So-net無料ブログ作成
検索選択

おとぎ話(笑)19 もしも編 [名作パロディー]

シンデレラ

(もしも王子様がガラスの靴を持ってこなかったら)

「すみません。シンデレラと申します」
「何の用だ」
「昨夜お城の階段に、ガラスの靴を忘れてしまいました」
「ガラスの靴? ああ、ちょっと遅かったな。今日は燃えないゴミの日だったから出しちゃった」
「マジか!」



赤ずきん

(もしもオオカミがおばあさんになりすましていなかったら)

「おばあさまの耳は、どうしてそんなに大きいの?」
「福耳さ」



桃太郎

(もしも桃太郎がきび団子を持っていなかったら)

「サルくん、いっしょに鬼退治に行こう。報酬は出来高払いでいいかな。じゃあ、この契約書にサインして」
「ブラックじゃないよね」



鶴の恩返し

(もしも鶴が方向音痴だったら)

「夜分にすみません…あ、家間違えた」
ああ、これで5軒目よ。道一本間違えたかしら。
「夜分すみません…あ、ここも違う」
もう、恩返しやめよう。


白雪姫

(もしも魔法の鏡がアニオタだったら)

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」
「それって、三次元限定? 二次元もアリだったら話変わってくるんだけど。そもそも毛穴見えた時点で萎えるんですけど、ワタシ」
ガッシャーン(割れた)


*****
おとぎ話(笑)シリーズ19まできました。
めざせ30連勝。あ、違うか^^


にほんブログ村

ビールを買いに [コメディー]

夏の夕方、ずいぶん早く帰ってきたお父さんが、冷蔵庫を開けて「ああああ~」と大声を出した。
「ビールがない!」
お父さんは息子の啓太を呼んだ。
「啓太、角のコンビニでビールを買ってきてくれ。お父さん、疲れて歩けない」
「お父さん、僕は12歳だよ。未成年はビールを買っちゃいけないんだ。大人のくせに知らないの?」
「でもさ、おまえは12歳の割に背が高い。俺と大して変わらないだろう。変装すれば買えるさ」
犯罪じゃん、と啓太は思ったけれど、ちょっと面白そうな気もした。
お父さんのスーツを着て、帽子とサングラスとマスクをしたら小学生には見えない。
「おお、完璧だ。低い声を出すんだぞ」
「じゃあ、ちょっと行ってみる」
「角のコンビニだぞ。間違えるなよ」

外に出るなり啓太は、あまりの暑さに驚いた。
「お父さん、こんな暑いスーツで会社に行ってるんだ。大変だな」
啓太はすぐさま上着を脱いだ。
コンビニに着くと、ガラスに映った自分の姿を見てギョッとした。
「あれれ、まるでコンビニ強盗だ」慌ててサングラスを外した。
店内には、レジの女と男のバイト。立ち読みの高校生がふたりだけ。 
帽子を目深に被りコンビニに入ると、啓太は迷わずお父さんの好きなビールを2本かごに入れた。ついでにポテトチップを入れてレジに行った。
「いらっしゃいま……」
レジの女の手が止まった。啓太の顔をじっと見ている。
隣にいた大学生のバイトが「未成年っすよね」とささやいた。

レジの女は呆れたような顔で、バイトに言った。
「このビール、あたしが買うから、レジ代わって」
「え? いいんすか?」
女は素早くレジカウンターから出て、啓太の隣に並び、啓太の代わりに金を払った。
「あのね、小学生はビールを買っちゃいけないのよ」
「へへへ、ばれたか」
「じゃあ、もうすぐ仕事が終わるから、ここで待ってなさい」
「はい、お母さん」

レジの女は、啓太の母親だった。
お父さんとケンカして家を出たお母さんは、近所のコンビニで働きながら、ときどき啓太の様子を見に行っていた。
「お母さん、ここで働いてたんだね。お父さん、知ってたのかな」
「昼間なら見つからないと思ったのに、どこかで聞いたのね」
「ねえ、お母さん、家に帰って来てよ。お父さんとふたりだと面倒くさいよ」
「そうね。子供にビールを買いに行かせるお父さんじゃ、しょうがないわね。きつく叱ってあげるわ」
「ほどほどにしてよ。またケンカになるから」

その頃お父さんは、シンクにたまった洗い物を片付けながら、時計を見た。
「そろそろ帰ってくるかな。啓太とお母さん」


*****
童話賞に応募しようと思って考えた話ですが、犯罪めいた話じゃさすがにダメだろう……ってことで、やめました(笑)


にほんブログ村

紫陽花の恋 [ファンタジー]

紫陽花は、気まぐれ、移り気などと言われますが、私は違います。
私は一途です。
私が恋をしたのは、目の前のアパートに住むT大生です。
爽やかでイケメンで、おまけに頭がいいのです。

彼は毎朝、大家さんに挨拶します。
「おはようございます。紫陽花がきれいに咲きましたね」
きれいだなんて言われてしまいました。照れます。
大家さんは私に水をかけてくれながら、ひとりごとをつぶやきます。
「いい男だね。礼儀正しいうえにT大か。あたしが50歳若かったら惚れてたよ」
私も思います。私が彼に似合いの(人間の)女性だったらどんなに嬉しいか。
彼が目の前を通るたびに、私は花びらをピンクに染めました。

ある日、彼が女を連れてきました。彼より年上に見えます。
ブランド品を身に着けた、いけ好かない女です。
私は、カタツムリに命じました。「さあ、あの女の頭に乗りなさい」
カタツムリは、私の葉っぱからぴょんと飛んで、女の頭の上に乗りました。
「きゃ、なにこれ、キモ!」
女はカタツムリを投げつけました。
ほらごらん。ろくな女じゃない。きっと純情な彼をたぶらかそうとしているのです。

彼は憂うつそうな顔で私を見ています。
「どうかしたの?」と、女が言いました。
「ああ、ごめん。実は母が入院してね、ちょっと難しい病気なんだ」
「まあ……」
「治療費がかかるから、大学をやめて働こうかと思っているんだ」
「そんな、T大をやめるなんて勿体ないわ。いくら必要なの?」
「いや、そんなこと、マキさんに頼めないよ。ごめん、忘れてくれ」
「いいのよ。どうせ夫が株で儲けたお金よ。あなたのお母様のために使いたいの」
マキという女、結婚しているようです。なんて女でしょう。
しかもお金で彼を繋ぎとめようとしています。あざとい女です。
でも彼は、きっとマキのことが好きなのでしょう。
人目もはばからず、紫陽花目もはばからず、ふたりは抱き合いました。

地面に叩きつけられたカタツムリが、葉っぱの上に這い上がってきて、
「どうせ叶わぬ恋だよ。せっかくきれいに咲いたのに残念だけどさ」
と、自分の痛みも忘れて慰めてくれました。

しばらくして、彼の姿が見えなくなりました。
優しい彼のこと、きっと病気のお母様のところに行ったのでしょう。
マキはたまに見かけました。彼がいなくてがっかりして帰りました。
ざまーみろ、と思いました。

日差しが眩しくなって、本格的な夏がやってきました。
私の季節ももう終わりです。
そんなとき、大家さんが近所の人と井戸端会議にやってきました。
「詐欺師だったらしいよ」
「あらまあ、あのT大生が?」
「T大っていうのもウソだったらしいよ」
「若い女から金をだまし取ってたんだって。怖いねえ」
「ホントにね。あたし騙されなくてよかったよ」
「ちょっとあんた、あたしゃ若い女って言ったんだけど」
ハハハハハハハ

何の話をしているのでしょう。
どうでもいいけど水をください。今にも枯れそうです。
花の先っぽが、茶色くなってきました。
大家さんたちは、まだしゃべっています。
カタツムリが、葉っぱから話しかけてきます。
「おいらたちの季節はもう終わりだな。紫陽花さん、もし一緒に人間に生まれ変わったら、おいらと恋をしようよ」
「あたし、メンクイよ」
「知ってる」

夕立が降ってきました。気持ちいいです。
さあ、もう一花咲かせましょう。


にほんブログ村

おじさまと人魚 [ファンタジー]

子供の頃、冒険家のおじさまの話を聞くのが好きだった。
海賊に襲われて、命からがら逃げた話や、どこかの民族の酋長に気に入られて、危うく婿養子にされそうになった話。
大きな熊と闘った話もあった。

私がいちばん好きだったのは、おじさまが人魚と恋に落ちた話。
船が遭難して、人魚の国にたどり着いたおじさまは、ひとりの人魚と恋をした。
だけどおじさまは海の中では生きられず、人魚は陸では生きられず、悲しい別れとなった。
おじさまは、とてもつらそうに話してくれた。
その話を聞くたびに、私は切なくなった。
おじさまは、きっとその人魚が忘れられないから、誰とも結婚しないのだろうと思っていた。

月日が流れて、おじさまはすっかり年を取った。
幼かった私も、すっかり大人になった。
いくつかの恋をして、社会に揉まれ、おじさまの冒険話を素直に信じる子供ではなくなった。
おじさまは冒険家などではなく、定職を持たずにふらふらしていただけだと母から聞いた。
親戚中から疎まれていたことも、今は知っている。

おじさまは、海辺の施設に入っている。
訪ねて行っても、もう私が誰だかわからない。
窓辺の椅子に座り、静かに海を眺める横顔があまりに悲しそうだから、私は思わず言った。
「おじさま、人魚のことを考えているのね」
おじさまは、ハッとした顔で私を見た。
「なぜ人魚のことを知っている」
「おじさまが話してくれたのよ。私が小さいころにね」
おじさまは目を細めて私をじっと見た。
「あんたは信用できそうだ。ちょっとそこのジュラルミンケースを取ってくれんか」
おじさまがいつも持ち歩いていた銀色のケースが、ベッドの横に置かれていた。
おじさまが首から下げた鍵で扉を開けると、中に缶の箱があった。
「それを持ってついてきなさい」
杖をついて歩き出したおじさまを、私は慌てて追いかけた。

「おじさま、どこへ行くの?」
おじさまは答えない。まるで恋人にでも逢いに行くように、頬が微かに紅潮している。
施設の前は海だった。おじさまは歩きづらそうに砂浜を歩き、テトラポットに腰を下ろした。
「その缶を開けてくれ」
おじさまに言われて止め金を外し、蓋を開けた私は、「キャッ」と小さな悲鳴を上げた。
中には、干からびてミイラになった魚が入っていた。
もはや何の魚かわからないが、完全に水分が抜けてシシャモくらいの大きさになっている。
「そいつを海に返してやってくれ」
「おじさま、海に返したところで、もう泳がないわよ」
「いいんだ。さあ、彼女を海に返してやってほしい」
彼女…? おじさまは、愛おしそうに魚のミイラを見た。

私は、魚のミイラをそっと波に乗せた。
魚のミイラは、寄せては返す波に身をまかせ、やがて沖へと姿を消した。
おじさまは、泣いていた。きらきら光る波に消える魚のミイラに、小さく手を振っていた。

おじさまが人魚に恋をした話は、もしかしたら本当だったのかもしれない。
海と陸、引き裂かれたおじさまは、人魚によく似た美しい鱗を持った魚を、ずっと傍に置いていたのかもしれない。ミイラになっても、ずっと、ずっと…。

水平線に何かが飛び跳ねて、きらりと光った。
おじさまは、愛おしそうにそれを眺め、ふいに振り向いた。
「私が、七つの海をまたにかけ、冒険していたころの話を聞きたいかね?」
私は、反射的に手を叩いた。
「待ってました!」
おじさまは、昔みたいに勇ましく笑った。


にほんブログ村

記憶研究所 [公募]

「大丈夫、眠っている間に終わります」
初老の医者が祥子の顔を覗き込んだ。
医者の顔に並んだホクロを、祥子は薄れていく意識の中でぼんやり見た。

「人間は間違いを犯します。しかしそこで躓いて、たった一度の人生を棒に振るのはよくありません。いいですか」
初老の医者は、紙に鉛筆で丸を書き、すぐに消しゴムできれいに消した。
「間違った文字を消しゴムで消すようなものだと思ってください。祥子さんの人生の悲しい記憶を、すっかり消してしまうのです」
祥子の母は、祈る想いですがりついた。記憶を操作する研究は、まだ開発途中で合法ではない。
しかし祥子は悲しみの淵に沈み、自殺さえしかねない。
祥子を苦しめる記憶を消して、以前のように楽しく暮らせるだろう。

施術は無事終わり、祥子は眠っている。
「成功しました。ただ、何かのきっかけで思い出してしまうことがないとは言えません。身の回りの物を出来るだけ処分して、新しい環境で暮らすことをお勧めします」
医者はそう言うと、眠っている祥子を一般病棟に移す手続きをした。
「記憶研究所」に来たことも、祥子の記憶から消えているからだ。

目覚めた祥子は、以前のようなあどけない十七歳の少女に戻った。
「どうして私病院にいるの?」
「ただの検査入院よ。ほら、貧血で倒れたでしょう。もう大丈夫よ」
母親は何事もなかったように振る舞い、祥子が入院している短期間で新居を決め、高校の退学届を出し、新しい生活の準備をした。

母親は祥子を連れて、遠く離れた田舎町で暮らすことにした。
元々不登校気味だった祥子は、高校に未練もなく、すぐにこの暮らしを受け入れた。
母親はスーパーで働き、祥子は近くの農園でアルバイトを始めた。
土いじりに向いているようで、学校に行っているときよりもずっと生き生きしている。

祥子は、農園で知り合った青年と親しくなった。今どき珍しい素朴な青年だ。
「祥子は、お母さんと二人暮らしなのか?」
「うん。生まれたときから二人なの。父親は、顔も知らないわ」
「そうか。だからアルバイトで家計を助けているのか。えらいな、祥子は」
青年は大きな手で祥子の頭を撫でた。その仕草が好きで、祥子は頬を染めた。

「土曜日に、星祭りに行かないか」
トマトの収穫をしながら、青年が言った。
夏休みに近所の小学生を集めて、星を見るイベントだ。
過保護すぎるほど祥子の外出を規制する母親だが、最近明るくなった祥子を見て夜の外出を許可した。
信用できる青年だし、祥子のよいパートナーになりそうだ。
この町で平穏に暮らすために彼は必要だと思った。

星祭りの夜、小学生に交じって、祥子は青年と星を見た。
都会ではありえない星空だ。今にも降ってきそうなほど近い。
宇宙に手が届きそうな感覚に、祥子は息をのんだ。
「すてき。こんな星空初めて見た」
「すごいだろう。ほら、あれが北斗七星だ」
七つの星を、青年の指が辿る。
それを目で追いながら、祥子はふと、頭の中で何かが弾けるような気がした。
何かが祥子の記憶の蓋をこじ開けようとしている。
なんだろう。難しい数式を思い出すように、祥子の脳が急激に動き出した。
星座の説明をする青年の声は、もはやまるで聞こえない。
もやもやしたまま、星祭りが終わった。

会場の出口で、スタッフが参加賞を配っていた。
星型の消しゴムだ。それを受け取り、祥子は小さくつぶやいた。「消しゴム……」
不思議な感覚と共に、記憶がじわじわと染み出してくる。『初老の医者』『記憶研究所』。
祥子はあんなに好きだった青年の手を振りほどき、走り出した。
「お父さん」と叫ぶ声が、震えていた。

祥子には父親がいた。酒を飲むと人が変わったように暴力をふるう父親だった。
月も星もない真夜中、祥子は母親と一緒に、マンションのベランダから父親を突き落とした。
泥酔して母親を殴った後だった。

祥子の記憶がすべて戻ってしまったことを知った母親は、ひどく動揺した。
「祥子、落ち着いて。もう済んだことよ。警察も事故で処理したじゃないの」
「私は憶えてる。お父さんを押したときの手の感触も、全部憶えてる」 
この町で穏やかに暮らせると思ったのに、いったいなぜ記憶が戻ってしまったのだろう。力なく座りこむ母親の耳に、テレビニュースの音声が滑り込んだ。

『……無認可の治療を行ったとして、記憶研究所の医者が逮捕されました』

テレビ画面に映し出された初老の医者の顔には、星座のようなほくろが七つあった。

*******

公募ガイドTO-BE小説工房で、落選だったものです。
テーマは「消しゴム」でした。
まったく自信がなくて、アップするのもやめようかな~と思ったのですが、まあいいか。
ちょっとテーマとずれたかな?
みなさまの意見をお聞かせください。


にほんブログ村

雨宿り

小さな雑貨屋で、妻の代わりに店番をしている。
どうせ客は来ないだろう。
雨音が聞こえてきた。かなり激しく窓ガラスを叩いている。
客はますます来ないだろう。
…と思っていたら扉が開いて、客だと思って身構えたが違った。

「すみません。雨宿りをさせてください。急に降ってきて、あいにく傘がなくて」
女性が小さく息を吐きながら、困った様子で言った。
「構いませんよ」と、私は椅子をすすめた。
カフェでもあれば飛び込むのだろうが、この辺りには何もない。
こんなしょぼくれた雑貨屋でも、彼女にはオアシスに見えただろう。

「妻がいればハーブティーでもご馳走するのだけど、今ちょっと出かけていてね」
「どうぞお気遣いなく」
「イントネーションがきれいだ。東京の方かね?」
「はい。ちょっと知り合いを訪ねて来ました」
「そうかい。ぼくも以前は東京にいたんだよ。妻と一緒にこの町に来るまではね」
妻の実家であるこの町は、お年寄りが多い。
多少の差はあるが、ほぼ全員が訛っている。妻もときどき訛る。
きれいなイントネーションの人と話すのは久しぶりだ。

「素敵なお店ですね」
「ああ、妻がね、道楽でやっているんだよ。自分で作った小物や陶芸品を売っているんだ。大した儲けにならないよ。もっとも妻の本業は、カルチャースクールの講師なんだけどね」
「そうなんですか」
「あ、雨宿りのお礼に何か買おうとか、そういう気遣いは無用だよ。本当に、趣味でやってるような店だからさ」
「ご主人が作ったものはないんですか?」
「僕には作れないよ。でも、昔撮った写真をポストカードにしたものならあるよ。そのカウンターの上にないかな? よかったら気に入ったのを一枚あげるよ」
「いいんですか?」
以前は写真が趣味で、山に登って花の写真を撮ったりしたものだ。
妻ともそこで知り合った。

「ありがとうございます。じゃあ、このカタクリの花の写真をいただきます」
「きれいでしょう。その写真を選ぶなんて、あなた趣味がいいな」

雨音が、小さくなってきた。
女性は立ち上がり、「ありがとうございました」と、きれいな発音で言った。
そして静かに扉を開けて出ていった。一瞬、雨の匂いが鼻をかすめた。
カタクリの花の写真は、実はいちばんのお気に入りだった。
彼女にそれを選んでもらって、なぜだかとても嬉しかった。

ほぼ入れ違いの時間差で、妻が帰ってきた。やけに慌てた様子で、僕の名を呼んだ。
「ねえ、ちょっと、今店から出ていった人、優香ちゃんじゃない?」
「優香ちゃん?」
「そう。優香ちゃんよ。あなたの娘の優香ちゃん」
「まさか。優香がこんなところにいるわけがない」
「でも、すごく似てたわ。私、一度しか会ったことないけど、きっとそうよ」
「彼女は、雨宿りをしにきただけだよ。急に雨が降ったからさ」
「でも、あの人、傘を持っていたわ」

10年前に離婚をして、当時18歳だった一人娘の優香と別れた。
それから定期的に会ってはいたが、5年前に今の妻と再婚して、この町に越してからは一度も会っていない。
1年前に事故で視力を失ってからは、連絡も取っていない。
弱い姿を見せたくなかったから、あえてそうした。
「あなたの目のことが気になって、様子を見に来たんじゃないかしら」

雨宿りの女性が、本当に優香だったのか、残念だけど僕にはわからない。
だけど雨が降るたびに「雨宿りをさせてください」と、きれいなイントネーションが聞こえる気がして、僕はじっと耳をすます。
雨の音にも風情があることを、今さらながら僕は知る。


にほんブログ村

遠足に行きたいの [コメディー]

おやつをリュックに詰めて、テルテル坊主を吊るして、楽しみに楽しみにしていた遠足なのに、その朝突然熱が出て行けなくなる。
私は、そんな子供だった。

そして大人になり、念願の教師になって初めての遠足。
副担任として生徒たちを見守りながら、楽しく過ごすはずだった。
それなのに、遠足の朝、私はまた熱を出した。
かなりの高熱で、遠足どころかベッドからも起きられない。
担任の田中先生に電話をしたら、「仕方ないわね、ゆっくり休みなさい」と言ってくれた。

ひと眠りした午前10時、熱がすっかり下がった。
これも子供のころと同じだ。きっと精神的なものなのだろう。
起きたら母は出かけていて、ラップでくるんだおにぎりが置いてあった。
「お母さん、ありがとう。せめて遠足気分で食べなさいということね」

子供の頃は、泣きながらお弁当とおやつを食べた。
だけど私は、もう子供ではない。自動車を運転することができる。
今から車で遠足の場所に向かえば、お弁当の時間に間に合うかもしれない。
運転は割と得意だし、下見で一度行ったから場所もわかる。
ナビに頼れば最短コースを教えてくれるかも。

急いで着替えて車に乗った。行き先は、ぽんぽこ公園。
可愛い生徒たちが待っている。自慢じゃないけど、これでも割と生徒たちに人気がある。
バスの中でのクイズ大会や合唱に参加できないのは寂しいけれど、思い出は十分に作れるだろう。

道路は渋滞もなく、2時間足らずで公園に着いた。
車を降りて生徒たちを探したけれど、どこにもいない。
そういえば、駐車場にそれらしきバスもない。
とっくに着いているはずなのに、いったいどういうこと?

まさか、途中で事故に遭ったとか。
バスごとガードレールを突き破り崖下に転落したとか。
いやだ。子供たちは無事だろうか。
私は慌ててスマホを取り出し、田中先生に電話をした。
…… 出ない。田中先生、まさか死んじゃった?

嫌な予感を振り払って、学校へ電話した。
誰も出ない。きっとみんな事故の対応に追われているのだ。
ネットニュースに出ているかもしれない。
スマホを開いたが、そういったニュースはない。
事故を起こして間もないから、まだニュースになっていないのかも。
もしかしたら、崖下からまだ発見されていないのかも。
なんてことだ。生徒たちが血を流して苦しんでいるときに、私だけ無事だなんて。

とりあえず、来た道を戻ってみようと思った。
きっとあの細い山道だ。前にも事故があったと聞いている。
車に戻って動揺しながらエンジンをかけたとき、スマホが震えた。
「あ、た、田中先生からだ。もしもし、先生、大丈夫ですか?」
「それはこっちのセリフでしょ。春山先生、もう熱は下がったの?」
「私のことより、生徒たちは? 先生は?」
「何言ってるの?」
「遠足は、どうなりました? 今どこです?」
「遠足は無事に終わったわよ。昨日ね」
「き、昨日?」
「夜あなたに電話したのよ。お母様が出て、死んだように眠っていますっておっしゃっていたわ」

あ、もしかして私、丸一日寝ていた? 
「疲れが出たんじゃない? 初めての副担任で。まあ、今日は土曜日で学校もお休みだし、月曜日に元気な顔見せてよ。じゃあね」

事故じゃなかった。遠足は無事に終わった。(昨日)
何だか力が抜けたら一気にお腹が空いた。
ぽんぽこ公園の芝生の上で食べたおにぎりは、しょっぱかった。
遠足に行けなかったことが悲しかったのか、みんなが無事だったことが嬉しかったのか、自分でもわからないけど泣いていた。

さあて、帰ろう。家に着くまでが遠足よ。


にほんブログ村

公園の女 [ミステリー?]

初夏の公園は、家族連れで賑わっている。
真ん中に人工の池があり、子供たちは容赦なく服を濡らして水しぶきを上げる。
木陰のベンチは子供たちを見つめる父親と母親に占領され、居場所をなくした私はひとり、ブランコに座って時間をつぶす。
「おばちゃん、どいて」
子供に追われて立ち上がった。
「おばちゃんじゃないのよ」と小さい声で言ったみたけれど、勢いよくブランコを漕ぎ始めた子供に聞こえるはずがない。

仕方ないので公園を出て、街をぶらつくことにした。
だけど買うものなんて何もない。
あったとしても今日は買いたくない。
荷物はひとつだって少ない方がいい。
だって私は、今から不倫相手と駆け落ちするんだから。

公園に13時と言ったのに、彼はいつまでたっても来ない。
時計の針は14時を過ぎた。
電話もつながらないし、ラインも一向に既読にならない。
奥さんにバレちゃったのかな。あの人、詰めが甘いから。

もう一度公園に戻ってみた。
人がますます増えている。私の居場所はどこにもない。
荷物を駅のロッカーに預けてしまったことを、死ぬほど後悔した。
タオルも日傘も何もかも、きっとあの中に入っている。

15時を過ぎた。彼は来ない。
人工の池ではしゃいでいた子供たちは、木陰ですやすや眠っている。
家に帰って寝ればいいのに。
16時を過ぎると、ようやく家族連れが帰り始めた。
私はようやく木陰に移動して、ペットボトルの水を狂ったように飲んだ。

17時、カップルたちが増え始める。
悪いけど、木陰のベンチは譲らない。
18時、日差しが緩んだ夕暮れ、犬の散歩も増えてくる。
暗くなるとホームレスらしき人がうろつき始める。
もうここにはいられない。
そもそも私は、どうしてここにいるんだっけ。

すっかり日が落ちた街を歩いて帰った。
公園で一日過ごすって、なかなか難しい。
駅のロッカーに荷物を預けたままだけどいいや。
明日彼に電話しよう。今日のことは許すって言おう。
彼にはきっと、家を出られない事情があったのだ。

部屋を解約しなくてよかった。
ソファーもテレビもそのまま残してある。
洋服も、タオルも日傘も、何もかもそのまま。
あれ? じゃあ私、駅のロッカーに何を預けたんだっけ。
まあいいや。テレビをつけよう。

『……〇〇駅のロッカーから、男性の遺体が発見されました……』

ああ、そうだった。この部屋で彼を殺したんだっけ。
遠くに行ってふたりで暮らそうって約束を、彼が破ったから。
今日はお風呂に入れないな。一日中外にいて汗だくなのに、困ったな。
明日公園で、子供に混ざって水浴びしよう。
きっと気持ちがいいわ。


にほんブログ村

カーネーションが2本

仏壇に、2本のカーネーションが供えられている。
長女の美菜と、次女の美緒が母の日に一本ずつ買ったものだ。
5年前に天国へ旅立ったふたりの母親は、写真の中で笑っている。

私は半年前、この家に嫁に来た。
9歳の美菜と7歳の美緒の新しいお母さんになった。
ふたりとも亡くなった母親のことはあまり憶えていない。
だからかどうかわからないが、私にとても懐いてくれている。

母になって初めての「母の日」、やはり私は期待した。
期待したけれど、何もなかった。
美菜と美緒が、おこずかいで買ったカーネーションは、実の母親の仏壇に供えられた。
そういうことだ。
結局私は、まだ母親として認められていないということだ。
その証拠に、まだ「お母さん」と呼ばれたことがない。
娘たちは私を「裕子さん」と呼ぶ。親戚のお姉さんみたいに。
夫は「ゆっくり家族になって行けばいいよ」と言ったけれど、なんだか自信を失くした母の日だった。

次女の美緒が学校から帰ってきた。
「裕子さん、ただいま。あのね、学校でお母さんの絵を描いたの。今日返してもらったよ」
「へえ、上手に描けたね。そっくりだね」
私は、美緒の絵を、母親の写真と並べて見せた。
「ちがうよ。それは裕子さんの絵だよ。だって美緒のお母さんは裕子さんでしょ」
思わず涙が出そうになった。
そういえば、髪型が今の私と同じだ。

「ただいま」と元気よく、美菜が帰ってきた。
「裕子さん、これ、先週学校で書いたお手紙。きのう渡すつもりだったのに、学校に忘れてきちゃったの」
『ゆうこさん、いつもおいしい料理を作ってくれてありがとう』
カーネーションのシールをちりばめた便箋に、可愛い字で書いてあった。
「ありがとう」
「それでね、友達がね、お母さんなのに名前で呼ぶのはおかしいって言うの」
ああ、子供は残酷だ。それぞれの家に家庭の事情と言うものがあるのに。
「美菜ちゃん、気にすることないよ」
「うん。でも、わたしもそう思ったから、今日から裕子さんのことをママって呼ぶね」
「え?」
「ずるーい。美緒もママって呼ぶ」
「じゃあ、今日から一緒にママって呼ぼうね。いいでしょ、ママ」
「え…、いいけど」
「わーい、ねえママ、晩ご飯なに?」
「ハンバーグ」
「やった、ママのハンバーグ大好き」

あれ、ちょっと待って。こんなあっさり?
ホームドラマみたいな感動シーンは?
やっとお母さんと呼んでくれたのね…的な涙のシーンは?

「ママ、ハンバーグにチーズのせて」
「美緒もチーズのせる」
「わかった。じゃあ、お手伝いしてくれる人、手を上げて」
「はーい」

まだまだ新米ママだけど、ちゃんと受け入れてくれてるみたい。
競い合うようにキッチンに向かうふたりを見送って、仏壇をふりかえると、心なしか、写真の母親が少し拗ねているように見えた。
「大切に育てますから」
そう言って手を合わせた。
2本のカーネーションが、優しく揺れた。


にほんブログ村

大切なもの [公募]

藤田は子供のころから、ポケットに手を入れる癖があった。
しかもその中で指を動かすものだから、すぐに穴があいてしまう。
だから藤田は、大切なものをいくつも落とした。
母親からお使いを頼まれたときの小銭、友達にもらった光るビー玉、自転車の鍵、キャンディ、チケットなど、数えきれない。

藤田は30歳になった。
ポケットに手を入れる癖は相変わらずで、ポケットに穴をあけるのも日常茶飯事だが、学習能力がある彼は、大切なものは入れないように心がけている。
藤田の人生は順風満帆だ。大手の建設会社で働き、この春素敵な女性と結婚した。

藤田は今日、ひどく緊張している。
新しいショッピングモールの候補地を決める会議で、プレゼンをすることになっている。
必要な資料を抱えて会議室に向かう藤田を、先輩社員が呼び止めた。
「おい藤田、結婚指輪は外した方がいいぞ」
「えっ? なぜです?」
「開発部長の桐島さん、最近離婚してさ、結婚指輪をしている男に手厳しいって噂だ」
桐島部長は、この会社では珍しい女性の幹部だ。
陰で鉄の女と呼ばれるほど冷酷で厳しいと評判だ。しかも開発部長の意見は重要だ。
藤田は理不尽だと思ったが、左手の薬指から指輪を外し、ポケットに入れた。

重箱の隅をつつくような質問に、しどろもどろになりながらも、藤田は何とかプレゼンを終えた。
最後に桐島部長から「目の付け所はいいわ」と褒められ、ホッとしながら自分のデスクに戻り、指輪を嵌めようとポケットを探った。
「ない……」
ポケットには、ちょうど指輪がすり抜けるためにあいたような穴があった。

「指輪を失くしただって? 新婚なのにまずいぞ。奥さんに浮気を疑われるぞ」
そう言ったのは、さっき指輪を外すように言った先輩だ。
藤田は焦った。あの指輪は、ジュエリーデザイナーをしている妻の叔母が、特別に作ってくれたものだった。しかも追い打ちをかけるような妻からの電話だ。
「仕事中にごめんね。急なんだけど、今夜叔母が遊びに来ることになったの。ほら、指輪を作ってくれた叔母よ。だから今日、早く帰って来て欲しいんだけど大丈夫?」
「うん、わかった」と答えながら、藤田は頭が真っ白だった。指輪を探さなければ。

彼は昼休みに食事も摂らず、指輪を探した。
自分のフロアから会議室に続く廊下をくまなく見て回り、会議室も隅から隅まで見た。
見つからない。一体どこで落としたのだろう。
正直に話した方がいいだろうか。妻は優しく聡明な女性だ。
先輩が言うような、浮気を疑うような女性では断じてない……と思う。
藤田は自分を励ますように頷いて、自分のデスクに戻った。

「藤田さん、桐島部長がお呼びですよ」
女子社員に言われて、藤田は力なく立ち上がった。
平社員の藤田を直接呼ぶなんて、資料に不手際でもあったのだろうか。
泣きっ面に蜂とはこのことか。重い気持ちを抱えて、開発部に向かった。

「失礼します。藤田です」
桐島部長は、見ていた資料から顔を上げ、黒ぶちの眼鏡を外した。
「藤田君」
「はい、すみません」
「何を謝ってるの。まだ何も言ってないわ」
桐島部長は、机の引き出しから白いレースのハンカチを出し、藤田に差し出した。
「藤田君、あなた、こんな大切なものを落としちゃダメでしょう」
白いハンカチの中央に、プラチナの結婚指輪が輝いていた。間違いなく藤田のものだ。
桐島部長が指輪を拾い、その裏側に彫られた名前で、藤田の物だと気づいたのだ。
「ありがとうございます」
藤田は思わず泣きそうになりながら、指輪を嵌めた。
「大切にしなさいよ。指輪も、家族も」
鉄の女と呼ばれるその人は、真綿のような柔らかい表情をしていた。

「ねえ藤田君、ポケットに手を入れるのは、やめた方がいいと思うわ。何度か見かけたことがあるけど、あまり行儀がよくないわね」
「すみません。子供のころからの癖でして」
「これからは、その手をポケットに入れる代わりに、奥さんの手をしっかり握りなさい。絶対に離しちゃだめよ」
桐島部長はそれだけ言うと、眼鏡をかけていつもの厳しい顔に戻った。
藤田は深々と頭を下げて部長室を後にした。安心感からか急に腹が減ってきた。
「今日は早く帰ろう」とつぶやき、ポケットに手を入れそうになったとき、妻の顔が浮かんだ。
藤田はその手を戻し、指輪を見つめて歩き出した。

******

公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただきました。
テーマは「落とし物」でした。


にほんブログ村