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飼いネコ養成スクール [コメディー]

えー、みなさん、飼いネコ養成スクールへのご入学、まことにおめでとうございます。
ここでは、みなさんが飼いネコになるための心構え、人間の特性、生活習慣などを学んでいきます。
講師はわたくし、飼いネコ歴10年のベテラン飼いネコが務めさせていただきます。

まず初めに、飼い主となった人間は、あなたたちに名前を付けます。
名前がないと不便だし、意思の疎通がしづらいですからね。
ここでどんな名前を付けられても、たとえそれが嫌な名前でも、異議を唱えることは出来ません。
ご存じの通り、ネコはニャーと鳴くだけなので、人間は「わあ、喜んでいるわ」くらいにしか思いません。
ちなみに、わたくしの名前は「ニボシ」です。
はい、そこ笑わない。笑うところじゃありませんよ。
食べ物系の名前はたくさんあるのに、なぜニボシなのか。
わたくしも最初はちょっと嫌でしたよ。ショコラの方がいいな、とか思いましたよ。
でもね、慣れたらこれがなかなかいい響きなんですよ。
そんなものです。

次に、食べ物についてですが、ネコにはネコ専用の食べ物が与えられます。
種類はいくつかありますが、なかなかに美味です。
だからみなさん、くれぐれも人間の食べ物を欲しがったり盗み食いをしてはいけません。
今まで優しかった人間が、鬼のような顔で怒りますよ。
「こら、それはあなたの食べ物じゃないでしょう!」と、つまみだされます。
ですからみなさん、このように考えてください。
人間の食べ物は恐ろしくマズい。ひとつもおいしくない。
ああ、人間は、あんなマズいものを無理して食べているんだな。かわいそう。
その点、私たちネコのごはんはこんなに美味しい。ありがたや、ありがたや。
ね、そう考えたら、人間のごはんなど、食べたくなくなるでしょう。

次に、トイレです。これ、大事です。テストに出ます。
トイレは、人間が用意してくれた砂のところを使用します。
あちこちで用を足すと、すぐに嫌われてしまいます。
人間も、根気強い優しい人ばかりではありませんからね。
人間は『トイレしつけ済み』という言葉が好きです。
『○○限定』や『残り○個限り』という言葉にも弱いです。
あ、すみません。余談でした。
ですから、トイレの場所は速やかに覚えてください。
年端のいかない子ネコも、例外ではありませんよ。
たまに失敗しちゃったときは「えへ、やっちゃった」と可愛く鳴けば許してくれます。
「別にいいじゃん。放尿に自由あれ!」などと叫んだら、つまみ出されます。

チリンチリン♪ 「ニボシ~、どこなの~?」

おっと、昼ご飯の時間です。
今日の講義はここまでとします。
次回は、去勢手術の是非について、お話しします。
では、解散!

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マリッジブルーの理由 [男と女ストーリー]

白川さんは、マリッジブルーに陥っていました。
周りからすれば、どうでもいいことで悩んでいたのです。
白川雪乃という美しい名前の彼女は、容姿も名前に負けないくらいきれいです。
白い肌、大きな瞳、血色のいい唇。雪原に咲く一輪の花のような美しさです。
会う人は必ずこう言います。私も言いました。
「お名前にぴったりの、きれいな方ですね」

そう、白川さんは、この名前を変えたくないのです。
結婚すれば苗字が変わります。夫婦別姓はまだ認められていません。
たとえ認められたとしても、頭の固い双方の両親はいい顔をしないだろうと、白川さんはうなだれました。

彼の名前は灰田といいます。結婚したら灰田雪乃になります。
まるで踏み潰されてぐちゃぐちゃになった路上の雪だと、白川さんは顔をしかめて訴えるのです。
「彼はステキな人よ。優しくて包容力があって、尊敬できる人よ。この先、彼のようなステキな人に巡り合える奇跡は起こらないわ」
問題は、苗字だけなのだと、白川さんは溜息をつきました。

「彼に、白川の姓を名乗ってもらったらどうですか?」
「無理よ。彼、ひとり息子だもの。彼が良くても灰田家のご先祖様が許さないわ」
さんざん悩んで気分もすぐれず、泣いた夜もたくさんありました。
それでも結婚式の準備は着々と進みました。

結婚式は6月の大安吉日。
梅雨の晴れ間の青空に、ステキな笑顔がそろいました。
白川さんは、マリッジブルーも何のその。晴れやかな顔で式に臨みました。
その花嫁姿は、新郎の灰田氏でさえも言葉を失うほど。
まるで時が止まったように見とれてしまう美しさです。
「私、今日から灰田雪乃になります」
優しく笑ったその顔には、一片の曇りもありません。

どんな心境の変化があったのでしょう。 
うふふ。それは、優秀なウエディングプランナーである私のおかげです。

数週間前、ドレスの試着にやってきた白川さんは、相変わらずの暗い顔をしていました。
美人の上にスタイルのいい白川さんは、どんなドレスも似合いました。
純白のドレス、あわいピンクのドレス、シックな黒のドレス。
どれも彼女の美しさを引き出すには十分すぎるほどでした。

そして最後に私は、彼女にとって最高のドレスを提案しました。
「このドレスはいかがでしょう」
「あら、きれいな色ね」
シンプルなデザインですが、それは彼女にとてもよく似合いました。
まるで、彼女のために作られたようなドレスでした。
「いいわね。これにしようかな」

ヨッシャ!と、私は心の中でガッツポーズをしました。
「白川さん、このドレスの色は、スノーグレーと言います。気品があって素敵でしょう」
「スノーグレー?」
「ええ。雪と灰色です。どうです。混ざり合うとこんなにきれいな色になるんですよ」
「まあ、そうなの。スノーグレーか。なんてステキ。すごく気に入ったわ。ありがとう」

そんなわけで、彼女の悩みは、今日の青空のようにすっきり晴れたのです。
白川さん、いや、灰田夫人、どうかブーケは私に投げてくださいな。
あ~あ、羨ましい。私も早く結婚したい。

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雨の図書館

昼下がりの図書館に、雨音だけが響く。
心地よい照明と、時を刻むような音についつい眠くなる。
沙羅は、そんな眠気を振り払うように立ち上がった。
返却された本を棚に戻していると、やや乱暴な靴音が聞こえた。

カウンターに戻ると、髪の先からしずくを垂らした男が立っていた。
「雨宿り、いいっすか?」
「あ、ええ、もちろん」
沙羅が男にタオルを渡すと、洗顔後のように豪快に顔を拭き、髪のしずくを拭き取った。
「あの、やみそうにないですよ。よかったら傘をお貸ししましょうか?」
「ありがとう。でもいいや。ちょっとだけサボらせて」
「サボる?」
「朝から営業回りで疲れちゃってさ。ねえ、この本、読んでいいの?」
「はい、もちろんです」
「お勧めは?」
「好みがありますから。お好きなジャンルは何ですか?」
「うーん。漫画かな。ワンピースとかある?」
「漫画ですか。漫画はないですね」
「そっか。じゃあさ、1時間経ったら起こしてくれる?」
「はあ?」
男は、奥の椅子に座り込むと、あっという間に眠ってしまった。
「ちょっと、困るわ」
よほど疲れているのか、沙羅の声は男の寝息に消された。
「まあいいか」
図書館には、他に誰もいない。
一緒に勤務するはずの先輩は、子どもが熱を出して帰ってしまった。

利用者は来ない。ひどい雨だもの。
沙羅は、幾つかの絵本を取り出して、男の前に座った。
『100万回生きたネコ』『はらぺこあおむし』『あらしのよるに』
まるで寝ている子どもに聴かせるように、ゆっくりと読んでいった。
「100万年生きたネコがいました」
次の週末、幼児向けの読み聞かせ会がある。その練習だ。
漫画しか読まない男に聴かせるにはちょうどいい。

4冊読み終えたところで、ちょうど1時間経った。
「1時間経ちましたよ」
沙羅が声をかけると、男はゆっくり目を開けた。
「魔法かなんか使った? 目覚めがすげえ爽やかなんだけど」
「さあ?」
男は、大きく伸びをして、ネクタイを締め直した。
雨は、だいぶ小降りになっている。
「ありがとう。ここ居心地いいね。また来るよ」
「次はちゃんと本を借りてくださいね。漫画以外の」

男は、帰り際に振り返り、笑いながら言った。
「あのさ、オオカミの声は、もっとダミ声の方がいいんじゃないの」
「あら、起きていたのね」

沙羅は赤面しながら男を見送って、静寂が戻った図書館の空気を吸い込んだ。
大好きな本の匂いが、ゆっくりと入り込んでくる。
「雨の図書館も、なかなか楽しいわ」

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小さな恋の話 [公募]

恵さんの想い人はキリンさん。キリンと言っても、首の長いあの動物じゃない。
カフェで働く店員さんだ。背が高くて穏やかで、おまけにベジタリアン。
黄色のエプロンがやけに似合うから、キリンさんと呼ばれている。

私は、このカフェのオーナーの娘で、名前は香帆。
女子高に通いながら、時々店を手伝っている。
キリンさんは、私が小学生のときから、ここで働いている。
大学を卒業しても、就職もせずにアルバイトをしている。今年で六年目だ。
それってどうなのって思うけど、キリンさん目当ての女性客が多いから「ずっといていいよ」とパパは言っている。

常連客の一人、恵さんの想い人はキリンさんだ。態度を見ていればすぐにわかる。
気づかないのは鈍いキリンさんだけだ。
恵さんは、清楚で優しいOLさん。キリンさんの取り巻きの中では一番の美人だ。
私は、ふたりの恋のキューピットをしてあげることにした。
お似合いだし、高校生の私にも、ちゃんと敬語で話してくれる恵さんに好感を抱いていた。
ある日恵さんは、私にそっと囁いた。
「キリンさんって、彼女いるんですか?」
「いないと思うよ。無骨な奴だからね」
敬語を使わない女子高生にも、恵さんは嫌な顔をしない。
頬を赤く染めて、嬉しそうにうつむくのだ。なんて可愛い人だろう。
女の私でも、思わず抱きしめたくなる。

少ない小遣いの中から、映画のチケットを三枚買った。
土曜日の昼下がり、カフェの客は恵さんしかしない。いよいよ恋の大作戦だ。
「ねえ、キリンさん。映画のチケットもらったんだけど行かない?」
わざと大声で言う。チケットを見せたら、キリンさんはすぐに飛びついた。
「あっ、これ観たかったやつ。いいの?」
キリンさんは、大きな手でチケットを受け取った。
嬉しそうな笑顔が目の前にあった。
膝を折って屈んで、いつでも目線を合わせてくれるキリンさんは、そのせいか少し姿勢が悪い。
私は、フロアでこちらをチラ見する恵さんに、もう一枚のチケットを渡した。
「三枚あるから、一緒に行かない?」
「えっ、いいんですか? 悪いわ」
私は彼女に目配せをする。「あたし途中で消えるから」と耳元で囁く。
恵さんは、頬を赤く染めながら「ありがとう」と言った。

さて当日、映画館の前で待ち合わせ。
頭一つ抜けているキリンさんは、どこにいたってすぐに見つけられる。
いシャツにジーンズ姿。エプロンがないと別人みたいだ。

恵さんが来た。淡いピンクのワンピース。どこまでも清楚な人だ。
三人揃ったところで、私はわざとらしくスマホを耳に当てる。
「えー、今から。マジで。わかったー」
小芝居をして二人を振り返る。
「ごめん。彼氏から呼び出し。あたし抜けるね。映画はお二人でどうぞ」
「えっ、香帆ちゃん、彼氏いたの?」
キリンさんが私の顔を覗き込む。
嘘がばれないように背を向けて「彼氏くらいいるよ。女子高生なめんなよ」と言いながら、一気に走った。
人ごみを抜けて振り返ると、遠くにぼうっと佇むキリンさんが見えた。
「うまくいったら、何か奢れよ。お二人さん」
絶対聞こえない距離でつぶやいた。

家に帰っても、何もやることはない。何だか虚しくなってきたけど、これでいい。
私の想い人はキリンさん。小学生の時からずっと同じ。
だけどまるで子ども扱いだし、もういい加減片想いにも疲れたし、いっそキリンさんに素敵な彼女が出来ればいいと思った。
恵さんとだったらお似合いだ。これで私もきれいさっぱり次に進める。

夜になって、恵さんから電話が来た。
「香帆ちゃん、今日は本当にありがとう」
「夕飯奢ってもらった?」
「ええ、お好み焼きを二人で食べたわ」
お好み焼きかよ。もっといい店なかったのかよ。まあ、キリンさんらしいけど。
「最後に、いい思い出ができたわ」
 恵さんがポツンと言った。
「最後って?」
「私、もうすぐ実家に帰るの。母の具合が悪くてね。たぶんもう、カフェに行くこともないと思うわ」
「えっ? でもいいの? キリンさんのこと」
「ええ、もういいの。キリンさんが好きな人は、私じゃないもの。本当はとっくにわかっていたのよ」
「えっ、だれ?」
恵さんは、ふふっと笑った。
「いつも近くにいる、口の悪い女の子よ」
えっ? それって私? いやいやまさか。

「キリンさんはね、彼女が大人になるのを待っているのよ。きっと首を長~くしてね」
キリンだけに、と恵さんはコロコロと笑った。
そんな冗談言う人だっけ? 私は耳まで真っ赤になった。
明日から、どうすりゃいいのさ。

*********
公募ガイド「TO-BE小説工房」で佳作をいただい作品です。
課題は「キリン」
難しい課題ですよね。本物のキリンを登場させる話は全く思いつかなかったです。
それで、こんな可愛らしい話になりました。

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孫の嫁

ああ、退屈だ、退屈だ。
なぜこんなに退屈かというと、先月運転免許を返納したからだ。
まだ大丈夫だと自負していたが、息子や嫁や孫、はたまた孫の嫁までもが口をそろえて言うのだ。
「もうやめなよ。おじいちゃん」と。
まあ、連日のように報道される高齢者の交通事故のニュースを見たら、絶対大丈夫などとは言えなくなった。

車がないなら自転車で、と思ったら、これも嫁に止められた。
「自転車で転んだらどうするんですか」と。
ああ、退屈だ、退屈だ。

「おじいちゃん、そんなに暇なら囲碁クラブにでも行けばいいじゃん。あそこなら歩いて行けるでしょ」
そう言ったのは、孫の嫁のマリコだ。若干20歳で、妊娠中。いわゆる出来ちゃった結婚というやつだ。
孫もまだ若くて、金がないから同居している。
「囲碁クラブに行ってもつまらん。友達はみんな施設に入ってしまった」
「そっかあ。じゃあ、おじいちゃんも入れば?」
「馬鹿言うな。施設になんか死んでも入るか」
「じゃあさ、あたしが囲碁の相手してあげよっか」
「ほお、マリコは囲碁が出来るのか?」
「うん。おじいちゃんと一緒にクソつまんない囲碁の番組見てるからね」
「クソとか言うな。若い娘が」

そんなわけで、マリコと碁盤を挟んで向かい合った。
碁を打つ仕草は様になっているが、如何にも俄か知識といった感じで、てんで相手にならなかった。当然私の勝ちだ。
「どうだ。囲碁はなかなか奥が深いだろう」
「そうだね。またやろうよ。なかなか面白かったよ」
意外にも最後までちゃんと正座をしていたマリコに感心しながら碁石を片付けた。
「あ、動いた」
マリコが突然お腹をさわった。
「お腹の子どもが動いたのか?」
「うん、そう。初めて動いた。ああ、こんな感動のシーンを、なんでおじいちゃんなんかと迎えなきゃならないのさ」
「悪かったな」
まったく、口の悪い嫁だ。息子の嫁なら文句も言うが、孫の嫁にはちと甘くなる。
「マリコは毎日家にいて、退屈じゃないのか?」
「べつに退屈じゃないよ。だってさ、おじいちゃんの世話もあるし」
「お前に世話になった覚えはない!」
マリコはへへッと笑いながら立ち上がった。

「ヤバい、美味すぎる」と自分の料理を褒めたり、洗濯物を落として「やば!」と洗い直したり、何だか「ヤバい」ばかり言っている。
良妻賢母のばあさんが生きていたら、さぞかし眉をひそめるだろう。

夕方、孫が帰ってきた。
「ずいぶん早いな」
「うん。営業先から直帰したんだ。マリコは?」
「買い物に行った。遠いスーパーまで歩いて行ったよ。ご苦労なことだ。運転免許を取ればいいのに」
「マリコは運転しないよ。お父さんを交通事故で亡くしているんだ」
「そうなのか」
「マリコのお父さん、囲碁の棋士だったらしいよ」
「なに?」
「だからマリコも相当強いよ。おじいちゃん、今度相手してもらうといいよ」
「……」

あの小娘、わざと負けたな。
こりゃあ、退屈だなんて言ってられん。
明日から、真剣勝負だ。

「ただいまー。おじいちゃん、ヤバいよ。雨降ってきた」
「おう、そりゃあヤバいな」

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