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消えた町内会費 [コメディー]

町内会の臨時招集って、いったい何?
連絡事項はメールでOKってことになっているのに、平日の夜に集まりなんて何があったの?

「すみません。遅くなりました。香川です」
駆け込むと、公民館の一室は険悪な雰囲気が流れていた。
会計の松岡さんを囲むように、神妙な顔で座っている。
「あの、何があったんですか?」
「松岡さんが、町内会費を使い込んだのよ」
「ええ?」
「使い込んだなんて……。失くしてしまっただけよ」
松岡さんは、俯きながら小さな声で言った。
「いくらですか?」
「30万よ」
30万といえば、住人から集めた会費全額だ。
「集めた会費は、すぐに銀行に預ける決まりですよね」
「行く暇がなかったのよ。フルタイムで働いているんだもの。だから私、会計は無理だって言ったわよね。それなのにみなさんが押し付けるから」
松岡さんは涙目で訴えた。「逆切れかよ」と誰かが言った。

「あの、失くしたってどういうことですか。家に置いていたのに失くなったんですか。泥棒にでも入られたんですか?」
「わからないわよ。テーブルに置いたはずの封筒がなかったのよ。私だって知らないわよ」
「息子さんが使い込んだんじゃないの? イケメンで優秀な進学校に行っていても、裏じゃ何してるかわからないわよ」
「ご主人じゃないの? スマートなエリート官僚でも、実は何かの不祥事でお金が必要だったとか」
「やめて。息子も主人もそんなことしないわ」
「じゃあ、あなたが使ったのね。最近、肌の艶がいいけど、エステでも行った?」
「その服もバッグもセンスがいいけど、ブランド品かしら」
「髪だって年齢の割につやつやで、絶対何かしてるわよね」
「やめて。肌も髪もセンスの良さも生まれつきよ。私、芸能事務所からスカウトされたこともあるのよ」
「あら、どこで? 原宿? うちの娘もこの間…」

ちょっと、ちょっと、話の趣旨がズレてるって。
「あの、話戻しませんか。そもそも、どうしてテーブルにお金を置いたりしたんですか」
「香川さん、いいところに気がついたわ。そうよ、大金をテーブルに置くなんて、ガサツすぎるわ」
「今日こそ銀行に行こうと思ったのよ。やっと仕事が一段落したので、忘れないようにテーブルに置いたの」
「じゃあ、朝からの行動を思い出してみたらどうですか?」
「香川さん、探偵みたいね。じゃあ、松岡さん、思い出してみて」

スムージーとグラノーラの朝食を終えて、夫と息子を送り出して、ルンバを回しながら英字新聞読んで、あ、そうだ、回覧板を回さなければと思って、手近にあったプラダの紙袋に回覧板を入れて香川さんの家に行きました。
だけど香川さんはお留守だったので、郵便受けに入れました。そして帰ってきたら、封筒がなかった、ということです。

「そのあいだに盗まれたの? 鍵はかけた?」
「かけたわ。しかもほんの2,3分よ。盗まれたとは思えないわ」
「じゃあ、隙間にでも落ちてるんじゃないの? よく探した?」
「落ちてたらルンバが止まって発見するはずよ」
「ところで香川さんはどこに行ってたの? 朝からお出かけなんて珍しいわね」
「今日は実家に行っていたんです。母の具合が悪くて。出先で臨時招集の知らせを受けたので、そのまま直行しました」
「あら、忙しかったのね。本当にいい迷惑よね」
「あの、そんなわけで私、夕飯の支度もしてないんです。二人の子どもが待っています。今日のところは一旦解散しませんか。後日また集まるということで」
「そうね。じゃあ次回までに、解決策を考えてきてね。松岡さんが弁償するのか、1軒1万円ずつ徴収するか」
「そりゃあ松岡さんの弁償でしょう」と9割がたが思いつつ、臨時会議は終了となった。

急いで家に帰った。松岡さんには気の毒だけど、1万円を払うのは厳しい。
松岡さんはお金持ちだし、30万くらい出せるでしょう。
「ただいま。ごめんね。遅くなって」
「あ、ママ、何度も電話したんだよ」
「ごめん。ちょっと込み入った話だったから電源切ってた。何かあった?」
「郵便受けにお金が入ってたの。30万」
「何ですって?」
「回覧板と一緒に入ってた。ねえ、これ警察に届ける?」
「持ち主が見つからなかったら、うちのものになるの?」
「見つかっても1割もらえるんじゃないの」
「1割って、3万円! ねえママ、回らないお寿司行けるね」
3万円、回らないお寿司……ああ、ダメダメ。松岡さんに電話しなきゃ。

「はい、松岡でございます。あら、香川さん。まあ、お宅の郵便受けにお金が? やだ、回覧板と一緒にポストに入れちゃったのね。あはは。ごめんなさいね。明日から家族でワイキキの別荘に行くので、帰るまで預かってくださる?」

あーあ、ご飯作るの面倒になってきた。回転ずしでも行くか。

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SNSファミリー [コメディー]

ああ、明日から10連休だ。
楽しみだな。
遊園地に映画、温泉行って潮干狩り。
渋滞だって怖くない。
だって休みがたくさんあるんだもん。
子どもたちともたっぷり遊ぶぞ。
写真もたくさん撮って、フェイスブックにアップしよう。
イクメンパパをアピールするんだ。
休み明けに、俺の好感度、急上昇まちがいなし!
ああ、楽しみだな、10連休。

「ちょっと、あなた、早く起きないと遅刻するわよ」
「え? 遅刻ってなんだよ。今日から10連休だろ」
「もう、何寝ぼけてるの? もう終わったわ。今日から仕事よ」
「うそだろ。遊園地は?映画は?温泉は?」
「行ったじゃないの。遊園地も温泉も、お花がきれいな公園も。フェイスブックで確かめてみたら?」
「そうだっけ。あ、アップされてた。いいねが増えてる」
ああよかった。フェイスブックやってて。
やってなかったら、思い出が消えちゃうところだったよ。
子どもたちの楽しそうな表情。風景もばっちりだな。
俺、すげーいいパパだな。

「あなた、早く行きなさいよ。遅刻するわよ」
「あれ、朝飯食ったっけ?」
「もう、食べたでしょ。フェイスブックで確かめてみなさいよ」
「あ、本当だ。ちゃんと食べてる。やっぱり朝は和食だよな」
「さあさあ、早く出かけてちょうだい」
「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい。あーあ、依存症だな、あの人。さてと、連休も終わってやっと自由になったわ。って、ツイートしよ」

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桜の木の下 [コメディー]

花曇りの朝、愛犬のエリザベスと散歩に出ました。
公園の桜の花が見事に咲いて、思わず足を止めました。
すると、エリザベスが木の根元に向かって吠え始めました。
ワンワンワンワン。
めったに吠えないエリザベスが、やけにワンワン吠えるのです。
もしかして、これは……
花咲かじいさんのお話が浮かびました。
犬が吠えたところを掘ったら、大判小判がごっそり出てきた話です。

私はちょうどシャベルを持っていたので、桜の木の根元を掘りました。
ここ掘れワンワン♪ と歌いながら掘りました。
さて、何が出てきたと思います?

死体……と思ったあなた、ミステリー小説の読みすぎです。
タイムカプセル……と思ったあなた、青春ドラマの見すぎです。
土の中には、瓶がありました。
アンティークのおしゃれな瓶を想像したあなた、ロマンス小説の読みすぎです。
それは、海苔の佃煮の瓶でした。
蓋が錆びついて、ラベルが剥がれた汚い瓶でした。
何とか蓋をこじ開けたら、一枚の紙が入っていました。
熱烈な恋文だと思ったあなた、恋愛ドラマの見すぎです。
未来からの手紙だと思ったあなた、SF小説の読みすぎです。
それは、一枚の宝くじでした。

これが当たって大金持ち……と思ったあなた、人生ゲームのやりすぎです。
とっくの昔に期限切れでした。
これを埋めた人の背景には、どういう物語があるのでしょう。

1、 当たって、億万長者になるのが怖くて埋めた。
2、 外れてやけになって埋めた。
3、 いたずらで盗んだ宝くじが当たってしまって、換金できずに埋めた。

「私は3番だと思うんだけど、エリザベスはどう思う?」
「ワン」
「えっ、1番? そうかなあ」
「ワンワン」
「2番? うーん、埋める必要なくない?」
「ワンワンワンワン」
「ええ、4番があるの? なになに?」

まあ、考えても仕方ないことなので、私はまた瓶を埋めました。
さあ、お散歩を続けましょう、エリザベス。
こんな刺激的なお散歩も、たまにはいいものですね。

しかし翌日の新聞に、私、卒倒しました。
『〇〇公園の桜の木の下に1億円』という見出しです。
記事を読んでみると、まさに私が掘った桜の木の下に、1億円の現金が埋まっていたと書いてあったのです。
嘘でしょう? 期限切れの宝くじだったわよね?
ねえ、エリザベス。

「ワンワンワンワン」
(だから4番って言ったでしょ。4番はね、瓶はただの目印。その下に、大金が埋まっているの。公園の桜はたくさんあるから、忘れないように目印を埋めたの。海苔の瓶に外れくじを入れてね。すぐにわかるように、浅く掘って土をかぶせたの。あなたが見つけたのは、その瓶だったのよ。もっと深く掘れば1億円だったのよ。せっかく教えてあげたのにね)

「さあ、エリザベス。今日もお散歩に行きましょう。いいお天気ね」
ワンワンワンワン!
(まあ、ご主人さまは幸せそうだから、別にいいか)

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氷河期がきた [コメディー]

氷河期がきた。
気温は常にマイナス40度。
どんなに着込んでも、たちまち全身が凍える。
ダウンジャケットを買わなければ。
夫と子供と私の、とびきり暖かいダウンジャケットを。

寒さに凍えながら、ショッピングモールにやってきた。
ここは暖房が効いて暖かい。氷河期を忘れる。
店には春物の服が並んでいる。
こんなブラウス、欲しかったのよね。
あっ、いけない。ダウンジャケットを買いに来たんだった。

「えっ、ダウンジャケット売ってないの?」
「はあ、もう春物に入れ替えちゃいました。もうすぐ3月なんで」
「だって、氷河期なのよ」
「そう言われましても、冬物はバーゲンで売り尽くしました。それよりお客様、この花柄のワンピースはいかがです? 色が白いからとても似合いますよ」
「あら、そう? じゃあ着てみようかしら」

ああ、結局春物買っちゃった。外は死ぬほど寒いのに春物買っちゃった。
テレビをつけたら、トップニュースは氷河期。
『マイナス40度だと、バナナで釘が打てますね』
と笑った女子アナの衣装はノースリーブ。真夏か!

「ママ、アイス食べたい」
「まあ、氷河期なのにアイス?」
「寒ーい時に暖かい部屋で食べるアイスはサイコーでしょ」
「まあ、言われてみればそうね」

親子でアイスを食べていたら、夫が帰ってきた。
「う~、寒かった。手も足もカチンコチンだ」
「すぐにお風呂沸かすわね」
「ビールある?」
「ないわよ」
「じゃあ、ひとっ走り買ってくるよ。風呂沸かしといて」
「この氷河期に、よくビールなんか飲むわね」
「アイス食ってる人に言われたくないよ」
「あははは。たしかに」

テレビのニュースは、芸能ネタに変わっている。
へえ、この人不倫してたんだ。氷河期なのによくやるわ。

『ここで、速報が入りました。この氷河期は、巨大な宇宙勢力が太陽の光を妨害したためだということがわかりました。地球政府が、ただちに抗議して交渉に向かう予定です』

「へえ、宇宙勢力だって。どうせまた金で解決するんだろ」
「私たちの税金が使われるのね。やってられないわ」
「おいおい、それ、俺のビール」

『さて、続きまして、今日の特集です』
ノースリーブにミニスカートのタレントが元気いっぱいに登場した。
『今日の特集は、氷河期でも遊べるテーマパークです』

「ママ、ここ行ってみたい」
「極暖のダウンジャケットが買えたらね」
春物のワンピースを買ったことは、家族にはナイショよ。ふふふ。

危機感ないな~、地球人、大丈夫か?

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神様派遣します [コメディー]

「はい、神様派遣センターです。どちらの神様をご所望でしょうか。はあ、学業の神様ですか。申し訳ございません。学業の神様は3月まで予約が入っておりまして。キャンセル待ちが125人となっております。なにぶん受験シーズンでございますから。安産の神様でしたら空きがございますが。それでは意味がない……。ごもっともでございます」

密着24時間。今もっとも注目される神様派遣業に密着した。
さっそく話を聞いてみよう。

「ええ、全国の神社の神様をご用意しております。今はみなさん、仕事やPTAや趣味で忙しいですからね、買い物もネットでする時代、神社に足を運ばずに神様を参拝できるシステムは、大変好評をいただいています」

センター長の木村は言う。
神様を商売にするなど言語道断との批判もあったが、いくつもの困難を乗り越えて来たという。

「トラブルも、たまにはありますよ。何でもいいから神様お願いっていうお客さまに、疫病神をお送りして叱られたことがあります」

木村は笑った。失敗を糧に、会社は成長したという。
こうした中にも、依頼電話は鳴り続ける。

「はい、神様派遣センターです。縁結びの神様ですか? はい、ちょうど空きがございます。すぐに向かっていただきますので、お名前とご住所を……はい? 家に来られるのは困る。たとえ神様でも他人を部屋に上げるのは嫌だと……。はあ、承知いたしました。では、ネット参拝をご希望ですね。パソコンですか?スマートフォンですか?……」

最近は、このようなネット参拝も増えているという。
神様派遣センターは24時間営業である。
深夜こそアルバイトに任せているが、殆どの時間はセンター長の木村自らが対応しているという。
これだけ依頼が多いと、相当の儲けがあるのではないだろうか。
赤裸々に尋ねてみた。

「儲けなんて全然ありませんよ。本当です。だってここには、貧乏神が常在しているんですよ。貧乏神を希望するお客様などいませんでしょう。何ならあなた、連れて帰ってくれます?」

木村は笑う。丁重にお断りした。
依頼電話は鳴り続ける。

「「はい、神様派遣センターです。あ、先ほどのお客様。学業の神様を予約なさいますか? 126人目のキャンセル待ちになりますが……はい? この際だから安産の神様でいい? 左様でございますか。では、安産の神様を手配いたします。お名前とご住所を……」

困った時の神頼み。どんな要望にも応えると、木村は笑った。

「だって、お客さまは神様ですもの」

密着24時。
神様派遣センターは、今日も眠らない。


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お歳暮こわい [コメディー]

高い垣根に囲まれた一軒家。こういう家は入りやすいと聞いた。
音を立てずに窓ガラスを割る方法は、先輩から教わった。
この家の住人が夕方まで帰らないのは調査済みだ。
慎重に、そろりと中に忍び込んだ。

空き巣なんて、本当はやりたくない。
だけど仕事はないし、親兄弟には頼れない。金がないんだ。
取り急ぎ、現金を探すが、なかなか見つからない。
現金を家に置かない主義か?

ピンポ~ン 玄関のチャイムが鳴った。
「宅配便でーす」
無視しようと思ったが、ちらりと覗いたら目が合っちまった。
「い、今行きます」
仕方がないので、住人のふりをして受け取ると、それはお歳暮だった。
お歳暮なんて、一度ももらったことがない。贈ったこともないけど。
「おお、ビールだ。いいな」
この家には現金がなさそうなので腹いせにビールをご馳走になることにした。
ぷはー、うめえな。このところ、酒も飲めなかったからな。つまみが欲しいところだが、贅沢は言えんな。

ピンポ~ン 玄関のチャイムが再び鳴った。
「宅配便でーす」
おお、またお歳暮だ。今度は佃煮の詰め合わせじゃないか。
ちょうどいいつまみだ。うん、なかなかイケる。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまた鳴った。
「宅配便でーす」
またお歳暮だ。よくお歳暮が来る家だな。
今度はワインじゃないか。俺はワインにはちょっとうるさいぜ。
うん、こりゃあいいワインだ。香りもいい。
佃煮とは、ちょっと合わないがな。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまた鳴った。
「宅配便でーす」
またお歳暮か。おお、なんてタイミングがいいんだ。今度はチーズの詰め合わせだぞ。
まるで俺のためにお歳暮が届くみたいだ。
色んな種類のチーズがある。しゃれてるな。
やっぱりカマンベールがワインに合うな。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまたまた鳴った。
「宅配便でーす」
いったいどれだけお歳暮が来るんだ。
今度は焼酎だぞ。ここの家主は酒好きなんだな。
やっぱりお湯割りか。お湯をもらうぜ。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまたまた鳴った。
「宅配便でーす」
おいおい、なんてことだ。今度は梅干しが来たぞ。
そうそう、焼酎のお湯割りには梅干しを入れなくちゃね。
なんだかここ、居酒屋みたいだぞ。次はご飯ものが欲しいところだな。

玄関のドアが開いた。次は何だ? 

「ちょっと、どういうこと? 鍵が開いてるわ」
あっ、住人が帰ってきた。いつの間にか夕方だ。

「ど、どろぼう? あなた、人の家で何してるのよ!」
「いや、その…」
「警察呼ぶわよ」
「その前に奥さん、〆のお茶漬けを……」


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定年後の計画 [コメディー]

「定年退職したら、旅行でもしようか」
「いいわね。宇宙旅行がいいわ。私、行きたい星があるの」
「宇宙か。危なくない? この前宇宙船がブラックホールに吸い込まれる事件があっただろう」
「あんなの稀よ。100年に一回の大惨事だわ」
「それもそうだな。地球にいても危険なことはあるしな」
「そうよ。この前、宇宙生物に噛まれて入院した人がいたわ」
「簡単にペットを捨てる時代だからな」
「ねえ、いっそどこかの星に移住しない? 政府も勧めているのよ。とにかく人口が増えすぎちゃって」
「それもいいな。人工じゃなくて、本物の海がある星がいいな」
「高いわよ。退職金、たくさん出るの?」
「そりゃあ出るだろう。100年も働いているんだぞ」
「昔は定年が60歳だって聞いたけど、早いわよね。残りの100年、どうやって過ごしたのかしら」
「寿命が違うだろう。そのころは100年生きれば長寿って言われた時代だ」
「100歳なんて、働き盛りよね」

「おっと、ボスから呼び出しだ。出かけてくる」
「気を付けてね。スカイハイウエイ、事故渋滞みたいよ」
「たまにいるんだよな。マシンに頼らずハンドル握るやつ。だから事故を起こすんだ」
「行ってらっしゃい」

「ボス、お呼びですか?」
「ああ、君、すまんが来月からポンコツ星の工場に出向してくれんか」
「え? 私、もうすぐ定年ですが」
「それなんだが、定年を120歳から130歳に引き上げることにした」
「えええ~」
「政府からの要請だ。人生150年と言われて久しいが、今や160歳、170歳はザラにいる。どうせなら働いて、税金を納めてもらおうというわけだ」

「ええ!ポンコツ星に単身赴任?」
「そうなんだ。家族は連れていけないんだ。体制が整ってないらしい」
「わかったわ。寂しいけど待ってる。10年経ったら私、128歳のおばあさんだわ」
「大丈夫。君は何歳になってもきれいだよ」
「ありがとう、身体に気を付けてね」

〈10年後〉
「ただいま。やっと終わった」
「あなた、おかえりなさい」
「ようやく定年だ。旅行の計画を立てよう」
「それがね、あなたがポンコツ星に行っている間に法律が変わってね、定年制度が無くなったのよ。生きてる間はずっと働くことになったのよ」
「そ、そんな!じゃあ、退職金はどうなるんだ」
「あなたが死んだ後に出るらしいわ。だから私、あなたより10年以上は長生きしたいの。っていうことで、アンチエイジングジムに行ってくるわ」

死ぬまで働きたくは…ない。


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今夜はカレー [コメディー]

『今夜はカレーです』

昼休み前に来る妻からのライン。
そうか、今夜はカレーか。
「お、先輩、今夜はカレーですか」
後輩の山田君がスマホを覗き込んで言った。
「毎日ライン送ってくるんですか? ラブラブですね」
「そんなんじゃないよ。昼飯と晩飯が被らないように送ってもらってるんだ。昼カレー食べて、夜もカレーだったらガッカリだろ」
「へえ。いいですね」
「山田君もそうしなよ。奥さんに送ってもらえばいいだろ」
「いや、僕は弁当ですから」
「なんだ、愛妻弁当か。そっちの方がラブラブじゃないか」
「そんなにいいものじゃありませんよ」
「またまた照れちゃって。弁当のおかずは何だい?」
「……カレーです」
「えっ? 弁当がカレー?」
「はい。昨夜のメニューがカレーだったので」
「ついでに聞くが、朝飯は?」
「カレーです」
「あえて聞くが、今日の晩飯は?」
「もちろんカレーです」
「3食、いや、4食連続でカレーはキツイな」
「いいんです。ルーから作る妻のカレーは美味しいですから」
山田君は、少し寂しそうに笑った。

家に帰ってカレーを食べながら、妻にその話をした。
「いくら美味しくても、4食連続はキツイよな。昼飯くらいは好きなものを食いたいよ」
「そうね。そう思うから私、お弁当はあえて作らないのよ」
「そういえば、うちのカレーはいつも1食だね。2日目のカレーがないのはどうして?」
「ああ、だって二人分しか買ってないもん」
ん? 買ってない? 作ってないじゃなくて?

妻が風呂に入っている間、そうっと冷蔵庫を開けてみた。
出た~!レトルトの山。
カレー、牛丼、中華丼。インスタントの味噌汁にスープ。
冷凍室にはグラタン、コロッケ、ラーメン、ギョーザにハンバーグ。
全部妻の得意料理じゃないか。

ルーから作るカレーって、どんな味だろう。
山田君、僕は今、モーレツに君が羨ましい。


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ハムレター [コメディー]

天国へ行ったハムスターから、手紙が来た。
秋の空をふわふわ舞いながら、わが家の庭に落ちてきた。

拝啓
スズキ家の皆様、お元気でお過ごしであろうか。
生前はずいぶんと世話になった。
部屋の適度な温度調節、バランスの良い食事、こまめなトイレ掃除など、感謝の念に堪えない。
ところで、風の噂で聞いたのだが、ネコを飼い始めたそうではないか。
いや、まさか、私が死んでひと月も経たないうちにネコを飼うなんて、スズキ家の面々がそのような薄情なことをするわけがないと耳を疑ったが、ふと思い出したのだ。
母親が電話で
「えー、ネコ? あー、飼いたいけど、うちにはハムスターがいるからな~」
と、残念そうに言っておったのを。
そういうことか、私が死んだから、これ幸いとネコを飼ったのか。
末娘など、あんなに泣いておったのに、今ではネコに首ったけだそうだな。
しかも、私には「ゴンタ」などという古めかしい名前をつけたくせに、ネコの名前は「ショコラ」だと?
まあよい。死人に口なし。死んだハムスターにも口なしだ。

ところで、私は生前の行いが大変良かったということで、かねてより願い出ていた人間への生まれ変わりを許可された。
私は切に願った。スズキ家の家族になりたいと。
じきに長女が身ごもるであろう。去年親の反対を押し切って、ミュージシャンと結婚した長女だ。
恐らく自分たちだけでは養えず、実家に転がり込むであろう。
私は、その長女の子供として生まれ変わるのだ。
もちろん、前世でハムスターだったことなどすっかり忘れている。
しかし本能というのは厄介なものである。
砂遊びが好きだったり、水を怖がったりするであろう。
そして何よりネコとは相性が悪い。
これから生まれる長女の子供に、ネコは近づけちゃいかん。出来ればネコは、どこかよその家に引き取ってもらうことも視野に入れてはもらえぬだろうか。
可愛い孫のため、いや、私のために。
以上、私からの切実なる願いである。
敬具


ふうん。ハムスターからの手紙か。
なるほど、ハムスターの生まれ変わりの赤ん坊がやってくるのね。
おもしろくなりそうだわ。

「ショコラ、お庭で何してるの? あら、なに? その紙、ビリビリに破っちゃって読めないじゃないの。もう、いたずらっ子ね」

ニャ~(たっぷり可愛がってあげる)

KIMG0633 (1).JPG

うちのハムちゃんは元気です。



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未来の兄嫁 [コメディー]

今年大学生になったお兄ちゃんは、お盆休みが終わるとさっさと東京に帰った。
もっとゆっくりすればと、お母さんは言ったけれど、「バイトが」とか、「サークルが」とか言いながらそそくさと帰った。

わたしは知っている。
お兄ちゃんには、彼女がいる。
「お母さんに言うなよ」と、わたしにだけこっそり、写真を見せてくれた。
おしゃれで笑顔がステキな可愛い人だった。

会ってみたいと、わたしは思った。
うちに遊びに来ないかな。こんな田舎に来るわけないか。
結婚したら、あの人がお義姉さんになるのか。お化粧とか教えてもらおう。
…なんて、気の早い想像までした。

夏休みも終わりに近づいた。
わたしは、どうしてもお兄ちゃんの彼女に会ってみたかった。
「お母さん、東京に行きたいんだけど」
「東京? 何しに?」
「東京見物。せっかくお兄ちゃんが東京にいるんだから」
「あんたは本当にお兄ちゃんっ子だね。でもひとりで電車に乗れるの?」
「乗れるよ。もう12歳だよ。お兄ちゃんに駅まで迎えに来てもらうし大丈夫だよ」
お母さんは「可愛い子には旅をさせろ」の精神で許してくれた。

東京までは電車で3時間。
田舎の景色から、住宅がひしめき合う都会へと進み、大きなビルやスカイツリーが見えてくる。
お兄ちゃんには連絡してあったから、駅まで迎えに来てくれた。
「電車、迷わなかったか?」
「スマホがあるから大丈夫」
「いいなあ。俺が中一のときは、携帯も買ってもらえなかったぞ」
お兄ちゃんが、わたしの頭をくしゃっと撫でた。

お兄ちゃん、家にいるときとちょっと違う。
カッコいいな。彼女とどんなところに遊びに行くのかな。
おしゃれなカフェとか、夜景が見えるレストランかな。
「ねえ、お兄ちゃん。わたし、お兄ちゃんの彼女に会ってみたい」
お兄ちゃんは、ちょっと照れながら、「じゃあ、会いに行くか」と言った。
「いいの?」
「もちろん。メグちゃん、きっと喜ぶよ」
彼女、メグちゃんっていうんだ。可愛いな。

わたしたちは再び電車に乗って、秋葉原に向かった。
「そうか、そうか。おまえもメグちゃんのファンになったか」
「…ファン?」
「運がいいな。俺、チェキ券持ってる」
「…チェキ券?」
お兄ちゃんは、鼻歌まじりにビルの地下に下りていく。

すごい熱気だ。
せまい舞台で、アニメ声で歌う女の子たち。
サイリウムを振りながら、変な踊りをする観客。
これって、もしかして……地下アイドルってやつ?

「お兄ちゃん、メグちゃんって彼女じゃないの?」
「彼女だよ。メグちゃんを推してるファンすべての彼女だ」

お兄ちゃんはそのあと、チェキ券とやらで、メグちゃんと並んで写真を撮っていた。
わたしに見せてくれたのは、この写真だったのか。
メグちゃんはとびきりの笑顔で写真を撮る。
お兄ちゃんとも、その次の人とも、そのまた次の人とも。

彼女じゃないじゃん。
うちに遊びに来るわけないじゃん。
お義姉さんになるわけないじゃん。

がっかりしたような、ほっとしたような。
とっとと帰って宿題やろう。

**********
10日ぶりの更新になってしまいました。
ちょっとね、私ではなく家族に心配なことがあって、なかなか書けなかったりパソコンにも触れない日があったりしました。
まあ、悩んでも仕方ないし。少しいい方向に向かいそうだし。
いろいろあるけど、前を向いていきましょう!
あんまり更新できないかもしれませんが、よろしくお願いします。



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