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氷河期がきた [コメディー]

氷河期がきた。
気温は常にマイナス40度。
どんなに着込んでも、たちまち全身が凍える。
ダウンジャケットを買わなければ。
夫と子供と私の、とびきり暖かいダウンジャケットを。

寒さに凍えながら、ショッピングモールにやってきた。
ここは暖房が効いて暖かい。氷河期を忘れる。
店には春物の服が並んでいる。
こんなブラウス、欲しかったのよね。
あっ、いけない。ダウンジャケットを買いに来たんだった。

「えっ、ダウンジャケット売ってないの?」
「はあ、もう春物に入れ替えちゃいました。もうすぐ3月なんで」
「だって、氷河期なのよ」
「そう言われましても、冬物はバーゲンで売り尽くしました。それよりお客様、この花柄のワンピースはいかがです? 色が白いからとても似合いますよ」
「あら、そう? じゃあ着てみようかしら」

ああ、結局春物買っちゃった。外は死ぬほど寒いのに春物買っちゃった。
テレビをつけたら、トップニュースは氷河期。
『マイナス40度だと、バナナで釘が打てますね』
と笑った女子アナの衣装はノースリーブ。真夏か!

「ママ、アイス食べたい」
「まあ、氷河期なのにアイス?」
「寒ーい時に暖かい部屋で食べるアイスはサイコーでしょ」
「まあ、言われてみればそうね」

親子でアイスを食べていたら、夫が帰ってきた。
「う~、寒かった。手も足もカチンコチンだ」
「すぐにお風呂沸かすわね」
「ビールある?」
「ないわよ」
「じゃあ、ひとっ走り買ってくるよ。風呂沸かしといて」
「この氷河期に、よくビールなんか飲むわね」
「アイス食ってる人に言われたくないよ」
「あははは。たしかに」

テレビのニュースは、芸能ネタに変わっている。
へえ、この人不倫してたんだ。氷河期なのによくやるわ。

『ここで、速報が入りました。この氷河期は、巨大な宇宙勢力が太陽の光を妨害したためだということがわかりました。地球政府が、ただちに抗議して交渉に向かう予定です』

「へえ、宇宙勢力だって。どうせまた金で解決するんだろ」
「私たちの税金が使われるのね。やってられないわ」
「おいおい、それ、俺のビール」

『さて、続きまして、今日の特集です』
ノースリーブにミニスカートのタレントが元気いっぱいに登場した。
『今日の特集は、氷河期でも遊べるテーマパークです』

「ママ、ここ行ってみたい」
「極暖のダウンジャケットが買えたらね」
春物のワンピースを買ったことは、家族にはナイショよ。ふふふ。

危機感ないな~、地球人、大丈夫か?

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12年目のお雛さま

もうすぐひな祭りだけど、お雛さまは飾っていない。
お父さんは仕事だし、お姉ちゃんは受験だし、お母さんは、もういない。
お母さんは去年、天国に行っちゃった。
わたしは鍵っ子。寂しいけど、口には出さない。
お父さんもお姉ちゃんも、頑張っているんだもん。

誰もいない部屋に「ただいま」って言った。
あれ? お雛さまが飾ってある。いったい誰が?
「おかえり。ああ、疲れた。7段はきついわ~」
振り向くと、お母さんがソファーで横になっていた。
「だから3段飾りでよかったのに、おじいちゃんが張り切るから」

「お母さん、どうしたの? 何でいるの?」
「お母さんね、生きてる時の行いがよかったから、2回だけ帰還できるのよ。ほんの数時間だけどね」
「ええ、そんな貴重な時間を、お雛さまを飾ることに使っちゃったの? もったいないよ。お母さんってさ、生きてる時から計画性がゼロだったよね」
「まあ、相変わらずキツイ子ね。もっと喜びなさいよ」
わたしたちは、声を出して笑った。
そういえば、お母さんがいたときは、いつも笑っていたな。

「このお雛さまはね、お母さんのお雛さまよ。お母さんが生まれたとき、おじいちゃんが買ってきたの。2LKの社宅に7段飾りよ。私に計画性がないのは、おじいちゃん譲りね」
わたしの家には、お雛さまを飾る部屋がある。
毎年、お母さんとお姉ちゃんとわたしで飾っていた。
「天国でね、おじいちゃんに言われたのよ。おまえがこっちに来ちゃったら、誰がお雛さまを飾るんだってね。お雛さまがかわいそうだって言うのよ」
おいおい、孫よりお雛さまかい。
わたしは、ちょっと空気の読めないとぼけたおじいちゃんを思い出して、思わず苦笑いした。

「来年からは飾ってね。あなたは中学生、お姉ちゃんは高校生になるんだから」
「わかった。わかったから、あとの1回は有効に使ってよね」
「うん、もう決めてる。二人が結婚して家を出た後、寂しいお父さんを慰めに来るの」
「えー、じゃあ、もう逢えないの?」
「大丈夫。いつも見守っているから」
「寂しいよ」
「お父さんとお姉ちゃんに、ちゃんと甘えなさい。大人ぶってるけど、まだ12歳なんだから」
ポロポロ涙が出た。お母さんが、わたしの髪をくしゃくしゃに撫でた。
「もう、やめてよ」
「あはは、じゃあね」
お母さんは消えた。夢だったのかなって思うほど、あっけなく消えた。

「あれ、お雛さまだ。あんた一人で出したの?」
帰ってきたお姉ちゃんが驚いた。
「来年は二人で飾ろうね」
お母さんに逢ったことは言わなかった。絶対悔しがるから。
帰ってきたお父さんも「おお!」と言った。
春みたいに明るくなった部屋で、久しぶりに3人でご飯を食べた。
お母さん、ありがとう。

KIMG0900.JPG
うちは7段じゃありません^^

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置手紙 [公募]

置手紙をテーブルの上に置いた。書いているうちに泣きそうになった。

明日の朝、家を出て行く。家族が寝ている間にこっそり出て行く。
お父さん、高校まで出してくれてありがとう。
お母さん、いつもおいしいご飯をありがとう。
弟の祐介、お兄ちゃんはもう帰らないかもしれない。お父さんとお母さんを頼んだぞ。

最低限の荷物をカバンに詰めて、始発に乗るため夜明け前に家を出た。
大学受験に失敗したことを、僕はチャンスだと思った。
やっぱり僕にはダンスしかない。東京に行って、プロのダンサーになる。
去年上京したダンス仲間のサトシ先輩が、事務所に紹介してくれるという。
「東京はすげーぞ。いろんなところにチャンスが転がってる」
と興奮して言った。だから僕は自分を信じて賭けてみようと思う。

まだ薄暗い庭に、李の花が白く浮かんで見えた。満開だ。
春の花と言えば、わが家では桜ではなく李だった。
この花が、毎年僕たちに笑顔をくれた。泣かないと決めたのに、涙が出た。
でも、もう振り返らない。一張羅の革ジャンの襟を立て、駅まで一気に走った。

東京に着いたのは午前八時半で、通勤時間と重なって信じられないほどの人がいる。
サトシ先輩の住む駅まで、身動きできない超満員電車に揺られ、吐き出されるように降りた。
一息ついて、サトシ先輩に電話をかけた。
「おう、啓介。受験ダメだったって? 風のうわさで聞いた。えっ? こっちに来てる? マジか。じゃあ駅まで迎えに行く。午後からバイトだけど、カフェで茶でも飲もうぜ」

すっかり垢抜けていると思ったサトシ先輩は、あまり変わっていなかった。
先輩が住む町も静かで、駅前に小さな商店街があって、僕の町と大して変わらない。
「なに、その荷物」
先輩が、僕のボストンバッグを指さした。
「家出してきたんだ。俺、ダンサーを目指すことにした。サトシさん、前に言ってたでしょ。事務所に紹介してくれるって」
「ええ~、マジで? いやいやおまえ、親御さんが心配するだろう。今すぐ帰れ」
「なに先生みたいなこと言ってるの。俺は本気だよ。家族には、置手紙を残してきた」
「あのね、啓介君。プロのダンサーなんて、そんなに甘い世界じゃないよ」
「だってサトシさんは成功したんだろう? ステージで踊ったんだろう? 新聞の切り抜き、見せてくれたじゃないか」
「あれは、祭のイベントで、たまたま踊っただけ。そんでたまたま写真撮られて新聞に載っただけ。俺、もうダンスやってねーから」
「だって、事務所は?」
「やめたよ。みんな半端なく上手いやつばかりだ。啓介、やめとけ。おまえ程度じゃプロにはなれない。俺が保証する」
「保証するなよ」

泣きそうだった。
僕たちの中で一番上手かったサトシ先輩が通用しない世界に、飛び込む勇気はない。
結局コーヒー二杯とカルボナーラを奢ってもらって店を出た。
「ちゃんと大学行けよ。おまえは俺より頭がいいんだから」
「うん。先輩も東京で頑張って」
「あのさ、さっきから東京って言ってるけど、ここ、埼玉だから」
先輩は、笑いながら見送ってくれた。なんだ。ここは埼玉か。
やけに空いている電車の中で、一人で笑った。

家に着いたのは夕方だった。真っ赤な夕焼けが町を包んでいた。
一泊ぐらいしようと思ったけれど、結局帰ってきた。
置手紙までしたのに、東京、いや、埼玉でお茶しただけだ。

夜明け前は白く浮かび上がっていた李の花が、オレンジ色に染まっている。
「おかえり」と微笑んでいるように見える。
家の中から笑い声が聞こえた。やけに楽しそうだ。
家出した僕が、心配じゃないのか。
カラスの声に背中を押され、気まずさを纏って家に入った。

「あっ、おかえり兄ちゃん。早かったね」
「あら、二年くらい帰らないかと思ったわ」
「頭、丸めてないんだな」

家族が笑いを堪えるように言う。
テーブルの上には、僕の置手紙がある。所々赤ペンで直してある。
「啓介、誤字脱字、多すぎよ」
「僕の漢字ドリル貸そうか?」
「修行が足りんな」

家族の含み笑いが気になる。モヤモヤしながら手紙を読み返した。

『お父さん、お母さん、僕は出家します』

あっ、「家出」を「出家」と書いている。そういうことか。
だからって、笑うことないじゃないか。僕は本気だったのに。

「夕飯は、精進料理にする?」と、お母さんがまた笑った。
ひどいよ。
李の花だけが、僕を慰めて優しく揺れた。


*******

公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただきました。
久しぶりの佳作。課題は「李」難しいですよね。
あまり身近じゃないし。
最優秀作品は、いい話でした。私には書けないな。。。

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かわいそうに、かわいそうに [ミステリー?]

『かわいそうに、かわいそうに』

由紀子が最初にその声を聞いたのは、祖父が亡くなる前日だった。
夜中に耳元でささやくような声を聞いた。
『かわいそうに、かわいそうに』
由紀子はまだ幼くて、両親とともに寝ていたから、どちらかの寝言ぐらいにしか思っていなかった。
翌朝、祖父が逝った。

次に声を聞いたのは、小学生のときだった。
『かわいそうに、かわいそうに』
このときは一人で寝ていたが、夢の中の声だろうと思った。
翌朝、愛犬のタロウが死んだ。

次に声を聞いたときは、中学生だった。
そのときは受験勉強をしていたので、さすがにはっきり聞いた。
『かわいそうに、かわいそうに』
翌朝、祖母が逝った。

由紀子は気づいた。
声が聞こえるとき、大切な誰かが死んでしまう。
しばらくは怯えながら眠ったが、しばらくすると忘れてしまった。
由紀子はまだ若かった。

忘れたころに、声が聞こえた。
由紀子はすっかり大人になっていた。
東京のアパートに一人で暮らす由紀子は、30歳になっていた。
『かわいそうに、かわいそうに』
思わず飛び起きた。
眠れずに朝を迎えた由紀子に、父の訃報が届いた。

悲しみの中葬儀を終えて、すっかり気落ちした母を励ましアパートに帰った。
母は体調を崩して、数年後に逝った。
そのときも、もちろん声は聞こえた。
『かわいそうに、かわいそうに』
ええ、本当に可哀想だわ、私。
由紀子は冷たいアパートで、ひとり泣いた。

もう大切な人はいない。
家族はみんないなくなった。
それなのに、しんしんと冷えた冬の夜、由紀子の耳にあの声が聞こえた。
『かわいそうに、かわいそうに』

目を覚ました由紀子は、異変に気付いた。
煙い。何かが燃える匂い。窓に赤い炎が見える。
「火事だわ!」
由紀子は慌てて外に飛び出した。
アパートの隣の部屋から火が出ている。
炎は、隣の部屋と由紀子の部屋を半分燃やして消火された。
隣の部屋の住人は若い男だったが、残念ながら助からなかった。

「このアパートにはもう住めないけれど、命は助かったわ」
由紀子は思った。
あの声が、由紀子を救ってくれたのだ。あのまま寝ていたら、由紀子は死んでいた。
隣の住人は気の毒だったけれど、ろくに顔も見たこともない他人だ。
大切な人じゃない。
あれは、きっと私を救うために聞こえた声なのだ。
由紀子は空を見上げて「ありがとう」と呟いた。

由紀子は知らなかった。
隣の住人と由紀子は、この後急激に親しくなり、将来結婚する運命の男だった。
『かわいそうに、由紀子はまた大切な人を失った。かわいそうに、かわいそうに』

*****
ブログ村のマイページが変わってしまって、使い方がよくわからない。
前の方がよかったな。

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