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おおみそか [コメディー]

お寺の除夜の鐘が聞こえる。
彼女と過ごす初めての大晦日。
除夜の鐘が鳴り終わったら、彼女にプロポーズしようと決めていたのに。

彼女はずっとスマホを見ている。
厳かに除夜の鐘を聞く精神は、持ち合わせていないようだ。

「ああ、負けた。こいつマジ強い」
どうやらネットの誰かとゲームで対戦しているようだ。
「こいつさあ、相当課金してるね。だから強いんだよ。ああ、私も課金したいなあ。宝くじ当たらないかな~」
煩悩だらけじゃないか。

「ねえ、もう年が明けるよ」
「そうだね」
108つの鐘が終わった。

「おめでとう」と、僕は彼女に言った。
「ありがとう。やっと難関のステージが終わったわ」
いや、新年のあいさつの「おめでとう」なんだけど……。

難関のステージ終わったのに、彼女はまだスマホを離さない。
ピンポン♪
僕のスマホにラインが来た。目の前の彼女からだ。
『あけおめ~[ハート]

やっと年が明けたことに気づいたんだね。
僕もラインを返した。
『あけおめ。結婚する?』
彼女から、『りょうか~い』の動くスタンプ。

え~~~っと、これでいいのかな? 僕たち。

***
あっという間におおみそか。
おせちも作り終え、あとはそばを食べるだけの我が家です。
温泉にでも行きたいところですが^^
今年もお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。


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最後のドライブ [公募]

75歳になった正吉さんは、運転免許を返納することを決めました。
運転が好きな正吉さんにとって、それは大きな決断でした。
「事故を起こしてからじゃ遅いものね」と、家族はみな大賛成でしたが、私はとても寂しいです。だって私は、正吉さんの車です。
正吉さんは十年間、私を大切に乗ってくれました。私は正吉さんの運転が、とても好きなのです。

うららかな春、桜のつぼみもふくらみました。
正吉さんは、私をていねいに洗ってから、ゆっくり運転席に乗り込みました。
「さて、ドライブに出かけるか」
ひとりごとをつぶやいて、エンジンをかけました。私は思い切って話しかけました。
「最後のドライブですね」
車が話しかけたのに、正吉さんは驚きもせず「そうだね」と言いました。
まるで私が言葉を話せることを、知っているようです。

「君とはいろんなところに行ったね」
「8年前には北海道へ行きましたね」
「あれが最後の遠出だったな」
「カーフェリーに乗ったときは、とても緊張しました」
「車でも緊張するのかね」
「海を渡るのは初めてでしたから」
「そうかい」
正吉さんは笑いながら、ハンドルを右に切りました。
正吉さんの運転はとてもスムーズです。いつだって安全運転です。

「最近はよく、お孫さんの学校のお迎えに行きましたね」
「うん。部活で遅くなると迎えに行ったな」
正吉さんのお孫さんは、私に乗り込むと決まって言いました。
「おじいちゃんの車、演歌ばっかり」
正吉さんはお孫さんのために、よくわからないポップスを無理してかけていましたね。
正吉さんは、ギアを手際よく切り替えながら、急な坂道を上りました。
行き先がわかりました。正吉さんの奥さまのお墓です。
免許を返したら、なかなか行けなくなるから、最後のドライブはここと決めていたのでしょう。

お墓の駐車場で、私は正吉さんを待ちました。
水仙の花が光を集めたようにきれいに咲いています。
正吉さんの奥さまは優しい方でした。
きちんと足をそろえて助手席に座り、ドアを静かに閉めてくれる方でした。
北海道旅行に行ったときはお元気でしたのに、その数年後に亡くなりました。
正吉さんは、奥様とどんなお話をしているのでしょう。

しばらくして、正吉さんが戻ってきました。
「待たせたね」
「いいえ。ぽかぽかして気持ちいいです」
「妻がよろしく言っていたよ。君の静かなエンジン音が好きだったと言っていた」
「嬉しいです。でも、私のエンジン音が静かなのは、あなたのお手入れがいいからです」
正吉さんは、嬉しそうに笑いながら、坂道を下りました。
歩行者がいるときはスピードを緩め、停止線の手前できっちり停まります。

「あの、本当にもう運転しないのですか?」
「ああ、もう決めたんだ」
「もしや、あの日のことがきっかけですか?」
数か月前のことです。正吉さんは、コンクリートの塀に私をぶつけました。
同乗者もなく、本人にも怪我はありませんでしたが、正吉さんはひどく落ち込みました。
正吉さんは、ブレーキとアクセルを踏み間違えてしまったのです。
「やはりね、認めたくないが判断力がにぶっているんだよ。あのときは、君を傷つけてしまってすまなかったね」
「いえ、大したことではありません。きれいに直してくださいましたし」

正吉さんは、交差点をゆっくり左折しました。次の角を曲がれば家に着いてしまいます。
最後のドライブが終わってしまいます。
出来ることならこのままずっと、あなたを乗せて走り続けたい。
そんな私に、正吉さんは優しく言いました。
「孫の春菜が、運転免許をとったんだ。今度から、君は春菜の車になるんだよ」
演歌がきらいなお孫さんは、この春高校を卒業しました。
そうですか。あの子が私を運転するのですね。

家に着きました。正吉さんは慎重に私をガレージに入れました。
私にとって、一番落ち着く場所です。
正吉さんは、エンジンを止めると深く息を吐き、ハンドルを優しく撫でました。
そして私に言ってくれました。
「ありがとう」

最後のドライブが終わりました。そして、正吉さんと私の、最初で最後の会話が終わりました。
桜が満開になるころに、私のお尻に若葉マークが貼られるでしょう。
きっと春菜さんは、ひどく緊張しながらハンドルを握るのでしょうね。
正吉さんにはナイショですが、少しワクワクしています。

********

ある童話賞に応募した落選作です。
わりとタイムリーなものをテーマにしてみたのですが、そういうことではなかったみたい^^;


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クリスマスパーティ始まりました [競作]

、メリークリスマス!!

今年も、もぐらさんとはるさんの「クリスマスパーティ」が始まりました。
クリスマスのお話を、ふたりで朗読しています。
私の「スノードームの街」も朗読してくれました。
とてもステキです。

まだ全部は聴いていないのですが、イブの夜、ゆっくり聴こうと思っています。
みなさまもぜひ、聴いてみてくださいね。
こちらです↓
http://xmas-paty.seesaa.net/

それから、もぐらさんの「さとる文庫」で、「2017年のビリージョエル」を朗読していただきました。
こちらもぜひ、聴いてくださいね。
温かい気持ちになりますよ。

http://moguravoice.seesaa.net/article/455725789.html

では、ステキなクリスマスを。


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同窓会の夜 [コメディー]

中学校の同窓会は、あくびの数を数えたくなるほど退屈だった。
30代も半ばになると、みんなダンナの話と子どもの話ばかり。
独身であることを告げると、返ってくる反応は金太郎飴みたいに同じ。
「自由でいいね~」「羨ましい」

うんざりしていたところに現れたのは、学年一のモテ男、田所君だ。
「遅れてごめん」と入ってきた田所君は、36歳とは思えないほど若くてイケメンでスラっとして爽やかだった。
ダンナの話や子供の話で盛り上がっていた女子たちは、たちまち田所君を囲んだ。
「田所君、変わらないわ」
「何飲む?」
「お仕事は? 結婚は? うそ、独身なの!」
田所君は、目がハートの女子たちをやんわりかわして、私の方へ歩いてきた。
「久しぶり、香川さん」
田所君が私の隣に落ち着いてしまったので、女子たちは再びダンナや子供の話に戻った。

「香川さん、マキちゃん元気?」
開口一番、田所君が言った。マキは私の妹だ。
ひとつ下のマキと田所君は、中学から高校まで付き合っていた。
「俺、何人かの女性と付き合ったけど、一番はマキちゃんなんだ。青春だったからな」
「まさかマキが忘れなくて独身ってわけじゃないよね。それだったらご愁傷様。マキは結婚して3人の子持ちよ。ちなみに私は独身だけど」
「えっ、3人も。ダンナさんはどんな人?」
「IT企業のエリートよ。ちなみに私は独身よ」
「そうか。幸せなんだな。優しいお母さんなんだろうな」
「毎日怒鳴ってばかりよ。だって3人もいるんだもん。ちなみに私は独身で子どももいないけど」
「写真ないの?」
田所君は、私の独身アピールをことごとく無視した挙句、マキの写真を見せろという。

私はスマホの写真をスクロールして、田所君に見せた。
「ほら、これがマキよ」
「えっ…変わったね」
3倍ほどに増えた体重。ぼさぼさの髪。子供を抱く太い腕。
「マキ、子供産むたびに太ってね。すごい貫禄よ」
「へ、へえ…」
田所君は「じゃあ」と立ち上がり、他のグループのところへ行った。
急に興味を失くしたようだ。もっとも最初から、私に興味があったわけではない。

2次会を辞退して家に帰ると、風呂上がりのマキが私を出迎えた。
「おかえり、お姉さん。同窓会どうだった?」
スッピンなのに、35歳とは思えないほど若くてきれいでスリムなマキは、本当は独身で実家暮らしだ。
さっき田所君に見せた写真は、先日遊びに来た従妹の写真。
3人の子持ちで、子供を産むたびに太った従妹の写真だ。

「ねえ、お姉さん、同窓会に田所さん来てた?」
「うん。来てたよ」
「彼、結婚してるの?」
「うん。3人の子持ちだって。髪の毛も薄くてさ、おまけに太って太鼓腹よ。昔の面影はないわね」
「そうなの?」
「うん。子供産むたびに太ったんだって」
「まあ…。思い出は、きれいなまま取っておいた方がいいってことね」
「そうだね」
「あれ、お姉さん、田所さんは子供産まないでしょう?」
あ……やべえ。


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蜘蛛の巣 [公募]

溜息が出るほど美しい。

私の家と隣の家を結ぶように張られた大きな蜘蛛の巣は、見事なシンメトリーを描き、繊細な職人が魂を込めて仕上げた芸術品のようだ。
明け方に降った雨の粒が綱渡りのように糸を伝い、真珠のように輝いている。

新聞を取りに来たのも忘れてうっとりと見入っていると、隣の奥さんが大きなゴミ袋を持って出てきた。
「あら、いやだよ。こんな大きな蜘蛛の巣」
奥さんは竹箒を持ってきて、あっという間に蜘蛛の巣を壊した。
忌々しそうに箒に絡みついた糸を地面に叩きつけ、見つめる私に「なによ」という視線を返した。
隣同士でありながら、私たちは壊滅的に仲が悪い。
だから「あなたには、あの美しさがわからないのね」などと余計なことは言わない。
どんな罵声が返ってくるか、容易に想像できるからだ。

私が住んでいる土地は、以前隣の所有物だった。
ひとり息子が作った借金を返すために売却したらしい。
いずれはその息子のために家を建て、まさにスープの冷めない距離で嫁や孫と仲良く暮らしたかったのだろう。
だけど息子は四十にして未だ独身で、手放した土地には都会から来た若夫婦が家を建てた。
気に入らなかったのだろう。引っ越しの挨拶にタオルを持って行くと、「ブランドものしか使わないので」と、その場で突っ返された。
夫は「上手くやってくれよ。田舎のご近所トラブルなんてごめんだからな」と、吐き出すように言った。

それからは、下着をベランダに干すなとか、服装が派手だとか、つまらないことをいろいろ言ってきた。
私がいつも「はいはい」と聞き流していたら苦情は減ったが、「うちの息子に色目を使ってる」などと、ありもしない噂を流された。
どのみち隣人の評判はすこぶる悪く、私に同情する声の方が多かった。

隣の二階から視線を感じるようになったのは、あの美しい蜘蛛の巣を見た後だった。
事業に失敗してから引き籠っている隣の息子だ。奥さんのように恨みや妬みの視線とは違う。彼は、私を見ている。

深夜のコンビニに、彼がいた。昼間は引き籠って夜になると出てくる。
まるで夜光虫だ。彼はレジを済ませた私の後ろにピタリとついて、「最近ダンナ見ないね」と言った。
「出張よ」と答えると「じゃあ、行ってもいい?」などと言い出した。
「バカじゃないの」
無視して歩き出すと後をついてくる。方向が同じとはいえ気味が悪いので足を速めた。

「ねえ、蜘蛛の巣、見てたよね」
背後から彼が言った。思わず立ち止まった。
「きれいだったよね。大きくて、見事なシンメトリーでさ、朝陽にキラキラ輝いて、まるで芸術だったよね」
「そうね」
「同じ時間に同じものを見て、同じように感動していたんだよ。俺たち」
「だから何? 確かにきれいだったわよ。でも、それを壊したのはあなたのお母さんよ」
「そう。何でも壊すんだ、あの人は。俺がきれいだと思うもの、俺が好きなもの、俺が愛するもの、全部壊してしまうんだ」
彼は泣きそうな顔で震えていた。外灯の下で翅を擦り合わせる蛾のように無様だ。
「あんたも、そのうち壊されるよ」
「もう壊れているわ」
私は再び速足で歩き出した。彼はまるで外灯の下が定位置のように蹲っていた。

もう壊れている。私の家は、とっくに壊れている。
夫は出張になど行っていない。会社の近くにアパートを借りている。
もともと田舎の一軒家などに、夫は住みたくなかったのだ。
この家は、私の親が建てた家だ。
狭い団地暮らしだから子供が出来ないのだという父の余計な一言が、夫の自尊心を傷つけた。
それに加えて隣人トラブルに見舞われ、うんざりしてしまったのだ。

家に帰って、二階の窓から向い合せた彼の部屋を見た。電気は消えている。
夜光虫は、今も夜の町を彷徨っているのだろう。

ふと、一本の細い糸が、彼の部屋と私の部屋を結ぶように張っているのに気づいた。
蜘蛛が、糸の上を這うようにこちらに向かってくる。
私は想像した。彼が、あの蜘蛛のように糸の上を這いながら、私のところに来ることを。
異常で醜悪な母親を欺いて、忍者のように息をひそめて逢いに来ることを。
そうすれば私は迷わず彼を受け入れる。毛嫌いしていた男を、簡単に受け入れてしまう。

なぜそんなことを思ったのだろう。
自分勝手な夫への当てつけ? 理不尽な隣人への復讐? いや、きっと、どちらでもない。
私はただ、見たいのだ。
朝焼けに輝く蜘蛛の巣を、何度壊されてもすぐに再生する、強くて美しい蜘蛛の巣を、誰かと並んで見たいのだ。
同じものを見て、同じように感動したい。ただ、それだけだ。

*****
公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
今回は、ちょっと違う雰囲気の作品を出してみたのですが、イマイチでした。
ところで、公募ガイドでポイントのサービスが始まりました。
例えばTO-BEなら、出しただけで10P、佳作が50P、最優秀が100P。
そして9日の発売日に、ご親切にポイント追加のお知らせというメールが来ました。
「今回のポイント10P」
え……それって参加賞だよね。
雑誌見る前に結果がわかるってどうだろう?
私は定期購読だから毎月届きますが、このメール見て買うの止めちゃう人っていないかな?
余計な心配ですが……

ところで、9日発売の公募ガイド、家に届いたのは13日の朝でした。
配送業者の関係かもしれませんが、4日遅れはちょっと……ですよね~


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2017年のビリージョエル

クリスマスイヴの夜、僕はリボンのついたLPレコードを抱えて走っていた。
彼女が好きなビリージョエル。喜ぶ顔が目に浮かぶ。
少し遅れて予約したレストランに着くと、彼女は来ていなかった。
店員が、「お連れ様からです」と、封筒を差し出した。
色気も何もない茶封筒に、ノートの切れ端に書いたような殴り書き。
『ごめんね。さようなら』
多少の予感はあった。だけどイヴの夜に、これはないだろう。
彼女はその後、金持ちの愛人になったとか、エイズで死んだとか、いろんな噂が飛び交った。だけど何のことはない。実家に帰って幼なじみと結婚したらしい。
要するに、二股をかけられていただけの苦い思い出だ。

ビリージョエルのレコードは、けっきょく一度も聞いていない。
そしてまもなく、レコードの時代が終わりを告げた。

数年後に結婚して、父親になった。
ひとり息子はこの春社会人になり、初めてのボーナスで妻と僕にプレゼントをくれた。
「少し早いけど、クリスマスプレゼント」
妻には、天然石のブレスレット。
僕には、レコードプレーヤーだった。
「おどろいたな。今でも売っているのか」
「レコードが、ちょっとしたブームになっているんだ。お父さん、大切にしているレコードがあるんでしょう。聴きたいんじゃないかって、お母さんが言うから」
「そうよ。お父さん、引っ越しのたびに捨てずに持ってくるレコードがあるじゃない」

ビリージョエルだ。
昔の恋人への未練などでは決してない。
一度も聞いていないレコードを、捨てるのが惜しかっただけだ。

「ねえ、聴いてみましょうよ」
「おれもレコードって興味ある。聴いたことないし」
「そうか」
僕は立ち上がり、CDラックの奥からレコードを取り出した。
レコードは、長い年月歪むこともなく、かけてもらえるのを待っていたように見えた。
針を落とすと、じりじりと懐かしい音がした。
息子が「おお~」と小さく声を上げた。
口笛で始まるストレンジャー、軽快なアップダウンガール。
じつは、有名な歌しか僕は知らない。彼女のために買ったレコードだから。

温かい部屋に、アナログの歌声が響く。
「いいわね。ビリージョエル」妻がうっとりと言う。
「すげえな。おれ、ハマりそう」息子が楽しそうに言う。
レコードをかけただけなのに、こんなに優しい時間が流れることに少し驚いた。
プレーヤーを囲む僕たち家族は、きっと最高に幸せだ。

このレコードはもはや、ビリージョエルが好きな彼女のために買ったものではない。
2017年の12月に、大切な家族と聴くために買ったものだ。
そう思うことにした。

「なあ、今年のイヴは、レストランで食事でもするか」
「ムリ、おれ、彼女とデート」
「ごめんね。私、パート仲間と忘年会」

ああ、ビリージョエルはやっぱりちょっと切ない。


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