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サンタクロースからの手紙 [競作]

やけに寒い夜だった。世界中の子供たちのもとに、一通の手紙が舞い下りた。
それはサンタクロースからの手紙で、子どもたちは目を輝かせた。
興奮しながら封を切り、字が読めない子は親にせがみ、ワクワクしながら手紙を読んだ。
しかし読み終わった子どもたちは、一様に顔を曇らせた。

『よい子のみなさんへ。悲しいお知らせです。
わたしはもう、ずいぶんなおじいさんです。重いプレゼントを運ぶのも、ソリに乗るのも一苦労です。プレゼントを配る気力もありません。もう引退します。ごめんね。サンタクロースより』

これには世界中が大騒ぎ。
翌朝の報道番組は、トップニュースで伝えた。
「サンタクロースが来なかったら、プレゼントはどうするんです?」
「何とか引退を思いとどまってはくれないだろうか。世界中の首脳が頼めば何とかなるのでは?」
「サンタクロースがどこに住んでいるのか、誰も知りませんよ」
「では、プレゼントは親があげることにしたらどうでしょう」
「それでは格差が生まれる。親のいない子はどうするんだ」
「宅配業者に依頼したらどうでしょう」
「コストがかかる。サンタクロースは無償だったが、依頼となるとそうはいかない」
「そんな予算は出せませんよ」

議論に議論を重ねても結論は出ず、とうとうクリスマスイブがやってきた。
街は心なしか沈んでいる。
子どもたちの顔からは、笑顔が消えた。
教会で祈っても、家族でケーキを食べても、プレゼントがもらえない悲しみは拭えない。

しかしクリスマスの朝、目覚めた子供たちの枕元には、ちゃんとプレゼントがあったのだ。
きれいにラッピングされて、子どもたちが欲しいと願ったものが置いてあった。
「わーい、サンタクロースは引退しなかったんだ!」
子どもたちは大はしゃぎ。
もちろんテレビもトップニュースでこれを伝えた。
「サンタクロースは引退していませんでした。しかも、子どもたちが欲しいと思っていたものを送ってくれたのです。なんて素晴らしい」
「サンタのサプライズだったのかな。まったく人騒がせだ」

誰よりも驚いたのは、南の島でバカンスを楽しんでいたサンタクロースだ。
「うそだろ! わしはプレゼントなど配っておらんぞ」

さてさて、プレゼントを子どもたちの枕元に置いたのは、いったい誰でしょう。
とある街頭インタビューに答えるお父さん。
「ABC放送です。子どもたちにプレゼントをあげたのは、親御さんではないかという意見も出ていますが」
「ええ?サンタクロースだろ。俺はプレゼントなんかあげてないぜ」
カメラにウインクをして笑顔で立ち去るお父さん。

お父さんか、お母さんか、おじいちゃんか、おばあちゃんか、はたまた親切な優しい他人か、誰が送ったかなんて、どうでもいい。
だって本物のサンタクロースを見た人は、誰もいないのだから。


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毎年恒例「もぐらさんとはるさんのクリスマス」に向けて書いた作品です。
クリスマスが楽しみですね。
クリスマスパーティは、こちらです↓
http://xmas-paty.seesaa.net/


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定年後の計画 [コメディー]

「定年退職したら、旅行でもしようか」
「いいわね。宇宙旅行がいいわ。私、行きたい星があるの」
「宇宙か。危なくない? この前宇宙船がブラックホールに吸い込まれる事件があっただろう」
「あんなの稀よ。100年に一回の大惨事だわ」
「それもそうだな。地球にいても危険なことはあるしな」
「そうよ。この前、宇宙生物に噛まれて入院した人がいたわ」
「簡単にペットを捨てる時代だからな」
「ねえ、いっそどこかの星に移住しない? 政府も勧めているのよ。とにかく人口が増えすぎちゃって」
「それもいいな。人工じゃなくて、本物の海がある星がいいな」
「高いわよ。退職金、たくさん出るの?」
「そりゃあ出るだろう。100年も働いているんだぞ」
「昔は定年が60歳だって聞いたけど、早いわよね。残りの100年、どうやって過ごしたのかしら」
「寿命が違うだろう。そのころは100年生きれば長寿って言われた時代だ」
「100歳なんて、働き盛りよね」

「おっと、ボスから呼び出しだ。出かけてくる」
「気を付けてね。スカイハイウエイ、事故渋滞みたいよ」
「たまにいるんだよな。マシンに頼らずハンドル握るやつ。だから事故を起こすんだ」
「行ってらっしゃい」

「ボス、お呼びですか?」
「ああ、君、すまんが来月からポンコツ星の工場に出向してくれんか」
「え? 私、もうすぐ定年ですが」
「それなんだが、定年を120歳から130歳に引き上げることにした」
「えええ~」
「政府からの要請だ。人生150年と言われて久しいが、今や160歳、170歳はザラにいる。どうせなら働いて、税金を納めてもらおうというわけだ」

「ええ!ポンコツ星に単身赴任?」
「そうなんだ。家族は連れていけないんだ。体制が整ってないらしい」
「わかったわ。寂しいけど待ってる。10年経ったら私、128歳のおばあさんだわ」
「大丈夫。君は何歳になってもきれいだよ」
「ありがとう、身体に気を付けてね」

〈10年後〉
「ただいま。やっと終わった」
「あなた、おかえりなさい」
「ようやく定年だ。旅行の計画を立てよう」
「それがね、あなたがポンコツ星に行っている間に法律が変わってね、定年制度が無くなったのよ。生きてる間はずっと働くことになったのよ」
「そ、そんな!じゃあ、退職金はどうなるんだ」
「あなたが死んだ後に出るらしいわ。だから私、あなたより10年以上は長生きしたいの。っていうことで、アンチエイジングジムに行ってくるわ」

死ぬまで働きたくは…ない。


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今夜はカレー [コメディー]

『今夜はカレーです』

昼休み前に来る妻からのライン。
そうか、今夜はカレーか。
「お、先輩、今夜はカレーですか」
後輩の山田君がスマホを覗き込んで言った。
「毎日ライン送ってくるんですか? ラブラブですね」
「そんなんじゃないよ。昼飯と晩飯が被らないように送ってもらってるんだ。昼カレー食べて、夜もカレーだったらガッカリだろ」
「へえ。いいですね」
「山田君もそうしなよ。奥さんに送ってもらえばいいだろ」
「いや、僕は弁当ですから」
「なんだ、愛妻弁当か。そっちの方がラブラブじゃないか」
「そんなにいいものじゃありませんよ」
「またまた照れちゃって。弁当のおかずは何だい?」
「……カレーです」
「えっ? 弁当がカレー?」
「はい。昨夜のメニューがカレーだったので」
「ついでに聞くが、朝飯は?」
「カレーです」
「あえて聞くが、今日の晩飯は?」
「もちろんカレーです」
「3食、いや、4食連続でカレーはキツイな」
「いいんです。ルーから作る妻のカレーは美味しいですから」
山田君は、少し寂しそうに笑った。

家に帰ってカレーを食べながら、妻にその話をした。
「いくら美味しくても、4食連続はキツイよな。昼飯くらいは好きなものを食いたいよ」
「そうね。そう思うから私、お弁当はあえて作らないのよ」
「そういえば、うちのカレーはいつも1食だね。2日目のカレーがないのはどうして?」
「ああ、だって二人分しか買ってないもん」
ん? 買ってない? 作ってないじゃなくて?

妻が風呂に入っている間、そうっと冷蔵庫を開けてみた。
出た~!レトルトの山。
カレー、牛丼、中華丼。インスタントの味噌汁にスープ。
冷凍室にはグラタン、コロッケ、ラーメン、ギョーザにハンバーグ。
全部妻の得意料理じゃないか。

ルーから作るカレーって、どんな味だろう。
山田君、僕は今、モーレツに君が羨ましい。


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ピンときた [公募]

不動産会社に勤める矢野詩織は、逞しい営業力で女性初の営業課長になった。
彼女の武器は高学歴でも、特別なスキルでも、魅力的な容姿でもない。
彼女の武器は、直観力だ。
「ピンときた」が詩織の口癖で、いい物件、いいオーナー、いいクライアントを一瞬で見極める力を持っていた。
詩織がピンときた客は、百パーセントの確率で商談が成立する。
逆にピンとこない客や物件からは、さっと引く。まったく無駄がないのだ。

「矢野さん、駅前で居酒屋をやりたいという知人がいるんだが、何とかならないかね。出来れば居抜きで探してくれないか」
「部長、駅前は無理ですよ。空いているテナントはないし、どの店も繁盛しているから大金を積まれても売りませんよ」
ピンとこない話は、例え部長からの依頼でもきっぱり断る。できる女に忖度はない。

部下を誘って、飲みに行くことも多い。酔うと部下は無礼講になる。
「課長の直観力はホント凄いっす。尊敬するっす。だけど何で独身なんすか? ピンとくる男、いないんすか?」
「君、その発言はセクハラよ」と軽くかわしながらも、詩織は思う。
どうして私の直観力は恋愛には効かないのかしら。
仕事ばかりで気づけば三十代半ば。そろそろピンとくる男が現れてもいいのではないかと。

抜けるような青空が広がる秋晴れの日、詩織はついに、ピンとくる男に出逢った。
詩織はその日、部下の女性社員の結婚披露宴に出席した。
「20代で結婚する」と公言していた彼女は、28歳でIT企業のエリート社員とゴールインした。
詩織は「ご祝儀を出すのは何度めかしら」などと、およそめでたくないことを考えながら、豪華な料理に舌鼓を打っていた。
ふと顔を上げると、隣のテーブルの男と目が合った。

「ピンときた」

男は、特に詩織の好みのタイプではない。
だけど直観力を信じる彼女は、彼をじっくり観察した。食べ方がきれいだ。
清潔感もある。
そして彼が新郎の先輩としてスピーチに立ったとき、この直感は間違いないと確信した。
彼は実に話が上手かった。
淀みなく、笑顔を絶やさず、品のいいユーモアで会場を沸かした。頭のいい人だ。
「後輩に先を越されてしまいました」と言っていたので、独身なのは確実。
年齢は恐らく詩織と変わらない。

彼が席に戻ると、詩織はすかさずビールを注ぎに行った。
素敵なスピーチだったことを告げ、名刺を差し出した。
「へえ、課長さんですか。若いのに凄いな」
男性の9割が言う「女性なのに凄い」という言葉を彼が言わなかったことに、詩織はますます好感を抱いた。
すると彼から、思いがけない誘いがあった。
「この後、ふたりで飲みに行きませんか」
詩織は、少し悩む振りをしながら、心の中でガッツポーズをした。

街は夕暮れ、ふたりは駅前の居酒屋でグラスを合わせた。
古民家を改装したような、なかなかしゃれた店だ。
店選びのセンスもいいと、また好感度がアップした。
「実はここ、母の店なんです。祖父母の家を改装して十年前に居酒屋にしたんです」
カウンターの奥で、老婦人が会釈した。彼の母親だ。
いきなり母親と対面だなんて、結婚も視野に入れているということか。
最低でも三3か月はお付き合いをして、仕事と家庭のバランスも考えないと。
そんな気の早いプロセスを考えていた詩織に彼が言った。

「この店を売りたいんです。出来れば居抜きで。母はもう引退するので、いい不動産屋を探していたんです。矢野さんから名刺をもらったとき、僕、ピンときたんです」

ついさっきまで結婚までのプロセスを考えていた詩織は、たちまち仕事モードになった。
部長の知人が探していた駅前の居酒屋と、条件がぴたりと一致している。
これはいける。

一カ月もしないうちに商談は成立した。
売り手からも買い手からも部長からも感謝され、いい仕事をしたと詩織は思った。
それなのに、晩秋の風がやけに心に染みるのは、ピンときて運命だと思った彼が、アドレスの交換もしないまま海外赴任になってしまったからだ。
結婚どころか、恋愛にすら発展しなかった。
けっきょく詩織の直感は、仕事にしか反応しないということだ。

年が明け、部長の知人が始めた居酒屋で、営業部の新年会が開かれた。
なかなかいい店だ。いい酒を置いている。料理も洒落ている。
何より家庭的な雰囲気が実にいい。
古民家再生プロジェクトに力を入れようかしら。詩織は腕組みをして考える。

「課長、何考えてるんすか。飲みましょうよ」
「ちょっと待って。今ピンときたの」

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公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「ピン」
阿刀田先生も選評で書いていました。色んなピンがあって難しい。(題を決めるのは阿刀田先生ではありません)
本当に何を書いていいのかさっぱりでした。

11月は何かと忙しく、なかなか創作時間がとれません。
ぼちぼち書いていきますね。


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