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ありがとうございました

みなさま、ご心配をおかけしました。
お悔やみやお気遣いのコメントありがとうございました。

身内を亡くすのは初めてだったので、いろいろ戸惑いましたが、無事に見送ることができました。
母も元気そうなので、私は今日から仕事に行きました。

父は高齢でしたが、病院のお世話になることもなく、前日までお酒を飲んで普通でした。
お年寄りの方はよく、「ピンピンコロリで死にたい」などと言いますが、父はまさにそうでした。
きっと本人にとっても、いい最期だったと思います。

次からは、いつもの小説ブログに戻ります。
みなさま、本当にありがとうございました。

お知らせ

父が、急逝いたしました。
少しのあいだ、ブログをお休みします。

いつも読んでくださる方、コメントをくださる方、
ありがとうございます。

すぐに戻りますので、ご心配なく。
コメント返しもその時に…。

おみくじ屋

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

では、2017初のショートです。

◇ おみくじ屋 ◇

あるところに、2軒のおみくじ屋が並んでいました。
ひとつは、大吉がたくさん出るという、おみくじ屋。
ひとつは、凶がたくさん出るという、おみくじ屋。
だけどその2軒は、外観がまるで同じです。
売っている人も同じ顔です。
だって二人は、そっくりな双子なのです。

明子さんは、今年こそは運命の人と出逢いたい。
どうしても大吉を引きたいと思っていました。
ふたつのおみくじ屋の前で、大吉がたくさん出るおみくじ屋はどちらだろうと考えていました。

すると、右のおみくじ屋から出てきた人が、やけに悲しそうな顔をしています。
一方左のおみくじ屋からは、笑顔の人が出てきます。
「これはきっと、大吉がたくさん出るのは、左のおみくじ屋だわ」
明子さんはそう思って、左のおみくじ屋に入りました。

「いらっしゃい。今年最初の運試しをどうぞ」
明子さんは、おみくじを引き、ドキドキしながら開けました。
結果は…「凶」
「ウソでしょう? どうして凶なの?」
「すみません。うちは凶がたくさん出るおみくじ屋なんです」
「え、だって、さっきこの店から出てきた人は、すごい笑顔だったわよ」
「ああ、うちは凶と大凶しか入れてないので、凶を引いたということは、実に運がいいんですよ」
「まあ、そうなの。じゃあ、お隣でおみくじを引いた人が悲しい顔をしていたのはなぜかしら」
「隣は大吉と吉しか入れてないから、吉が出てしまったら運が悪いということで、がっかりしてしまうんですよ」

なるほど。
凶で喜び、吉で悲しむ。人間の心理って面白い。
明子さんはそんなことを思いながら「待ち人来らず」「恋愛成就せず」の凶のおみくじを笑顔で持ち帰るのでした。

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年末のごあいさつ

「りんさん、今年はどんな年でしたか?」
「サルの年でした」

「来年はどんな年にしたいですか?」
「トリ年になったらいいな~…と」

「大みそかは、どのように過ごしますか?」
「除夜の鐘を聞きながら、万札を108枚数えたいです」
(煩悩だらけじゃん)

「来年は、いい年になるといいですね」
「誰がいい年やねん!」

「最後に、読者の皆さんにご挨拶をお願いします(最後くらい〆てよ)」

みなさん、今年も読んでくださってありがとうございます。
楽しく、充実した一年でした。
心残りは、スマップ解散と、恋ダンスが覚えられなかったことです。
あ、ミーハーだと思われると困るので一応言っておきます。
日本経済も心配です。
髪を切りすぎて「座敷童みたいになっちゃった」と言ったら、娘に「座敷童に失礼だ」と言われました。

ともかく、みなさん、来年もよろしくお願いします。
よいお年をお迎えください。


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大掃除応援団 [コメディー]

年末だけど、大掃除なんてやりたくないな。
だって、掃除してもしなくても、お正月は来るでしょう。
あー、面倒くさい。

な~んてひとりで愚痴っていたら、どこからか笛の音が聴こえた。
見ると、冷蔵庫と食器棚の間から、学ランを来た小人たちが出てきた。
整列して、腕を後ろに組んで
「フレー、フレー、おくさん!」
なんて小さくて可愛い応援団。
だけど、みんなすごい埃。冷蔵庫と食器棚の間が埃だらけなのね。
細いモップで冷蔵庫と食器棚の間の埃を取ると、小さな応援団たちもすっかりきれいになった。

小さな応援団たちは、次はカーテンレールの上を並んで歩いた。
「フレー、フレー、おくさん」
小人さんたちの足の裏が、たちまちまっ黒になった。ずいぶん掃除してなかったわ。
脚立に乗って、雑巾できれいにカーテンレールを拭くと、小さな応援団たちもすっかりきれいになった。

小さな応援団たちは、今度は洗面所の鏡の上を滑り始めた。
「フレー、フレー、おくさん」
小さな学ランが、白く汚れた。水垢がすごかったのよ。
洗剤をつけて磨いたら、小さな応援団たちの学ランもすっかりきれいになった。

そんなこんなで、家の中はピカピカになった。
障子のさん、ブラインド、窓ガラス、蛍光灯。
小さな応援団のおかげで、楽しく大掃除が出来た。
「ありがとう。可愛い応援団たち」
心地よい疲れだ。
ピカピカの床にごろんと横になると、小さな応援団たちが、私の顔の上に乗ってきた。
「フレー、フレー、おくさん。フレー、フレー、おくさん」

…いや、どんなに応援されても、私の顔はこれ以上きれいにはならないわ。


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クリスマスパーティに行こう [競作]

メリークリスマス ♪

お知らせです。

恒例となりました、もぐらさんとはるさんのクリスマスパーティが、今日アップされました。
ブロガーたちが書いたクリスマスストーリーを、もぐらさんとはるさんが朗読しています。
関西と北海道、住むところは違っても、二人の息はピッタリです。

私の作品「オーナメント」も朗読してくれました。
とても素敵に読んでくれました。

まだ全部聞いていませんが、楽しみながらゆっくり聞こうと思います。
みなさんもぜひ^^

パーティ会場は、こちらです。
http://xmas-paty.seesaa.net/


では、素敵なクリスマスをお過ごしください。

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クリスマス・イルミネーションデート [男と女ストーリー]

キラキラしたものは好きだけど、イルミネーションはきらい。
クリスマスは好きだけど、お祭り騒ぎはきらい。

夕方の駅は、人が多すぎて目眩がしそうよ。
こんなところに私を呼び出すなんて、テツオもずいぶん偉くなったものだわ。
テツオはね、私の幼なじみなの。
一緒にクリスマスを過ごすのは、もう10回以上だわ。
小学校のクリスマス会も入れたら…だけどね。

大通りに続く並木道はシャンパンゴールド。
どこまでも続く光の道ね。
きれいだけど、どうしても造りものに思えてしまうの。

テツオが来た。キョロキョロしている姿がマヌケで笑えるわ。
声はかけないの。だってこっちが先に見つけたなんて悔しいもん。
キョロキョロしているから、外人さんに道を尋ねられてるわ。
へえ、英語出来るんだ。中学の時は私の方が成績よかったのに。

「リカ!」
「3分20秒の遅刻ね」
「今、そこで外人に道聞かれちゃった」
知ってる。見てたから。
「さあ、行こうか」
「どこに行くの?」
「おしゃれなレストラン。スイーツが美味しいんだって」
ふーん。松屋の団子が世界一って言ってるテツオがスイーツだって…。
「会社の同期の子が教えてくれたんだ。予約もしたよ」
同期の子?
「あ、先輩からライン。飲みに行こうってしつこいんだよな。この前なんかカラオケでさ、同じ曲を何度も歌うんだ。5回目にはさすがにトイレに逃げたよ」

就職してから、テツオの世界は広がった。
私の世界は変わらない。
家から10分のお弁当屋さんで、9時から15時までのアルバイト。
それだけ。あーあ。

「リカ、どうしたの? 空に何かあるの? UFOでも見えた? それとも、また変な妄想してるの?」
「星が見えないわ」
「うん。曇ってるね」
「みんながイルミネーションばかり見てるから、悲しくなってどこかへ行っちゃったのよ」
やだ。ちょっと泣きそう。ばれないように、しばらく上を見ていよう。

「リカ、おしゃれなレストランやめようか。ケーキとチキン買って家で食べようか」
「だって、同期の可愛い女の子に教えてもらったんでしょう」
「えっ、いやたしかに同期の女の子だけど、全然可愛くないよ。あ、全然ではないけど、普通だよ。いや、そういうことじゃなくて、リカが人混み苦手なことも、こういうイベントが嫌いなことも知っているのに、なんかひとりで浮かれてごめん」
テツオは、ちっとも悪くないのに、いつも謝るの。
我儘な私は、いつかテツオの世界から排除されてしまうのかしら。

星のない空から、白いものがふわりと落ちてきた。
黒い空から、無数の白いものたちが落ちてくる。きっと星の反乱よ。
「リカ、雪だよ」
テツオが珍しくはしゃいだ声で言った。
まわりの人たちも、いっせいに空を見上げている。「雪だ」「わあ、雪だ」
「見て、テツオ、今まで夢中でイルミネーションを見ていた人たちが、みんな雪を見ているわ。自然が人工の物に勝った瞬間よ。雪の勝利よ」
「えっ、何の勝負だよ」
「ああ、お腹が空いた。早くテツオが予約したスイーツの美味しいレストランに行きましょう」
「…いいの?」
「うん。だって、大して可愛くもない同期の女の子が教えてくれたんでしょう」

テツオとふたりで、雪の街を歩いた。
イルミネーションたち、卑屈になることはないわ。
今回は雪に負けたけど、あなたたちも充分に美しいわ。

テツオは、スイーツが美味しいおしゃれなレストランで、照れながらプレゼントをくれた。
小さな宝石がついた、細くて可愛い指輪。
イルミネーションよりも、星よりも雪よりも、間違いなく輝いている。
「今夜の勝者は、ダントツでテツオね」
「だから、何の勝負だよ」

悔しいけど認めるわ。
世界でいちばん大切な幼なじみは、世界でいちばん大切な恋人になったの。

***
テツオとリカのシリーズも6作目になりました。
6作目にして、やっと一歩前進ね。
前作をお読みになりたい方はこちらからどうぞ。
熱帯夜妄想デート
初詣わがままデート
新緑ドライブデート
七夕、星空デート
春爛漫、さくらデート


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ゆきおんなのはなし [名作パロディー]

あら、お客さん?
こまったねえ。もう民宿はやってないのよ。
2年前に夫を亡くしてね、私ひとりじゃどうにもならなくてねえ。
ちょっと先にペンションがあるから、そちらに連絡してあげましょうか。
どうしてもここに泊まりたいって?
あらそう。わかりました。
大したもてなしは出来ないけど、それでもよかったらどうぞ。

お客さん、寒くないですか?
こっちで火に当たりなさいよ。
「だいじょうぶ」
あらそう。
珍しいねえ。女の一人旅? しかもこんな雪山に。
顔色悪いけど、まさか自殺とか考えてないよね。
ダメだよ。生きたくても生きられない人だっているんだからね。

夕飯は? 食べないの? じゃあ、何かお話ししようか。
雪女の話とか、どう?
「ゆきおんな」
そう、雪女。夫がね、雪山で会ったのよ。もう40年も前の話だけどね。
怖かったらしいよ~。
つり上がった眼をして、氷みたいに冷たい息を吐いて、人間を凍らせるんだって。
だけどね、夫のことは殺さずに助けてくれたんだ。
どうしてだろうね。夫がイケメンだったからかね。ふふふ

夫はね、普段は無口だったけど、酔うとおしゃべりになってね、民宿の客にもよく雪女の話をしていたよ。
その話は雪女伝説なんて言われて、すっかり評判になってね、晩年はよく語り部なんかもしていたよ。
夫が話す雪女の話は、本当に怖かったよ。
何しろ自分の経験だからね、雪女の恐ろしさが手に取るようにわかったよ。

真っ白な顔に、目は血が滲んだような赤、長い髪をたらりと夫の首にからませて、地を這うような低い声で言ったそうだよ。

「わたしのことを、だれかにはなしたら、ころす」

そうそう。お客さん、よく知ってるね。夫の話聞いたことあるの?
上手いねえ。夫の後を継いで語り部やる?
夏の夜なんか、怪談話でひっぱりだこだよ。
「なつは、むり」
あはは、お客さん、暑いの苦手なの?
あれ、お客さんどうしたの? 泣いてるの?

「あのひと、しんだんだ」
あの人? 夫の事? お客さん、夫を知っているの?

「わたしが、ころしたかった」


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アサヒ [公募]

路線バスの中は騒音に近い。
駅から乗り込み、僕の隣に座った四人のばあさんが、ひっきりなしにおしゃべりをしている。
家族構成までわかるほどに明け透けで、個人情報だだ漏れだと苦笑したとき、隣に座るばあさんの言葉に、僕の耳が反応した。

「孫のアサヒが、W大に入ったのよ」
アサヒ?
「中学のときに不登校になってね、心配したけど、ほら、あの子頭がいいし頑張り屋でしょう。それで、一年遅れでW大に行ったの」
アサヒって、あの旭か? 
僕の胸が、ひどくざわついた。

中学の頃、僕は理由もなくイラついていた。
同じようにイラついていた仲間と、同級生を苛めた。
ターゲットにしたのは、誰ともつるまずに本ばかり読んでいた、同級生の旭だ。
パンやジュースを買いに行かせるところから始まり、金を持ってこさせたり、女子の前でわざと卑猥な言葉を言わせたりした。
服を脱がして裸の写真を撮り、ネットに流すと脅して抵抗できないようにした。
時々、暴力も振るった。旭は、そのうち学校へ来なくなった。
僕達も受験勉強が忙しくなって、苛めは何もなかったようにフェイドアウトした。

旭は、卒業式も来なかった。
高校生になると、「旭死亡説」が流れた。
中学時代の苛めを苦に自殺したとか、死に切れなくて植物状態になったとか、精神を病んで入院したとか、色々な噂が流れた。
それらを聞くたびに僕は、耳をふさいで、すべてを忘れようとした。

隣のばあさんが話すアサヒが、あの旭だったら僕は嬉しい。
生きているならそれでいい。重い荷物をようやく降ろせる気分だ。
隣のばあさんが立ち上がり、バスを降りて行った。
途端に、その隣にいたばあさんが、たった今降りたばあさんの悪口を言い始めた。
「スミちゃんの言うことは、話半分に聞かないとダメだよ。あの人嘘ばっかりつくから。孫がW大だって? 本当かどうか。実は未だに引きこもっているって噂よ」
W大は嘘なのか? まだ苛めを引きずっているのか? 
気になって聞き耳を立てたが、それ以上にアサヒの情報を聞けないまま、そのばあさんは降りてしまった。

「アヤさんは相変わらずだね。孫がいないから、スミちゃんが羨ましいんだろう。やっかみだよ。ああ、いやだ、いやだ」
今度は、今降りたばあさんの悪口が始まった。
どうでもいいけど、アサヒのことが知りたい。
大学に行っているのか、引きこもっているのか、いったいどっちなんだ。
結局そのばあさんも、次のバス停で降りてしまった。

バスの中は、一番端で頷いていたばあさんと、僕だけになった。
さっきから黙って愚痴や自慢話を聞いていたばあさんだ。
僕はさりげなく立ち上がり、ばあさんの隣に座った。
「あの、ちょっと話が聞こえて……その、スミさんのお孫さんがW大に入ったって……」
ばあさんは、怪訝な顔で僕を見た。
「あなた、アサヒちゃんの知り合いなの?」
「あ……同級生で、その、どうしているか気になってて」
「スミちゃんのお孫さんのあさひちゃんが、可愛いお嬢さんだってことは知っているけど、どこの大学に行ってるかなんて知らないよ」
「えっ? お嬢さん?」
アサヒは女か。それなら間違いなく旭ではない。
なんて人騒がせだ。思い出したくないことを思い出してしまった。
やれやれと立ち上がった僕の背中を、ばあさんが引き止めた。

「中学校のときに、ひどい苛めに遭っていた旭なら知ってるよ」
振り向いた僕を、ばあさんが険しい顔で見ていた。
まっすぐな目が「何もかも知っているよ」と言っているようだ。
「あんたたちが苛めた旭は、私の孫だよ。通信制の高校に行って、今じゃ立派に介護の仕事をしているよ」
目に涙をためて、責めるように僕を見た。
「安心したかい?」
ばあさんの視線が刺さって、凍りついたように動けない。
「でもね、旭は、あんた達を安心させるために生きているわけじゃないよ」
今にも掴み掛りそうだ。身体じゅうで怒りを表わしている。
僕は慌てて降車ボタンを押し、降りるはずの停留所よりはるか手前で、逃げるようにバスを降りた。
通り過ぎるバスの窓で僕を睨むばあさんの顔が、怯える旭の顔と重なった。

どんなに呼吸を整えても、胸の動悸が治まらない。暑くもないのに汗が止まらない。
旭が生きていたことに、僕は安心している。
だけどそれは、旭を想ってのことではない。
一生消えない罪悪感を、この先ずっと背負っていくことを思い知った。
うずくまる僕の背中を、木枯らしが通り過ぎた。


*****

公募ガイドTO-BE小説工房で、選外佳作だった作品です。
選外佳作とは、もう少しで佳作(ようするに落選です)
今月のテーマは「新人」。
せめて佳作に入れるように頑張ります^^


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黒い服の男 [ミステリー?]

「ねえ、さっきから後ろの車がついてくるんだけど」
バックミラーをちらちら見ながら妻が言う。
夫は助手席でスマホをいじりながら「方向が一緒なんだろ」と、ぶっきらぼうに答えた。

妻がファザードをつけて路肩に止まると、後ろの車も止まった。
「やっぱり私たちを尾行してるわ」
「刑事ドラマじゃあるまいし。いいから急いでくれよ」
夫は今から、2泊3日の出張に行く。電車の時間が迫っていた。

駅のロータリーに着くと、後ろの車もピタリと止まった。
せわしなく後部座席から旅行カバンを取り出す夫を、じっと見ている。
妻は、気味が悪くなって車を降りると、後ろの白いセダンに向かって歩き出した。
「ちょっと、どういうつもり?」
運転席の窓を叩き話しかけたが、運転席には誰もいない。
「うそ。いつ降りたの?」

「おい、何やってるんだよ。俺はもう行くぞ」
妻が振り向くと、カバンを抱えた夫の後ろに、黒い服を着た男が寄り添っている。
「あ、あなた、うしろ!」
妻が怯えながら指さしたが、夫は首をかしげるだけだ。
「後ろが何?」
夫には、男が見えていないのだ。

黒い服を着た男は、薄ら笑いを浮かべて夫の後ろに張り付いている。
嫌な予感がした妻は、「あなた、行かないで」と叫んだ。
「なんだよ。ただの出張じゃないか。おまえ、おかしいぞ」
妻は夫のカバンを掴んで、ロータリーの植木の中に放り投げた。
「おい、何するんだよ。おまえ本当におかしいぞ」
慌ててカバンを拾いに行く夫だったが、無残にも定刻を過ぎ、乗るはずだった電車は発車してしまった。
それと同時に、夫の後ろに寄り添っていた黒い服の男も煙のように消えてしまった。

結局夫は、出張を取りやめた。
夫が乗るはずだった電車の、乗るはずだった車両で爆発事故があり、多くの犠牲者が出た。
あのまま乗っていたら、夫も命を落としていたはずだ。

あの男は死神だったのではないかと、妻は思った。
「私が、夫の命を救ったんだわ」
妻は、夫とふたりで夕食後のお茶を飲みながら、しみじみ言った。
「よかった。あなたが生きていて」
「そうだな。おまえのおかげだ」
「出張は、大丈夫だったの?」
「ああ、部下に変わってもらった。あの後電車が動かなかったから仕方ない」
夫は、「さて」と立ち上がり、風呂場に向かった。

夫のスマホが鳴った。メールの着信だ。
「部下の方かしら。急ぎの連絡だったら大変」
妻は、いつもは絶対に夫のスマホを見たりしないのだが、そのときはなぜか気になって見てしまった。

『今度はいつあえる?』
「え…?」
妻は震える手で、他のメールを開く。
夫の送信メール、8:20『妻が何か感づいたようだ。今回の旅行は中止にしよう』

妻の手から、ぽろりとスマホが落ちた。
出張と言いながら、本当は女との不倫旅行だったのだ。
そういえば、思い当たることが他にもある。
許せない。ずっと騙されていたなんて。
妻の中に殺意が芽生えた。

鼻歌を歌いながら風呂から出てきた夫の後ろに、再び黒い服の男が寄り添っているのだが、今度ばかりは妻にも、その姿は見えないのであった。


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