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子ネコのメモリー [ファンタジー]

「いい、人間の言うことをよく聞くのよ」
ママがそう言って、僕のからだをなめてくれた。
「いい子にしていたら、人間はいつも優しいわ」
どうしてそんなことを言うのかな。やっぱり僕、どこかにもらわれていくのかな。
そういえばこのまえ、僕たちを見に来た人がいたな。
僕たち5人兄弟を、代わる代わる抱っこして、「うーん」とか唸っていたな。
「この子に決めた」ってその人が言ったとき、ママは少し寂しそうだった。

もうすぐ迎えに来るんだね。あ、車の音が聞こえた。
「逃げちゃおうか」
ママが僕の耳元で言った。
「裏山に逃げたら、きっと見つからないから」
そうだね。それもいいかもね。

だけど、ママが本気じゃないことは、すぐにわかった。
だって外は怖いから行っちゃだめって、いつも言ってるもん。
車に轢かれたり、怖いノラ猫がいるって、いつも言ってるもん。
ママも僕も、外では生きられないってこと、ちゃんとわかるよ。

このまえの人が来た。
「レイちゃん」って僕を呼んだ。
それって僕の名前? そういえば、この家では名前がなかったな。
チビとか、ちっこいのとか呼ばれてた。
「レイちゃん、おいで」
新しい飼い主が僕を抱っこしてカゴに入れたら、ママはもう何も言わなかった。
僕だけが、ニャーニャー鳴いていた。

ママ、新しいおうちは快適だよ。
鳴くとすぐにごはんをくれるんだ。おやつも出るよ。
病院っていうところにも行った。
体重を計って爪も切ったもらったよ。
寝心地のいいお布団もあるよ。

ママ、ごめんね。ママのこと、たぶんもうすぐ忘れるよ。


こうして、レイちゃんはうちの子になりました。

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レイ(男の子)生後2ヶ月の甘えん坊です

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 [ホラー]

それは、特別な鏡だった。
もう歩くことも出来なくなってしまった姉から、就職祝いだと言って手渡された。
子供のころから身体が弱かった姉は、まだ若いのに髪は白く、肌には全く艶がない。
痩せてくぼんだ目は、まるで輝きを失っている。

「お姉さん、これは大事な鏡でしょう。もらえないわよ」
「いいのよ。私はもう、鏡を見たくないの。彩ちゃんに使ってもらえた嬉しいわ」
白いスズランが描かれた、スタンド式の鏡だった。
それは、ひとり暮らしを始めたばかりのリビングに、とてもよく馴染んだ。

鏡に顔を映すと、驚くほどきれいに映った。
私、こんなに美人だったかしら?
まるで加工修正でもしたようにきれいに映る。
だけど決して不自然ではなく、もしかしたらこれが本当の私の顔だと思えるようになった。
暇さえあれば鏡を見た。もちろん毎朝の化粧も、その鏡を使った。
きれいに映れば自信にも繋がる。仕事も順調、毎日が楽しい。
いつもその鏡を持ち歩き、他の鏡は極力見ないことにした。

ある朝、上司から言われた。
「あなた、疲れた顔をしてるわね」
えっ? こんなにイキイキと仕事をしているのに、何を言っているのだろう。
あるときは同僚に言われた。
「彩ちゃん、疲れてる? 目の下にクマが出来てる」
はあ? あなたの方がよっぽど睡眠不足の顔してるけど?
同僚は毎日のように言う。
「こめかみのあたりにシミがあるよ。美白した方がよくない?」
「唇がカサカサだよ」
「髪の毛がうねってるね。寝ぐせ?」
どうして?
張りのあるきれいな肌なのに。
つやつやの唇なのに。
真っ直ぐできれいな髪なのに。
やっかみかしら? 女友達って怖い。

あるとき、給湯室の中から声が聞こえた。
「彩ちゃんってさ、老けたよね」
「うん。この前白髪見つけちゃった」
「若いのに皺も多くない?」
「可哀想。苦労してるのかな?」
「なんかさあ、日増しに衰えてる気がしない?」

ひどい。なぜそんな悪口を言われなければいけないの?
泣きながらトイレに駆け込んで、鏡を見て呆然とした。
「誰、このおばさん」
まるで20年後の自分を見ているようだった。
いや、違う。トイレの鏡がおかしい。この鏡が嘘つきだ。
私は、それっきり会社に行けなくなった。

家に帰ると、両親が驚いた顔で私を迎えた。
「よほど苦労したのね。こんなに老けて」
ああ、嘘つきなのは、あの鏡の方だった。

急に怖くなって、姉に鏡を返した。
「お姉さん、この鏡、おかしいわ」
姉は、ゆっくり起き上がると、受け取った鏡を思い切り壁に投げつけた。
鏡が割れ、粉々になったガラスの破片から、きらきら光る小さな粒子が舞い上がった。
姉はすかさず、その粒子を浴びるように身体を伸ばした。
「お姉さん、危ないわ。破片を踏んでる」
姉は血だらけになった足や膝を気にもせず、笑いながら振り返った。
その頬はふっくらとピンク色に染まり、肌は艶を取り戻し、髪はたちまち黒くなった。
まるで病気になる前の姉に戻ったようだ。

「お姉さん、これはいったい……?」
「彩ちゃんの健康な細胞をもらったの。ごめんね。だけどいいわよね、このくらい」
姉がふっくらした紅い唇で笑った。
私は、まるで病人のような顔で立ち尽くした。

****
やっぱり暑い夏はホラーだね。
え、まだ夏じゃない? 5月? うそだ~

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パパの子守り

奈々子が化粧をしている。今夜は同窓会だ。
「パパ、子どもたちのことお願いね」
「うん、まかせて」と言ったけれど、ちょっと心配だ。
何より奈々子がきれいすぎて、別の心配も頭をよぎる。
誰かに口説かれたりしないかな。
元カレと再会して、いい雰囲気になったりしないかな。
「じゃあ行ってくるね」
子どもたちが奈々子を追う。
「大丈夫だよ。ママはちゃんと帰ってくるからね」
と、自分にも言い聞かせた。

窓から奈々子を見送った。
レモンイエローのワンピースがよく似合う。
奈々子は世界中で一番きれいだ。

「ねえパパ、ママが恋しいのはわかるけど、しーちゃんがミルクこぼしてるよ。あとリュウとカイがティッシュの箱イタズラしてる」
「ああ、何やってるんだよ、おまえたち」
8歳から2歳まで、やんちゃな子どもたちに奈々子はいつも振り回される。
今日はおれがママの代わりだ。いつもは見ているだけだけど、ちゃんと叱らないと。

8歳のマリンはしっかり者だけど、お気に入りのぬいぐるみを取られると豹変する。
ほら、いつものケンカが始まった。
「リュウ、マリンにぬいぐるみを返しなさい。しーちゃん、テーブルに乗らないで。カイ、洗濯物で遊ぶな」
ああ、疲れる。奈々子の言うことはすぐに聞くのに、甘く見られてるな、おれ。

「さあ、ごはんの時間だよ。みんな残さず食べるんだぞ」
晩ごはんは、奈々子が用意してくれた。
子どもたちの大好物ばかりだ。
「マリン、もっと食べないと」
「いいの。太ったらインスタ映えしなくなっちゃうでしょ」
やれやれ。おしゃまな子だな。
「カイがぼくのごはん取った」「リュウがぶった」
「こら、ケンカするな。しーちゃん、お水で遊ぶな」
ああ、ぐったりだ。奈々子、早く帰ってこないかな。

外は真っ暗。車の通りも少なくなった。
遅いな。盛り上がってカラオケでも行ってるのかな。
まさか元カレと…いや、奈々子に限ってそんなことはない。
子どもたちはやっと静かになった。遊び疲れたようだ。
おれは待ってる。奈々子の帰りを、窓辺で待っているよ。


「ねえ奈々子、帰らなくて大丈夫? やんちゃな子どもたちが部屋を荒らしているんじゃない?」
「え、奈々ちゃん、子どもがいるの?」
「12歳を先頭に8歳、5歳、3歳、2歳よ」
「えええ、5人も?」
「一番上の子が、面倒見が良くてね。助かってるわ」
「でもまだ12歳だろう? ご主人は帰ってるのかい?」
奈々子はくすっと笑った。
「私はまだ独身よ。ネコ好きの彼氏募集中」
「奈々子の子どもは5匹のネコちゃんよ」
「なんだ、ネコか。じゃあさ、3次会行く? ちなみに俺も独身、ネコ好き」
「行く行く!」

深夜すぎ、奈々子が帰ってきた。足音ですぐにわかるんだ。
「ただいま、パパイヤ。お留守番ありがとう」
「にゃー!(奈々子、浮気しなかっただろうな)」

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消えた町内会費 [コメディー]

町内会の臨時招集って、いったい何?
連絡事項はメールでOKってことになっているのに、平日の夜に集まりなんて何があったの?

「すみません。遅くなりました。香川です」
駆け込むと、公民館の一室は険悪な雰囲気が流れていた。
会計の松岡さんを囲むように、神妙な顔で座っている。
「あの、何があったんですか?」
「松岡さんが、町内会費を使い込んだのよ」
「ええ?」
「使い込んだなんて……。失くしてしまっただけよ」
松岡さんは、俯きながら小さな声で言った。
「いくらですか?」
「30万よ」
30万といえば、住人から集めた会費全額だ。
「集めた会費は、すぐに銀行に預ける決まりですよね」
「行く暇がなかったのよ。フルタイムで働いているんだもの。だから私、会計は無理だって言ったわよね。それなのにみなさんが押し付けるから」
松岡さんは涙目で訴えた。「逆切れかよ」と誰かが言った。

「あの、失くしたってどういうことですか。家に置いていたのに失くなったんですか。泥棒にでも入られたんですか?」
「わからないわよ。テーブルに置いたはずの封筒がなかったのよ。私だって知らないわよ」
「息子さんが使い込んだんじゃないの? イケメンで優秀な進学校に行っていても、裏じゃ何してるかわからないわよ」
「ご主人じゃないの? スマートなエリート官僚でも、実は何かの不祥事でお金が必要だったとか」
「やめて。息子も主人もそんなことしないわ」
「じゃあ、あなたが使ったのね。最近、肌の艶がいいけど、エステでも行った?」
「その服もバッグもセンスがいいけど、ブランド品かしら」
「髪だって年齢の割につやつやで、絶対何かしてるわよね」
「やめて。肌も髪もセンスの良さも生まれつきよ。私、芸能事務所からスカウトされたこともあるのよ」
「あら、どこで? 原宿? うちの娘もこの間…」

ちょっと、ちょっと、話の趣旨がズレてるって。
「あの、話戻しませんか。そもそも、どうしてテーブルにお金を置いたりしたんですか」
「香川さん、いいところに気がついたわ。そうよ、大金をテーブルに置くなんて、ガサツすぎるわ」
「今日こそ銀行に行こうと思ったのよ。やっと仕事が一段落したので、忘れないようにテーブルに置いたの」
「じゃあ、朝からの行動を思い出してみたらどうですか?」
「香川さん、探偵みたいね。じゃあ、松岡さん、思い出してみて」

スムージーとグラノーラの朝食を終えて、夫と息子を送り出して、ルンバを回しながら英字新聞読んで、あ、そうだ、回覧板を回さなければと思って、手近にあったプラダの紙袋に回覧板を入れて香川さんの家に行きました。
だけど香川さんはお留守だったので、郵便受けに入れました。そして帰ってきたら、封筒がなかった、ということです。

「そのあいだに盗まれたの? 鍵はかけた?」
「かけたわ。しかもほんの2,3分よ。盗まれたとは思えないわ」
「じゃあ、隙間にでも落ちてるんじゃないの? よく探した?」
「落ちてたらルンバが止まって発見するはずよ」
「ところで香川さんはどこに行ってたの? 朝からお出かけなんて珍しいわね」
「今日は実家に行っていたんです。母の具合が悪くて。出先で臨時招集の知らせを受けたので、そのまま直行しました」
「あら、忙しかったのね。本当にいい迷惑よね」
「あの、そんなわけで私、夕飯の支度もしてないんです。二人の子どもが待っています。今日のところは一旦解散しませんか。後日また集まるということで」
「そうね。じゃあ次回までに、解決策を考えてきてね。松岡さんが弁償するのか、1軒1万円ずつ徴収するか」
「そりゃあ松岡さんの弁償でしょう」と9割がたが思いつつ、臨時会議は終了となった。

急いで家に帰った。松岡さんには気の毒だけど、1万円を払うのは厳しい。
松岡さんはお金持ちだし、30万くらい出せるでしょう。
「ただいま。ごめんね。遅くなって」
「あ、ママ、何度も電話したんだよ」
「ごめん。ちょっと込み入った話だったから電源切ってた。何かあった?」
「郵便受けにお金が入ってたの。30万」
「何ですって?」
「回覧板と一緒に入ってた。ねえ、これ警察に届ける?」
「持ち主が見つからなかったら、うちのものになるの?」
「見つかっても1割もらえるんじゃないの」
「1割って、3万円! ねえママ、回らないお寿司行けるね」
3万円、回らないお寿司……ああ、ダメダメ。松岡さんに電話しなきゃ。

「はい、松岡でございます。あら、香川さん。まあ、お宅の郵便受けにお金が? やだ、回覧板と一緒にポストに入れちゃったのね。あはは。ごめんなさいね。明日から家族でワイキキの別荘に行くので、帰るまで預かってくださる?」

あーあ、ご飯作るの面倒になってきた。回転ずしでも行くか。

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SNSファミリー [コメディー]

ああ、明日から10連休だ。
楽しみだな。
遊園地に映画、温泉行って潮干狩り。
渋滞だって怖くない。
だって休みがたくさんあるんだもん。
子どもたちともたっぷり遊ぶぞ。
写真もたくさん撮って、フェイスブックにアップしよう。
イクメンパパをアピールするんだ。
休み明けに、俺の好感度、急上昇まちがいなし!
ああ、楽しみだな、10連休。

「ちょっと、あなた、早く起きないと遅刻するわよ」
「え? 遅刻ってなんだよ。今日から10連休だろ」
「もう、何寝ぼけてるの? もう終わったわ。今日から仕事よ」
「うそだろ。遊園地は?映画は?温泉は?」
「行ったじゃないの。遊園地も温泉も、お花がきれいな公園も。フェイスブックで確かめてみたら?」
「そうだっけ。あ、アップされてた。いいねが増えてる」
ああよかった。フェイスブックやってて。
やってなかったら、思い出が消えちゃうところだったよ。
子どもたちの楽しそうな表情。風景もばっちりだな。
俺、すげーいいパパだな。

「あなた、早く行きなさいよ。遅刻するわよ」
「あれ、朝飯食ったっけ?」
「もう、食べたでしょ。フェイスブックで確かめてみなさいよ」
「あ、本当だ。ちゃんと食べてる。やっぱり朝は和食だよな」
「さあさあ、早く出かけてちょうだい」
「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい。あーあ、依存症だな、あの人。さてと、連休も終わってやっと自由になったわ。って、ツイートしよ」

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