So-net無料ブログ作成

完璧ロボット [SF]

彼にリリーを紹介された。あまりの美しさに嫉妬した。
嫉妬するなんて可笑しい。リリーはロボットだ。
彼が最近雇った秘書ロボット。体にぴったりフィットしたスーツは、彼の好みだ。
「ハジメマシテ、奥様」
リリーは45度のお辞儀をした。
「まだ奥様じゃないわ。結婚するのは1か月後よ」
「シツレイシマシタ」とはにかむ表情は、まるで人間みたいだ。

「リリーはとても優秀なロボットなんだ。仕事はもちろん、ゴルフも料理もプロ級だ」
「そう…。ねえ、リリーが優秀なのはわかったけど、どうしてプライベートの食事にまで連れてくるの?」
「食事中に仕事の電話があったら困るだろう。リリーなら適確に処理してくれるよ」
リリーは姿勢よく椅子に座り、人形のようにじっとしていた。
決して私たちの会話の邪魔をしない。
2件ほど仕事の電話が入り、リリーが速やかにそれを処理した。
最初は気になったが、しょせん機械だ。そのうち気にならなくなり、私たちは楽しく食事を終えた。

「ねえ、あなたのマンションに行ってもいい?」
「もちろんいいよ。もうすぐ一緒に暮らす部屋だ」
彼の家は一等地の高級マンション。125階の大きな窓からは、世界一の夜景が見える。
この暮らしが、もうすぐ手に入る。
彼と一緒に、スペースシャトルみたいなエレベーターに乗り込む。
「さあ、入って」
彼が開けた扉に、リリーも一緒に入ってきた。
「ちょっと、どうしてリリーも一緒なの?」
「仕事もプライベートも、リリーがスケジュール管理をしてるんだ。いないと困るよ」
リリーは、慣れた手つきでコーヒーマシンを動かして、美味しいカプチーノを淹れた。
「美味いだろう。リリーは何をやっても完璧さ」
彼が言うとおり、リリーは言われたことを完璧にこなし、決して邪魔をしない。
それならば、従順で優秀なメイドだと思えばいい。私の暮らしも楽になる。

「リリー、今日はもう休んでいいよ」
「ワカリマシタ」
リリーは45度のお辞儀をして、部屋を出て行った。
やっと二人きりになれた。
「リリーは何でも出来るのね」
「ああ、最高の秘書ロボットだ。彼女はすべてにおいて完璧さ」
「ねえ、私今日、泊まってもいい?」
「もちろんいいよ。僕たちのために、大きなベッドを買ったんだ」
「まあ、素敵だわ」

彼にエスコートされて寝室に行くと、大きくて素敵なベッドが真ん中にあった。
「どう?特注で作らせたんだ。いいだろう?」
「え…ええ…。とても素敵。だけど、だけど…、どうしてリリーが寝てるの?」
シルクのシーツにくるまって、リリーが真ん中に寝ていた。
「言っただろう。リリーは何をやっても完璧なんだ。女性としてもね」
「ひどい!これは私たちのベッドでしょう?」
「うん。僕たちのベッドだよ。君と僕とリリーのね」

私は、彼の頬を思い切り叩いて部屋を出た。
背中でリリーの声がした。
「ヤット、フタリニナレタワネ」

DSCF0076.JPG

カテゴリーSFにしたけど、これってSFでいいのかしら?
どう思う?不二子ちゃん。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

銀河鉄道へようこそ [SF]

本日は、ニコニコ銀河鉄道をご利用いただき、誠にありがとうございます。
運転手は、この道40年、大ベテランのエディさんです。
そして乗務員はわたし、ニコニコ鉄道のアイドルコナツでございます。
この列車は、火星経由、シャンデリア星行きでございます。
快速運転のため、火星まで停まりません。銀河系を出てからは各駅停車になります。
お客様にお願いいたします。
窓から顔や手や足、または触覚など出さないようにお願いします。
っていうか、窓を開けないでください。っていうか、簡単に開けられる窓じゃダメじゃん。

「おい、コナツ、そのワンパターンの車内放送は何とかならんか」
「あらエディさん、これを楽しみにしているお客さんも多いのよ」
「何を言ってる。いつもガラガラじゃないか」

地球初の銀河鉄道として、ニコニコ鉄道が脚光を浴びたのは、もう40年も昔の話。
10年前に銀河超特急フラッシュが出来てから、乗客はみんなそちらに移ってしまったの。
何しろシャンデリア星まで3日かかるところを、フラッシュは1日で行ってしまうのよ。
その上料金が格安ときてる。ロボットに自動操縦させてるから安いらしいわ。

だけどコナツはニコニコ鉄道が好き。
エディさんは無口だけど地球一の運転手よ。だからコナツも、いつかエディさんのような運転手になりたいの。今は修行中よ。

「さてと、銀河系も抜けたし、そろそろ車内販売でもしてこよう」
「わしのカツサンドを取っておいてくれよ」
「はいはい。どうせ余るわよ。お客さんが少ないんだもん」

乗客は地球人ばかりじゃないから、他の星の食事も用意しているの。
びっくりするようなゲテモノよ。宇宙生物ガニウムの丸焼きとかね。
フラッシュは車内販売もしないみたい。自動販売機の宇宙食があるだけだって。
味気ないわね。
車内販売の準備をしていたら、エディさんが「おや?」と外を見た。

「どうかしたの?」
「あれを見ろ」
見ると、名前もない小さな星で、銀河特急フラッシュが立ち往生してるじゃないの。
エディさんは電車を停めて外に出た。

「どうしました?」
「ああ…ニコニコさん。急に電車が動かなくなったんです」
おろおろしている乗務員に、乗客たちが激しく抗議しているわ。
「早くしろよ」「こっちは急いでるんだ」「とっとと動かせ」

「こりゃあ電気系統だな」とエディさんは機械を少し触っただけで言った。さすがね。
「あんた、直せないのか?」
「いえ…。自動操縦なので、私はただチェックするだけでして」
「情けないな。整備はちゃんとしてたのか?」
「そんな暇ありません。ずっと走りっぱなしなんですから」
エディさんは、ふうっとため息をついて「いつかこんなことが起こると思っていたよ」と言った。

「この電車は、ここに捨てていくしかない。この星に技術者がいれば別だが、どうやら知能のある生物は住んでいないようだ」
「そんなあ。何とか直してくださいよ」
「あいにくわしはローカルな電車しか直せない。機械に頼りすぎたお前らの責任だ」
ニコニコ鉄道の数少ない乗客が「そうだそうだ」とエディさんに賛同した。もちろんコナツもね。

「さあ、わしの電車に乗りなさい。乗客全部引き受けてあげよう」
フラッシュの乗務員は従うしかない。
乗客たちが乗り込んで、ニコニコは数年ぶりの満員になったわ。

「おい、じいさん。明日にはシャンデリアに着くんだろうな」
と横柄な態度で乗客が言ったから、エディさん、カチンときたわ。
「シャンデリアに着くのは明後日だ。ここからは各駅停車だ」
「そんなの困るよ。俺たち急いでるんだ。駅なんか飛ばしちまえよ」
エディさん、「ふざけるな!」と若造を一喝。
「たとえ一人しか乗らなくても駅には停車する。それが我々のやり方だ。いやなら降りろ。次のフラッシュが来るまで野宿でもしてろ。宇宙怪獣がいるかもしれないが、ワシの知ったことじゃない」
これには、みんなシーンとしちゃった。エディさんホントにかっこいいわ。

たくさんの乗客を乗せて、ニコニコ鉄道は走り出した。
イライラ気味の新しい乗客たちに、コナツの笑顔でおもてなしよ。
「ニコニコ銀河鉄道をご利用いただきありがとうございます。おいしいお弁当にお飲み物はいかがですか?名物ガニウムの丸焼きもありますよ」
車内販売が珍しい乗客たちに、お弁当は売れに売れたわ。

何となく雰囲気も良くなってきたみたい。各駅で乗り込んでくる宇宙人相手に、商談を持ちかけている人もいる。現金なものね。

「おいコナツ、わしのカツサンドは?」
「あ、ごめ~ん。全部売れちゃった」

そんなわけで、ニコニコ銀河鉄道は、楽しい旅をお約束します。
またのご利用、お待ちしています。


にほんブログ村

地球を捨てた日 [SF]


もうすぐ七夕だ、と老人は言った。
狭い酒場で隣に座った80を過ぎの老人だ。

「タナバタって何ですか?」
僕の問いかけに、老人は答えなかった。

七夕の日には地球が見える、と老人は言った。
ひとりごとなのか、それとも僕に話しかけているのか。

「地球って何ですか?」
僕が聞くと、老人はようやくこちらに顔を向けた。
「地球を知らないのか」
「はい」
「嘆かわしい。地球も知らずに生きているとは」
怒っているような、悲しいような顔だった。

「地球は、我々の故郷だ。おまえのルーツも地球にある」
「そうなんですか?それは、どこにあるんですか?」
「今はもうない。汚れて誰も住めなくなって、消えちまった。七夕の夜にだけ亡霊のように現れるのさ」
老人は、何杯目かのウイスキーを飲み干して、店を出て行った。

人工的にできた小さな星で、僕は生まれた。
この星しか知らない。宇宙の事なんて、何も知らない。
いくつかの文献を調べてみたが、地球に関することは一切載っていなかった。
だけど、7月7日が七夕だと母が教えてくれた。

地球が見てみたい。とにかく行ってみよう。
この星で一番高い塔に、僕は登った。
ガラスのドームから空を見上げると、真っ暗な空に青い美しい星が浮かんでいた。
誰にも聞かなくても、それが地球だとわかった。
初めて見るのに懐かしい。
行ってみたい…と僕は思った。

**

ふたたび酒場で老人と会った。老人は僕のことなど憶えていないようだった。
「地球を見ました」と話しかけると、老人は驚いて僕を見た。
「お前、地球を知っているのか」
「七夕の夜に見ました。青くて美しい星でしょう?」
老人は、あきらかに狼狽している。グラスを持つ手が震え、額に汗をかいている。
「あれは幻だ。忘れなさい」
出ていく老人を、僕は追いかけた。
「どうしてですか?あなたが言ったんですよ。地球は我々の故郷だと」

老人は、諦めたようにため息をついて店に戻った。
店の客は僕たちだけ。バーテンダーは機械だ。
誰も聞いていないのに、老人はやけに小さな声で話し始めた。
「あの日はかなり酔っていた。酔っていたとはいえ、余計なことを言った」

「ずっと昔、私は地球に住んでいた。まだ小さな子供だった。私の父は科学者で、地球の寿命があとわずかであることを知った。
父は、住めそうな星を見つけて、人間が暮らせる設備を整えた。核シェルターで囲まれた安全な星を作った。移住を考えたのだ。
しかしその星に移れる人数は限られている。
父は自分の家族と、優秀な科学者の仲間だけを連れて行った。
私たちは地球を捨てたのだ。滅亡する地球の悲鳴に耳をふさぎ、この星に移り住んだのだ」
老人は目をしょぼしょぼさせた。涙をこらえているようにも見えた。

「地球は色を失っていった。見ていられないほどに汚れてしまった。
1年が過ぎた七夕の夜、私は短冊に願い事を書いた。私の国の風習だ。星が願いをかなえてくれると本気で信じていた。私は『地球の友達に会えますように』と書いた。
そうしたらその夜、真っ暗だった空に地球が現れた。
色を失ったはずなのに、青い美しい星が現れたのだ」
「願いがかなったんですね」
「いや違う。そんなはずはない。幻だ。
その地球の幻を見た大人たちは、ひどく嘆いた。地球を捨てて自分たちだけ逃げたことを後悔したんだ。
塞ぎ込んで心を病んだもの。自ら命を絶ったもの。みんな罪悪感に支配された。
そこで我々は、地球のすべてを忘れることにしたのだ」

老人は、「だからお前も忘れろ」と言った。
機械のバーテンダーが、閉店を告げた。老人は、誰にも言うなと念を押して帰った。
僕はもう一度塔に登った。
あれが幻だなんて思えないが、青い星はもう見えなかった。

***

地球・7月7日
「ねえママ、あそこに見える光る星は何?」
「ああ、あれはね、ずっと昔…地球が何かで汚染されていたころ、地球を離れた人たちが作った星なのよ。地球はそのあと奇跡的に回復したんだけど、あの星に行った人たちは地球との接触を拒否して静かに暮らしているのよ」
「ふうん」
「あの星には、ママのおじいちゃんの友達もいるんですって」
「へえ。あの星からも地球が見えるのかな?」
「そうね。きっと見えるわ。だって今日は七夕だもの」

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

カプセル [SF]

カプセルの中で目覚めた。
ずいぶん長く眠っていたようだ。
眠る前の記憶は殆どないが、地球が破滅的な状態であったことは憶えている。
そして私は、カプセルに入れられた。

私は選ばれたのだ。地球が滅亡する前に、選ばれた者だけがカプセルで脱出した。
若くて美しい男女が選ばれた。
どこかの星で、美しい地球人の子孫を残すために。
きっとそうだと、私は思った。

ここはどこだろう?
同じようなカプセルが並んでいる。安全な星にたどり着いたのだろうか。
丸い透明の窓から隣のカプセルの男が見えた。
やはり目覚めたばかりの男は、美しい青い瞳で私を見た。
なんてきれいな人。
カプセルを出たら、私はおそらく彼と恋に落ちるだろう。

早く出たい。カプセルは狭くて手を伸ばすことも出来ない。彼に触れることも出来ない。きっと彼も、同じように私を求めているはずなのに。

その時、世界がぐらりと揺れた。
私のカプセルは大きく回転して他のカプセルと引き離された。
「たすけて」と見上げた先に空はない。ひしめくカプセルの海で、彼が心配そうに私を見ていた。
目の前に真っ暗な穴が開いて、真っ逆さまに私は落ちた。

カプセルに入っていたために衝撃は少なかった。
かすかな光が差し込み、大きくて温かいものが私をふわりと持ち上げた。
それは、巨大な手のようだ。

巨大な手は、簡単にカプセルのふたをこじ開けた。
そしてその手は、私を優しく包んだ。
久しぶりに感じた外の空気。ほのかな光。騒音。ここは、どこなのだろう。

**

「あっ、やった~!地球人のメス、ゲットした」
「うわ~、黒髪の東洋系だね。それ、すごいレアだよ」
「うれしい。欲しかったんだ」
「あたしのは、地球人のオスだった。金髪のオスは持ってるからいらない。アンタにあげる」
「ホント?いいの?あたし、オスメス、つがいで欲しかったんだ」

**

しばらくして、私はガラスケースに入れられた。
巨大な目が私を覗いている。
私が小さくなったのか、この星の住人が巨大なのか、私にはわからない。

だけど、私の隣には彼がいる。
青いきれいな瞳で、私を見ている。
そっと触れると、彼も私の手を握り返した。
ここがどこで、これからどうなるか、そんなことはどうでもよかった。
今はただ、彼の温もりが欲しかった。

**

「わあ、オスとメスが手をつないでいる」
「もしかしたら繁殖するかもよ」
「楽しみだね」

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

ご招待 [SF]

あ、ムリムリ。そんな望遠鏡じゃ見えませんよ。
私の星はとっても遠いんですから。
冥王星?あー、まるで問題外です。ずっとずっと遠くですよ。

私たちの星は地球よりずいぶん小さいですよ。
だけど文明は進んでいます。私も自慢じゃないけど、かなり高い能力を持っています。

それでですね、こうしてあなたとコンタクトをとった理由ですが、ぜひあなたを我が星に招待したいのです。
いえいえ、ドッキリではありませんよ。
ドッキリってなんですか?まあいいです。あとで調べます。

実はですね、私たちは地球と交流を持ちたいのです。
それなら国連の偉い人に言え?
いえいえ、それではダメなんです。だって地球人はミサイル撃ったり戦争で国の奪い合いをしたりするでしょう?
そんな野蛮なことはごめんです。

だから私たちは、平和な国で平和に暮らす人の中からランダムに抽選を行ったのです。
それで、あなたが選ばれたというわけです。
ようするに、地味に平和に交流したいのです。
ドッキリじゃないですってば。
ドッキリって何なんです?まったく。あとでググってみましょう。

信じられませんか?ではちょっと空を見て下さい。
私、あなたの家の上にいるんですよ。
見えないでしょ。ライト消してるからね。
待ってくださいね、今点けますから。はい、パチリ。

ね、見えたでしょう。今手を振っているのが私です。
すぐ消しますよ。誰かに見られたら大さわぎです。
地球のマスコミはえげつないですからね。

え?地球人そっくり?そりゃそうでしょう。地球人に擬態してるんですから。
本当の姿は…知らない方がいいです。けっこうグロイです。
見た目はアレですが、私たちは平和主義です。乱暴はいたしません。
さあ、いっしょに行きましょう。観光、ごちそう、お土産付ですよ。
あ、行きますか?じゃあ外に出てきてください。

え?テレビの録画予約をしてから?
わかりました。早くして下さいね。
あー、何つぶやいてるんですか!ツイッターなんかやめて下さいよ。騒がれたくないんですよ。
ちょ、ちょっと、何でピザなんか食べてるんですか?
注文しちゃったからって…もう、急いでくださいよ。
ええー?シャワー浴びるんですか?
お出かけ前のエチケット?そんなのいいから早くして下さいよ。

あー!だめだ。これ以上地球に滞在したら身体に支障がでる。
やむおえない。いったん引き揚げよう。
平和な地球人も、緊張感なさすぎて、なかなか厄介だな。

***

「おまたせー」
……
「あれ?いない。な~んだ、やっぱりドッキリじゃん!」

120316_1813~01.jpg
『ボクの惑星日記』 ささきかよ湖
とても面白くて為になるお話です。ステキな本ですよ。

かよ湖さんもビックリの宇宙ネタでした(笑)

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

最後の晩餐 [SF]

息子の嫁が食事を運んできた。
固形フードと流動食のゼリーだ。
別に手を抜いているわけではない。みんな同じなのだ。

世界中を巻き込んだ戦争が終わると、世の中は深刻な食糧難に襲われた。
動物や植物が汚染されて絶滅したのだ。
多くの人が飢えで命を落とした。
そこで開発されたのが固形フードと流動食のゼリーだ。
1粒で満腹感が得られる固形フードと、1日分の栄養がとれるゼリー。
世界中の人が、同じものを食べている。

私はレストランでコックをしていたが、戦後職を失い息子夫婦に世話になっている。
食事を作ることも食べることも出来なくなった今は、ただ無気力な日々を送っている。
こんな物しか口にできないなんて、死んだ方がマシだ。
…とか思っていたら体調を崩して入院した。
いよいよ流動食しか食べられなくなった。

ひとりの男が病院に見舞いに来た。
レストランをやっていた頃の常連客だ。
「捜しましたよ」と男は懐かしそうな顔をした。
私は気弱になっていたので、つい愚痴をこぼした。
「あの頃はよかった。おいしい料理がたくさんあった。今じゃ全く楽しみがないよ。最後の晩餐が固形フードと流動食なんて寂しいじゃないか」
すると男は急に声をひそめ、
「美味い料理が食べられる店があるんですよ」と言った。
「何だって?そんなところあるものか。だいいち食材がないじゃないか」
「それが…あるんですよ」
男はますます声をひそめた。

「行きましょう。実はあなたを誘いに来たんですよ」
「本当なのか?」
「さあ、こっそり抜け出しましょう。朝までに帰れば大丈夫ですよ」
私は男といっしょに車に乗り込んだ。

どのくらい走っただろう。車は、やけに暗い山道を進んだ後、森に隠れた巨大なドームにたどり着いた。
「ここは?」
「私の研究所ですよ。さあどうぞ」
中は一見ただの研究所だったが、奥に進むと何やら空気が変わってくるのを感じた。
そして男が重い扉を開けた時、私は目を疑った。

そこには、広大な野菜畑が広がっていた。
果樹園がある。ニワトリがいる。巨大な水槽に魚がいる。
「どういうことだ。絶滅したはずじゃないのか?」
「クローンですよ。私が作りました」
「クローン?クローンは法律で禁止されたはずだ」
「だからこんな山奥で、隠れて作ってるんですよ」
男は私を厨房に招いた。
「さあ、材料はあります。好きな料理を作ってください」
「いいのか?」
「もちろんです」

私は久しぶりに包丁を握った。喜びに胸が震えた。
ポテトと玉ねぎのスープ・ヒラメのムニエル・チキンソテー・新鮮野菜のサラダ・アボガドとエビのオープンサンド・とろとろのオムレツ・フルーツたっぷりのパンケーキ。
そして男と私は、ゆっくりと味わいながらそれを食べた。
「ああ…なんて美味いんだ。こんな食事が食べられるなんて、もういつ死んでもいいよ」
私は本当に幸せだった。

朝が来る前に病院に戻り、そしてその朝、私は静かに息を引き取った。
まさに最後の晩餐だったのだ。
私はきっとすごく幸せな顔をしていただろう。

数日後…山奥の秘密のレストラン。
男がひとりで食事を堪能している。
「ああ美味い。やっぱり彼の料理は最高だ。生きてるうちに再会できて本当によかった」
男は満足げに厨房を覗いた。
厨房では私がせわしなく料理をしている。
いや、私ではなく、私のクローンが…。

DSCF0706.JPG

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

ロボット社会 [SF]

ちくしょう、何てこった。右を見ても左を見てもロボットばっかりじゃないか。

ロボットが一人一体の時代になったのは10年ほど前だ。
やがて人間は、ロボットを自分の代わりに働かせるようになった。
人間は一日中モニターの前に座って、ロボットの操作をするだけの毎日になった。

そのころはまだよかった。
やがて、さらに進化したロボットは自動操縦が可能になり、人間はもう操作すらしない。
1日中好きなことをして過ごす。
自分の代わりにロボットが仕事、あるいは勉強をして食事の用意も買い物もすべてやってくれる。

ごくまれに不具合が起こるとアラームが鳴り、アラームが鳴った時だけ人間は仕事をする。
仕事といっても、不具合解消のボタンを押すだけだ。
人間の仕事はそれだけだ。
人間は、どんどん怠惰になった。
「これは、非常に危険なことです」
と訴えていた評論家も、いつのまにかロボットになっていた。

まったくやってられない。会社はロボットだらけ。
人間そっくりだが、感情がないので機械的な動きをする。
しかも俺よりずっと優秀だ。
憂さ晴らしに飲みに行ったバーに置いてあるのは、ロボット用の潤滑油だ。
カウンターにはロボットのマスター。飲む気にもならない。

仕方ないのでコンビニによって、人間用と書かれた酒を買い、ロボットの店員に金を払った。
とぼとぼと河原を歩いていたら、酒を飲んでくだを巻く男と出会った。
こんなところでくだを巻くなんて、人間に違いない。
「君は人間か?」と声をかけたら、
「そう言うあなたは人間ですか?」と俺を見た。
「そうだよ。俺は人間だ。いやあ驚いた。こんな外で人間に出会えるなんて」
俺たちは並んで酒を飲んだ。

「しかしこのままでは、人類は滅んでしまうな」
「ええ。一歩も外へ出ず、若者はネットの中だけで恋愛をしている。間違いなく、子孫は途絶えるでしょう」
「そうだな。しかしロボットはどうだ。次々に新型を作り出している。致命的なのは、そのロボットを作っているのもまた、ロボットだということだ」
「ええ。人間は必要なくなりますね」
「何てこった」
「あの、よかったら家で飲みなおしませんか?おいしいワインがあるんですよ」
「ワインか。ワインなど久しぶりだ」

俺は男の家に行った。
上質なワインと楽しいおしゃべり。本当に久しぶりだった。
「君はひとり暮らしなのか?」
「おじいさんがいましたが、先日亡くなりました」
「そうか。それは寂しいな」
「はい。だからあなたに出会えて本当によかったです」
俺は勧められるままガンガン飲んだ。
そして翌朝、割れるように頭が痛くて起きられなかった。

「二日酔いですね。かまいませんよ。どうかいつまでもここにいて下さい。私は出かけますが、気にせずゆっくりして下さい」
「すまんな」
「いいえ、いいんです。ただし、ひとつだけお願いがあります。アラームが鳴ったら、その赤いボタンを押してください。なに、滅多に鳴りませんよ。
あなたの仕事はそれだけです。あとは何もしなくていいのです」

男は出かけた。
俺は再びまどろみの中に入っていった。
何もしなくていいとは、何て楽なんだ。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

宇宙人は誰だ? [SF]

いつからか、頭の中に声が聞こえるようになった。
たとえばテスト中、
『(3)の漢字間違ってるぞ。そこはのぎへんだ』とか、
『アフリカはCだろう。Bはインドだ』と、そんなふうだ。
おかげで僕は、ずいぶん点数が上がった。

誰かが、僕の頭にテレパシーを送っている。きっと宇宙人だ。
なぜなら、僕がアイドルのグラビアを見ていたら
『地球人はそういう女がいいのか。ボクの好みじゃないな』
と言ったからだ。
声の主は宇宙人で、男だ。そしてこの教室にいる。
教室以外で声が聞こえることはない。だから宇宙人はこのクラスにいるのだ。

クラスメイトは僕を除いて35人。男子は17人。僕はひとりひとりをじっと見た。
梅沢くんかもしれない。梅沢くんは、頭が良くてスポーツ万能。
それにおでこが広くて宇宙人みたいな顔をしている。
決定的だったのは、算数の授業中だ。
『次、当てられるよ』と声がした。

「じゃあ次、問3をヤマダ、答えてみろ」
当たった~。しかも問3って、いちばん難しい。まだ習っていないところだ。
先生はときどきこういう意地悪をする。
『0.3だよ』声がした。
「0.3…です」
僕が言うと、先生は奇蹟が起きたように喜んだ。
「すごいぞヤマダ。ちゃんと予習をしたんだな。えらいぞ!」

僕は確信した。
この問題が解けるのは、このクラスには梅沢くんしかいない。梅沢くんが宇宙人だ。
僕は放課後、梅沢くんを校舎の裏に呼び出した。

「話って何?ボク、今から塾なんだけど」
「梅沢くん、さっきはありがとう。…っていうか、いつもありがとう」
「…何が?」
「ねえ梅沢くん、どうやって地球に来たの?やっぱりUFO?」
「意味わかんねえ」
「梅沢くん、目的は何?もし地球征服が望みなら、僕は協力できないな。あ、でも友達になりたいのなら、もちろんオッケーだよ」
「おまえ頭おかしんじゃねえ?」
「友達になろう。ってか、もう友達だね。テレパシーってどうやるの?僕にもできる?」
梅沢くんは僕の顔をじっと見た。そして言った。

キモイ!」

梅沢くんは行ってしまった。キモイって、地球では気持ち悪いの意味だけど、梅沢くんの星では違うのかな?それとも、地球征服を拒んだから怒ったのかな?

****

そのころ、誰もいない教室では…
ヤマダの机の中にいる小さな異星人が、外部と通信していた。
『どうだ、ヤマダの調査は進んでいるか?』
『はあ…。しかしヤマダはひどい馬鹿ですよ。漢字は出来ない、計算は出来ない、地理に至っては致命的です』
『そうか…』
『はい、とても我々の星を滅亡させた宇宙テロリストの首謀者とは思えません』
『データミスとは考えにくい。もう少し調査を続けてくれ』

****

なんてことが話されていることなどつゆ知らず、僕は思っていた。
梅沢くんの期待に応えられるように、宇宙の勉強をしよう。そして、いつか梅沢くんと一緒に地球を…いや、宇宙を征服するんだ。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

これはカテゴリーをSFにするかコメディーにするか迷いました。
まあ、ちょっとふざけてるけどSFでいいか!(笑)

さよなら私 [SF]

タイムマシンは、20年前にたどり着いた。
今日が初めての渡航だった。20年前に来ることは私が希望した。

懐かしい家の前に立った。古い戸建てのアパート。
軒下に、お下がりの赤い自転車がある。小さな私の唯一の宝物だった。
いい思い出など何もないのに、懐かしく感じるのが不思議だった。

5歳の私が花壇の隅で膝を抱えている。
ママの男が来ると、いつもそうして外に出された。
私は、5歳の私に話しかけた。
「チエちゃん、おねえさんと遊ばない?」

小さな私は、警戒心たっぷりの目で私を見上げた。
「大丈夫よ。私はママのお友だち。ママに頼まれて、チエちゃんを誘いにきたの」
小さな私は頬をゆるめ、スカートに付いた泥を払って立ち上がった。
私たちは手をつないで歩き出した。

過去の自分と関わりを持つことはタブーだ。そんなことは百も承知だ。
だけど私は、あえて掟を破った。そのために、この時代にやってきたのだ。
小さな私を薬で眠らせると、タイムマシンに乗せて現代に連れて帰った。

所長は真っ青な顔で怒った。
「君は何を考えているんだ。過去から自分を連れ去るなんて。どうなるかわかっているのか?君自身の存在が消えてしまうんだぞ」
「わかっています。消えてもいいんです」
「何だって?」
「5歳の私は、あのあとママの男からひどい虐待を受けるんです。額の傷と背中の傷は、今でも時々痛みます。何より心に受けた傷は、一生消えることはないのです。
そんな痛みを抱えながら生きていくのは辛くて耐えられません」
「まさか君は、そのために研究所に入ったのか?」
「そうです」

タイムマシンの研究と聞いて、私はまっさきに思った。可哀想な子供時代の私を救いたい。そしていやな過去をすっかり消すのだ。たとえそれが危険なことでも。
私は必死で勉強した。誰かを蹴落としてでも、この研究所に入りたい。私はそうして生きてきた。

意識が遠のいていく。
私は消える。無邪気に眠る5歳の私といっしょに消えるのだ。

**

気が付くと、ベッドに横たわっていた。
手足の感覚もある。私は消えていなかった。
ただ額と背中の傷が消えていた。いったいどういうことだろう。

「気が付いたかね」
所長がホッとしたように覗き込んだ。
「5歳の君を元の時代に戻してきたよ。あと少し遅かったら優秀な助手を失うところだったよ」
「戻した?戻したなら、なぜ私の傷が消えているのですか?」
「君の家から離れた養護施設に君を預けた。君はそこで穏やかに育つことになる」

「所長。頭がすごく痛いです」
「君の記憶が、ものすごい勢いで入れ替わっているんだ」
頭の中で雷が鳴っているような激しい頭痛だ。脳の回路が今にも破裂しそうだった。
鬼のようなママと男の顔が薄れていく。いろんな顔が現われては消えていく。
うずくまる私の手を、所長がしっかりと握った。所長も痛みに耐えているように見えた。
「5歳の君は施設で、科学が大好きな15歳の少年と出会うんだ。やがてふたりは、同じ夢を追うことになるだろう。そう…。タイムマシンを一緒に作るという夢だ」

頭痛が治まった。嵐の後の青空のような澄みきった気分だ。
私の前には、幼いころからずっと慕ってきた兄のような所長の笑顔があった。
「さあ、研究を続けようか、チエ」

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

アンドロイド・ママ [SF]

僕のママはアンドロイドだ。
パパが死んでから、ママはずっと沈み込んでいた。
悲しくて悲しくて、どうしようもなくなったママは、アンドロイド手術を希望した。
心が壊れてしまう前に、感情をなくしてしまうのだ。
希望してお金を払えば、誰でも手術を受けられる。
今では、都会の3分の1はアンドロイドだと言われている。

アンドロイドになったママは、いつも優しかった。
つまらないことで怒ったり、ヒステリックにわめいたり、うっかり失敗したり、そんなことはすっかりなくなった。
パパの写真を見ても、メソメソ泣くことはなくなった。

家事も仕事も完璧にこなす。
アンドロイドは仕事も早く、私情を入れないから会社からも重宝がられた。
収入が増え、僕たちの暮らしはずいぶん豊かになった。

だけど僕は、前のママが好きだった。
嫌なことがあると僕に当たったり、くだらないことで落ち込んだり、すぐに忘れ物をしたり、ぐちゃぐちゃの目玉焼きを作ったりするママが好きだった。

僕は夜中にこっそりママの部屋に行った。
頭の中に埋まっているICチップを抜き取ってしまおうと思った。
そうすれば、前のママに戻るかもしれないと思った。
髪をかき分けて、チップを探した。指が、固いものに触れたとき、けたたましい音でママが叫んだ。
ビービービー
まるで危険を知らせる警報音だ。

それを聞きつけたアンドロイド警察がやってきて、僕はあっという間に捕まった。
ママは感情のない目で、僕に言った。
「ICチップの窃盗は、重罪です。二度としてはいけませんよ」

僕は少年院に入れられた。
ママは毎日面会に来る。来るたびに、笑顔で僕に言う。
「犯罪はいけないことよ。二度としてはだめよ」
僕はママが作ってきた完璧な弁当を床に叩きつけた。
「ママ、どうして怒らないの。僕は悪い子だよ。もっと怒ってよ。大声で怒ってよ」
僕がどんなに泣きわめいても、ママは笑顔を崩さない。
「いけない子ね。二度としてはだめよ」
ニコニコと感情のない笑顔を繰り返すのだった。

僕はひどく落ち込んで、そして何もかもがどうでもよくなった。
そして僕は、アンドロイド手術を希望した。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村