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マリッジブルーの理由 [男と女ストーリー]

白川さんは、マリッジブルーに陥っていました。
周りからすれば、どうでもいいことで悩んでいたのです。
白川雪乃という美しい名前の彼女は、容姿も名前に負けないくらいきれいです。
白い肌、大きな瞳、血色のいい唇。雪原に咲く一輪の花のような美しさです。
会う人は必ずこう言います。私も言いました。
「お名前にぴったりの、きれいな方ですね」

そう、白川さんは、この名前を変えたくないのです。
結婚すれば苗字が変わります。夫婦別姓はまだ認められていません。
たとえ認められたとしても、頭の固い双方の両親はいい顔をしないだろうと、白川さんはうなだれました。

彼の名前は灰田といいます。結婚したら灰田雪乃になります。
まるで踏み潰されてぐちゃぐちゃになった路上の雪だと、白川さんは顔をしかめて訴えるのです。
「彼はステキな人よ。優しくて包容力があって、尊敬できる人よ。この先、彼のようなステキな人に巡り合える奇跡は起こらないわ」
問題は、苗字だけなのだと、白川さんは溜息をつきました。

「彼に、白川の姓を名乗ってもらったらどうですか?」
「無理よ。彼、ひとり息子だもの。彼が良くても灰田家のご先祖様が許さないわ」
さんざん悩んで気分もすぐれず、泣いた夜もたくさんありました。
それでも結婚式の準備は着々と進みました。

結婚式は6月の大安吉日。
梅雨の晴れ間の青空に、ステキな笑顔がそろいました。
白川さんは、マリッジブルーも何のその。晴れやかな顔で式に臨みました。
その花嫁姿は、新郎の灰田氏でさえも言葉を失うほど。
まるで時が止まったように見とれてしまう美しさです。
「私、今日から灰田雪乃になります」
優しく笑ったその顔には、一片の曇りもありません。

どんな心境の変化があったのでしょう。 
うふふ。それは、優秀なウエディングプランナーである私のおかげです。

数週間前、ドレスの試着にやってきた白川さんは、相変わらずの暗い顔をしていました。
美人の上にスタイルのいい白川さんは、どんなドレスも似合いました。
純白のドレス、あわいピンクのドレス、シックな黒のドレス。
どれも彼女の美しさを引き出すには十分すぎるほどでした。

そして最後に私は、彼女にとって最高のドレスを提案しました。
「このドレスはいかがでしょう」
「あら、きれいな色ね」
シンプルなデザインですが、それは彼女にとてもよく似合いました。
まるで、彼女のために作られたようなドレスでした。
「いいわね。これにしようかな」

ヨッシャ!と、私は心の中でガッツポーズをしました。
「白川さん、このドレスの色は、スノーグレーと言います。気品があって素敵でしょう」
「スノーグレー?」
「ええ。雪と灰色です。どうです。混ざり合うとこんなにきれいな色になるんですよ」
「まあ、そうなの。スノーグレーか。なんてステキ。すごく気に入ったわ。ありがとう」

そんなわけで、彼女の悩みは、今日の青空のようにすっきり晴れたのです。
白川さん、いや、灰田夫人、どうかブーケは私に投げてくださいな。
あ~あ、羨ましい。私も早く結婚したい。

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マルハナバチ

あー、こういう風にブルーになる人もありそうですね。
結婚したら「アンドーナツ」になっちゃった「なつ」さんとか。このネタは旧いか。
「砂糖と塩」になっちゃった「敏夫」くんとかね!


by マルハナバチ (2019-06-22 18:22) 

ぼんぼちぼちぼち

ものすごく優秀なウエディングプランナーさんでやすね。
まじな話し、あっしは生まれた時の苗字がものすごくイヤでやした。何故ならとても多過ぎる苗字だったから。
で、結婚して苗字が変わることを夢に思い続けてやした。
でも結婚したら、ますます多過ぎの苗字になってしまい、しまった!うっかりしてた!と思いやした。
苗字がイヤでという理由ではなかったんでやすが、その人とは離婚し、何年後かに別の人と結婚しやした。
今度は、珍しいというほどではないけど、多過ぎというほどでもなく、まあまあの多さで納得できやした。
その人とも結局離婚してしまいやしたが、苗字は戻さずにいやす。
いい置き土産を貰った気持ちでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2019-06-22 21:35) 

SORI

リンさんさん こんばんは
マリッジブルーの解決の参考になる物語です。いろんな解決策が考え出す達人なのですね。
by SORI (2019-06-22 21:44) 

まるこ

リンさん、こんばんは。

どんな事も受け止め方次第って事ですよね。
私もそういう風に頑張っていこうと思います^^

そしてウエディングプランナーさんにも幸あれ!
by まるこ (2019-06-22 22:41) 

雫石鉄也

名前なんて記号ですから、そんなに気にすることはないと思います。ようは人がどう呼ぶかです。
私の名前雫石鉄也は本名ではありません。ペンネームです。
私はSFファン歴が長いです。同人誌に作品を発表するときは雫石鉄也でします。SF関係の友だちも本名ではなく「雫石さん」と呼びます。もう40年ぐらい雫石鉄也です。
眉村卓さんは本名を村上卓児さんといいます。でも、あの人は村上さんではなく眉村さんで通ってます。
桂米朝師匠は本名中川清さんで。でもあの人は米朝さんですね。
私のSF関係の友人で巽孝之さんという人がおります。奥方は小谷真理さんといいます。夫婦別姓で別に違和感はなく巽氏本人は小谷氏とエッセイなどに自分の奥方のことを書いてます。
by 雫石鉄也 (2019-06-23 08:30) 

dan

たかが名前されど名前。
恋をしたとき彼の苗字の下にこっそり自分の名前を
書いてみたことありませんか?
雪乃さんの贅沢な悩みに真剣に応えてあげたプランナーさんに拍手

by dan (2019-06-24 11:31) 

リンさん

<マルハナバチさん>
初めまして。コメントありがとうございます。
砂糖と塩。ああ、絶対いますね。佐藤としおさん。
そういうのを考えるの、楽しいですね。

by リンさん (2019-06-26 19:29) 

リンさん

<ぼんぼちぼちぼちさん>
ありがとうございます。
苗字、戻していないんですね。
考えてみると、気に入った苗字の人と結婚できる人は少ないかもしれませんね。
私は断然、旧姓の方が好きです。
by リンさん (2019-06-26 19:32) 

リンさん

<SORIさん>
ありがとうございます。
このウエディングプランナーに出逢えて、白川さんは幸せでしたね。
やっぱりいい気分で晴れの日を迎えたいですものね。
by リンさん (2019-06-26 19:36) 

リンさん

<まるこさん>
ありがとうございます。
そうですね。ちょっとしたきっかけで、考えが変わることってあると思います。
私も頑張ろう^^
by リンさん (2019-06-26 19:37) 

リンさん

<雫石鉄也さん>
ありがとうございます。
私は結婚して名前が変わるのが嫌でした。
ちょっと発音しずらい苗字なんですよね。
その点、ペンネームは好きな名前に出来るからいいですね。
雫石さんのペンネーム、すごくいいです。
by リンさん (2019-06-26 19:39) 

リンさん

<danさん>
ありがとうございます。
ありますよ。好きな人の苗字に自分の名前、重ねてましたね^^
私、未だに芸能人と疑似恋愛してますよ(笑)
by リンさん (2019-06-26 20:59) 

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