So-net無料ブログ作成

強盗犯に焼きそばを [コメディー]

カップ焼きそばにお湯を注いでいたら、若い男が部屋に入ってきた。
手にはナイフを持っている。
「金を出せ」

僕はとりあえず焼きそばに蓋をして、砂時計をひっくり返してから両手を上げた。
「お金なんかないよ」
「うそつけ。さっきATMでおろしていただろう。それを見て後をつけてきたんだ」
「あ、そうなんだ。でもあのお金は父さんの治療費なんだ」
「親父さん入院してるのかよ。…でもそんなの俺には関係ねえ」
「お金に困ってるなら、2万円くらいならあげてもいいけど」
「ふざけるな。ガキの使いじゃねえんだ。2万もらって帰れるか」
「いくら必要なの?」
「50万だ。借金取りがしつこいんだ。早く返さないと金利が上がっちまう」
「けっこう大金だね」

3分経過。
「おい」
「はい?」
「3分経ったぞ。お湯捨てろよ」
あ、動いていいんだ。僕は台所に行って、湯切り穴からカップ焼きそばのお湯を捨てた。
濁って麺の匂いを吸い込んだお湯がシンクに流れていく。
「おい、ちょっと」
「ん?」
「お湯、もっとちゃんと捨てろよ。焼きそばが水っぽくなるだろうが」
口うるさい強盗だ。僕は思い切り振って、しずくも出ないほどにお湯を切って蓋を開けた。
「おい、蓋に野菜が付いてるだろうが。下手くそが!かやくは麺の下に入れてから、お湯を注ぐんだよ」
「そうか。そうすれば蓋に野菜が付かないんだね。勉強になったよ」
「感心してねえで早くソースを入れろよ。冷めちまうだろうが」
ソースをかけると、食欲をそそるいい匂いがした。

「食べていい?」
「ふざけるな。からしマヨネーズはどうしたんだよ」
「あ、忘れてた」
「ばかやろう。からしマヨネーズ入れないと物足りねえだろうが」
からしマヨネーズをかけると、アイボリーが茶色に溶け合って、これまた食欲をそそる。
「一口食べる?」
「いらねえよ。青のりもかかってねえ焼きそばが食えるか」
「あ、忘れてた」

男はそのあとも、紅ショウガはどうしたとか、飲み物は食う前に用意しておけとか、さんざんダメ出しをしながら僕が食べるのを見ていた。
「おい!」
「こ、今度は何?」
「スマホ見ながら食ってるんじゃねえよ。行儀悪いだろうが」
「あ、これもダメ?」
「当り前だ。その焼きそばがおまえの口に入るまでに、どれだけの人が働いてると思ってるんだよ。食うときは真剣に食え」
「わかった。君の言うとおりだね」
真面目な奴だな。何で強盗なんかしてるんだろう。

「ところで借金って、ギャンブルか何か?それとも女に貢いだとか?」
「ちがうよ。友達の保証人になったんだよ。あいつが逃げちまったから代わりに払ってるんだ。だけどよ、取り立てきつくて会社にまで押しかけてこられてさ、おかげでクビになっちまった。電気止められるしいつもビクビクしてるし、強盗するしかねえんだよ」
「じゃあ、お金貸そうか?」
「おまえも金貸しかよ」
「ちがうよ。僕は君よりちょっと金持ちなんだ。だから50万なら貸せるよ。そうだ。君は僕の会社で働くといいよ。お金は給料から少しずつ天引きするから。それでどう?」
「おまえ…いや、あんた…、あなたは社長ですか?」
「社長は父だよ。だけどさっき言ったように入院してるんだ。だから今は僕が社長だよ。君ひとりを雇うくらい何でもないよ。君、きっといい社員になるよ」

「それで…その会社とは…」
「星形フーズだよ」
「え?このカップ焼きそばの会社?」
「そういうこと。よかったら、一口食べる?」
「い、いただきます」
「じゃあ、ナイフ置いてね」

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村
nice!(12)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 12

コメント 8

SORI

リンさんさん こんばんは
楽しい物語に聞き入って、いや読み入ってしまました。人を見る目があるのですね。
by SORI (2014-06-17 19:57) 

海野久実

気弱な強盗と、物事に動じない主人公。
そのやり取りが抱腹絶倒ですね。
焼きそば作りのこだわりとか、面白かったです。

あ、そう言えば「虹の岬の喫茶店」(森沢明夫さん)と言う小説にも愛すべき強盗さんが登場します。
主人公に説得されて立ち直る感じね。

「アルジャーノンに花束を」の作者ダニエルキースさんがなくなりました。
何か偶然ですね、このタイトル。
>「強盗犯に焼きそばを」 

by 海野久実 (2014-06-19 00:51) 

雫石鉄也

面白かったです。
泥棒と被害者にあいだに生まれる奇妙な友情。
落語の「仏師屋盗人」をほうふつとさせる話しですね。
http://homepage3.nifty.com/rakugo/kamigata/rakug189.htm
by 雫石鉄也 (2014-06-20 14:09) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
本当は強盗なんかできない人なんでしょうね。
こんな出会いも面白いかも^^
by リンさん (2014-06-21 10:40) 

リンさん

<海野久実さん>
ありがとうございます。
娘とコントを考えていて思いついた話です。
強盗犯が焼きそばに強いこだわりを持っている設定。
こういうことってありそうですよね。

タイトルは「アルジャーノンに花束を」をもじったものですが、ホントに偶然でした。
by リンさん (2014-06-21 10:46) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
仏師屋盗人、読ませていただきました。
面白かったです。落語で聞いたらもっと面白いでしょうね。
いつの間にか立場が逆転して弟子みたいになってるのが笑えますね。
さげも絶妙。
落語っていいですね。
by リンさん (2014-06-21 10:50) 

さきしなのてるりん

インスタント焼きそばの出だしで独り者のアパート暮らしのさえない男をイメージしたから、社長ってのにはびっくり。泥棒もびっくりしたね。若旦那どんな家に住んでたのかな。すんなり部屋に入れるようなとこって。
by さきしなのてるりん (2014-06-29 20:58) 

リンさん

<さぎしなのてるりんさん>
そうですねえ~
とりあえず一戸建ての家で、昼間はカギを掛けない主義なんでしょうね。
意外と質素な若社長^^
by リンさん (2014-07-02 13:52) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0