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12年目のお雛さま

もうすぐひな祭りだけど、お雛さまは飾っていない。
お父さんは仕事だし、お姉ちゃんは受験だし、お母さんは、もういない。
お母さんは去年、天国に行っちゃった。
わたしは鍵っ子。寂しいけど、口には出さない。
お父さんもお姉ちゃんも、頑張っているんだもん。

誰もいない部屋に「ただいま」って言った。
あれ? お雛さまが飾ってある。いったい誰が?
「おかえり。ああ、疲れた。7段はきついわ~」
振り向くと、お母さんがソファーで横になっていた。
「だから3段飾りでよかったのに、おじいちゃんが張り切るから」

「お母さん、どうしたの? 何でいるの?」
「お母さんね、生きてる時の行いがよかったから、2回だけ帰還できるのよ。ほんの数時間だけどね」
「ええ、そんな貴重な時間を、お雛さまを飾ることに使っちゃったの? もったいないよ。お母さんってさ、生きてる時から計画性がゼロだったよね」
「まあ、相変わらずキツイ子ね。もっと喜びなさいよ」
わたしたちは、声を出して笑った。
そういえば、お母さんがいたときは、いつも笑っていたな。

「このお雛さまはね、お母さんのお雛さまよ。お母さんが生まれたとき、おじいちゃんが買ってきたの。2LKの社宅に7段飾りよ。私に計画性がないのは、おじいちゃん譲りね」
わたしの家には、お雛さまを飾る部屋がある。
毎年、お母さんとお姉ちゃんとわたしで飾っていた。
「天国でね、おじいちゃんに言われたのよ。おまえがこっちに来ちゃったら、誰がお雛さまを飾るんだってね。お雛さまがかわいそうだって言うのよ」
おいおい、孫よりお雛さまかい。
わたしは、ちょっと空気の読めないとぼけたおじいちゃんを思い出して、思わず苦笑いした。

「来年からは飾ってね。あなたは中学生、お姉ちゃんは高校生になるんだから」
「わかった。わかったから、あとの1回は有効に使ってよね」
「うん、もう決めてる。二人が結婚して家を出た後、寂しいお父さんを慰めに来るの」
「えー、じゃあ、もう逢えないの?」
「大丈夫。いつも見守っているから」
「寂しいよ」
「お父さんとお姉ちゃんに、ちゃんと甘えなさい。大人ぶってるけど、まだ12歳なんだから」
ポロポロ涙が出た。お母さんが、わたしの髪をくしゃくしゃに撫でた。
「もう、やめてよ」
「あはは、じゃあね」
お母さんは消えた。夢だったのかなって思うほど、あっけなく消えた。

「あれ、お雛さまだ。あんた一人で出したの?」
帰ってきたお姉ちゃんが驚いた。
「来年は二人で飾ろうね」
お母さんに逢ったことは言わなかった。絶対悔しがるから。
帰ってきたお父さんも「おお!」と言った。
春みたいに明るくなった部屋で、久しぶりに3人でご飯を食べた。
お母さん、ありがとう。

KIMG0900.JPG
うちは7段じゃありません^^

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置手紙 [公募]

置手紙をテーブルの上に置いた。書いているうちに泣きそうになった。

明日の朝、家を出て行く。家族が寝ている間にこっそり出て行く。
お父さん、高校まで出してくれてありがとう。
お母さん、いつもおいしいご飯をありがとう。
弟の祐介、お兄ちゃんはもう帰らないかもしれない。お父さんとお母さんを頼んだぞ。

最低限の荷物をカバンに詰めて、始発に乗るため夜明け前に家を出た。
大学受験に失敗したことを、僕はチャンスだと思った。
やっぱり僕にはダンスしかない。東京に行って、プロのダンサーになる。
去年上京したダンス仲間のサトシ先輩が、事務所に紹介してくれるという。
「東京はすげーぞ。いろんなところにチャンスが転がってる」
と興奮して言った。だから僕は自分を信じて賭けてみようと思う。

まだ薄暗い庭に、李の花が白く浮かんで見えた。満開だ。
春の花と言えば、わが家では桜ではなく李だった。
この花が、毎年僕たちに笑顔をくれた。泣かないと決めたのに、涙が出た。
でも、もう振り返らない。一張羅の革ジャンの襟を立て、駅まで一気に走った。

東京に着いたのは午前八時半で、通勤時間と重なって信じられないほどの人がいる。
サトシ先輩の住む駅まで、身動きできない超満員電車に揺られ、吐き出されるように降りた。
一息ついて、サトシ先輩に電話をかけた。
「おう、啓介。受験ダメだったって? 風のうわさで聞いた。えっ? こっちに来てる? マジか。じゃあ駅まで迎えに行く。午後からバイトだけど、カフェで茶でも飲もうぜ」

すっかり垢抜けていると思ったサトシ先輩は、あまり変わっていなかった。
先輩が住む町も静かで、駅前に小さな商店街があって、僕の町と大して変わらない。
「なに、その荷物」
先輩が、僕のボストンバッグを指さした。
「家出してきたんだ。俺、ダンサーを目指すことにした。サトシさん、前に言ってたでしょ。事務所に紹介してくれるって」
「ええ~、マジで? いやいやおまえ、親御さんが心配するだろう。今すぐ帰れ」
「なに先生みたいなこと言ってるの。俺は本気だよ。家族には、置手紙を残してきた」
「あのね、啓介君。プロのダンサーなんて、そんなに甘い世界じゃないよ」
「だってサトシさんは成功したんだろう? ステージで踊ったんだろう? 新聞の切り抜き、見せてくれたじゃないか」
「あれは、祭のイベントで、たまたま踊っただけ。そんでたまたま写真撮られて新聞に載っただけ。俺、もうダンスやってねーから」
「だって、事務所は?」
「やめたよ。みんな半端なく上手いやつばかりだ。啓介、やめとけ。おまえ程度じゃプロにはなれない。俺が保証する」
「保証するなよ」

泣きそうだった。
僕たちの中で一番上手かったサトシ先輩が通用しない世界に、飛び込む勇気はない。
結局コーヒー二杯とカルボナーラを奢ってもらって店を出た。
「ちゃんと大学行けよ。おまえは俺より頭がいいんだから」
「うん。先輩も東京で頑張って」
「あのさ、さっきから東京って言ってるけど、ここ、埼玉だから」
先輩は、笑いながら見送ってくれた。なんだ。ここは埼玉か。
やけに空いている電車の中で、一人で笑った。

家に着いたのは夕方だった。真っ赤な夕焼けが町を包んでいた。
一泊ぐらいしようと思ったけれど、結局帰ってきた。
置手紙までしたのに、東京、いや、埼玉でお茶しただけだ。

夜明け前は白く浮かび上がっていた李の花が、オレンジ色に染まっている。
「おかえり」と微笑んでいるように見える。
家の中から笑い声が聞こえた。やけに楽しそうだ。
家出した僕が、心配じゃないのか。
カラスの声に背中を押され、気まずさを纏って家に入った。

「あっ、おかえり兄ちゃん。早かったね」
「あら、二年くらい帰らないかと思ったわ」
「頭、丸めてないんだな」

家族が笑いを堪えるように言う。
テーブルの上には、僕の置手紙がある。所々赤ペンで直してある。
「啓介、誤字脱字、多すぎよ」
「僕の漢字ドリル貸そうか?」
「修行が足りんな」

家族の含み笑いが気になる。モヤモヤしながら手紙を読み返した。

『お父さん、お母さん、僕は出家します』

あっ、「家出」を「出家」と書いている。そういうことか。
だからって、笑うことないじゃないか。僕は本気だったのに。

「夕飯は、精進料理にする?」と、お母さんがまた笑った。
ひどいよ。
李の花だけが、僕を慰めて優しく揺れた。


*******

公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただきました。
久しぶりの佳作。課題は「李」難しいですよね。
あまり身近じゃないし。
最優秀作品は、いい話でした。私には書けないな。。。

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かわいそうに、かわいそうに [ミステリー?]

『かわいそうに、かわいそうに』

由紀子が最初にその声を聞いたのは、祖父が亡くなる前日だった。
夜中に耳元でささやくような声を聞いた。
『かわいそうに、かわいそうに』
由紀子はまだ幼くて、両親とともに寝ていたから、どちらかの寝言ぐらいにしか思っていなかった。
翌朝、祖父が逝った。

次に声を聞いたのは、小学生のときだった。
『かわいそうに、かわいそうに』
このときは一人で寝ていたが、夢の中の声だろうと思った。
翌朝、愛犬のタロウが死んだ。

次に声を聞いたときは、中学生だった。
そのときは受験勉強をしていたので、さすがにはっきり聞いた。
『かわいそうに、かわいそうに』
翌朝、祖母が逝った。

由紀子は気づいた。
声が聞こえるとき、大切な誰かが死んでしまう。
しばらくは怯えながら眠ったが、しばらくすると忘れてしまった。
由紀子はまだ若かった。

忘れたころに、声が聞こえた。
由紀子はすっかり大人になっていた。
東京のアパートに一人で暮らす由紀子は、30歳になっていた。
『かわいそうに、かわいそうに』
思わず飛び起きた。
眠れずに朝を迎えた由紀子に、父の訃報が届いた。

悲しみの中葬儀を終えて、すっかり気落ちした母を励ましアパートに帰った。
母は体調を崩して、数年後に逝った。
そのときも、もちろん声は聞こえた。
『かわいそうに、かわいそうに』
ええ、本当に可哀想だわ、私。
由紀子は冷たいアパートで、ひとり泣いた。

もう大切な人はいない。
家族はみんないなくなった。
それなのに、しんしんと冷えた冬の夜、由紀子の耳にあの声が聞こえた。
『かわいそうに、かわいそうに』

目を覚ました由紀子は、異変に気付いた。
煙い。何かが燃える匂い。窓に赤い炎が見える。
「火事だわ!」
由紀子は慌てて外に飛び出した。
アパートの隣の部屋から火が出ている。
炎は、隣の部屋と由紀子の部屋を半分燃やして消火された。
隣の部屋の住人は若い男だったが、残念ながら助からなかった。

「このアパートにはもう住めないけれど、命は助かったわ」
由紀子は思った。
あの声が、由紀子を救ってくれたのだ。あのまま寝ていたら、由紀子は死んでいた。
隣の住人は気の毒だったけれど、ろくに顔も見たこともない他人だ。
大切な人じゃない。
あれは、きっと私を救うために聞こえた声なのだ。
由紀子は空を見上げて「ありがとう」と呟いた。

由紀子は知らなかった。
隣の住人と由紀子は、この後急激に親しくなり、将来結婚する運命の男だった。
『かわいそうに、由紀子はまた大切な人を失った。かわいそうに、かわいそうに』

*****
ブログ村のマイページが変わってしまって、使い方がよくわからない。
前の方がよかったな。

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おとぎ話(笑)23 [名作パロディー]

<シンデレラ>

「お義母さま、お義姉さま、私もお城の舞踏会に行きたいわ」
「おまえなんかが行けるわけないでしょ」
「そうよ。ドレスもないくせに」
「あんたは掃除でもしてな」

シクシク…シンデレラが泣いていると、黒い服の女が現れました。
「シンデレラ、泣くのはおやめなさい」
「もしかして、魔法使い? ドレスと馬車を出してくださるの?」
「いいえ、私は世界ハラスメント協会から参りました。さあ、今すぐ義母と義姉をパワハラで訴えましょう。泣き寝入りはいけません。立ち上がるのです!」

「いや、それよりドレスと馬車を……」


<笠地蔵>

「峠のお地蔵さんが雪まみれだったから、笠をかぶせてあげたよ」
「まあ、おじいさん、それはいいことをしましたね。もしかしたら今夜、お地蔵さんがお礼に来るかもしれませんよ」
「米に野菜に大判小判、いい正月になりそうだ」
「あ、おじいさん、噂をすれば玄関先で物音が!」
おじいさんとおばあさんは玄関の扉を開けました。
そこには、地蔵にかぶせた笠と、わずかばかりのレンタル料が置いてありました。

「ま……毎度あり……」


<みにくいアヒルの子>

『みにくいアヒルは、美しい白鳥になって大空へ飛び立ちましたとさ。おしまい』

「どう? 面白かった?」
「つまり、アヒルだと思っていた鳥は、実は白鳥だったってこと?」
「ええ、そうよ」
「ふうん。そういうことって稀にあるよね」
「……そうね」
「お母さん、実はボク、男に生まれたけど実は女なんだ」
「まさかのカミングアウト!」


<マッチ売りの少女>

少女がマッチを擦ると、炎の中にクリスマスのご馳走が浮かび上がりました。
七面鳥、ローストビーフ、マッシュポテト、アンチョビサラダ。
「うーん、この盛り付けは、才能ナシね」(プレバト見てる人しかわからないネタ)


<おむすびころりん>

おじいさんがおむすびを食べようとしたら、手が滑ってコロコロ転がり穴に落ちてしまいました。
追いかけたおじいさんも、穴に落ちてしまいました。

「おや、ここはネズミの国かい」
「おじいさん、このおむすびの中身はなあに?」
「梅干し? 昆布? おかか? それとも鮭? ツナマヨ?」
「ただの握り飯じゃよ。血圧が高いもんでなあ、塩分は控えているんじゃよ」

「じゃあ、いらな~い」


ネタに困ると登場するこのシリーズも、23作目になりました。
いつまで続くか……。


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神様派遣します [コメディー]

「はい、神様派遣センターです。どちらの神様をご所望でしょうか。はあ、学業の神様ですか。申し訳ございません。学業の神様は3月まで予約が入っておりまして。キャンセル待ちが125人となっております。なにぶん受験シーズンでございますから。安産の神様でしたら空きがございますが。それでは意味がない……。ごもっともでございます」

密着24時間。今もっとも注目される神様派遣業に密着した。
さっそく話を聞いてみよう。

「ええ、全国の神社の神様をご用意しております。今はみなさん、仕事やPTAや趣味で忙しいですからね、買い物もネットでする時代、神社に足を運ばずに神様を参拝できるシステムは、大変好評をいただいています」

センター長の木村は言う。
神様を商売にするなど言語道断との批判もあったが、いくつもの困難を乗り越えて来たという。

「トラブルも、たまにはありますよ。何でもいいから神様お願いっていうお客さまに、疫病神をお送りして叱られたことがあります」

木村は笑った。失敗を糧に、会社は成長したという。
こうした中にも、依頼電話は鳴り続ける。

「はい、神様派遣センターです。縁結びの神様ですか? はい、ちょうど空きがございます。すぐに向かっていただきますので、お名前とご住所を……はい? 家に来られるのは困る。たとえ神様でも他人を部屋に上げるのは嫌だと……。はあ、承知いたしました。では、ネット参拝をご希望ですね。パソコンですか?スマートフォンですか?……」

最近は、このようなネット参拝も増えているという。
神様派遣センターは24時間営業である。
深夜こそアルバイトに任せているが、殆どの時間はセンター長の木村自らが対応しているという。
これだけ依頼が多いと、相当の儲けがあるのではないだろうか。
赤裸々に尋ねてみた。

「儲けなんて全然ありませんよ。本当です。だってここには、貧乏神が常在しているんですよ。貧乏神を希望するお客様などいませんでしょう。何ならあなた、連れて帰ってくれます?」

木村は笑う。丁重にお断りした。
依頼電話は鳴り続ける。

「「はい、神様派遣センターです。あ、先ほどのお客様。学業の神様を予約なさいますか? 126人目のキャンセル待ちになりますが……はい? この際だから安産の神様でいい? 左様でございますか。では、安産の神様を手配いたします。お名前とご住所を……」

困った時の神頼み。どんな要望にも応えると、木村は笑った。

「だって、お客さまは神様ですもの」

密着24時。
神様派遣センターは、今日も眠らない。


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成人の日

一人娘の里奈が成人式を迎えた。
「振袖いらないからさ、その分のお金ちょうだい」
などとほざいて妻を激怒させたドライな娘だ。
結局観念して、里奈は妻が用意した振袖を着て出かけていった。

成人式は午前中に終わるが、バイト仲間と遊びに行くから帰らないという。
「昔は親戚が集まってお祝いしたものだけどな」
「いつの話? 今はそのまま同窓会に行ったり、彼氏とデートしたりするものよ」
「ふうん」
朝も着付けだ、ヘアメイクだと言って早朝に出かけたから、ろくに顔も見ていない。
父親なんてそんなものか。
ごろんと横になり、そのまま眠ってしまった。

ふと気配を感じて起き上がると、赤い振袖を着た里奈がいた。
「なんだ、バイト仲間と遊びに行ったんじゃないのか」
「え? 何言ってるの。工場で働いているのにアルバイトなんかしたらクビになっちゃうわよ」
笑ながら振り向いたのは、里奈ではなかった。
妹の陽子だ。とっくに死んだ妹の陽子が振袖を着て笑っている。
これは夢か。
「お兄ちゃん、この振袖、すごく評判良かったよ。無理させちゃってごめんね」
僕たちには父親がいなかった。
裕福ではなかったけど、母と金を出し合って陽子に振袖を買ってあげたのだ。
「私、この振袖を一生着るわ」
「バカだな。結婚したら振袖は着れないんだぞ」

陽子は、結婚しないまま25歳で逝った。
久しぶりに陽子の夢を見た。そういえば里奈は、少し陽子に似ている。

目が覚めたら1時半だった。昼飯も食わずに眠っていたようだ。
「お父さん、やっと起きた」
「夜眠れなくても知らないからね」
里奈がいた。赤い振袖を着ている。
「里奈、バイト仲間と遊びに行くんじゃないのか」
「中止になったの。急にみんな都合悪くなって。訳わかんないけど、あたしも何となく家に帰った方がいいような気がして」
「そうか」
生意気な里奈が、化粧のせいかやけにきれいに見える。
「今から3人で食事に行かない? 家族でお祝いしましょう」
「うん。じゃあ、着替えるか」
「お父さん、早くしてよね。お腹ペコペコ」
立ち上がり、もう一度里奈を見た。
「この振袖は、もしかして……」
「陽子ちゃんの振袖よ。よく似合っているでしょう」

あの夢の続きを思い出した。
「バカだな。結婚したら振袖は着れないんだぞ」
「じゃあ、お兄ちゃんが結婚して女の子が生まれたら、この振袖をあげる」
「ずいぶん先の話だな」
「そのときはみんなでお祝いしようね」

そうか。陽子が、里奈を家に帰してくれたのか。
どこかで陽子も祝ってくれているのかな。

3人で歩く街は、何だか少し照れくさかった。


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いつか、ママのように [公募]

鏡はうそつきだ。鏡にうつるわたしは、本当のわたしじゃない。
だって、パパもママもおばさんたちも、みんなわたしを「かわいい」というけれど、鏡にうつるわたしは、ちっともかわいくない。
鏡の中の世界は、うそばっかりだ。


私がそんなふうに思っていたのは幼稚園までで、小学校に入学すると、さすがに現実を思い知る。
私は決して、可愛い方ではなかった。
「かわいい」は、子ども全般に当てはまる言葉であり、それは顔ではなく仕草や言動に対するものだと知る。

ママは美人で、パパはハンサム。
美男美女のふたりから生まれたのに、なぜか私は全然似ていない。
腫れぼったい一重の目も、横に広がった丸い鼻も、何ひとつ似ていない。
「ママは美人なのにね」と陰で言う女子たちや、「おまえ、母ちゃんに全然似てねえな」と直接言ってくる無神経な男子たちに傷つき、その度私は鏡を見ながら泣きそうになる。

そして私は疑い始めた。もしかしたら、私はパパとママの本当の子どもではないのではないか。
どこかからもらわれたか、拾われて育ててもらっているのではないか。
「ママ、私は本当にパパとママの子どもなの?」
ついにママに尋ねたのは、小学三年生のときだった。ママは笑いながら言った。
「あなたは正真正銘、パパとママの子どもだよ。足の指を見てごらん。ママとそっくりでしょう」
言われた通り、わたしの足の指は、細くて長くて、ママの足の指とそっくりだった。
「凛々しい眉毛は、パパにそっくりね」
太い眉毛は似たくはなかったけれど、確かにそっくりだ。とりあえずはホッとした。

「ねえママ、それじゃあ、私も大人になったらママみたいな美人になれる?」
「もちろん、なれるわよ」
ママは、わたしの髪を撫でながら言った。
「だけどね、そのためには内面を磨かないとね。たくさん勉強して、いろんなことを学ぶの。人には優しく、他人を羨まない、そして無駄遣いをしないこと」
ママはそう言ってウインクをした。
それはきっと、大人が子供を躾けるための魔法みたいな言葉だ。
だけど私は信じた。ママのような美人になりたかったから。

それから私は、一生懸命勉強をした。たくさんの知識を身に着けて、成績はいつも一番だった。
友達にも優しくした。人が嫌がることも進んでやった。
おかげで私の容姿をバカにする子はいなくなって、学級委員や生徒会役員に、いつも推薦された。
言いつけを守って無駄遣いもしなかった。
正直、それが美人になることと関係あるのか疑問だったけれど、お年玉は全部貯金した。
高校は、地元一の進学校に進み、一流の大学に入り、そしてこの春、誰もが羨む一流企業に就職をした。

ママの言いつけを守りながら、私は毎朝毎朝、鏡を見た。
「今日はきれいになっているかな? 突然目が二重になっていないかな? 鼻がすらりと細くなっていないかな?」と。
だけど鏡に映っているのは、いつものさえない私だった。
どんなに内面を磨いたって、ちっとも変わらない。
メイクをするようになって少しはマシになったけれど、ママのような美人には程遠い。

研修を終えて希望の部署に配属された。
新入社員の中では仕事が出来る方だけど、課長のお気に入りは可愛い女子社員だ。
男性社員の接し方にも差があるような気がする。
仕事を頼むときの態度が、あの子と私とでは微妙に違う。
人を羨んではいけないと言い聞かせても、ため息ばかりの毎日だ。

入社して初めて行われた同期の飲み会に、私は誘われなかった。
誘われたのは可愛い女の子ばかりで、私は当然のようにその中には入れない。
胸の中の何かが爆発したように、私はママに泣きついた。

「ママの嘘つき。言いつけを守っても、ちっとも美人にならないわ」
 ママは、子どもの頃のように私の髪を優しく撫でた。
「言いつけを守ったから、いい会社に入れたでしょう? お給料もいいしボーナスもちゃんと出る。貯金もすぐに貯まるわ」
「お金ばかり貯まってもしょうがないよ」
「あなたの貯金が百万円になったら、いいお医者さまを紹介してあげるわ」
「お医者さま?」

「いい、一度にやっちゃだめよ。少しずつ、少しずつ直していくの」
「……ママ?」
 完璧に整った顔で、ママが微笑んだ。
一瞬ママの顔が、百万円に見えた。

++++++++++

公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「鏡」でした。
現実離れした話が多かったようです。
そういえば、前回お知らせした百物語の本に、阿刀田先生のお話も入っています。


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掲載のお知らせ

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

お正月、いかがお過ごすですか。
私は温泉に行ったり買い物に行ったり、日本経済を回してまいりました。
わが家の経済は破綻するかもしれませんが(笑)

新年早々、嬉しいお知らせがあります。
文溪社より発売された児童書
『5分ごとにひらく恐怖のとびら百物語⑤ 奇妙のとびら』
に、私の作品が載っています。

KIMG0843.JPG

1巻から5巻までのシリーズで、1冊に20話ずつ全部で百話の怖い話が載っています。
プロの作家さんと、一般公募の作品が一緒に載っています。
私の話は最後の5巻に載ったので、ようやく発売になりました。

筆名は変えてありますが、第84話のレクイエムという作品が私の物語です。
あまり怖くありませんので、怖いのが苦手な方も大丈夫。
よかったら読んでください。

地方の本屋には売ってないだろうなと思いながら、地元の本屋をのぞいたら
売ってた!!!
思わずちょっと目立つところに平積みしてきちゃった(笑)

みなさん、よかったらぜひぜひ、感想をお寄せください。
よろしくお願いします。


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カウントダウン

「よいお年を」と言われると、なんかフクザツ。
「よいお年」が「いい年」に聞こえてしまう。
どうせ私は「いい年」ですよ、と返したくなる。

そういえば、女性の年齢をクリスマスケーキに例えることがあった。
25日を過ぎたケーキは買い手がない。
つまり25歳を過ぎると貰い手がないってこと。
女性蔑視もいいところだ。
年齢を暦に例えるなら、私はもうどこにも属さない。
大晦日もとっくに過ぎている。

普段はひとりでも何ともないけれど、大晦日はさすがに寂しい。
そこで、せめて気分だけでも華やぐように、3,4年前からシャンパンカウントダウンをしている。
年が明ける10秒前からカウントダウンをして、年明けとともにシャンパンを開ける。
暖かい部屋で冷えたシャンパンを飲むのが、私の年明け。

さあ、カウントダウンが始まる。
10,9,8………3,2,1
ドッカ―ン!!!

えっ?なに、今の音。シャンパンを開けた音にしては大きすぎない?
窓の外に、うっすら煙が。
上着を羽織って慌てて外に飛び出した。
同じく飛び出した隣の住人が、「下の飲食店で爆発があったみたいですよ」と言った。
階段を使って下に降りると、飲食店から炎が出ていた。
マンションの住人たち、飲食店の客と店員、通りかかった野次馬たち。
こんなに大勢の人たちと年越しするのは初めてだ。

飲食店の炎は、消防と周りの人たちの協力によって程なく消火した。
幸いマンションは無事だった。
「年明け早々、大変でしたね」
隣の住人が話しかけてきた。
あまり話したことはないが、割と感じがいい。

「そうね。シャンパンを飲みそこなったわ」
「シャンパン?」
「毎年、年明けとともにシャンパンを開けてるの」
「いいですね。僕も飲みたいな」
「じゃあ、よかったらご一緒に」

……なんて妄想をしてみたけれど、それは現実にはならない。ただの妄想。
だって隣の住人は、新婚夫婦。
「じゃあ、おやすみなさい」と軽く会釈をして、奥さんの肩を抱いて帰って行った。

ああ。私も帰ろう。シャンパンよりも熱いほうじ茶が飲みたいわ。
いずれにしても、刺激的な一年になりそうね。

***********
ネットが突然使えなくなり、昨日から四苦八苦。
ようやく繋がったけど、またいつ使えなくなるかわからないので、取り急ぎアップします。

みなさま、一年間ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
よいお年をお迎えください。


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マッチを売る女 [名作パロディー]

女はマッチを売っていた。
働いていたマッチ工場が倒産して、退職金代わりに大量のマッチをもらったからだ。
再就職は決まらない。貯金もない。
せめてマッチを売って、生活費を稼がなければ。
「マッチはいりませんか。とても美しい炎が出ますよ」
雪がちらつく寒い夜、マッチはひとつも売れなかった。

女はマッチを1本擦ってみた。
「ああ、やっぱりきれいな炎だわ」
次の瞬間、炎の中にクリスマスツリーが浮かんだ。
「やだ、幻だわ。そういえば、今日はクリスマスね。去年までは職場の仲間とパーティをしていたわ」
女はもう1本マッチを擦った。
フライドチキンを囲む仲間たちの笑顔が見えた。
「ああ、みんな、どうしているかしら。再就職は決まったかしら」
もう1本擦ってみた。
暖かい部屋で、ビールを飲む仲間たち。見覚えのある壁紙だ。
「この部屋は、あゆ子の部屋だ。毎年この部屋に集まっていたな」
もう1本擦ってみたら、今度は声が聞こえてきた。

『ねえ、冬美、どうしてるかな』
冬美というのが女の名前だった。
『あの子、ケイタイ料金払ってないみたいでさ、連絡できないんだよ』
『街角でマッチ売ってるって噂だけど、まさかね』
『ありえないよ。売るならネットしょ』
『ちょっとぬけてるんだよね、冬美は』

女は愕然とした。これは今現在行われているパーティだ。
仲間たちは、会社を辞めても連絡を取り合って、集まっていたのだ。
もっとも、ケイタイ料金を払っていないので、女に連絡が来ることはなかった。

再びマッチを擦る。
『そろそろケーキ食べない?』
『うん、食べようか』
『あれ?ケーキは?』
『あっ!忘れた。だってケーキはいつも冬美が用意してたから』
『ああ、ケーキがないクリスマスなんて』

女が財布をひっくり返すと、3千円入っていた。
「待ってなさいよ。今ケーキを買っていくから。小さいケーキしか買えないけど、ないよりマシでしょ」
女は走った。あゆ子の家なら15分で着く。
「まったく、ぬけてるのはどっちよ。チキン、残しておいてよ」と叫びながら。

不思議なマッチは、その後ネットでバカ売れした。

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