ降りたの?」

「おい、何やってるんだよ。俺はもう行くぞ」
妻が振り向くと、カバンを抱えた夫の後ろに、黒い服を着た男が寄り添っている。
「あ、あなた、うしろ!」
妻が怯えながら指さしたが、夫は首をかしげるだけだ。
「後ろが何?」
夫には、男が見えていないのだ。

黒い服を着た男は、薄ら笑いを浮かべて夫の後ろに張り付いている。
嫌な予感がした妻は、「あなた、行かないで」と叫んだ。
「なんだよ。ただの出張じゃないか。おまえ、おかしいぞ」
妻は夫のカバンを掴んで、ロータリーの植木の中に放り投げた。
「おい、何するんだよ。おまえ本当におかしいぞ」
慌ててカバンを拾いに行く夫だったが、無残にも定刻を過ぎ、乗るはずだった電車は発車してしまった。
それと同時に、夫の後ろに寄り添っていた黒い服の男も煙のように消えてしまった。

結局夫は、出張を取りやめた。
夫が乗るはずだった電車の、乗るはずだった車両で爆発事故があり、多くの犠牲者が出た。
あのまま乗っていたら、夫も命を落としていたはずだ。

あの男は死神だったのではないかと、妻は思った。
「私が、夫の命を救ったんだわ」
妻は、夫とふたりで夕食後のお茶を飲みながら、しみじみ言った。
「よかった。あなたが生きていて」
「そうだな。おまえのおかげだ」
「出張は、大丈夫だったの?」
「ああ、部下に変わってもらった。あの後電車が動かなかったから仕方ない」
夫は、「さて」と立ち上がり、風呂場に向かった。

夫のスマホが鳴った。メールの着信だ。
「部下の方かしら。急ぎの連絡だったら大変」
妻は、いつもは絶対に夫のスマホを見たりしないのだが、そのときはなぜか気になって見てしまった。

『今度はいつあえる?』
「え…?」
妻は震える手で、他のメールを開く。
夫の送信メール、8:20『妻が何か感づいたようだ。今回の旅行は中止にしよう』

妻の手から、ぽろりとスマホが落ちた。
出張と言いながら、本当は女との不倫旅行だったのだ。
そういえば、思い当たることが他にもある。
許せない。ずっと騙されていたなんて。
妻の中に殺意が芽生えた。

鼻歌を歌いながら風呂から出てきた夫の後ろに、再び黒い服の男が寄り添っているのだが、今度ばかりは妻にも、その姿は見えないのであった。


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心の記憶 [ミステリー?]

僕たちは草原に来ている。
雨が上がったばかりで草が濡れている。
彼女はサンダルを脱いでスカートの裾をたくし上げた。
踊るように草の間を歩く彼女の髪に太陽の光が降り注ぐ。
ふと立ち止まった彼女が指さす先に、大きな虹が出ていた。

そこでいつも目が覚める。同じ夢を何度も見ている。
あそこがどこで、彼女が誰なのか、僕は知らない。
だけど心当たりはある。
僕は中学生のときに心臓の移植手術をしている。
きっと、僕に心臓をくれた人の心の記憶だと思う。
それは日を増すごとに鮮明になり、ぼんやりだった彼女の顔も、今でははっきりわかる。

「ねえ、あなたもスニーカーを脱いで裸足になりなよ。気持ちいいよ」
そう言って笑う彼女の顔が、どんどん僕に近くなる。
いつも笑っているような優しい目をしている。

「ちょっと、早く起きて」
体を揺すられて目を覚ました。
目の前に、たった今まで見ていた夢の中の女性がいる。
夢と同じ顔で笑っている。
「だ、誰?」思わず飛び起きた。
「やだ、冗談言わないで。愛する妻の顔を忘れたの?」
「妻?」
「もう、怒るわよ。寝ぼけてないで、顔洗ってきて」

そうか、これはまだ夢の中だ。
どうりで、まるで知らない家だ。
知らない家なのに、僕はすんなり洗面所へ行き顔を洗う。
鏡に映った顔を見て、思わず息を止める。
別人だ。鏡の中の男は僕じゃない。
夢だ。これは夢なんだ。

「アキ」と、僕は彼女を呼んだ。
夢の中の僕は、当然のように彼女の名前を知っている。
「ユウちゃん」とアキは僕を呼んだ。もちろん僕の名前じゃない。
「ユウちゃん、ドライブ行こう。素敵な草原を見つけたの」
草原? ああ、夢の中に何度も出てきた草原か。

僕は車を運転する。
17歳の僕は運転免許を持っていないのに、何の躊躇もなくエンジンをかける。
夢の中で僕は、実に悠長に車を運転する。
突然、大粒の雨がフロントガラスを打ち付けた。
「やだ、天気予報外れだわ」
アキが顔を曇らせる。それでもなぜか楽しそうだ。
「すぐ止みそうだよ」
そう、雨がすぐに止むことを、僕は知っている。

雨が止んだ草原に、大きな虹が出た。
僕とアキは裸足になって、いつまでも虹を眺めた。
「生きているって素晴らしい」と、強く思った。

目が覚めた。
長い夢だった。
ベッドで眠る夫が、目覚める可能性はゼロに近い。
「ねえ、ユウちゃん、不思議な夢を見たわ。あなたから心臓をもらった少年の夢よ。夢の中で、少年はあなたの夢を見ていた。ね、変でしょう」

迷っていたけれど、夫の意志を尊重しよう。
きっと誰かが、あなたの命を引き継いでくれる。
夢の中の少年かもしれないと、私は思う。
だって病室の窓から見える虹が、夢の中の虹と同じくらい大きい。

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ひとつの説 [ミステリー?]

1972年:日本
男は、閉店間際に現れた。客はもうひとりもいない。
ニット帽に大きなサングラスをかけている。
男は懐から黒いものを取り出した。
それが銃だとわかったのは、彼が上に向けて一発放ったからだ。

男は窓口の女性行員に大きな旅行カバンを渡し
「このカバンに入るだけの金を詰めろ」と言った。
ひとりの男性行員が、非常ベルを鳴らそうとした。
男は、容赦なく男性行員を撃ち殺した。
「ひい」と女性行員は札束をカバンに詰めた。
男はそのカバンを手にすると、なぜか忽然と姿を消した。
逃げたのではない。煙のように消えてしまったのだ。
そして男が消えたと同時に、撃ち殺された男性行員が、何事もなかったように起き上がった。天井に放った弾痕もない。
すべてはもとどおり。ただ、金だけが消えていた。

「これが、20世紀最大の謎と言われている銀行強盗事件だ。男はどこから現れて、どこへ消えたのか。君たちの説を聞きたい」
「先生、その男は、異次元もしくは科学技術の発達した未来から来たんじゃないですか。瞬間移動で時空を超えたんですよ」
「そういう説が最も多いのは事実だ。だが疑問がひとつ。撃たれた行員が傷もなく生き返ったのはどう説明する?」
「時間を戻したんじゃないかな。犯行の前に」
「それはおかしい。時間が戻ったら金も戻っているはずだ」
「そうそう。男の存在も行員たちの記憶から消えているはずだ」
「じゃあ、撃たれた行員は男の仲間だったんですよ。先に来ていて、銀行に紛れ込んでいたんです。男の凶暴さを印象つけるために、わざと撃たれて見せたんですよ。もちろん実際に弾は当たっていない」
「じゃあ天井の弾痕はなぜ消えたんだ?」
「うーん」
「あ、先生、CGとか使ったんですよ。プロジェクションマッピング的な」
「そうだ。銃も本物じゃない。撃ったときのシミュレーションが出来る訓練用だ」
「実際の銃の怖さを知るためのものか。あるかもしれないな」
「なるほどね。どれも興味深いな。おっと時間だ。続きはまたどこかで話そう」

この手の話は学生にウケる。
実際には何もわかっていないのだから、いろんな説が飛び交う。
教授は大学のカフェテラスで昼食をとった。

「先生、さっきの授業面白かったです」
ひとりの女生徒が前に座った。
「でも先生、あの事件は、そんなSFチックなものじゃないんですよ」
「君の説を聞こう」
「あれは、行員たちの狂言です」
「ほう」
「行員のひとりが銀行の金を横領しました。その人は親の借金を抱えて大変で、仕方なく銀行のお金に手を付けました。それはとても悪いことだけど、同僚たちはひどく同情しました。そして、仲間を助けるために、みんなで強盗に金を奪われるという狂言を考えたのです」
「しかし無理だろう。上司だっているし」
「ちょうどいなかったのです。本店で会議があって、上司は全員いませんでした」
「だけどひとりくらい反対者がいただろう」
「いいえ。なぜなら盗んだお金は、みんなで山分けしたからです」
「うまくいくとは限らない」
「実際うまくいきました。何かの効果音で作った銃声音を通行人に聞かせたのもいい作戦です。ただ、それで通報を受けた警察が、思いのほか早く来てしまったのが計算外でした。犯人が突然消えてしまったと、オカルトめいたことを言ってしまったのはそのせいです」
「男性行員が撃たれのは?」
「さあ、それはおそらく、20世紀最大の謎などと言われ、話が肥大していくうちに生まれた作り話でしょう。都市伝説的なものですよ」
「うーん。やけにリアルな説だな」
「それから先生、これもひとつの説ですが」
「なんだね」

女生徒は、急に声をひそめた。
「そのときの行員のひとりは、私のおばあちゃんです。もう半分ぼけてるけど、昔のことはよく覚えているんですよね」
「まさか本当に?」
「床下の壺の中に、おばあちゃんのへそくりがあるんですよ。聖徳太子の一万円札がたくさん。怖くて使えなかったんじゃないでしょうか」

「あくまでも、ひとつの説ですが」と付け加えて、女生徒はふふっと笑った。

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暗殺者の恋 [ミステリー?]

― あたしはスナイパー。
狙撃命令が出たら、どこへでも行くの。
今回のターゲットは、愛しい彼。
何度も彼の狙撃を依頼されたけど、そのたびにうまく逃げるのよ。
悪い男なの。だけどとてもタフなやつ。いつのまにか、愛してしまった。
一生結ばれない恋だとわかっている。

あたしはスナイパーだから、愛する男でも容赦なく殺す。
それがあたしの使命なの。
殺したいほど愛してる。
出来ることなら、逃げて生き延びてほしい。
だけどあなたは、きっとあたしを待っているでしょう。
あたしたち、あの場所でしか交わることが出来ないのだから。
さあ、時間だわ。行きましょう。―


― もうすぐ彼女がやってくる。
わかっている。彼女はおれを殺しに来る。
彼女になら、殺されたってかまわない。
いっそ殺してほしい。
おれの愛は命がけだ。
決して交わることのないおれたちだけど、この愛は永遠だ。

彼女が来た。
やはり凄腕のスナイパーだ。
仲間を次々に撃っていく。
さあ、おれの番だぜ。
そのまっすぐな瞳、ゾクゾクするぜ。―


「あ~、すっかり風邪が治ったわ」
「薬が効いたんだな」

彼はウイルス、そして彼女は特効薬。

「はっくしょん」
「あらやだ。私の風邪がうつった?」
「そうみたい。はっくしょん」

― おれは生きている。ああ、また死に損なったか。― 
― うまく逃げたようね。さすが私の愛した男だわ。―

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コインランドリーの女王 [ミステリー?]

彼女は赤いポルシェでやってくる。
胸元で揺れるきれいな長い髪、体型がそのまま出るようなミニのワンピース。
もちろんプロポーションは抜群だ。
右手にピンクの大きなバッグ。
左手に車のキーをじゃらりと鳴らし、ヒールの音を響かせる。

ここは、町はずれのコインランドリー。客は一人暮らしの男ばかり。
彼女が入ってくると誰もが道を開ける。
「こちらにどうぞ」
と、僕(しもべ)のように空いている機械を案内する者もいる。
「ありがとう」
彼女がサングラスを外して微笑むと、ハートの矢が刺さったようにメロメロになる。

コインランドリーに投げ込まれる色とりどりの下着たち。
それを見ただけで鼻血をだす学生は数知れず、コインを入れる仕草にさえも誰もがときめく。
「どうぞ」
彼女のために椅子を空けると、優雅に微笑み足を組む。
ヘッドフォンで音楽を聴き、時にリズムに合わせて体をくねらせる。
ああ、なんてセクシー。

彼女のランドリーが終わるまで、帰る男はひとりもいない。
とっくに終わっているやつも、スマホゲームに夢中のふりをしながら彼女をチラ見する。
そして彼女がすべてを終えて、魅力的なヒップラインを揺らしながらポルシェに乗り込むのを見届け、僕らは無言でそれぞれのアパートに帰る。
安アパートの電気をつけて、僕らはようやく現実に戻る。

僕らは彼女を、クイーンと呼んだ。
クイーンが来るのは月・水・金の午後8時。いつも時間ピッタリだ。
そしてそれは、金曜の夜だった。
いつものようにクイーンが来て、僕らを翻弄させて出て行った。
僕はその日、原付バイクで来ていたから、興味本位でポルシェを追った。
追いつくはずもないと思ったが、ポルシェは意外とゆっくり走った。
そして古いアパートも前で停まった。
ここがクイーンの家?まさか、こんなボロアパートに住んでいるはずがない。
そう思ったとき、ポルシェのドアが開いて女が出てきた。

「え?」
それは、まったくの別人だった。
よれよれのスエット上下に、無造作に束ねたぼさぼさの髪。サンダル履き。
ポルシェ違いか?いや、たしかにクイーンのポルシェだ。ナンバーも同じだ。
じゃあ、クイーンはどこに行ったんだ。
ぼさぼさの女は、クイーンが持っていたのと同じピンクのバッグを持って、アパートの階段を上がっていく。何が何だかわからない。
次の瞬間、まっ赤なポルシェが突然消えて、古ぼけた軽自動車に変わった。
まるでかぼちゃの馬車みたいだ。魔法が解けたシンデレラ?
僕は、キツネにつままれたように首をひねりながら帰った。

月曜日、クイーンはいつものようにコインランドリーにやってきた。
相変わらず美しくセクシーだ。
僕は、金曜日のことを確かめたくて、ポルシェの鍵を隠した。
クイーンが音楽を聴いているときに、こっそり自分のポケットに入れた。
帰ろうとしたクイーンは、焦って鍵を探した。
「ここに置いた鍵、誰か知らない?」
みんなクイーンのために鍵を探している。時間がどんどん過ぎていく。

5分後、彼女の魔法が解けた。
ぼさぼさの髪、毛玉だらけのスエット。ノーメイクの平凡な顔。
「え?あんた誰?」
取り巻きだった男たちは、見てはいけないものを見てしまったようにうろたえた。
僕がポケットから鍵を出すと、彼女は泣きそうな顔で僕をにらみ、奪うようにつかんで出て行った。
ポルシェは、もちろん軽自動車に変わっていた。
もうここには、おそらく来ないだろう。
「何だアレ?」「普通の女じゃん」「夢でも見てたのか?」
男たちは、事態が飲み込めないまま帰って行った。
僕は、罪悪感と、何とも言えない喪失感を拭いきれなかった。

水曜日の夜、僕の原付バイクが、突然まっ赤なポルシェに変わった。
上質なスーツと整ったさわやかなルックス。
憧れていた男になっている。
今度は僕の番なのか?
おそらく魔法は1時間余りで切れるのだろう。
さてどうしよう。
僕はとりあえずコインランドリーに向かった。
いつもは男ばかりのコインランドリーが、女子大生のたまり場になっていた。
彼女たちは、目をハートにして僕を迎えた。

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明日香の庭 [ミステリー?]

私は、この庭から出られない。

いつもの朝だった。いつものように学校へ行こうとして門を出た。
しかしどういうわけか、強い力に押し戻されてしまう。
抵抗できない大きな力が、私の行く手を阻んでいる。
「明日香、何してるの?早く行きなさい」
ママに背中を押されたけれど、私のからだはびくとも動かない。
「そんなに行くのがいやなの?何かあったの?」
ママは、顔をしかめながら、「今日は休みなさい」と言った。

翌日も同じだった。
どうしても、門から外へ出られない。
パパとママは、具合でも悪いのか、学校でいじめがあるのかなどと心配したけれど、私はいたって健康だし、いじめなんてなかった。
「庭から出られないんだよ」
私がいくら訴えても、両親は困った顔をするだけだ。

先生が来た。友達も来た。
「明日香ちゃん、一緒に学校へ行こう」
誰かと一緒なら出られるかもしれないと思ったが、やはりだめだった。
私だけが取り残される。
「病院に行ってみましょう」
ママが車の助手席に私を乗せた。
車だったら出られるかもしれないと思ったが、やはりだめだ。
巨大な力で、車は門から外に出られない。
「おかしいわね。故障かしら」
「だから、庭から出られないんだよ」
「もう、明日香がおかしなことを言うから、車まで変になったわ」
ママはうんざりしたようにガレージに引き返した。
「病院は明日行きましょう。仕事を早く切り上げて帰ってくるわ」

ところが翌日、ママは帰ってこなかった。
ママだけじゃない。パパも帰ってこない。
夜になっても、私はひとりきりだった。
私が変な子だから、ふたりともどこかへ行っちゃったの?
月もない暗い庭先で、私は両親を待ち続けた。

朝が来た。ぼんやりと薄暗い朝だ。
両親は、とうとう帰ってこなかった。
寂しくて、泣きつかれて、とにかくここではないどこかに行きたいと思った。

門のところに立って、外に向かって思い切りジャンプした。
私のからだはふわりと宙に舞い上がった。
真っ暗だ。何もない。宇宙の果てに放り出されたみたいだ。
もしかして、私だけを残して世界は滅亡してしまったのか。
「パパ、ママ」
誰でもいい。私を、ここから連れ出してほしい。
新しい世界でもいい。死んだ後の世界でもいい。

急に天から大きな手が現れた。神様?この手を握れば、パパとママのところへ行けるの?
私は必死で手をつかんだ。
ぐいっと強い力で引き上げられ、私のからだはぐんぐん上に上がった。
視界が開け、まぶしい光に中に、たくさんの人がいた。
「生きてるぞ!」
誰かが叫んだ。
「生存者1名!」
激しく呼吸をくり返した。まるで今まで息をするのを忘れていたようだ。

***
「臨時ニュースです。
巨大な隕石の落下により壊滅した町の、瓦礫の中から少女が無事救出されました。
救出されたのは〇〇明日香ちゃん10歳です。
72時間ぶりに救出された明日香ちゃんは、命に別状はなく……」

たくさんの大人たちに抱えられて、明日香は庭を振り返った。
明日香を守ってくれたはずの庭は、もうどこにもなかった。
彼女が、町も友達も、そして両親をも失った悲しみを知るのは、もう少し後になるだろう。

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楽しい話を書きたかったのに、こんな話になっちゃいました。
すみません^^
今年最後のお話は、明るくしたいと思います~

彼女が消えた夜 [ミステリー?]

仕事を終えて帰宅すると、彼女がいなかった。
晩ご飯も作っていない。
一緒に暮らして1年。こんなことは初めてだ。

寝室のベッドにはトレーナーとジーンズが脱ぎ捨てられている。
急いで出かけたようだ。
クローゼットを開けると、お気に入りの黒のドレスがなかった。
僕たちが出会った日に着ていたドレスだ。
すごく似合っていた。彼女のために作られたようなドレスだった。
そのドレスを着て、彼女はいったいどこへ行ったのだろう。
友人とのパーティ?
そもそも、彼女に友人などいただろうか。
家族もいない。友達もいない。彼女は天涯孤独だ。
だから僕が帰ってくると、心底安心したような笑顔を見せた。
いったいどこへ行ってしまったのだろう。
とりあえず、電話をかけてみる。

RRRRRR
リビングのソファーで鳴った。忘れて行ったらしい。
ふと見ると、リビングの隅にバッグが置いてある。
財布も入っている。
金も持たずに出かけた?どうやって?金がなければバスにも乗れない。
誰かが迎えに来たのか?
そこで初めて、男の存在を疑った。
悪いと思いながら、彼女の携帯を見る。
僕以外からの連絡は一切なかった。もちろんSNSもやっていない。

このまま帰ってこないような気がして溜息をついた。
何か、不満があったのかな。
何でも完ぺきにこなす彼女に甘えて、家事をすべて押し付けていた。
忙しくて、遊びにも連れて行かなかった。
彼女がいない部屋は、真冬のように空気が冷たい。

たまらずテレビをつけた。
お化けカボチャの帽子を被ったお天気キャスターが、陽気に週間予報を伝えている。
ああ、今日はハロウィンか。
彼女と出会ったのも、ハロウィンの夜だった。
ドラキュラの仮装をした僕と、可愛い魔女の帽子を被った彼女。
「こんばんはドラキュラさん。わたし魔女です」
ニコッと笑った彼女に一目ぼれ。
そのまま手をつないで月夜の遊歩道を歩いた。ドラキュラと魔女のデートだ。
帰る場所がないというので家に連れてきた。
そして僕たちは、一緒に暮らし始めた。
考えてみれば、僕は彼女のことを何も知らない。

今夜も、美しい月が出ているだろうか。
窓を開けてみた。
いつもより大きな月が出ている。
どこかで仮装したカップルが歩いているかもしれない。

月の前を、黒い影が横切った。
何かが、こちらに向かって飛んでくる。
鳥かな?いや違う。人間だ。黒いドレスを着ている。
「…え?」

「ただいま」
彼女が、ほうきに乗って帰ってきた。
「ママが病気だと聞いて、魔界に帰っていたの」
え? ママ? 魔界?
「でもね、仮病だったの。わたしが1年も帰らないものだから、心配したのね」
彼女は、ほうきを鉛筆くらいに小さく縮め、くるりと回した。
たちまちテーブルの上に、たくさんのご馳走が並んだ。
ワインのコルクが勝手に開いて、トクトクとふたつのグラスを満たしてゆく。

「魔法?」
「そうよ。わたし魔女だもん。初めて会った日に言ったでしょう。さあ、飲みましょう。あなたのために用意した特別なワインよ」
彼女が差し出したワインは、血の味がした。
「いや、俺はドラキュラじゃないから!」

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愛人弁当 [ミステリー?]

はい、私がやりました。
めった刺しにしてバラバラにして林に埋めました。
憎かったんです。あの人を愛しているだけに、憎かったんです。

動機ですか?
それは、あの人がお弁当を食べずに捨てたことです。
毎日毎日、私が愛をこめて作ったお弁当を、あの人は捨てました。
毎日捨てました。
弁当箱ごと会社のごみ箱に捨てるのです。

最初は、嫌いなものが入っていたのかと思い、メモを書きました。
「嫌いな食材があったら言ってね」と。
メモごと捨ててありました。
「どうして捨てるの?あなたのために作っているのに」
とメモを書きました。
「頼んでねーよ」と殴り書きがありました。

あの人は、私のお弁当を食べずに、何を食べていたと思います?
上司や同僚と外でランチ、それなら許せます。
コンビニで買ったおにぎりやカップ麺、それもまあ許せます。
あの人は、他の女が作った弁当を食べていたのです。
栄養も何も考えていない、冷凍食品と添加物だらけの弁当です。
私のお弁当のほうがはるかに美味しく体にいいのに。
その女は妻という立場に甘え、たいして美味しくもない手抜き弁当を作っています。
それなのに、あの人は残さずそれを食べます。
悔しかった。

だから私はナイフでめった刺しにしました。
まずはウインナーを、それから冷凍のから揚げ、茹でただけのブロッコリー、缶詰のツナとプチトマト。
全部粉々に切り刻みました。そして裏の林に埋めました。
二度とあの人の口に入らないように。
そして空になった弁当箱に、自分が作って持ってきたおかずを詰めました。
営業会議が終わるまでの間に、すべてを済ませました。

お昼休み、あの人がお弁当を広げました。
少し離れたデスクから、ドキドキしながら見ていました。
「あれ?」とあの人が言いました。
「弁当の中身が入れ替わっている」

大騒ぎになりました。
どうやらあの人は、かねてより社内でのストーカー被害を訴えていたようです。
ストーカーって、私のことですか?

慎重に事を進めたつもりでしたが、目撃者がいて、私は部長に呼ばれました。
そうです。私がやりました。
「だけどそんなに悪いことでしょうか。あなたの奥さんが作る弁当より、私のお弁当のほうが絶対美味しいわ」
あの人に向かって言いました。
するとあの人は、不機嫌な顔で答えました。
「まずそうで悪かったな。弁当は毎朝俺が作っている。朝が弱い妻の分と二人分」

ああ。まさかの弁当男子。
ますます好きになってしまいそう。どうしましょう。

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サバイバル家庭訪問 [ミステリー?]

『目的地周辺です。案内を終了します』
ナビが案内をやめた。ええ?こんな山の中で?
これだから田舎の家庭訪問はいやなんだ。
生徒が書いた地図によると、この森の向こうだ。
車を置いて歩き出すと、思ったよりもずっと深い森だった。

方向がわからない。どうしよう。
電話は…圏外だ。とりあえず進んでみよう。あれ?ここさっき通ったか?
戻りたくても戻れない。完全に迷った。
しばらく歩くと人影が見えた。僕はすかさず声をかけた。
振り向いた中年の男は僕を見て、人懐っこい笑顔を見せた。
「もしかして先生?ひろし君の担任の?」
「そうです。あ、ひろし君のお父さんですか?」
「違うよ。俺は去年の担任。去年の家庭訪問の日から、ずっと森で迷ってるんだ」
「はあ?嘘でしょう?」
「ホントだよ。あっちに仲間もいるよ。2年前の担任と3年前の担任。みんなで共同生活してるの」
「そんなバカな。だいたい行方不明になった先生がいるなんて、聞いたことないですよ」
「たぶん俺たちの存在そのものが消えちまったんだろうな。心配するな。そのうち慣れるさ」

やけに呑気な男を残して歩き出した。
冗談じゃない。早く森を抜けなければ。
そうだ。木に印をつけよう。同じところを通ったらわかるように。
鞄からマジックを取り出して木に向かうと、そこにはすでに数本の印があった。
「それね、みんなやってるの。みんな最初は抗うんだよ。何とか森から出ようとするんだ。でもね、出られないんだよ。あきらめなよ。住めば都だよ」
中年男が僕の肩をぽんと叩いた。
「いやだ!」
僕は走り出した。誰があきらめるか。
川の音がする。川を下れば町に出られるはずだ。

川沿いをがむしゃらに走った。ジャングルみたいな草をかき分けて進むと、美味しそうな食べ物の匂いと人の声がした。
よかった。民家がある。
藪を抜けて声のするところに出ると、3人の男が焚き木を囲んでいた。
息を弾ませて声をかけると、振り向いたのはさっきの中年男だった。
「戻って来ちゃったね。今年の担任さん。ほら、言ったでしょう。ここからは出られないんだよ」
「あきらめなよ。今年の担任さん」
中年男の後ろで、ふたりの男が手を振った。
「こちらはね、ひろし君の、1年の時の担任と2年の時の担任だよ。それで俺が3年の時の担任、君が4年の担任。仲よくやろうね」
3人は楽しそうに川魚を食べている。
「ここの暮らしはそんなに悪くないよ。寒くもないし暑くもないし、食べ物も豊富なんだ。ほら、君の分もあるから食べな。頑張ってサバイバルするとね、ご褒美にお酒とか飲めるんだよ。」
「ご褒美?」

「いやあ、今年は若い女の先生がよかったけど、君のような若い男も刺激的だね」
「さあ、たくさん食べなさい。若いんだから」
「でも…家庭訪問が…」
「そんなの、他の誰かが君に代わって行ってるよ。この森に入った時から、君の存在が消えて、新しい誰かが存在しているさ」
僕はぐったりと疲れて、よく焼けた川魚をほおばる。
「来年は若い女の先生がいいな」という男たちの声に、心の底から頷いていた。

**
「ひろしちゃん、先生が見えたわよ。あら、またゲーム?まったく。先生、この子ったらずっとゲームばかりしてるんですよ」
「まあ、ひろし君、どんなゲームなの?」
「サバイバルゲームだよ、先生。普通の人が森で迷ってサバイバルするんだ。今、新キャラが来たところなんだ。魚釣ったり、火を熾したり、サバイバルが上達するとご褒美にフライドチキンやビールを差し入れするんだ」
「へえ、面白そう」
「じゃあ先生も仲間に入れてあげるよ。若い女性の仲間をみんな欲しがってる」

**
1年後、すっかりこの生活に慣れた僕は、うろうろと森をさまよう若い女性を発見する。
「もしかして先生?ひろしくんの今年の担任ですか?」

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コピー少女 [ミステリー?]

それは、私が小学校へ教育実習に行ったときのことだ。
3年生の生徒たちは素直ないい子ばかりだった。
みんな私に懐いてくれて、特に音楽の時間は、私の歌を静かに聞いてくれた。
「もう一回歌って」とせがまれた。

ただひとり、不登校の生徒がいるのが気になった。
「その子は1年生のときから一度も来ていないわ」
担任の福田先生が言った。
「家庭訪問などはしてるんですか?」
「ええ。でも私が行った時は留守だった。会えた人は滅多にいないらしいの。しかもね…」
福田先生は、そこで口をつぐんだ。教頭先生が、咳払いをしながら近づいて来たからだ。
「君、行ってみるかね?」
教頭先生は私の顔を覗き込んだ。
「教頭、実習生には無理ですよ」
「いや、実習生だからいい勉強になる。生徒と年齢も近いし、君なら気に入られるんじゃないかな」
「気に入られる?」
教頭は、私の肩をぽんと叩いた。

不登校の生徒の家は、町はずれの洋館だった。
チャイムを鳴らしたが返事はない。帰ろうと思ったとき、2階の窓のカーテンが動いた。
小さな人影が、こちらを見ていた。
「S小学校で教育実習をしています。少しだけでもお目にかかれませんか」
大きな声で言ってみた。
門が静かに開き、「どうぞお入りください」とインターホン越しに声がした。

通されたリビングには、少女がひとり座っていた。
はっとするほど美しい少女だった。
腰まで届きそうな艶のある黒髪、透き通る白い肌、大きな瞳、ふっくらとした唇。
何をとっても完璧だった。
「こんにちは」自己紹介をしてみたが、返事はなかった。
母親らしい女性が紅茶を運んできた。
「ごめんなさいね。その子、声がまだ…」
声が?言葉が不自由だから、登校しないのだろうか。
少女は、整いすぎる顔で静かに笑っていた。

急激な眠気が襲ってきた。紅茶に薬が入っていたようだ。
意識が遠ざかり、気がついたら、機械だらけの部屋でベッドに縛られていた。
いったい何を…と言おうとしたけれど声が出なかった。
「ごめんなさいね、先生」
母親らしい女性が、手慣れた様子で機械を操作していた。
「もうすぐ終わるわ。仕方ないのよ。あの子が気に入ってしまったから」
ドーム状の機械の中に、私の体はゆっくり入って行った。
「あの子は、不完全で生まれてきたの。まともなものなど何もなかったわ。でもね、あの子は恐ろしいほど高い知能と、限りない欲望を持っていた。自分が気に入った物で、完璧な自分の体を造るために、この機械を作り出したのよ。健康な臓器、細くて長い手足、髪も、目も鼻も口も、気に入った物をコピーしたの」
コピー?
「声だけが、まだだったのよ。なかなか気に入る声が見つからなくて。でもよかった。あなたの声を、あの子が気に入ってくれた。これであの子は完璧よ」

暗い空間を彷徨うような不思議な感覚。私は再び眠りに落ちて、気づいたら自分の部屋で朝を迎えていた。
「夢だったのかしら」きっとそうだ。ちゃんと声も出ている。
いつもの時間に学校へ行くと、教頭先生が満面の笑みで私を迎えた。
「君、お手柄だね。白川さんが今日から学校へ来てるよ」
「白川…さん?」
「不登校だった生徒だよ。君が昨日会いに行ったんだろう」
美しい少女の顔が浮かんだ。夢ではなかったようだ。どこまでが、本当だったのか。

「白川さんに会った人は、なぜか学校を辞めてしまうっていう噂があったのよ。だけどあなたは大丈夫みたいね」
福田先生と、並んで歩きながら教室へ向かった。1時間目は音楽だ。

ひときわ美しい少女がいた。微笑みながら、私をじっと見ている。
いつものようにピアノの前に座って、伴奏を始めた。
「元気に歌いましょう」
そう言って、歌おうとしたとき、自分の声に違和感を感じ、歌い始めることが出来なかった。
生徒の中から、美しい歌声が聞こえた。白川さんだ。
白川さんが、私と同じ声で歌っていた。
生徒たちの感嘆の声。満足そうな美しい少女が、スポットライトを浴びたように立っていた。

私の声はコピーされて白川さんのものになった。
いいえ、おそらく本物は白川さんの声で、コピーの方が私に戻って来た。
そう思えて仕方ない。
だってあの日以来、私は歌えなくなった。
そして、音楽の教師になることもやめてしまった。

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