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成人の日

一人娘の里奈が成人式を迎えた。
「振袖いらないからさ、その分のお金ちょうだい」
などとほざいて妻を激怒させたドライな娘だ。
結局観念して、里奈は妻が用意した振袖を着て出かけていった。

成人式は午前中に終わるが、バイト仲間と遊びに行くから帰らないという。
「昔は親戚が集まってお祝いしたものだけどな」
「いつの話? 今はそのまま同窓会に行ったり、彼氏とデートしたりするものよ」
「ふうん」
朝も着付けだ、ヘアメイクだと言って早朝に出かけたから、ろくに顔も見ていない。
父親なんてそんなものか。
ごろんと横になり、そのまま眠ってしまった。

ふと気配を感じて起き上がると、赤い振袖を着た里奈がいた。
「なんだ、バイト仲間と遊びに行ったんじゃないのか」
「え? 何言ってるの。工場で働いているのにアルバイトなんかしたらクビになっちゃうわよ」
笑ながら振り向いたのは、里奈ではなかった。
妹の陽子だ。とっくに死んだ妹の陽子が振袖を着て笑っている。
これは夢か。
「お兄ちゃん、この振袖、すごく評判良かったよ。無理させちゃってごめんね」
僕たちには父親がいなかった。
裕福ではなかったけど、母と金を出し合って陽子に振袖を買ってあげたのだ。
「私、この振袖を一生着るわ」
「バカだな。結婚したら振袖は着れないんだぞ」

陽子は、結婚しないまま25歳で逝った。
久しぶりに陽子の夢を見た。そういえば里奈は、少し陽子に似ている。

目が覚めたら1時半だった。昼飯も食わずに眠っていたようだ。
「お父さん、やっと起きた」
「夜眠れなくても知らないからね」
里奈がいた。赤い振袖を着ている。
「里奈、バイト仲間と遊びに行くんじゃないのか」
「中止になったの。急にみんな都合悪くなって。訳わかんないけど、あたしも何となく家に帰った方がいいような気がして」
「そうか」
生意気な里奈が、化粧のせいかやけにきれいに見える。
「今から3人で食事に行かない? 家族でお祝いしましょう」
「うん。じゃあ、着替えるか」
「お父さん、早くしてよね。お腹ペコペコ」
立ち上がり、もう一度里奈を見た。
「この振袖は、もしかして……」
「陽子ちゃんの振袖よ。よく似合っているでしょう」

あの夢の続きを思い出した。
「バカだな。結婚したら振袖は着れないんだぞ」
「じゃあ、お兄ちゃんが結婚して女の子が生まれたら、この振袖をあげる」
「ずいぶん先の話だな」
「そのときはみんなでお祝いしようね」

そうか。陽子が、里奈を家に帰してくれたのか。
どこかで陽子も祝ってくれているのかな。

3人で歩く街は、何だか少し照れくさかった。


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いつか、ママのように [公募]

鏡はうそつきだ。鏡にうつるわたしは、本当のわたしじゃない。
だって、パパもママもおばさんたちも、みんなわたしを「かわいい」というけれど、鏡にうつるわたしは、ちっともかわいくない。
鏡の中の世界は、うそばっかりだ。


私がそんなふうに思っていたのは幼稚園までで、小学校に入学すると、さすがに現実を思い知る。
私は決して、可愛い方ではなかった。
「かわいい」は、子ども全般に当てはまる言葉であり、それは顔ではなく仕草や言動に対するものだと知る。

ママは美人で、パパはハンサム。
美男美女のふたりから生まれたのに、なぜか私は全然似ていない。
腫れぼったい一重の目も、横に広がった丸い鼻も、何ひとつ似ていない。
「ママは美人なのにね」と陰で言う女子たちや、「おまえ、母ちゃんに全然似てねえな」と直接言ってくる無神経な男子たちに傷つき、その度私は鏡を見ながら泣きそうになる。

そして私は疑い始めた。もしかしたら、私はパパとママの本当の子どもではないのではないか。
どこかからもらわれたか、拾われて育ててもらっているのではないか。
「ママ、私は本当にパパとママの子どもなの?」
ついにママに尋ねたのは、小学三年生のときだった。ママは笑いながら言った。
「あなたは正真正銘、パパとママの子どもだよ。足の指を見てごらん。ママとそっくりでしょう」
言われた通り、わたしの足の指は、細くて長くて、ママの足の指とそっくりだった。
「凛々しい眉毛は、パパにそっくりね」
太い眉毛は似たくはなかったけれど、確かにそっくりだ。とりあえずはホッとした。

「ねえママ、それじゃあ、私も大人になったらママみたいな美人になれる?」
「もちろん、なれるわよ」
ママは、わたしの髪を撫でながら言った。
「だけどね、そのためには内面を磨かないとね。たくさん勉強して、いろんなことを学ぶの。人には優しく、他人を羨まない、そして無駄遣いをしないこと」
ママはそう言ってウインクをした。
それはきっと、大人が子供を躾けるための魔法みたいな言葉だ。
だけど私は信じた。ママのような美人になりたかったから。

それから私は、一生懸命勉強をした。たくさんの知識を身に着けて、成績はいつも一番だった。
友達にも優しくした。人が嫌がることも進んでやった。
おかげで私の容姿をバカにする子はいなくなって、学級委員や生徒会役員に、いつも推薦された。
言いつけを守って無駄遣いもしなかった。
正直、それが美人になることと関係あるのか疑問だったけれど、お年玉は全部貯金した。
高校は、地元一の進学校に進み、一流の大学に入り、そしてこの春、誰もが羨む一流企業に就職をした。

ママの言いつけを守りながら、私は毎朝毎朝、鏡を見た。
「今日はきれいになっているかな? 突然目が二重になっていないかな? 鼻がすらりと細くなっていないかな?」と。
だけど鏡に映っているのは、いつものさえない私だった。
どんなに内面を磨いたって、ちっとも変わらない。
メイクをするようになって少しはマシになったけれど、ママのような美人には程遠い。

研修を終えて希望の部署に配属された。
新入社員の中では仕事が出来る方だけど、課長のお気に入りは可愛い女子社員だ。
男性社員の接し方にも差があるような気がする。
仕事を頼むときの態度が、あの子と私とでは微妙に違う。
人を羨んではいけないと言い聞かせても、ため息ばかりの毎日だ。

入社して初めて行われた同期の飲み会に、私は誘われなかった。
誘われたのは可愛い女の子ばかりで、私は当然のようにその中には入れない。
胸の中の何かが爆発したように、私はママに泣きついた。

「ママの嘘つき。言いつけを守っても、ちっとも美人にならないわ」
 ママは、子どもの頃のように私の髪を優しく撫でた。
「言いつけを守ったから、いい会社に入れたでしょう? お給料もいいしボーナスもちゃんと出る。貯金もすぐに貯まるわ」
「お金ばかり貯まってもしょうがないよ」
「あなたの貯金が百万円になったら、いいお医者さまを紹介してあげるわ」
「お医者さま?」

「いい、一度にやっちゃだめよ。少しずつ、少しずつ直していくの」
「……ママ?」
 完璧に整った顔で、ママが微笑んだ。
一瞬ママの顔が、百万円に見えた。

++++++++++

公募ガイド「TO-BE小説工房」の落選作です。
課題は「鏡」でした。
現実離れした話が多かったようです。
そういえば、前回お知らせした百物語の本に、阿刀田先生のお話も入っています。


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掲載のお知らせ

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

お正月、いかがお過ごすですか。
私は温泉に行ったり買い物に行ったり、日本経済を回してまいりました。
わが家の経済は破綻するかもしれませんが(笑)

新年早々、嬉しいお知らせがあります。
文溪社より発売された児童書
『5分ごとにひらく恐怖のとびら百物語⑤ 奇妙のとびら』
に、私の作品が載っています。

KIMG0843.JPG

1巻から5巻までのシリーズで、1冊に20話ずつ全部で百話の怖い話が載っています。
プロの作家さんと、一般公募の作品が一緒に載っています。
私の話は最後の5巻に載ったので、ようやく発売になりました。

筆名は変えてありますが、第84話のレクイエムという作品が私の物語です。
あまり怖くありませんので、怖いのが苦手な方も大丈夫。
よかったら読んでください。

地方の本屋には売ってないだろうなと思いながら、地元の本屋をのぞいたら
売ってた!!!
思わずちょっと目立つところに平積みしてきちゃった(笑)

みなさん、よかったらぜひぜひ、感想をお寄せください。
よろしくお願いします。


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カウントダウン

「よいお年を」と言われると、なんかフクザツ。
「よいお年」が「いい年」に聞こえてしまう。
どうせ私は「いい年」ですよ、と返したくなる。

そういえば、女性の年齢をクリスマスケーキに例えることがあった。
25日を過ぎたケーキは買い手がない。
つまり25歳を過ぎると貰い手がないってこと。
女性蔑視もいいところだ。
年齢を暦に例えるなら、私はもうどこにも属さない。
大晦日もとっくに過ぎている。

普段はひとりでも何ともないけれど、大晦日はさすがに寂しい。
そこで、せめて気分だけでも華やぐように、3,4年前からシャンパンカウントダウンをしている。
年が明ける10秒前からカウントダウンをして、年明けとともにシャンパンを開ける。
暖かい部屋で冷えたシャンパンを飲むのが、私の年明け。

さあ、カウントダウンが始まる。
10,9,8………3,2,1
ドッカ―ン!!!

えっ?なに、今の音。シャンパンを開けた音にしては大きすぎない?
窓の外に、うっすら煙が。
上着を羽織って慌てて外に飛び出した。
同じく飛び出した隣の住人が、「下の飲食店で爆発があったみたいですよ」と言った。
階段を使って下に降りると、飲食店から炎が出ていた。
マンションの住人たち、飲食店の客と店員、通りかかった野次馬たち。
こんなに大勢の人たちと年越しするのは初めてだ。

飲食店の炎は、消防と周りの人たちの協力によって程なく消火した。
幸いマンションは無事だった。
「年明け早々、大変でしたね」
隣の住人が話しかけてきた。
あまり話したことはないが、割と感じがいい。

「そうね。シャンパンを飲みそこなったわ」
「シャンパン?」
「毎年、年明けとともにシャンパンを開けてるの」
「いいですね。僕も飲みたいな」
「じゃあ、よかったらご一緒に」

……なんて妄想をしてみたけれど、それは現実にはならない。ただの妄想。
だって隣の住人は、新婚夫婦。
「じゃあ、おやすみなさい」と軽く会釈をして、奥さんの肩を抱いて帰って行った。

ああ。私も帰ろう。シャンパンよりも熱いほうじ茶が飲みたいわ。
いずれにしても、刺激的な一年になりそうね。

***********
ネットが突然使えなくなり、昨日から四苦八苦。
ようやく繋がったけど、またいつ使えなくなるかわからないので、取り急ぎアップします。

みなさま、一年間ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
よいお年をお迎えください。


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マッチを売る女 [名作パロディー]

女はマッチを売っていた。
働いていたマッチ工場が倒産して、退職金代わりに大量のマッチをもらったからだ。
再就職は決まらない。貯金もない。
せめてマッチを売って、生活費を稼がなければ。
「マッチはいりませんか。とても美しい炎が出ますよ」
雪がちらつく寒い夜、マッチはひとつも売れなかった。

女はマッチを1本擦ってみた。
「ああ、やっぱりきれいな炎だわ」
次の瞬間、炎の中にクリスマスツリーが浮かんだ。
「やだ、幻だわ。そういえば、今日はクリスマスね。去年までは職場の仲間とパーティをしていたわ」
女はもう1本マッチを擦った。
フライドチキンを囲む仲間たちの笑顔が見えた。
「ああ、みんな、どうしているかしら。再就職は決まったかしら」
もう1本擦ってみた。
暖かい部屋で、ビールを飲む仲間たち。見覚えのある壁紙だ。
「この部屋は、あゆ子の部屋だ。毎年この部屋に集まっていたな」
もう1本擦ってみたら、今度は声が聞こえてきた。

『ねえ、冬美、どうしてるかな』
冬美というのが女の名前だった。
『あの子、ケイタイ料金払ってないみたいでさ、連絡できないんだよ』
『街角でマッチ売ってるって噂だけど、まさかね』
『ありえないよ。売るならネットしょ』
『ちょっとぬけてるんだよね、冬美は』

女は愕然とした。これは今現在行われているパーティだ。
仲間たちは、会社を辞めても連絡を取り合って、集まっていたのだ。
もっとも、ケイタイ料金を払っていないので、女に連絡が来ることはなかった。

再びマッチを擦る。
『そろそろケーキ食べない?』
『うん、食べようか』
『あれ?ケーキは?』
『あっ!忘れた。だってケーキはいつも冬美が用意してたから』
『ああ、ケーキがないクリスマスなんて』

女が財布をひっくり返すと、3千円入っていた。
「待ってなさいよ。今ケーキを買っていくから。小さいケーキしか買えないけど、ないよりマシでしょ」
女は走った。あゆ子の家なら15分で着く。
「まったく、ぬけてるのはどっちよ。チキン、残しておいてよ」と叫びながら。

不思議なマッチは、その後ネットでバカ売れした。

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人間らしい暮らし

テレビを見るのはやめた。
新聞も読まない。
ネットの情報も一切入れない。
余計なことを知らずに済むし、フェイクニュースに惑わされることもない。
快適だ。考えることは、今日の天気と食事のことだけ。
きっとこれが人間本来のあり方なのだ。
時代の流れを読むよりも、雲の流れを眺める方がいい。
株の変動に気を揉むよりも、潮の満ち引きを感じる方がいい。

ここに来てから、私は本当に自由だ。
誰にも会わないから、髭がのび放題でも気にしない。
釣りをしたり、森を歩いたり、こんなにのんびり過ごすのは久しぶりだ。
ああ、星がきれいだ。

おや、何かがこちらに向かってくる。
船だ。船が来た。


男は救出された。
クルーズ船が難破して、男が無人島にたどり着いたのは半年前だ。
最初は戸惑い、絶望に苦しんだ。
しかし、数年ぶりの深い眠りと自然の目覚めに、男はひどく感動した。
生き返ったような気がした。
それから男は、島の暮らしを楽しんだ。
火を熾し、雨水をためて、木の実を取って食べた。
こんな暮らしが自分に合っていることを、男は初めて知った。

男は、大企業の社長であった。
会社に戻ると、山のような仕事が待っていた。
「社長、この書類に目を通してください」
「社長、本日の予定ですが」
「社長、例の案件のことでX商事様がお見えです」
忙しいのに、男はすっかりやる気を失くしている。
迎えに行かないと会社に来ないし、会議中にぼんやり窓の外を見ている。
役員たちは、何とかせねばと会議を重ね、ひとつの結論を出した。

「無人島に支社を建てましょう。社長はそこで仕事をしていただきましょう」
役員たちは早急に動いた。無人島を買い、事務所を建てた。
自家発電で電気を引き、井戸を掘り、ネット環境を整えた。
「さあ社長、パソコンがあれば仕事に支障はありません。食料と飲料水は週に一度、自家用ジェット機で運ばせます。医者も常備させましょう。ところで明日の予定ですが」
秘書が手帳をめくる。
「午後からA社の理事長が、支社開設のお祝いに見えます。その後は、ネットで会議に参加していただきます。夜にはアメリカB社のサム氏と会食です。ご心配なく。こちらの島にシェフを手配いたします」
男が口をはさむ間もなく秘書は続ける。
「それから社長、テレビの取材が入っています。こだわり社長の無人島生活という企画です。詳細が決まりましたらご報告いたします。では、本日はゆっくりお過ごしください」

「ちがうんだよな」
男はジャグジーバスに身を沈め、細い窓から星を見た。
「もはや、無人島じゃないだろ、ここ」


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僕の忠臣蔵 [公募]

「旧暦」というものがあることを知ったのは、じいちゃんと忠臣蔵のドラマを見ていたときだった。
12月14日、雪の中、赤穂浪士が吉良邸に討ち入りに行くクライマックス、そういえば去年も見たなと思いながら、小学生の僕は炬燵でみかんの皮を剥いていた。
「じいちゃん、江戸って東京でしょう。12月にこんな大雪降らないよね」
定番の時代劇にすっかり飽きた僕は、粗探しみたいな突っ込みを入れた。
じいちゃんは笑いながら「旧暦の12月だ」と言った。
「今の暦に直すと一月の後半だ。ちょうど一番寒いころだ。そりゃ雪も降るだろう」

じいちゃんは、壁からカレンダーを外して僕に見せた。
日にちの横に、旧暦の日付が小さく書いてあった。
「へえ」と僕は感心して、どうして旧暦があるのか尋ねたけれど、じいちゃんは面倒になったのか、それとも知らなかったのか、得意の寝たふりを決め込んだ。
ストーブの上の薬缶がシュンシュンと音を立て、父が仕事から戻るころ、じいちゃんは本格的に寝息を立てる。
ほぼ毎日繰り返される、わが家の定番だ。

その翌年の11月、じいちゃんは静かに天国へ旅立った。
母が、7歳の僕を置いて家を出て行ってから、殆どの時間をじいちゃんと過ごした。
ひとりで過ごす12月、忠臣蔵のドラマは、他の番組に変わっていた。
時代劇と懐メロ、かりんとうと昆布茶、こけしと木彫りの熊、だるまストーブで焼くお餅。じいちゃんに繋がる全ての物が、僕の中から消えていくような気がした。

その後僕と父は、じいちゃんの家を売って、父の仕事場から近いマンションで暮らした。
父の帰りはずいぶんと早くなり、僕の暮らしはずいぶん変わった。
少しだけ大人になって、じいちゃんのことを思い出すことも少なくなったけれど、カレンダーで旧暦を見る癖だけは残った。

僕は高校生になり、同じクラスのユリとつきあい始めた。
ユリの誕生日は12月14日。赤穂浪士の討ち入りと同じ日だ。
「損なのよ。誕生日とクリスマスを一緒にされちゃうの。プレゼントも一緒よ。つまらないわ。かと言って、10日で2回もイベントをやってもらうのは気が引けるでしょう」
ユリは口を尖らせた。僕はひらめいた。
「じゃあさ、誕生日は旧暦でやろうよ」
「何それ? どういうこと?」

僕は手帳を取り出した。旧暦が書かれたお気に入りの黒い手帳だ。
「ほら、旧暦の12月14日は、新暦の1月19日だ。この日に君の誕生日を祝おう」
ユリは手帳を眺めながら「ふうん。よくわからないけど、それでいいわ」と言った。
 
リスマスイブはイルミネーションを見に行った。
初めて手を繋ぎ、女の子の手はなんて柔らかいのだろうと思った。
夜の街を二人で歩いていたら、運悪く同級生の大石に会ってしまった。
しかも大石は、ユリの元カレだ。
「へえ、おまえら、つきあってるんだ」
大石はユリに未練があって、何度か復縁を迫っているらしい。
僕は無視して行こうとしたが、奴が共通の友人の話を始め、ユリもそれに応えたりしたものだから少し頭にきた。
「もう帰ろう」と、二人の間に入った弾みに、肘が大石の顔に当たってしまった。
故意ではないが奴が怒って喧嘩になり、僕が一方的に悪いという流れになり、気まずいイブになってしまった。
冷え切った家は真っ暗で寂しくて、じいちゃんがいてくれたらと、子どもみたいなことを思った。

1月19日(旧暦の12月14日)、僕はユリを家に招いた。
父は帰りが遅いし、僕は高校男子にしてはかなり料理が得意だった。
「ケーキも作ってくれたのね。すごーい。パティシエになれるわ」
彼女は感激して、すべての料理を褒めた。
そして食べて笑って、寄り添ってDVDを見た。
僕がキスのチャンスを狙っていたら、玄関のチャイムが鳴った。
残念ながら父が帰ってきたようだ。
「お父さん、鍵忘れたのかな?」と、ドアを開けると、立っていたのは大石だった。
「ユリを返してもらいに来た」
「はっ? おまえ何言ってんの?」
「俺ら復縁したんだ。正月に一緒に出掛けた」
振り返ると、ユリが気まずそうに俯いた。
「ごめんね。誕生日に、彼がプレゼントをくれたの。欲しかったブランドのお財布。それでね、お礼にデートして、それで、つまり、そういうことに……」

手料理よりブランド、旧暦より新暦。つまりそういうことか。
ユリは何度も謝って、奴に手を引かれて帰った。帰り際、大石に腹を殴られた。
「この前の仕返しだ」と奴は言った。

なあ、じいちゃん、これって打ち入りか?
窓の外には、雪が舞い始めた。いっそ大雪になればいいと、僕は思った。

****

公募ガイドTO-BE小説工房の落選作です。
課題は「暦」でした。
このブログではお馴染みの忠臣蔵ネタでしたが、残念です。
でもまあ、書いてて楽しかったからいいか^^


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お歳暮こわい [コメディー]

高い垣根に囲まれた一軒家。こういう家は入りやすいと聞いた。
音を立てずに窓ガラスを割る方法は、先輩から教わった。
この家の住人が夕方まで帰らないのは調査済みだ。
慎重に、そろりと中に忍び込んだ。

空き巣なんて、本当はやりたくない。
だけど仕事はないし、親兄弟には頼れない。金がないんだ。
取り急ぎ、現金を探すが、なかなか見つからない。
現金を家に置かない主義か?

ピンポ~ン 玄関のチャイムが鳴った。
「宅配便でーす」
無視しようと思ったが、ちらりと覗いたら目が合っちまった。
「い、今行きます」
仕方がないので、住人のふりをして受け取ると、それはお歳暮だった。
お歳暮なんて、一度ももらったことがない。贈ったこともないけど。
「おお、ビールだ。いいな」
この家には現金がなさそうなので腹いせにビールをご馳走になることにした。
ぷはー、うめえな。このところ、酒も飲めなかったからな。つまみが欲しいところだが、贅沢は言えんな。

ピンポ~ン 玄関のチャイムが再び鳴った。
「宅配便でーす」
おお、またお歳暮だ。今度は佃煮の詰め合わせじゃないか。
ちょうどいいつまみだ。うん、なかなかイケる。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまた鳴った。
「宅配便でーす」
またお歳暮だ。よくお歳暮が来る家だな。
今度はワインじゃないか。俺はワインにはちょっとうるさいぜ。
うん、こりゃあいいワインだ。香りもいい。
佃煮とは、ちょっと合わないがな。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまた鳴った。
「宅配便でーす」
またお歳暮か。おお、なんてタイミングがいいんだ。今度はチーズの詰め合わせだぞ。
まるで俺のためにお歳暮が届くみたいだ。
色んな種類のチーズがある。しゃれてるな。
やっぱりカマンベールがワインに合うな。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまたまた鳴った。
「宅配便でーす」
いったいどれだけお歳暮が来るんだ。
今度は焼酎だぞ。ここの家主は酒好きなんだな。
やっぱりお湯割りか。お湯をもらうぜ。

ピンポ~ン 玄関のチャイムがまたまた鳴った。
「宅配便でーす」
おいおい、なんてことだ。今度は梅干しが来たぞ。
そうそう、焼酎のお湯割りには梅干しを入れなくちゃね。
なんだかここ、居酒屋みたいだぞ。次はご飯ものが欲しいところだな。

玄関のドアが開いた。次は何だ? 

「ちょっと、どういうこと? 鍵が開いてるわ」
あっ、住人が帰ってきた。いつの間にか夕方だ。

「ど、どろぼう? あなた、人の家で何してるのよ!」
「いや、その…」
「警察呼ぶわよ」
「その前に奥さん、〆のお茶漬けを……」


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サンタクロースからの手紙 [競作]

やけに寒い夜だった。世界中の子供たちのもとに、一通の手紙が舞い下りた。
それはサンタクロースからの手紙で、子どもたちは目を輝かせた。
興奮しながら封を切り、字が読めない子は親にせがみ、ワクワクしながら手紙を読んだ。
しかし読み終わった子どもたちは、一様に顔を曇らせた。

『よい子のみなさんへ。悲しいお知らせです。
わたしはもう、ずいぶんなおじいさんです。重いプレゼントを運ぶのも、ソリに乗るのも一苦労です。プレゼントを配る気力もありません。もう引退します。ごめんね。サンタクロースより』

これには世界中が大騒ぎ。
翌朝の報道番組は、トップニュースで伝えた。
「サンタクロースが来なかったら、プレゼントはどうするんです?」
「何とか引退を思いとどまってはくれないだろうか。世界中の首脳が頼めば何とかなるのでは?」
「サンタクロースがどこに住んでいるのか、誰も知りませんよ」
「では、プレゼントは親があげることにしたらどうでしょう」
「それでは格差が生まれる。親のいない子はどうするんだ」
「宅配業者に依頼したらどうでしょう」
「コストがかかる。サンタクロースは無償だったが、依頼となるとそうはいかない」
「そんな予算は出せませんよ」

議論に議論を重ねても結論は出ず、とうとうクリスマスイブがやってきた。
街は心なしか沈んでいる。
子どもたちの顔からは、笑顔が消えた。
教会で祈っても、家族でケーキを食べても、プレゼントがもらえない悲しみは拭えない。

しかしクリスマスの朝、目覚めた子供たちの枕元には、ちゃんとプレゼントがあったのだ。
きれいにラッピングされて、子どもたちが欲しいと願ったものが置いてあった。
「わーい、サンタクロースは引退しなかったんだ!」
子どもたちは大はしゃぎ。
もちろんテレビもトップニュースでこれを伝えた。
「サンタクロースは引退していませんでした。しかも、子どもたちが欲しいと思っていたものを送ってくれたのです。なんて素晴らしい」
「サンタのサプライズだったのかな。まったく人騒がせだ」

誰よりも驚いたのは、南の島でバカンスを楽しんでいたサンタクロースだ。
「うそだろ! わしはプレゼントなど配っておらんぞ」

さてさて、プレゼントを子どもたちの枕元に置いたのは、いったい誰でしょう。
とある街頭インタビューに答えるお父さん。
「ABC放送です。子どもたちにプレゼントをあげたのは、親御さんではないかという意見も出ていますが」
「ええ?サンタクロースだろ。俺はプレゼントなんかあげてないぜ」
カメラにウインクをして笑顔で立ち去るお父さん。

お父さんか、お母さんか、おじいちゃんか、おばあちゃんか、はたまた親切な優しい他人か、誰が送ったかなんて、どうでもいい。
だって本物のサンタクロースを見た人は、誰もいないのだから。


******
毎年恒例「もぐらさんとはるさんのクリスマス」に向けて書いた作品です。
クリスマスが楽しみですね。
クリスマスパーティは、こちらです↓
http://xmas-paty.seesaa.net/


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定年後の計画 [コメディー]

「定年退職したら、旅行でもしようか」
「いいわね。宇宙旅行がいいわ。私、行きたい星があるの」
「宇宙か。危なくない? この前宇宙船がブラックホールに吸い込まれる事件があっただろう」
「あんなの稀よ。100年に一回の大惨事だわ」
「それもそうだな。地球にいても危険なことはあるしな」
「そうよ。この前、宇宙生物に噛まれて入院した人がいたわ」
「簡単にペットを捨てる時代だからな」
「ねえ、いっそどこかの星に移住しない? 政府も勧めているのよ。とにかく人口が増えすぎちゃって」
「それもいいな。人工じゃなくて、本物の海がある星がいいな」
「高いわよ。退職金、たくさん出るの?」
「そりゃあ出るだろう。100年も働いているんだぞ」
「昔は定年が60歳だって聞いたけど、早いわよね。残りの100年、どうやって過ごしたのかしら」
「寿命が違うだろう。そのころは100年生きれば長寿って言われた時代だ」
「100歳なんて、働き盛りよね」

「おっと、ボスから呼び出しだ。出かけてくる」
「気を付けてね。スカイハイウエイ、事故渋滞みたいよ」
「たまにいるんだよな。マシンに頼らずハンドル握るやつ。だから事故を起こすんだ」
「行ってらっしゃい」

「ボス、お呼びですか?」
「ああ、君、すまんが来月からポンコツ星の工場に出向してくれんか」
「え? 私、もうすぐ定年ですが」
「それなんだが、定年を120歳から130歳に引き上げることにした」
「えええ~」
「政府からの要請だ。人生150年と言われて久しいが、今や160歳、170歳はザラにいる。どうせなら働いて、税金を納めてもらおうというわけだ」

「ええ!ポンコツ星に単身赴任?」
「そうなんだ。家族は連れていけないんだ。体制が整ってないらしい」
「わかったわ。寂しいけど待ってる。10年経ったら私、128歳のおばあさんだわ」
「大丈夫。君は何歳になってもきれいだよ」
「ありがとう、身体に気を付けてね」

〈10年後〉
「ただいま。やっと終わった」
「あなた、おかえりなさい」
「ようやく定年だ。旅行の計画を立てよう」
「それがね、あなたがポンコツ星に行っている間に法律が変わってね、定年制度が無くなったのよ。生きてる間はずっと働くことになったのよ」
「そ、そんな!じゃあ、退職金はどうなるんだ」
「あなたが死んだ後に出るらしいわ。だから私、あなたより10年以上は長生きしたいの。っていうことで、アンチエイジングジムに行ってくるわ」

死ぬまで働きたくは…ない。


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