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黒い財布と3人の男 [コメディー]

午前中の診療が終わった病院の待合室。
会計を待つ3人の患者が、ぽつりぽつりと座っている。

通りかかった看護師が、黒い財布を拾い上げた。
大金が入っていそうな太った財布だ。
「どなたか、財布を落としませんでしたか」
財布をかざすと、「俺のだ」と男が手を上げた。
その後ろで、別の男が手を上げた「いや、俺のだ」
2列離れた席にいた別の男も手を上げた。
「俺の財布だ」

「ひとつの財布に持ち主が3人? みなさん、本当に自分のですか? 鞄やポケットに財布、入ってませんか?」
「ないよ。だってそこに落としたんだ」
「落としたのは俺だ。さっき会計をしたときに落としたんだ」
「いや、俺のだ。間違いない」

「うーん、仕方ないですね。じゃあ、中身を確認します。保険証とか入っているかもしれないでしょう。いいですね、開けますよ」
看護師が財布を開けると、金は一円も入っていない。
レシートとクーポン券がどっさり入った財布だった。
それを見た3人の男は、「俺のじゃなかった」と口々に言った。
「よく探したらあったよ。似てたから間違えちゃった」
3人は、金が入っていないと分かった途端、白々しく笑った。

看護師は、財布を見ながら目を潤ませた。
「可哀想ですね。この財布の持ち主さん。だって一円もないんですよ。病院の費用を払ったらお金が無くなってしまったんだわ。可哀想。病気なのに、明日の食費にも困っているんじゃないかしら」
看護師はポロポロと泣きながら、ポケットから自分の千円札を出して財布に入れた。
「私にはこのくらいのことしか出来ないけれど、この財布の持ち主のために千円寄付します。だって取りに来たときに、ないと思っていたお金が入っていたら嬉しいじゃないですか。きっと生きる希望になるはずよ。そう思いませんか?」
3人の男は顔を見合わせた。
「看護師さん、あんた優しいな。そうだよな。人間は助け合って生きるもんだ。俺も千円入れてやる」
3人の男は自分の財布から千円を出すと、黒い財布に押し込んだ。
「ありがとうございます。財布の持ち主が現れたら、みなさんのこと、話しておきますね」
「いやいや、こういうことは黙ってやるから価値があるんだ。ああ、いいことをしたら気分がいいな。どうです、みなさん、この先に昼からやってる小料理屋があるんですが、一杯やりませんか」
「いいですな。血圧も正常だったし、行きますか」
「賛成。塩分控えめの食事ばかりでウンザリだったから、たまにはいいか」
3人は意気投合して帰っていった。

看護師はナースステーションに戻ると、後輩のナースに声をかけた。
「三千円ゲットしたからランチ行かない?」
「先輩、またやったんですか。いい加減、捕まりますよ」
「いいじゃない。みんないい気分で帰るんだから。これも治療の一環よ」
看護師は笑いながら、黒い財布をポケットに入れた。

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双子の老婆 [ミステリー?]

同じ町内に、双子のおばあさんがいる。
「親も間違えるほどソックリなの」という二人は、本当によく似ている。
名前はスミさんとレミさんだ。
双子といっても、大人になれば個性が出てくるものだと思うが、この二人は本当にソックリだ。きっと生き方が似ているせいだろう。
ともに同じ時期に結婚したが、子どもが出来ず、それが理由で離縁された。
それから二人は、同じ家で一緒に暮らしている。今年で85歳になる。
私はボランティアでお年寄りの世話をしていて、スミさんとレミさんの家にも2年前から通っている。

「こんにちはスミさん。お弁当を届けに来たわよ」
「あら、どうも。いつも悪いね」
「レミさんはお留守ですか?」
「買い物に行ってるよ。あんた、よく見分けがつくね」
「わかりますよ。頬にホクロがある方がスミさん。もう2年も通ってるんですよ。このまえはスミさんがお買い物で留守でしたね」
「交代で買い物に行っているからね。タイミングが合わないんだよ」
「じゃあ次は絶対、二人そろっているときに来ますね」
ここ数カ月、決まってどちらかが出かけている。
どことなく奇妙な雰囲気を感じながら、いつもどおりに振る舞っていた。

数日後のことだ。ひょっこり寄ったら、レミさんが熱を出して寝込んでいた。
こんな時でさえ、スミさんはいなかった。
急いで薬を飲ませて、おかゆを作って看病した。
料理を作りながら不審に思った。
茶碗も湯呑も、冷蔵庫の食材も、一人分しか使われていない。
何かがおかしいと思いながらも、薬で落ち着いたレミさんに安心して帰った。

翌日、再び訪ねると、やはりレミさん一人だった。
「昨日はありがとう。すっかり治ったよ」
「よかったわ。ところで、スミさんはどうしたんです? 昨日もいなかったけど」
「ああ、あのね、年甲斐もなくケンカしてね、出て行ったのよ」
「出て行くって、どこに行くんです?」
「さあ、ほとぼりが冷めたら帰ってくるさ」

週末、いつものようにお弁当を届けに行くと、スミさんがいた。レミさんはいない。
「あら、スミさん帰ってきたんですね。よかった。それでレミさんは? まさか今度はレミさんが出て行っちゃたとか?」
「買い物だよ」
「次は二人がそろったときに来たいんですけど、いつならいます?」
「だからいつもいるよ。タイミングが悪いんだよ」
「ところでスミさん」
「なに?」
「ホクロの場所が左右逆ですよ」
スミさんが慌てて鏡を見る。やっぱり、この人はレミさんだ。
「ホクロの場所、合ってるじゃないか。あんた、あたしを嵌めたね」
「レミさん、ホクロを書いて、ずっと一人二役をやってたんですね。スミさんはどこに行ったんです?」
「死んだよ。将来を悲観して海に身を投げたんだ。3か月前だよ」
「なんてこと。じゃあどうしてスミさんの振りを?」
「死んだとわかったら、年金がもらえないじゃないか。遺体は見つかってないんだ。あたしはね、スミの分まで楽しく生きてやるんだよ」
「レミさん、それ犯罪ですよ」
「あんたは年寄りの見方だろう。見逃しておくれよ」

海に身を投げたって本当だろうか。あの二人、実はあまり仲良くなかった。
私は、1年前に交わしたスミさんとの会話を思い出していた。
「あんたは信用できる人だから、あたしの財産を預けておくよ。あたしたちは双子だけど性格は全然違う。レミは浪費家だから金の管理は任せられない。あたしが先に死んだら、葬式代に使って欲しいんだよ。もちろんレミには内緒だよ」
葬式はしないのだから、あのお金は私がもらっていいのかな。
そうよね、だってスミさんは生きてることになっているんだもの。

そんなことを思いながら、もう二度と訪れることはないレミさんの家を後にした。 

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TO-BE 久々の最優秀 [公募]

公募ガイド「TO-BE小説工房」で久しぶりの最優秀をいただきました。
5回目です。
すごく嬉しかったです。

今回のテーマは「窓」
作品タイトルは「ネコが逃げた」です。
ちょうどネコを飼い始めたころに書いたので、すぐに話が浮かんで30分くらいで書き上げました。
書いてて楽しかったです。
そういう方が、いい結果につながるのかも。

作品は、公募ガイド10月号に載っています。
よかったら読んでみて下さいね。

KIMG1215.JPG

賞金でレイちゃんのご飯でも買うか(笑)

最近、いろいろな公募に挑戦してみようかなと思っていて、なかなかブログが更新できなかったのですが、久々にいい報告ができてよかったです。

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孫は来て良し、帰って良し

夏休みがもうすぐ終わる。ああ、長かった。
嫁がフルタイムで働いている間、孫たちを預かっている。
小学3年生と2年生の男の子ふたり。
ひとりだったらテキトーに済ませる昼食もちゃんと作る。
孫は可愛いけれど、毎日来られるとちょっとねえ~。

嫁は預けるのが当たり前のように、迎えに来ても手土産のひとつもない。
「お義母さん、お世話様。ちゃんと宿題やらせてくれました?」
ほぼ毎日、第一声がこれ。
「やってたわよ。この子たち、1日中机に向かっているのよ。もっと遊んだほうがいいんじゃないかって心配になっちゃうわ」
「それからお義母さん、おやつはほどほどにしてくださいね。晩ご飯食べなくなっちゃうから」
それはあなたが作る料理が不味いからでしょ。
なんてことは思っても言わない。
この年になって嫁姑バトルは避けたいもの。

私たち世代って、つくづく損だ。
姑に仕えて嫁いびりに耐えて、自分が姑になったときは、嫁の方がずっと強い。

「あなたたち、もう夏休みは終わりだけど、宿題は終わっているの?」
「残っているのは絵だけだよ」
「僕たち、おばあちゃんの絵を描くからモデルになって」
「まあ、私の絵を描くの?」
「うん、夏休みの思い出を描くんだけど、僕たちずっとおばあちゃん家にいたでしょう。だからね、夏休みの思い出はおばあちゃんなの」
やだ、何だか泣ける。
息子も嫁も忙しいから、どこにも連れて行ってもらえなかったのだろう。
「じゃあ、今からどこかへお出掛けする? 動物園か日帰り温泉でも行く?」
「いいよ。僕たち、この家がいい。ね、お兄ちゃん」
「うん。おばあちゃんの家が好きだよ。居心地がいいもん」
まあ、なんていい子たちでしょう。
ということは、嫁よりも私の方が好きってことかしら。
悪い気はしないわね。ちょっと優越感。

「おばあちゃん、動かないで。絵を描いてるんだから」
「はいはい。きれいに描いてちょうだいね」

孫たちは、ひいき目に観ても上手いと言えない絵を描いた。
全然似ていないけれど嬉しかった。
「ねえ、おばあちゃんの家、そんなに好き?」
ママよりおばあちゃんの方が好き? というニュアンスを込めて訊いてみた。
「うん、だってさ、ゲームやり放題だもん」
「ゲーム?」
「おばあちゃん、机に向かっていれば勉強してると思ってるでしょ」
「ママにはすぐにバレちゃうけど、おばあちゃん気づかなかったでしょ」
「冷房効いた部屋でゲーム三昧なんて、最高だよ」
ああ、そういうこと。
「ママには内緒だよ」
言えないわよ。あなたたちの成績が下がったら、わたしのせいにされちゃうわ。

長い夏休みが終わった。
「お義母さん、長い間ありがとうございました。これはほんの気持ちです。お友達と温泉でも行ってください」
嫁が旅行券をくれた。あら、意外と気が利くじゃないの。
「ありがとう。いいの? こんなにたくさん」
「ええ、冬休みの分も入ってますから」
ちゃっかりしてるね、相変わらず。

ああ、孫が帰ったら、何だか急に寂しくなっちゃった。
早く冬休み来ないかな。

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盆帰り [男と女ストーリー]

盆休みが終わったら、君が家を出て行く。
それは最初から決まっていたこと。
夕暮れの鐘が鳴る。午後5時なのに、日差しは容赦ない。
「もう少し、涼しくなってからにしたら?」
僕の提案に、君は小さく首を振った。
「これ以上はムリ。あなただって、私に居座られたら困るでしょ。新しい彼女がいるくせに」
「いや、だからそれは誤解だって」
「いいのよ。あなたの望み通り、私はもう消えるから」
君は静かに立ち上がり、部屋をぐるりと見て回った。
「捨てていいのよ。私のマグカップ」
「そうだね。何度か捨てようとしたけど、やっぱり勿体なくてさ」
「貧乏性。あんまりせこいと彼女に振られるわよ」
「だから誤解だって」

君は「じゃあ行くわ」と背を向けた。
僕は慌てて追いかけて、君を車に乗せた。
「送っていくよ」
「ありがとう。この車にも、彼女は乗った?」
「乗ってないよ。あのさ、何度も言うけど誤解だよ。彼女はただの同僚。しかも結婚してるし」
「やだ、ダブル不倫?」
「違うってば。君は昔から嫉妬深くて早とちりで、おまけに気が強くて泣き虫で」
「悪かったわね」
「君のようにインパクトがある女性を、3年やそこらで忘れられると思う?」
「出来れば一生忘れないで欲しいけど」

車は駐車場に着いた。
夕焼け雲が、高台の墓地をきれいに染めた。
僕の手には、手桶と花と線香。
君は白い顔で小さく笑って、ふわりと墓に帰って行った。
「来年のお盆に、また迎えに来るよ」
たぶん、この先もずっと、僕はひとりだ。

「だめだよ。私がめちゃくちゃ嫉妬するような彼女を見つけなさいよ。そうじゃないと張り合いがないわ」
線香の柔らかい煙の向こうから、君の声が聞こえた。
お盆で帰るたびに嫉妬されたらかなわないな。
僕はちょっと笑いながら、夕陽の階段をゆっくり降りた。

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葡萄 [公募]

時々思う。どうして嫌と言えないのだろう。
隣で喋り続ける良枝さんは、鞄から溶けかかったチョコレートを出して、私の手のひらに載せた。ほらまた、要らないと言えなかった。

良枝さんは近所に住む独居老人で、二年前にご主人を亡くした。
暫くは気の毒なほどに泣き暮らしていたが、元号が変わるとともに元気を取り戻し「夫の分まで令和を楽しむわ」と、別人のように活動的になった。
買い物、体験教室、スポーツジム。一人で行けばいいものを、彼女は決まって私を誘う。

車を持たない良枝さんを、駅まで送ったことがきっかけだった。
「困ったときはいつでも声をかけてくださいね」などと言ったばかりに、良枝さんは毎日のように家に来た。
専業主婦で夫は単身赴任中。息子は高校生で手がかからない。
私には、誘いやすい条件が揃い過ぎていた。

しかし今日のバスツアーは、さすがに気が進まなかった。
ツアー客の殆どが年配者であることも理由の一つだが、そもそもバスツアーが苦手だった。
だけど「お願いよ。一人で参加したら寂しい老人みたいじゃないの」と懇願されて仕方なく参加した。
バスは山梨に向かっている。ツアーの目玉は、葡萄狩りだ。

「やっぱりお昼はほうとうかしらね。そういえば、主人が初めてほうとうを食べたとき、なんだこの包帯みたいな麺は、って言ったの。ほうとうとほうたいを掛けたのよ」
良枝さんは、いつもご主人の話をする。
近所でも、ろくに話したことがない人の話をされても、相槌を打つくらいしか出来ない。
「あら見て、富士山よ。ずいぶん近くに見えるのね。主人が一度登ってみたいと言ってたわ。主人の位牌をリュックにいれて登ってみようかしら。ねえ、今度行きましょうよ」
「いや、登山はちょっと」とさすがにもごもごと拒否反応を示したけれど、強引に来られたら断り切れる自信はない。

バスは葡萄園に着いた。昼食は良枝さんの予想通り、ほうとうだった。
「葡萄狩りって言っても、そうは食べられないわよね」良枝さんはそう言いながらも食べる気満々で、奥の方へ進んでいった。
見上げると、いろんな種類の葡萄が見事に実っていた。
薄く光が射す果樹園に、ツアー客たちの笑い声が響く。
私は、急に目眩を憶えてしゃがみ込んだ。
人生二度目の葡萄狩りだった。そして最初の葡萄狩りが最悪だったことを、今更ながらに思い出してしまった。

あれは小学校の遠足だった。昔から引っ込み思案の私は、どのグループにも入れなかった。
一緒にいようと約束をした友達は、熱を出して遠足を休んだ。
バスの座席もひとり、葡萄狩りもひとり、手持無沙汰にもぐもぐと葡萄を食べ続け、帰りのバスでお腹をこわした。
「気持ち悪い」の一言が言えずに、バスの中で吐いてしまった私を、クラスメート達は容赦ない言葉で傷つけた。
「汚い」「臭い」。
切り取ってくしゃくしゃに丸めてトイレに流してしまいたいような、人生最悪の記憶だ。
三十年以上前のことなのに、今でも体中が熱くなるほどに恥ずかしい。

「どうしたの? 具合でも悪い?」
良枝さんが戻ってきて、私の肩に手を置いた。
「大丈夫です」と青い顔で告げる私に、彼女は小さくため息をついた。
「具合が悪いなら、言ってくれたらいいのに」
私は、自分でも驚くほどの力で良枝さんの手を払いのけた。

「言えないんです。嫌と言えないんです、私。昔からそう。遠足なんて行きたくなかったし、学校も行きたくなかった。PTAの役員も、町内会のお祭り委員も、会社の宴会の幹事も、嫌なのに断れないんです」
お腹の中のものを、全て吐き出すように言葉が出てきた。良枝さんは戸惑っている。
「夫の単身赴任も嫌だったし、月に一度の儀父母との会食だって嫌。嫌だけど嫌だと言えないんです。今日のバスツアーだって……」
そこまで言って、我に返った。良枝さんが、泣きそうな顔で私を見ていた。
「ごめんなさいね。嫌と言えなかったのね」
良枝さんは、とぼとぼと葡萄園の奥に消えた。彼女はこれっきり、私を誘わなくなるだろう。
後味の悪さが、葡萄園を暗く染めた。

帰りのバスで、良枝さんは一言も話さなかった。
押し潰されそうな雰囲気の中、「言わなきゃよかった」という後悔ばかりが残った。
突然目の前に、緑色の葡萄が差し出された。
「すごく甘いわよ。こういうのも、嫌?」
私は首を横に振って、葡萄を食べた。今まで食べた葡萄の中で、一番甘かった。
私たちは景色も見ずに、無言で葡萄を食べ続けた。
「お腹をこわしたら、あなたのせいよ」
「大丈夫ですよ。良枝さん、頑丈だから」
「あら、けっこう言うわね」
バスが着くまでに、ちゃんと謝ろう。そう決めて、また一粒、葡萄を食べた。


*****
公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「ブドウ」でした。
葡萄と武道、どっちで書くか迷って、結局ギリギリになってしまいました。
最優秀も佳作もすべて「葡萄」の方だった。「武道」で書いたら目立ってたかも^^
最優秀、面白かったです。
こんな男、私もヤダ~って思わず言っちゃった(笑)


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怖い話 [ホラー]

宿泊学習の夜、みんなで輪になって、順番に怖い話をしていった。
みんなそれなりに、怖い体験をしているんだなと感心しながら聞いていた。
「おい、次はおまえの番だ」
みんな一斉に僕を見た。
「怖い話なんて出来ないよ。そんな体験ないもん」
「自分の体験じゃなくてもいいんだよ。誰かに聞いた話とか、何かあるだろう」
「うーん、じゃあ、おじさんの話をするよ」
僕はそう前置きをして、話し始めた。

僕のおじさんは、昼間はゴロゴロ寝てばかりいるんだ。そして夜になると出かける。
ろくに食事も摂らないから、痩せて青白い顔をしていて、幽霊みたいなんだ。
うちの離れに住んでいるんだけど、子どものころから「おじさんには近づくな」って言われていたから、一度も話をしたことがない。
ある夜、塾の補習で遅く帰った僕は、家の前でおじさんと鉢合わせしたんだ。
「おじさん、どこに行くの?」
僕は、思い切って話しかけた。
「飯を食いに行く。おまえも行くか?」
おじさんは、意外と普通に話しかけてきた。ママに言ったら絶対にダメって言われるから、僕は黙ってそのままおじさんについて行った。

おじさんは、赤いネオンが輝くクラブに入った。
「おじさん、ここ、子どもが入っちゃダメなところでしょ」
「大丈夫だ。おまえなら大丈夫だ」
何が大丈夫なのか分からなかったけど、おじさんに続いて店に入った。

「あら、いらっしゃい。今日はいい娘が入っているわよ」
薄暗い店で、髪の長い女の人がカウンター越しに言った。
「3日ぶりだ。さっそくいただこう。この子にも、何か飲ませてやってくれ」
「なあに? あんたの子ども?」
「兄貴の子だ。まだ目覚めていない」
「ふうん」
おじさんは、若い女と奥の部屋に入っていった。
何だか嫌な感じだった。
おじさんが、奥の部屋で何をしているのかわからないけど、きっといやらしいことだろうと思った。
来るんじゃなかったと後悔しながら、女の人が出してくれたジュースを一気に飲んだ。
それはひどく不味くて、だけど妙に気持ちがよくて、もしかしたら変な薬が入っていたのかもしれない。だからすぐに吐き出そうとしたけれど遅かった。
「ははは。最初はそんなもんさ」
女の人が笑った。
おじさんが奥の部屋から出てきた。若い女はいなかった。
ふうっとため息をつきながら、僕の隣に座った。
「おじさん、怪我してる。口から血が出てるよ」
「ああ、おれの血じゃない」
「えっ?」

おじさんは、吸血鬼だったんだよ。その店で、若い女の血を吸っていたんだ。
生血を吸わないと、生きていけないんだって。
うちの先祖に吸血鬼がいて、ごくまれに生まれてしまうらしいんだ。吸血鬼がね。

「これが僕のおじさんの話。どう? 怖かった?」
「なあんだ。作り話かよ。吸血鬼なんているわけないもんな」
「え、本当の話だよ。ほら」
僕は口を開けて、生え始めたばかりの牙を見せた。
あの夜、女の人が出してくれた人間の血を飲んで、僕はすっかり目覚めたんだ。
「ねえ、誰か血を吸わせてくれないかな。さっきからずっと我慢してるんだ」
途端にみんな、悲鳴を上げて出て行った。
僕の話、そんなに怖かった?

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アンチエイジングセールス [コメディー]

営業の基本は、まず相手を褒めること。
「お若く見えますね」は魔法の言葉。
男性は、多少年上に見られた方が貫禄があっていい、なんて人もいますけど、女性はとにかく若く見られたいものです。
褒めて褒めて褒めまくって、化粧品を売るのです。

ピンポーン
「こんにちは、奥様。ABC化粧品です。ただいまこの地域にお暮しの、30代の女性を対象にサンプルを配っておりますの。……あらまあ、奥様50代? とても見えませんわ。てっきり30代後半かと。まあ驚いた。週一でエステとか通ってるんですか? 何もしてないって、まあ信じられませんわ。このサンプル、30代限定なのですが、特別に30代に見える奥様にも差し上げますわ。ぜひ使ってみて下さいね。これを使ったらますます若返って、20代に見えてしまうかもしれませんわよ」

「お母さん、ただいま。あら、お客様?」

「まあ、お嬢さまですか。学生さんかしら。えっ、32歳? まあ、とても見えませんわ。てっきり20代前半かと。なんとまあ可愛らしい。職場でもモテモテでしょう。あら、結婚なさっているの? お子さんまで? まあ、なんてお若いママ。その若さと美貌を保つために、ぜひABC化粧品をお使いください。ただいま無料サンプルをお配りしていますの。これを使ったら、ピチピチの女子高生に見えてしまいますわよ。あら、ピチピチなんて、古いですわね。ホホホ」

「ママ、おばあちゃん、ただいま」

「あら奥様、お孫さんですか。可愛いですね。年中さんくらいかしら。えっ、8歳? 小学生なの? てっきり4歳くらいかと。まあ、お若く見えますわね。ABC化粧品は、無添加なのでお子様にもお使いいただけるんですのよ。これを使えば、ますます若返って3歳くらいに見えてしまいますわ。あら、やだ、どうして泣くの? 8歳だもんって、ええ、わかっていますよ。でもね、たとえ子どもでも、年齢より若く見られるのは嬉しいでしょ。世の中の女性はみんなそうよ。えっ、男の子? 男の子なの? あらあ、貫禄がありますこと。9歳くらいに見えますわ」

***
先日、化粧品のセールスの電話がありました。
「奥様ですか。とてもお若い声ですが、30代ですか?」
と聞かれたので、「はいそうです」と答えました(笑)

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真夏のマフラーとかき氷 [男と女ストーリー]

別れた恋人から小包が届いた。開けてみたらマフラーだった。
何だよ、これ。こんな真夏に嫌がらせか?
僕は頭にきて、元カノのサエに電話した。
「ああ、それね、タンスの中から出てきたから。あんたの忘れ物でしょ」
「わざわざ送らなくても。捨ててくれてもよかったのに」
「一日だって手元に置きたくなかったの。二度と見たくなかったのよ、あんたの物なんて。目が汚れるからね。本当はあんたの住所も名前も書きたくなかったよ。手が汚れるからね。それを無理して送ってやったのよ。感謝しなさいよ」
「はいはい」
ムカつきながら電話を切った。あいつは僕をゴキブリとでも思っているのか?
ああ、別れて正解。

一緒に暮らし始めて1年。別れる前はずっとこんな感じだった。
サエには、優しさと思いやりが欠如しているんだ。
マフラーを捨ててしまおうと箱から取り出すと、何だか柔らかいいい匂いがした。
「あいつ、わざわざ洗ったのか?」
バカみたいだ。どうせ捨てるのに。
元カノにもらったマフラーなんて持っていても、いいことなんかひとつもない。
ん? 元カノ? そうか。これはサエが編んだマフラーだ。
付き合い始めたころ、不器用ながら一生懸命編んでくれたマフラーだ。

「あんたっていつも背中丸めてるからさ、首が寒そうで見てられないんだよね。別に愛情とか込めてないから。そういうキモイことしてないから。巻きたきゃ巻けば」
サエはそう言って、マフラーをくれた。

ああ、そういえば、あいつは昔からああいうやつだった。
そういうところ、嫌いじゃなかった。
一緒に暮らし始めても、サエはずっと変わらなかった。
…っていうことは、変わったのは僕の方?

数日後、ふたりで暮らしていたアパートの近くまで行き、サエを呼び出した。
「何なの、急に。暇じゃないんだけど」
「いや、ちょっと用があって来たら、新しいカフェが出来ていたから。ここ、いつオープンしたの?」
「先月」
「ふうん。お勧めは?」
「知らないよ。あたしも初めて来たから」
「そうなの? 新しいカフェが出来たらすぐ行ってたのに、趣味変わった?」
「カフェ巡りを趣味にした覚えはないけど。それに、ひとりで入っても詰まらないでしょ」
サエは性格がきついから友達が少ない。出かけるときはいつも僕と二人だった。

「あ、かき氷がある。スペシャルメガイチゴフラッペとコーヒーにしよう」
「バカじゃないの。おなか壊すよ」
注文を済ますと、店員が「あの」と僕の顔を覗き込んだ。
「冷房、効きすぎてますか?」
「いえ、大丈夫です」
店員は、怪訝な顔で奥に下がった。
「別に普通だよね。冷房」
「あんたが首にマフラーなんか巻いてるからだよ。ホントにバカね」
サエが思い切り、呆れた顔をした。

このマフラーの意味を、僕は脳みそが溶けてサラサラの水になるまで考えた。
そしてひとつの結論を出した。
「あのさ、サエ、俺たちやり直そうよ」
サエが何か言おうとしたとき、タイミング悪く、スペシャルメガイチゴフラッペが運ばれてきた。

「すげえ。メニューの写真よりデカい」
「だからお腹壊すって言ったんだよ」
小学生を諭す母親みたいに、サエが腕組みをした。
「あんたがそのかき氷を、残さず食べたら考えてやるよ。かき氷食べるといつも頭が痛くなるくせに、ホントにバカだね」
サエが笑った。久しぶりに見る笑顔だ。
あ、キーンと頭が痛くなった。そんな僕を見て、サエがますます笑った。

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母の秘密 [公募]

終戦の年に生まれた私は、父の顔を知りません。
南の島で戦死したと、母が話してくれました。遺骨はありませんでした。
そのせいでしょうか、幼少期から同じ夢を何度も見ました。
ジャングルで彷徨っている兵士の夢です。
ジャングルになど行ったことがないのに、やけにリアルな夢でした。
兵士は、彷徨いながら私の名前を叫ぶのです。
「弓子、弓子、必ず帰るから」

空襲で家が焼けたそうで、父の写真は一枚もありませんでした。
だけど私には、その兵士が父だとはっきり分かったのです。
「お母さん、お父さんは南の島で生きているのよ。そのことを私に伝えたくて、夢に出てくるんじゃないかしら」
母は静かに笑いながら、まったく相手にしてくれませんでした。
「弓ちゃん、夢はただの夢よ。お父さんは戦死したのよ」
母はいつも気丈でした。戦前から結核療養所で働き、閉鎖された後は市民病院で看護婦をしながら私を育ててくれました。

あるとき、衝撃的なニュースがありました。
南の島で日本兵が発見されたのです。
終戦を知らずに、二十八年間もジャングルを彷徨っていたのです。
やっぱり、と私は思いました。
「お母さん、きっとお父さんも生きているわ。この兵士のように、今もジャングルを彷徨っているのよ。ねえ、お母さん、何とか捜しに行けないものかしら」
しつこく訴えた私の頬を、母がピシャリと叩きました。
母が手を上げたのは、後にも先にもこのときだけでした。
「いい加減にしなさい。お父さんは死んだのよ。何度も言わせないでちょうだい」
疲れているときに纏わりついたのが、癇に障ったのでしょうか。
それにしても母がどうしてこんなに怒るのか、さっぱり分かりませんでした。
それ以来、父が夢に出てくることはありませんでした。

その翌年私は、ご縁があって結婚をしました。
七歳年上の夫は真面目で優しく、二人の子どもにも恵まれました。
時代はすっかり豊かになり、小さいながらも家を建て、母と一緒に暮らす計画を立てました。
しかしその矢先、母は脳梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまいました。
「ようやく親孝行が出来ると思ったのに」
苦労続きだった母の手をさすりながら、私はしばらく泣き続けました。

葬儀を終え、夫とふたりで母の遺品を片付けました。
質素な暮らしを続けた母の部屋は、使い込まれた家具や必要最低限の食器など、まるで無駄のない小さな城でした。
抽斗を片付けていたときに、一枚の写真を見つけました。
親子三人が写った写真です。裏には『弓子0歳』と書かれていました。
私を抱いた男性は、幼いころ何度も夢に出てきた兵隊さんでした。やはり父だったのです。
だけどその隣にいる女性は、母ではありませんでした。
幾つかの疑問が私の中で渦を巻きました。
この女性は誰なのか、そもそも父は、私が生まれる前に戦死したのではなかったか。

手を止めて呆然とする私の背後から、夫が写真を覗き込みました。
「あれ、トミエさんじゃないか」
驚いて振り向くと、夫は懐かしそうに写真の女性を指さしました。
「この人、遠い親戚でね、僕が子供のころ、よく家に遊びに来ていたんだよ。赤ん坊を生んで間もなく、亡くなってしまったんだ」
「男性の方は?」
声が震えているのが、自分でも分かりました。
「ご主人は、トミエさんが亡くなった後、結核を患って、暫く療養所にいたけれど治らなかったようだ。せっかく戦争で生き残ったのに、可哀想だってお袋が泣いていたよ」
夫が背を向けて作業に戻った後、私は写真を元の抽斗に戻しました。
母が死ぬまで隠し続けた秘密を、そっと封印したのです。

その夜、久しぶりに父の夢を見ました。
痩せ細った父が、病室の窓から四角い空を見ています。
「弓子を、どうか弓子をお願いします」
傍らに佇む白衣の女性が、「はい」と頷きました。
それは若い日の母でした。
母は、ただ単に情の深い看護婦だったのか、それとも父を深く愛していたのか、今となっては知るすべもありません。
だけど母は、紛れもなく私の母でした。血の繋がりはなくても、私たちは真の親子でした。

元号が新しくなりました。母が生きた年齢を、とうに過ぎました。
可愛い孫もいます。戦争のない平和な日々を、私はこれからも生きていくのです。

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公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
テーマは「戦争」
こういうテーマは苦手ですが、私の周りにはお年寄りが多くて、お父様を戦争で亡くした方や戦争経験者がいるので、その方たちから聞いた話を参考に書きました。
なかなか難しいですね。

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