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水を求めて [SF]

わたしたちウォーター族は、水がないと生きていけません。
皮膚が渇くと、干からびて死んでしまうのです。
わたしたちは、水の惑星で暮らしていました。
小さな星には、シンボルとなる「永遠の泉」があり、そこから絶え間なく湧き出る水が、わたしたちの体を常に潤していました。

ところが突然異変が起こり、泉は永遠ではなくなりました。
水の量が徐々に減り、ついには底が見えるほどになりました。
仲間はたくさん死にました。このままでは、絶滅してしまいます。

優れた技術者が、なんとか生き残れる方法を考えました。
それは、水に入ると体が小さくなるという薬です。
その薬を飲んだわたしたちは、少ない水でも生きられるようになったのです。
それでも水がすっかり枯れたら終わりです。
時間はありません。
生き残ったわたしたちは、わずかな水を容器に詰めて、新しい星を探す旅に出たのです。

水が豊富な星を見つけました。
地球という大きな星です。
たくさんの生物が暮らしています。
わたしたちはさっそく、水を求めてさまよいました。

「うみ」という巨大な水がありました。
しかしそれはしょっぱくて、わたしたちの体質に合いません。
「かわ」は流れが早くて危険です。
「みずうみ」は、しょっぱくなくて流れも穏やかだと聞き、そこへ行くことにしました。
ところが長旅の疲れと、持ってきた水が濁ってきたことによる体調不良で、みんな動くことができません。

あたりはもう真っ暗で、右も左もわかりません。
こんなところで死にたくありません。
「水の匂いがする」
仲間が言いました。
フェンスに囲まれた四角い堀の中に、たっぷりの水がありました。
「ぷーる」と呼ばれるものです。

わたしたちは、フェンスをよじ登り、ふらふらになりながら水の中に飛び込みました。
「ああ、生き返った」
薬によって体が小さくなったわたしたちにとって、「ぷーる」はとても広くて快適でした。
わたしたちは、「ぷーる」の中にぷかぷか浮きながら、空を見上げました。
なんてきれいな空でしょう。
たくさんの星がまたたき、ゆるやかな風が吹いています。
ずっとここにいたいと思いながら、わたしたちは久しぶりにゆっくり眠りました。

翌朝目覚めると、おおぜいの地球人が「ぷーる」のまわりを囲んでいます。
ああ、わたしたちは侵略者として、捕まってしまうのでしょうか。
しかし、地球人たちはなぜかとても楽しそうです。

「どうして学校のプールに金魚がいるんだ?」
「すげえ、おれ、金魚すくいやりたい」
「あたし、おうちで飼うわ」

どうやら、薬を飲んで小さくなったわたしたちは、「きんぎょ」という生物に似ているようです。
地球人たちはわたしたちを、きゃあきゃあ言いながらつかまえました。
子供のようですが、なかなかに狂暴です。
元の姿に戻るのは危険だと、誰もが思いました。

そしてわたしは今、地球人の家の中にいます。
きれいな水槽に入れられて、水草たちと一緒に静かに暮らしています。
「キンちゃん」なんて名前で呼ばれています。
水から出ない限り、元の姿に戻ることはありません。
わたしは「きんぎょ」ではないけれど、「きんぎょ」として生きるのもいいと思い始めています。
だってここにいれば、死んでしまう心配はありませんもの。

ところで、わたしの仲間、あなたのおうちにいないかしら?

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うちの金魚たち。ま、まさか!

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ベルベットの部屋 [SF]

この部屋は、本当に居心地がいい。
温かくて清潔で、おだやかな空気が流れている。
アイボリーの壁には花の絵が飾られ、いつも静かな音楽が流れている。
窓にかかったベルベットのカーテンは、季節ごとに色を変える。

ママはソファーにもたれてレースを編む。
私と弟は、ふかふかの絨毯で本を読んだりトランプをする。
1日中この部屋で過ごすけれど、なんの不自由も感じない。
むしろ楽しい。

夕方パパが仕事から帰ってくると、弟がすかさず飛びつく。
「おかえりパパ」
「パパ、外の話聞かせて」
パパは優しく笑いながら、仕事で出会った珍しい生物の話をしてくれる。
ママは食事をテーブルに並べ、グロテスクな生物の話に眉をしかめる。

パパが宇宙勤務になったのは1年前。
私たち家族は、地球に残るか、パパと宇宙に行くかを問われた。
私と弟は、迷わず「宇宙」と答えた。
地球の学校が好きではなかった。
乱暴な男子にイスを蹴られたり、消しゴムを取られたりした。
早生まれで小さい弟は、理由もなくイジメを受けていた。

宇宙には、どんな恐ろしいことがあるかわからないから、パパが仕事に行っている間、私たちは1日中部屋の中で過ごす。
ベルベットのカーテンが開くことはない。
窓の向こうは、鉄の壁だから。
その向こうがどんな世界か知らないけれど、知る必要もないほどに、この部屋が大好きだ。

ママが10作目のレースを編み終え、私と弟が50冊の本を読み終えた頃、パパが言った。
「もうすぐ地球に帰れるぞ」
ママは目を輝かせた。
「まあ嬉しい。もう味気ない宇宙食を食べなくて済むのね」
私と弟は、思わず顔を見合わせた。
地球になど、帰りたくない。
「3日後、地球に帰るぞ」
パパは言った。

その夜、私と弟は家出の計画を立てた。
3日後の朝、家出をする。
私たちがいないことに気付けば、地球へ帰るのもやめるはず。
「でもさ、外は危険なんでしょう?」
弟がしり込みをする。
「パパはいつも出かけるけど、無事に帰ってくるじゃない」
「特殊な宇宙服を着ているからだ」
「じゃあその服を借りればいい」
宇宙服が小型宇宙船のガレージに2着ある。それを着ればいい。

そして3日後、ほとんど眠らずに朝を迎えた。
パパとママはまだ眠っている。
弟とベッドを抜け出して、そろりと歩く。
鉄の扉を開けるセキリュティーコードはこっそり覚えた。
宇宙服を着て扉を開けると、朝の陽射しが眩しかった。
久しぶりに見る光に、思わず目を閉じた。
そよそよと風になびく草原が広がっている。
鳥のような生物が空を飛び、キツネのような生物が顔を出す。
「なんだ。地球と同じような星だ」

空気があることを知り、宇宙服を脱いだ。
大地に足をのせると、弟ははしゃいで走り回った。
私は久しぶりすぎて、上手く走れない。
足がもつれて転んだとき、うしろからパパの声がした。
「こら、いきなり外に出たら危ないだろう」
しまった。連れ戻される。

「パパ、私ずっとこの星にいたい。地球に帰りたくない」
パパとママは呆れたように笑った。
「何言ってるの?ここが地球よ」
「え?だって、今日地球に帰るんでしょう?」
「たった今帰って来たんだよ。3日間かけて地球にね」

振り向くと、大きな宇宙船が私たちを見おろしている。
窓もない鉄のかたまり。
朝露を含んだ草が足元をくすぐり、優しい風が髪を揺らした。
1年間過ごしたベルベットの部屋が、なぜだかとても不自由に感じた。

「お姉ちゃん、ぼく学校へ行ったら、みんなに宇宙生物の話をするんだ」
息を切らした弟の顔が輝いている。
「うん。私も」 と答えていた。
なぜだろう。少しだけ、楽しみだ。


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ロビン [SF]

妹が訪ねてきた。
「彼氏と一週間旅行に行くの。そのあいだ、ロビンを預かってほしいのよ」
「ロビン?犬かしら。それとも猫?」
「ロボットよ」

ロビンは、妹が働く研究所で造られた癒し系ロボットだという。
今はまだ試作段階で、それぞれの研究員に一体ずつ与えられたという。
「一週間動かさないと、プログラムに不具合が起こるらしいの。だからお願い。一緒にいるだけでいいの。特別なことはしなくていいから」

翌日、妹がロボットのロビンを連れてきた。
可愛い人形みたいなロボットだと思っていたが違った。
ロビンは人間そっくり。しかもかなりイケメンの男だった。
「じゃあお姉ちゃん、よろしくね。一緒にいるだけで、何もしなくていいから。すぐに慣れるわ。ただのロボットだもん」

ロビンとの暮らしが始まった。
ロボットとわかっていても緊張する。
ロビンの顔は、すごく私の好みだった。

「レイナさん、コーヒーが入りました」
名前を呼ばれただけで、胸がきゅんとなる。
しかもロビンは、私が欲しいものを先回りして用意してくれる。
顔を洗えばタオルを差し出し、のどが渇けば水をくれる。

仕事に行くときは
「行ってらっしゃい。仕事は大変でしょうけど、頑張りすぎないでくださいね」
帰ってきたら
「お帰りなさい。お仕事お疲れ様です」
欲しい言葉を言ってくれて、ほどよい力でマッサージをしてくれる。
食事をとらないことと、深夜の充電を除けば、どこから見ても理想の男だった。

ロビンとの暮らしは、柔らかいスイートピーみたいな淡いピンク色だ。
初恋の甘酸っぱい想いがよみがえる。
毎日がときめいて、楽しくて仕方ない。

ロビンといると、私の中の女性の部分が目を覚ます。
自由奔放な妹に比べ、私は恋愛経験に乏しかった。
そうだ、ロビンを相手に、恋愛のシミュレーションをしてみようか。
こんなイケメンが近くにいるのに、何もしないなんてもったいない。
ロボットだし、感情がないんだから何をしてもいいじゃないか。
私はロビンの顔をじっと見つめた。
「レイナさん、どうしました?何がお望みですか?」
「ロビン、いいからじっとして」

数日後。
ああ、どうしよう。もうすぐ妹が帰ってくる。
言えない。ロビンが壊れちゃったなんて。
ロビンは急に動かなくなった。
これからというときに、急に動かなくなった。

妹が帰ってきた。
「お姉ちゃん、ありがとう。ロビンを迎えに来たわ」
「あの…それが…」
「お姉ちゃんに言い忘れちゃったんだけど、ロビンの全てをコントロールするICチップが口の中に入っているの。まあ、キスでもしない限り壊れることはないけどね。いくら彼氏いない歴30年のお姉ちゃんでもロボットにキスはしないよね…あっ」

ロビンは、だらしなく口を開けて座っている。
「お姉ちゃん、まさか…」
「ごめん、つい。でも、いくらイケメンロボでも、まともにキスも出来ないようじゃダメだわ。研究の余地があるわね」
「お姉ちゃん…彼氏紹介しようか?」
「お願い。できれば、人間の男にして」


これって、SF?(笑)

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博士とマリー [SF]

人間嫌いの博士は、人間そっくりのロボットを造って、一緒に暮らした。
「人間嫌いなのに、どうして人間そっくりのロボットを造ったの?」
博士の唯一の理解者である、孫のマリーが訊ねた。
「わしのロボットは人間そっくりだが、人間のようにつまらんことで泣いたり怒ったりしない。失敗もしない。金に汚くないし、くだらん世辞も言わん」
博士は「もういいか」という具合に視線を本に戻した。
こうなると、もう話しかけても返事はない。
偏屈な性格をよく知っているマリーは、邪魔をしないように部屋を出た。

庭には、博士が造ったロボットが植木の手入れをしていた。
「マリーさん、お帰りですか?」
ロボットは、にこやかに笑った。
「ご苦労さま。ええと、名前は何だったかしら?」
「マイケルです。マリーさん。以後、お見知りおきを」
「マイケルさん、おじいちゃん、偏屈で大変だろうけどよろしくね」
「お心遣いありがとうございます。私は大丈夫です」
マイケルは、恐ろしい速さで植木の手入れを終え、次の仕事に取り掛かった。

博士は天才的な科学者だが、その才能を世のために使おうとはしなかった。
「もったいないな」と、マリーはいつも思っていた。

「ただいま」
「おかえりマリー、おじいちゃんのところへ行っていたの?」
「うん。おじいちゃん、すごいよ。マイケルっていう人間そっくりのロボットを造ったの」
「まあ、お父さん、またそんなものを…」
母親は眉間に皺を寄せながらため息をついた。
「マリー、おじいちゃんがロボットを造っていること、絶対言っちゃダメよ」
「どうして?」
「おじいちゃんの技術を盗みに来る人がいるからよ」
「わかった」
マリーに父親はいない。小さい頃に亡くなった。
母親はいつも忙しく、マリーは博士の家で過ごすことが多かった。

ある日、マリーがいつものように博士の家に行くと、見たことのない靴があった。
マイケルが、廊下で静かに座っている。
「マイケルさん、お客さま?」
「はい、マリーさん、知らない人が来ています」
マリーは、そっと壁に耳をあてた。とたんに、博士の怒鳴り声が聞こえてきた。

「いい加減にしろ。ロボットなどわしゃ知らん。あれは人間だ」
「いや、わかるんですよ。私、ロボット探知機を持ってますから。博士、お願いしますよ。その技術を私どもに教えて下さい」
客の男は必死に頼んでいる。マリーはたまらず、ドアを開けて中に入った。
「おじいちゃん、教えてあげたら?マイケルさんみたいなロボットがいたら、多くの人が助かるわ」
「マリー、出て行きなさい!」
いつになく厳しく叱った博士の後ろで、客の男がマリーに探知機をあてた。
「ほう、この子もロボットですか。実によく出来ていますな」
マリーに向けられたロボット探知機は、確かに赤く反応している。
「婿さんとお孫さんを事故で亡くしたと聞きました。もしかして、お孫さんのかわりにロボットを?」
「うるさい!出て行け。マイケル、こいつをつまみ出せ」
マイケルが「はい」と男を羽交い絞めにして、有無を言わさず外に出した。

マリーは、回線がショートしてしまったように首を傾げていた。
「おじいちゃん、わたし、ロボットなの?」
どうりで、泣きもしないし怒りもしない。失敗もしないし金に汚くないし、くだらないお世辞も言わない。
マリーは、自分がロボットであるという情報をインプットして、うなだれる博士の手を取った。
「おじいちゃん、大好きよ」

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彼と星とベンチコート [SF]

「寒いよ、もう帰ろうよ」
私が言うと龍一は、自分のベンチコートを脱いで私の肩にかけてくれた。
「それじゃ龍一が寒いでしょ」
「僕は平気だから、もうちょっと待ってて」
ずるいくらいの爽やかな笑顔で、彼は視線を空へ戻した。

夜のデートはいつも天体観測。
星と私、どっちが大事? そんな言葉を飲み込んで、彼のベンチコートにくるまった。
彼の匂いが私を安心させた。いつまでも寄り添っていたいと、心から思った。


目覚めて、いつもの夢だと気づいた。
毎日のように龍一の夢を見る。
彼は5年前のあの日、宇宙に連れ去られてしまった。
空からまばゆい光がまっすぐに降りてきて、龍一を連れ去った。
私はまるでSF映画を観ているような気分で、ただその場に立ち尽くしていた。
不思議と怖くなかった。
龍一が、光の中で笑っていたから。まるでそれを望んでいるように見えた。

謎の失踪事件として、しばらく世間を騒がせたが、もう誰もが忘れている。
私はあの日返しそびれたベンチコートがあるかぎり、忘れることなど出来なかった。

龍一が訪ねてきたのは、星がきれいな真冬の夜だった。
窓を叩き、相変わらずの爽やかな笑顔を見せた。
ここはマンションの5階なのに、彼はなんでもないように宙を歩いていた。

「ごめん、心配させて」
こんなに寒いのに、彼は薄着だった。あの日私がベンチコートを奪ってしまったからだ。
「5年も何をしていたの?」
「5年?そんなに経ったの?まだ半月位だと思っていた。まるで浦島太郎だな」
彼は、連れ去られたどこかの星で、留学生として優遇されていると言った。
「いずれ地球と交流を持ちたいんだって。僕はその架け橋になれるように勉強させてもらっている」
龍一はとても輝いていた。楽しくて仕方ないようだ。
「すぐには無理だけど、必ず帰ってくるよ」と龍一は言った。
ベンチコートは、その時まで預かって欲しいと。
私は、わかったと答えた。とにかく龍一が無事だったことが嬉しかった。
彼は少しも変わっていなかった。

龍一は、その後も会いに来た。
決まって星がきれいな真冬の夜。
そして決まって5年後だ。
宇宙がどれだけ素晴らしいか、地球がどんなに美しいかを熱く語る。
「もうすぐ、地球とあの星を行き来できる日がくるよ」と彼は言う。

私は、その星と地球の交流は無理だと思う。
だって時間の流れが違いすぎる。
龍一が会いに来た10度目の冬、彼はまだ青年で、私はすっかりおばあさんだ。
次に彼が来たときまで、生きていられるかどうかわからない。

古ぼけたベンチコートを眺めながら、私は呟く。
やっぱりあなたは星を選んだのね。

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ゾンビの町 [SF]

私たちの小さな町は、ある日を境にZ地区と呼ばれるようになった。
事の始まりは、ひとりの渡航者だった。
海外から帰国した男が、体調を崩してこの町の病院に入院した。
原因不明のウイルスに感染していた男は、やがて化物に姿を変え、病院の人を次々に襲った。
それは、ゾンビウイルスと呼ばれ、噛まれた人はゾンビになってまた人を襲う。
町に増えたゾンビに打つ手はなく、政府は病院周辺の地区に高い鉄の塀を立て、完全に隔離した。

私たち家族は、ゾンビに感染していない。
だけど同じように隔離され、ここから出ることができない。
塀の上に付けられたカメラと、ヘリコプターからの映像が繰り返しテレビで流された。
『Z地区のゾンビの数は、日に日に増えています。政府は特効薬の開発を急がせています。まだ感染していないみなさん。希望を持って頑張りましょう』

「いったいいつまで待てばいいの?買い物も行けないし、食糧だっていつまで持つか」と母。
「ゾンビになる前に、飢え死にしちゃうぞ」と父。
「せっかくサッカーのレギュラーになれたのに」と、中学生の弟。
「先輩と、やっといい感じになれたのに」と、高校生の私。
家の中にいれば安全と言われて1週間。私たちは、呑気に事態が収まるのを待っていた。

10日が過ぎた頃、テレビを見ていた弟が叫んだ。
「大変だよ。ゾンビが…」
そこには、誰かの家の窓を壊して、中に入るゾンビの姿が映っていた。
「家の中は安全じゃなかったの?」
「この家も危ない。窓をテープで補強しよう。あと、段ボールでふさいで光をもらすな」
私たちは、昼も暗い部屋で過ごすことになった。

食料はあとわずか。
この頃は、電波が届かないのかケイタイも使えない。テレビも映らなくなった。
「ヘリコプターも飛ばなくなったし、政府はこの町を完全に見捨てたんだ」
「そんな。私たち、ここでゾンビになるか、飢え死にするしかないの?」
「そんな二択いやだよ」
外でうろつくゾンビの気配に怯えながら、私たちは飢えと絶望でどうにかなりそうだった。

「何とかここを出る方法はないだろうか」
「そういえば、地下道があったわ」
「ああ、戦争中に造られた地下道か。子供の頃遊んで、よく叱られたな」
「あの地下道は、となり町まで続いていたはずよ」
父と母はこの町で生まれ育った幼なじみだった。
数十年前にコンクリートの蓋でふさがれたが、外すことは出来るはずだと言う。

翌朝私たちは、最後の望みをつなぐように、地下道を目指した。
最低限の荷物を持って、ゾンビの活動が最も鈍くなる午前9時に家を出た。
何体かのゾンビに出くわせたが、動きが鈍かったので上手く逃げられた。
しつこいゾンビには、サッカーで鍛えた弟の蹴りをくらわせた。

地下道の蓋は重かったけれど、家族で力を合わせてこじあけた。
中は黴臭くネズミや虫がいて気持ち悪かったけれど、私たちはこんなことで負けない。
ここを抜ければ、普通の暮らしに戻れるのだ。
少し水が溜まった暗い地下道を進み、ようやく出口にたどり着いた。

「ああ、思ったより蓋がスムーズに開いてよかった」
「もう怯えることなく外を歩けるのね」
「腹減った。何か食べよう」
「あたし、服買いたい」

となり町は、静かだった。
「誰も歩いてないわ」「大通りに出たら車を拾おう」
しかし、大通りには車どころか、人の姿もない。
「父さん、あれ見て」
弟が指さす先には、何もなかった。
ビルも家も、すべての建物が、粉々に壊されていた。
「どういうこと?」

そこに、青い顔をした数人の男女が走ってきた。
「どうしたんです?何かあったんですか?」
「宇宙生物だよ。宇宙生物が現れて、人間を片っ端から捕まえて食うんだ」
「なんだって?」
「あんたたちは、どこからきたんだ」
「Z地区だよ」
「え?どうやって来たの?」
「地下道を通って来たんだ」
「案内してくれ。Z地区に逃げよう」
「いや、でもあそこにはゾンビが…」
「宇宙生物はゾンビは食わないらしい。あいつらに食われるくらいなら、ゾンビになった方がマシだ」

「宇宙生物に食われるか、ゾンビになるか」
「いやだ…そんな二択」
不吉によどんだ黒い空を見上げながら、私たちはのろのろと地下道に戻った。

さて、この家族、どうなるでしょうか。
1、ゾンビになる 2、助かる

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レンタル頭脳 [SF]

試験が近いので、少年はアルバイトを増やした。
試験が近いならバイトより勉強だろう…と誰もが思う。
しかし少年はアルバイトをする。なぜなら少年にはお金が必要だから。
少年は金を貯めて、レンタル頭脳を利用する。

レンタル頭脳は、もともと老人のために開発された。
加齢とともに脳の働きが衰え、計算が出来なくなったり漢字を忘れたりすることがある。
衰えた脳を補うために作られたシステムが、レンタル頭脳である。
老人たちは大事な書類を書くとき、大切な財産の計算をするとき、レンタル頭脳を利用する。

もちろん若者が利用するには厳しい制限がある。特定な人しか利用できない。
ましてや学生が使うことなど、完全に違法である。利用したりさせたりした者は、厳しく罰せられる。
しかしどこの世界にも、闇のルートというものがある。
少年は、アルバイト先の先輩から教えられた。
「学生用のレンタル頭脳があるよ」まるで悪魔の囁きのような危ない誘いだった。
それなのに少年は誘いに乗った。
レンタル代の他に先輩への紹介料もかかり、少年にとってはかなりの高額だったが、ちょうどお年玉をもらったばかりで金があった。
何より少年は、理数系の頭脳が死ぬほど欲しかった。

レンタル頭脳の効果は素晴らしく、中の下だった少年の順位は、たちまち10位に上がった。
教師や友人には塾に行き始めたと嘘をついた。親は手放しで喜んだ。
一度でやめるはずが、やめられなくなった。
少年は次の試験でも、その次の試験でもレンタル頭脳を利用した。
友人の家で勉強すると嘘をついてアルバイトに精を出したが、親は何の疑いも持たなかった。
成績が上がると信用も増すのかと、少年は少し卑屈に笑った。

「おまえさ、やりすぎはよくないぞ。もう5回目だろう。あんまりレンタルしてるとバカになるって噂だぞ」
先輩は、自分で勧めておいてそんなことを言った。
「秋まで成績を持続したら、いい大学に推薦してもらえるんだ。そうしたらやめるよ。いい大学さえ出れば、いいところに就職できるだろう。いい年してバイトなんてしたくないからね」
少年はすっかり先輩を見下していた。先輩は「チッ」と舌打ちをしてレンタル頭脳を少年に渡した。

少年に異変が起きたのは、夏休みに入る少し前だった。
レンタル頭脳を返却した帰り道、少年はいつになく気分がよかった。
頭が空っぽなのだ。もう何も考えなくてもいいと、誰かに言われているようだ。
通行人が少年に話しかけた。
「すみません。駅への道は、右ですか?左ですか?」
「みぎ…?ひだり…? なんのこと?」
少年は何もわからない。ここがどこで、何をしているのか。
自分の名前さえも、少年はわからない。

ビルの大型モニターが、女性のアナウンサーを映し出す。
『ニュースをお伝えします。レンタル頭脳に不具合が生じていることがわかりました。何らかのウイルスに侵されて、脳の機能が破壊する恐れがあるとのことです。7月1日以降にレンタル頭脳を利用した方は、直ちに使用をやめて医師の検査を受けてください』

少年はぼんやりモニターをながめている。
だけどその内容は、少年にはさっぱりわからないのであった。
夏の風が吹き抜けるビル街を、ただどこまでも走りたいと、少年の脳は言っていた。

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遠いふるさと [SF]

<8月1日>
夏休みは、パパのふるさとへ行きます。
パパのふるさとは、地球という星です。
すごく遠いので、ボクはまだ行ったことがありません。

地球はボクたちの星のように、人工の星じゃありません。
空も海も本物なんです。
早く行きたくてうずうずします。

<8月3日>
今日は地球について勉強しました。
地球は、その昔たくさんの人たちが暮らしていました。
だけど科学が発展しすぎて、多くの自然をこわしました。
このままでは地球が汚染されて破滅してしまうと考えた地球政府は、宇宙に人口の星を作って半分以上の人間を移住させたそうです。
快適な暮らしがしたい人は、みんな移住したそうです。
自然を愛する人たちだけが残りました。
自然って何だろう。快適じゃない暮らしというのがどういうものか、ボクにはよくわかりません。

パパとママも、子供の頃に移住したそうです。
だけどパパのおじいちゃんは地球に残りました。
おばあちゃんのお墓があるからです。
パパは、おじいちゃんが元気なうちに、ボクを地球に連れて行こうと思ったそうです。

<8月6日>
いよいよ明日出発です。
本物の海や本物の空ってどんなだろう。わくわくします。
大きな旅客船で行きます。
地球は今、セレブたちの観光スポットになっているようです。
だからチケットを取るのも大変だったようです。
みんな自然を求めて地球に行きます。だけど結局飽きて、充電式のゲームやタブレットをするんだと、パパが言っていました。

<8月7日>
ボクは悲しい。
突然、船が出なくなりました。
地球が、観光客の受け入れを拒否したらしいのです。

パパが言いました。
「科学の力を極力使わず、自然の暮らしをしながら美しい地球を取り戻したんだ。観光客によってふたたび汚染されるのを恐れたんだろう」
地球は観賞用の星になってしまいました。
遠くから見ることしかできないのです。
ボクの予定も真っ白になりました。本当にがっかりです。

****
これは、10年前に書いた私の日記だ。
あれから10年…。
まさか地球と戦争することになるなんて。
地球は完全なる鎖国状態を続け、着々と戦闘準備をしていたのだ。
人間はやはり文明を捨てきれなかった。
自然の暮らしを求めて私たちの星を作ったのに、結局両方欲しくなったのだ。

私は船に乗り込んだ。
旅客船ではなく、戦闘機だ。
初めて行く地球は、やはり青くて美しかった。


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カプセル制度 [SF]

15歳になったらカプセルに入る。
カプセルの中で、充分な栄養と、充分な知識を与えられ、充分な肉体が造られる。
そのカプセルで8か月眠ることが義務付けられている。
そしてカプセルから出ると、安定した豊かな暮らしが保障される。
僕たちは、そのことに何の疑いも持たなかった。

まれに、カプセルに入ることを拒否する人たちもいる。
彼らは下の世界の人間と呼ばれ、河川敷のじめじめした集落で集団生活をしている。
階級は最も低く、ろくな仕事も与えられず常に貧しかった。
朝から晩まで働いている。何を作っているのかわからないけれど、彼らに休みはない。

母は、丘の上から下の集落を見下ろして、嫌悪を露わにする。
まるで虫けらを見ているようだ。
「汚い連中。あなたは、あんなふうになってはだめよ」
もちろん僕も嫌だった。父や母のようにカプセルに入り、豊かな生活を送る方がいいに決まっている。僕がカプセルに入るのは、もうすぐだ。

ある日、学校の帰りに下の世界の人を見た。
薄汚い服でゴミ箱をあさっている。
鼻をつまんで通り過ぎようとしたら、「おや、坊やパンを持っているね」と声をかけられた。
給食の残りのパンが、確かにカバンに入っている。
しつこく付きまとわれるのも嫌なので、僕はパンを投げてやった。
男は大事そうにそれを受け取り、にやりと笑った。
「ありがとうよ。坊やはいい子だから、忠告してやるよ」
「おまえに忠告してもらうことなどない」
「まあ聞きなさい。いいかい、カプセルには入らない方がいい」
くだらない…。僕は無視して行こうとした。

「もうすぐ宇宙戦争が起こるんだよ」
「ふっ」と僕は笑った。
「ありえない。宇宙平和協定を結んだばかりだ」
「あんなのただのパフォーマンスさ。戦争は確実に起こる。そして政府はそれを知っている」
男は、汚い顔を近づけて声をひそめた。
「あのカプセルは、従順な兵士を作る装置だ。地球のために迷わず戦い、死をも恐れない兵士を作っている。戦争が始まった合図を聞いた途端、インプットされた戦闘意識が動き出す。誰もが皆、自分を犠牲にして戦うのだ」
「まさか」
「その証拠に、政府関係者はカプセルに入っていないことを知っているかな?」
「うそだ!」
「我々がいつも作っている建物は、シェルターだ。もしも助かりたいのなら、いつでも受け入れよう。パンのお礼にな」

僕は走って家に帰った。両親にその話をすると、バカバカしいと鼻で笑った。
「そんな連中と関わるんじゃない」と父は怒った。
そして春が来て、僕がカプセルに入る日が近づいた。
そんな時だった。突然空が真っ黒に覆われ、宇宙人が攻めてきた。
あの男のいうとおり、宇宙戦争が始まったのだ。

どこからともなくサイレンが鳴った。けたたましい音だ。
父と母が突然立ち上がる。
見たこともない険しい顔で、いつの間にかレーザー銃を手にしている。
周りの大人たちも、みな同じだ。兵士になった。もう戦うことしか考えていない。
あちこちに爆弾が落ちる。誰も僕を守ってくれない。

僕は走った。
河川敷のシェルターに向かって。
正しいと信じて疑わなかったカプセル施設が、次々に破壊されていく。
そんなことはどうでもよかった。
ただ生きるために、僕は転がるように走った。

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未来の妻 [SF]

<2062年>
少し未来のお話。
日本の少子化は深刻だった。
結婚しない男女、結婚しても経済的な理由から子供を持たない夫婦が増えて、このままでは人口は減り続けるばかり。

そこで政府は、『一夫多妻制度』を取り入れた。
経済的に余裕のある男性は、妻を何人娶ってもいいという制度だ。
ただし子孫を残すことが条件である。

私は、クラブのホステスだったけど彼に見初められて妻になった。
3番目の妻だ。
私28歳、彼は75歳。
愛なんてなくてもいい。早く子供を産んで、彼の財産を分けてもらいたい。
そう思っていたのに…。

彼が倒れて入院した。もう長くはないらしい。
高齢だから仕方ないけど、このままでは私、離婚されてしまう。
彼の1番目の奥さんと2番目の奥さんが、私を追い出そうとしている。
「子供が出来ないのに、ここにいる意味ないでしょう」
2人の妻、特に最初の妻は怖い。
性格も悪くて、まるでオニババだ。彼は最初の妻には頭が上がらない。
たとえ病気が治っても、私は追い出されるだろう。

私は嘘をついた。
「私、彼の子供を妊娠しています」

さて、どうしよう…。
嘘がばれる前に、何とかしなくては。そうだ!

<2012年>
いつものようにバイトから帰ると、見知らぬ女が玄関先で出迎えた。
「お帰りなさいませ」
誰だろう。なぜ勝手に僕の家に入っているのだろう。
「お食事にします?それともお風呂?」
「いや、あなたはいったい?」
「私は未来の妻ですわ。あなたにお願いがあって未来から参りましたの」
「未来から?」
頭がおかしいのかな?この女。わりといい女だけど。

「私は、50年後のあなたと結婚しましたの。だけど子供を授かる前にあなたが病気になってしまったから、私困ってますの。それで、過去にタイムワープして来ましたの。若い頃のあなたに、子供を授けていただきたくて」
「は?」
やっぱり頭おかしいのか?この女。
「無理だよ。僕は貧乏なフリーターだ。借金もある。子供はおろか、明日の食費にも困ってる」
「ではお金があればいいのですね」
女はそう言って、その日から占い師として働きはじめた。
未来から来たというのは本当らしく、女の予言は驚くほど当たった。
マスコミでも話題になり、平成の予言師などと呼ばれ、僕たちはみるみる裕福になった。

しばらくして待望の子供を授かり、女は未来に帰ると言い出した。
僕は慌てて引き留めた。
彼女を失ったら、また元の貧乏暮しに逆戻りだ。
「お願いだよ。僕は一生君だけを愛する。だからそばにいてくれ」
泣いて頼んだら、彼女は「じゃあ、もう少し」と言ってくれた。

<再び2062年>
あれ?どこかで私の人生が狂った。
あの時、この男に情けをかけたのが運のつき。
一生私だけを愛するなんて嘘ばっかり。
私が稼いだ金で3人目の妻だって?
冗談じゃない。追い出してやる。

ん?私オニババになってる?

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